暗麺麭男   作:ゆうれい

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間 都市伝説2

「──貴方を新人ハンターとして認めます。」

 

機械的な言葉が「ハンターズギルド」の受付の女性から告げられ、少年はWTJのハンターの証であるカードを受け取る。

 

そこには〝星なしハンター 五百ポイントで昇格〟と書かれていた。

 

『星』とはWTJにおいてのハンターの格を現す。

例えば、少年や少女のような新人ハンターには『星なし』。

それをギルドからでるクエスト等をこなすことで、『一ツ星』になる。

その『星』の特典は様々であり、星が上がることによって、『付与(エンチャント)』武器が売られてる『秘密の武器屋』での買物が許されるようになったり、上級jobへの封印が解かれたり、それがハンターランクの最高峰『五ツ星』にでもなれば、クエスト報酬の賃金が2倍などの恩恵を受けることができる。

 

「すぐ狩りに出かけられますか?狩りに出るときは、そこのクエストボードからクエストを受注してください。」

 

受付のお姉さんが少年と少女にたくさんの張り紙が貼られた掲示板を指差しながら答える。

その言葉に二人はクエストボードを眺めるが、如何せん勝手がわからない。

二人は困った視線をツイストに送ると、それに気がついたツイストが助け舟を出す。

ツイストはクエストボードまで歩を進め、一つの張り紙を迷わず剥がし、受付の女性に手渡した。

 

「この子達は今から俺たち、『竜狩』のパーティーに参加するんで、二人共、このクエストでお願いします。」

「そうですかツイスト様。『暗がりの森』のアンデッド討伐。クエストの方受領致しました。〝魂喰い〟にお気を付けて行ってらっしゃいませ。それでは、お二人の〝WTJ〟ライフに幸多からんことを。」

 

機械的な声を発する受付の女性が微笑みながら、頭を下げてお辞儀をする。

それに伴い、少年と少女も慌てて頭を下げお辞儀をする。

礼には礼を。お辞儀にはお辞儀を。ゲームの中でもそれに従ってしまうのが日本人としての習慣であり、美徳なのであろう。例えそれが、《ニンゲン》によって作られたNPCという名の擬似生命であったとしても・・。

 

 

岩山に囲まれる鋼鉄でできた丸みを帯びた建物。

その全容は何かの顔にも見える。

そして、それを覆い隠すように天候は曇り空が広がっており、雨は降ってはいないが時折、雷鳴が轟き、その不気味な建物を照らす。

 

カン、カン、カン、カン、カン、カン。

 

怨嗟を吐くように、その建物から金属音が鳴り響く。

建物内には5人の《旧フード世界》の住人と、1つの死体があった。

その死体、死後かなりの時間が経っているにも関わらず腐臭をさせず、たくさんのアネモネの花を敷き詰めた棺桶の中に入っている。

 

カン、カン、カン、カン、カン、カン。

 

一人は、黒鉄の機械を金槌で打ちつける。彼の名は『バイキンマン』。

《ニンゲン》がやってくるまでのこの世界の悪の権化。それが彼であり、思いつく悪戯は、何でもやってその度に住人を困らしていたものだ。

しかし、バイキンマンとて、人を殺めたことはない。

それはこの世界に『死』という概念が存在しなかった、あるいは忘れられてたからである。

だが、彼は知ってしまった。『ドキンちゃん』の死をもって。

散々あの我侭な性格には振り回されてきたバイキンマンであったが、

一緒になって考えた悪戯が楽しかった。アンパンマンにやられて吹き飛ばされるのでさえも、『悪くない』そう思っていた。そう、彼は好きだったのだ。

それが、異性に対する好きか?と問われたらバイキンマンは否定する。

彼女と、その彼女をとりまく、生き死に等存在しない甘ったれた日常が好きだったのだ。

故に、彼は金槌を振るい鉄を打つ。

憎悪に染まった瞳の色を変え、焦燥しきった表情で鉄を打つのだ。

全ては《ニンゲン》を殺すために。

 

カン、カン、カン、カン、カン、カン。

 

鉄を打つバイキンマンを写す瞳。写し出すのは後悔。

あの日、あの時、ああしていれば。それは誰でももつ感情の一つ。

その感情に苛まれる者がここにも一人。彼の名は『バイキン仙人』。

彼の後悔──それは、囚われたドキンちゃんのもとへ、向かおうとするバイキンマンを封印したことである。あの時は、この世界ヒーローの多くが挑んでも歯が立たない《ニンゲン》に挑むのは無謀だと思っていた。全てはこちらの戦力が整ってからだ。そう思っていた。だから口で言っても止まらないバイキンマンを封印石に封印した。

結果、ドキンちゃんを失った。

痛ましく鉄を打つバイキンマンを見て、後悔にくれる。

自分のした決断が間違ってるとは思わないが、あのバイキンマンを見たら思わずにはいられない。あの日、あの時、逝かせてやればと。

 

カン、カン、カン、カン、カン、カン。

 

鉄打つ音が響くバイキンマンの研究室で、小型飛行船を調整する二人。

『あかちゃんマン』と『ロールパンナ』

この異質の二人は《旧フード世界》でも高い実力を持っていた。

 

例えば、あかちゃんまん。

彼は戦闘の潜在能力は《旧フード世界》最強と称されるアンパンマンより高い。

ならば、何故、彼が最強のヒーローになれないのか。

答えは、その身が子供ゆえの精神力の低さである。

実は、あかちゃんマンは《ニンゲン》が学校に襲撃してきた日、遠目からその様子を伺っていた。

 

そして思い知った。

『死』という概念。

 

物言わぬ肉塊に成り果てたジャムおじさんを見て感じた、初めての恐怖。

気がつけばあかちゃんマンは逃げ出していた。

走って、走って、走って、走って、辿りついたのはバイキンマンのアジト。

かつては、幾度も敵対したことのある敵であったが、そんなことはどうでもよかった。

一人でいると死につきまとわれるような気がしたのだ。

出迎えたのはバイキン仙人。話を聞けばバイキンマンが血走らないように封印したと言う。

あかちゃんマンは怖くないのか?と驚愕した。

自分は怖い。死が怖い。《ニンゲン》が怖い。卑怯者と罵ってくれても構わない。

故に、彼はメンテナンスをする。

自分はもはや戦えない。死という恐怖に呪われた。心を折られてしまった。

ならば、せめてもと、小さき己の手をオイルで黒く汚しながら飛行船の調整をするのだった。

 

 

あかちゃんまんの隣で『ロールパンナ』は溜息を吐く。

『ロールパンナ』彼女の戦闘の実力は、アンパンマンを上回るといってもいい。

この世界屈指の音速の飛行能力に加えて、新体操のリボン条の武器『ロールリボン』を両手に持ち、双鞭の様に扱い刃の様な斬撃を繰り出す、そして、そこから繰り出される彼女の必殺技『ロール・ハリケーン』は鞭による刃の竜巻を生み出す。その威力は《ニンゲン》であっても無視できないものであろう。

《ニンゲン》の襲来、そして、実妹であるメロンパンナの捕縛。

そのことは、すぐにロールパンナ自身の耳にも入った。

 

──ならば何故彼女は《ニンゲン》のもとへ戦いに赴かなかったのか。

 

それは、彼女の特性にある。

『バイキン草』またの名を『悪の華』。それの示す物、即ち悪い心。

彼女は生み出されて間もなく『バイキン草』を己の心に取り込んでしまった。それは近くに『正義の味方』と呼ばれる《旧フード世界》のヒーローがいると共鳴し、彼女を悪の心、詳しくは《狂戦士:ブラックロールパンナ》にしてしまうのである。

《狂戦士:ブラックロールパンナ》とは目に映るもの全てを敵とみなし、一定時間がすぎるまで破壊衝動に襲われる。言うなれば、《死の宴(デスゲーム)》終盤にアンパンマンが見せた《狂化(バーサク)》のスキルに近い。そうなれば、メロンパンナにも危害を加えてしまうかもしれない。彼女はそのことを酷く恐れた。

本当は助けに駆けつけたい。しかし、自分が行けば誰かを傷つけてしまう。

彼女はバイキンマンのアジトに向かい、己の心の葛藤を押さえ込む。

気がつけば、全てが手遅れであった。

助けるべきメロンパンナは行方不明。多くの住人の死亡。

全て決断を先のばした自分の怠惰な心が招いた所業と考える。

故に、彼女はバイキンマンを手伝う。

万全を期すために、二度と判断を過らないために、今日も彼女は正義と悪の心の中で揺れる。

 

カン、カン、カン、カン、カン、カン。

 

嗚呼・・・。なんて彼女は美しいのだ。

 

冷たく硬い柩に眠るドキンちゃんを見て『ホラーマン』は思う。

彼は、彼女を愛していた。

一目、見た時から、その愛らしさに目を奪われた。

行動をともにしてからは、その我侭ながらも意外と面倒見のいい性格に心の底から惹かれた。

しかし、彼女には想い人がいた。

『食パンマン』。この世界の正義の味方。整った容姿に高い戦闘の実力。

全ては、自分とは違う高次元の存在である。

最愛の人の心を奪われて、彼に嫉妬がなかったと言えば嘘になるが、それでも、ホラーマンはそれでよかった。純粋に彼女の幸せを考えていたのだ。

そして、訪れる運命の日。《ニンゲン》の襲来により食パンマン死亡により、怒り狂ったドキンちゃんが《ニンゲン》に復讐のために急行し、捕縛された。

そこで、彼に欲が沸く。

 

今ここで、《ニンゲン》から彼女を救えば彼女のヒーローになれるかもしれない。

 

ホラーマンは強くなることを決意した。

行ったのは『かびるんるん』を己のコアに取り込むこと。

それにより、カビの瘴気と、その不死性を手に入れた。

勿論それはメリットばかりではない。コアを侵食されることにより激痛が彼を襲った。

それでも、彼は耐えきり、やりとげた。

どこかチャーミングだった頭部の頭蓋骨はひび割れ、歯は鋭くギザギザに削られ、眼球のないまん丸な目の部分は鋭く骨格を変え、奥には濁りきった青い光を灯す。

そこにはおぞましい怪物がいた。

醜く変貌したホラーマンは、すぐさま《ニンゲン》の元に向かった。

しかし・・・、そこは既にもぬけの殻で、広場には腹から三又の槍をはやしたドキンちゃんの亡骸が転がっていた。

 

嗚呼・・・。なんて彼女は美しいのだ。

 

死して尚、己を魅了するドキンちゃん。

その亡骸をしまう棺桶には赤いアネモネの花が咲く。花言葉は「儚い恋」。

 

 

 

カン、カン、カン、カン、カ・・・。

 

 

アジトで響く鉄を打つ音がふいに鳴り止む。

 

「ついに・・・!ついに!完成したぞ!俺様の最高の鎧が!更にパワーアップして完成したぞ!」

 

彼の隣には黒鉄の鎧がその内紛する魔の力を伴い輝く。

『バイキン黒騎士の鎧・改』

以前、バイキンマンはこの鎧を纏い、肉弾戦でアンパンマンと戦ったことがある。

その時の勝率は4勝1負。バイキンマンは元々、自らが発明した機械で戦闘を行うタイプであり、近接格闘は苦手としている。ならば何故、アンパンマンに勝ち越すことができたか?

答えは、この鎧の性能である。一度身に纏えば、その筋力は膨れ上がり、反応速度や、移動速度、その全てがアンパンマンと同等、いやそれ以上になることができる。

そして、それに加えて今回はバイキンマンの最大の武器である技術力、発明力を用い、肩にはビームランチャー、両腕には小型の火炎放射器、背にはジェットブーストを取り付け、そして本来の性能を更に2段階ほどあげた、まさにバイキンマンの最高傑作であり、《ニンゲン》を殺すためだけを目的に作り上げた兵器であった。

 

「後は槍だ!それさえ作れば奴らを殺せるぞ!!はーひふーへほー!!!」

 

どこか、間の抜けた雄叫びがバイキンマンのアジトに木霊する。

しかし、そこには確かな狂気を含んでいた。

 

 

 

暗がりの森。

辺は既に夜になっていて、暗がりの森はかつての闇を取り戻したかのように薄暗い。

生温かい不気味な空気がその場を支配している。

かつて《死の宴(デスゲーム)》を戦ったものを弔った墓場に少年、少女と竜狩のメンバーはついていた。そして、皆の双眸に映るのは腐臭を漂わす『成れの果て』と呼ばれるアンデッドの群れであった。

 

「息を潜めろ。サイトウ、〝薬応用〟を頼む。」

「了解。『薬応用 狼の薬 全体化』」

 

サイトウが手に持った薬を宙にまくと、薬の瓶に入っていた宙を舞う液体が紫色に発光して、アイラ、ツイスト、サイトウ、ワタナベ、そして少年少女を包み込んだ。

 

「すげぇー!」

「ふふふ、薬を使わしたら〝アルケミスト〟は一番だからね。」

 

驚きの声をあげる少年に、サイトウが嬉しそうに語る。

『狼の薬』は一定時間、素早さを上げてくれる薬で、その効果を初めて体験した少年と少女は体がスッと軽くなるのを感じた。

 

「よし、今から突撃するから、ちょいと援護の方頼むわ。さっさと終わらして新人君の歓迎パーティーだ」

「おうよ!」

「ういうい」

「了解!」

 

 

ワタナベが背負ってた大剣を抜き、その丸太の様な腕で構えると、低い姿勢でアンデッド『成れの果て』に向かって走る。それに、あわせてツイストは弓を構え、サイトウはごそごそと手持ちの鞄を漁り、アイラは杖を天に掲げ魔法の詠唱をはじめる。

 

「いくぞ!『旋風切り』!」

「『燕の矢/スワローショット』!」

「黒魔法『雷の雨』!」

「『薬応用 失敗作Ω 投 』!」

 

『成れの果て』に向けて躍りかかるワタナベがその身を翻しながら体に回転を加え手に持つ大剣を劣悪なゾンビに叩きつける。ツイストは弓を構え、3本の矢を引き絞りそれを放つと、その矢は3本とも平行に地を抉り、『成れの果て』の頭部を貫き、それをもぎとると燕のように空へと打ち上げる。

続けざまに放ったアイラの魔法は、虚空より稲妻を生み出し、それを雨の様に降らせアンデッド達を灰に変えていく。

そして、極めつけとばかりにサイトウが薬瓶を投げつけ、『成れの果て』に当てる。

その瓶は、『成れの果て』の体にぶつかり、砕け散り、その中に入っていた液体が空気にふれると周りを巻き込む大爆発を巻き起こした。

 

「ゴホッ、ゴホッ。おい、お前ら!いくらPT設定でダメージが入らないとはいえ、前線で戦う奴のこともちったぁ考えろ!」

 

サイトウの起こした爆発により生じた煙が晴れると、咳き込むワタナベがでてきた。

 

「いや、ごめんって!新人君が見てるからつい調子のちゃって、アハハ・・」

「そうそう、アタシも・・アハハ・・」

「アハハじゃねーぞ!コラぁ!!」

 

喧騒しあうワタナベ達の足元には『成れの果て』の手足が転がっていた。

もはや、近くにはその姿は見えない。

まさに圧倒的な無双劇である。

 

「すごい!本当にすごい!」

「うん・・!私たちもワタナベさんみたいになりたい!」

 

少年と少女は賞賛の言葉を送る。

それもそのはず、この世界で初めて目にする戦闘で、こうも見事に立ち回ったのだ。

彼らの目には、竜狩のメンバーが物語の英雄の様に映ったであろう。

 

「へへ、そうかな?ありがとう!」

「ああ、なんというかこういうの素直に嬉しいな」

 

 

若い新人の惜しみない賛辞に竜狩のメンバーは嬉しそうに照れる。

思えば、仲間以外から純粋な好意を向けられるのは彼等とて久々のことであった。

それ故に───後ろから迫る凶刃に気がつかなった。

 

「コポォ!?」

「サイトウ!?」

「サイトウ!!」

 

パシャリと少女の顔に生温かい液体がかかる。

その不快な感覚に一瞬、何が起こったのか気がつかなかった。

隣を見ると、先ほどまで笑いながら照れていたサイトウのお腹からは、鋭利で刃物の様な爪が生えていた。そして少女は気がつく。顔にかかった液体がどうしようもなく赤いということに。

 

「キャアアアアアアア!!」

 

少女は悲鳴をあげ意識を失う。

見てしまった。サイトウの後方からその鋭利な爪を刺し貫く化物を。

 

その化物は異形であった。

全身を腐肉で垂らし、だらりとした両腕には刃物の様に鋭利な爪、衣服は土に汚れていて、頭部は3つ。まるでお椀の様な形をしている。

そしてその全てのお椀にまるで子供の落書きで描いた様な顔をしている。

その瞳に生気はなく、黒一色。ギョロギョロと敵を品定めするかの如く動いている。

 

「あれは・・!!『愚の骨頂』!??S級レアエネミーが何故!!!?」

 

『愚の骨頂』

戦で死した戦士たちが、死して尚、戦いを求めてその魂は形を成した。

しかし、その猛き魂とは裏腹に、その肉体は醜く腐敗が進んでいる。それでも尚、戦いを求めて彼らは歩く。その姿から人はそれらを『愚の骨頂』と呼んだ。

 

『愚の骨頂』は、腹を貫くサイトウからその爪を引き抜くと、その爪を一閃し、サイトウの首を飛ばした。

 

「サイトウ・・!!!」

 

血しぶきをあげて宙を舞うサイトウの頭部を見つめ、ツイストが叫ぶ。

 

「ヒィ・・・」

 

サイトウの顔には生気はない。少年は虚ろなその瞳と目があった。

そして理解した。サイトウの死を。

腰が砕け、ガクガク震える。瞳からは涙が溢れ、下半身は小水を垂れ流していた。

 

「くそが!!!!冗談じゃねぇぞ!!!!」

 

ワタナベが先ほどまでの空気とは一片して叫ぶ。

その顔には怒りよりも、焦りと恐怖の色が強い。

 

「俺はさっさと逃げるぜ!!あんな化物、相手してられるか!!」

「おい!新人君はどうする!?」

「ああん!?こんなガキ捨て置け!疫病神だ!」

「悪いけど、アタシも同意見ってわけ!子供はすきだけど自分の命が一番大事なのよね!」

 

告げられた現実に打ちひしがれる少年。

少年は今この場に少女が気絶していてよかったと思う。ただでさえ人見知りの多い子だ。

きっとトラウマになったであろう。もう既に手遅れかもしれないが・・。

 

ワタナベとアイラは即座に踵を返し、少年と気絶した少女、そしてツイストに背を向け走りだす。

 

 

 

 

そのとき風が吹いた。

 

 

 

 

見れば横一文字に切り裂かれが臓物を零し、崩れ落ちるワタナベとアイラといつの間にか彼らの真後ろまで移動していた『愚の骨頂』がその長く鋭利な爪から血を滴らせ少年とツイストを睨んでいた。

 

「あああ・・ああ・・・」

 

少年は、もはや悲鳴にもならない声をあげる。

自分はここで死ぬんだ、殺されるんだ、と直感的に感じ取ってた。

絶対に敵わない個としての差が少年を死への絶望へと落とし詰めていた。

そして、一歩、また一歩と化物は少年に向かって歩き出す。

 

「『裁きの矢/ジャッジメント・ショット』!」

 

ツイストの弓から、放たれた矢が雷を纏い、『愚の骨頂』の3つある頭部の内の一つに刺さり、化物は少年への歩みを止める。

 

「はやく逃げろ!大してダメージは通っていない!」

 

ツイストが叫び、少年は震える足で立とうとするが力が入らない。

腰が抜けてしまっていたのだ。

 

「ぐああっ!!」

 

ツイストの悲痛な叫び声に少年は、そこに目を向ける。

『愚の骨頂』がツイストの腹に爪を突き刺し、ツイストの体を持ち上げていた。

 

「がぁッ・・ここまでかよ・・。だっせぇな。ガキ一人守れない・・なんてよ・・」

 

ツイストは己の腰にさしている短刀を『愚の骨頂』の顔に突き刺す。

『愚の骨頂』はけたたましい絶叫をあげ、ツイストを放り投げた。

ツイストはそのまま暗がりの森の木にぶつかり、それまで吐いていた荒い呼吸を止めた。

 

「夢だ・・・これは夢なんだ・・」

 

少年は呪詛の様にそう呟く。

 

夢だ。これは夢だ。はやく覚めてくれ。

 

 

バキ、バキと少年に迫る足音。

そして、その足音はついに少年の目の前まで来て、その大きな両腕を振りかぶり──

 

 

 

グチャリ

 

 

 

振り下ろされることはなかった。

突如、『愚の骨頂』の頭部から黄金の腕が生えたのだ。

そして、『愚の骨頂』は全てを呪うかの如き絶叫を上げ倒れふした。

 

少年は恐怖で瞑っていた目を再びあける。

 

そこに立っていた者は、黄金の右手を持ち、人型の形をしている。

そして、その体全体からまるで魂を吸収するかの様に、『愚の骨頂』から溢れ出る光を一身に浴びていた。

それは少年に気がついたのか。

こちらに薄ら寒い微笑みを浮かべてきた。

 

「うわああああああああああああ」

 

少年の意識はここで途切れる。

 

 

 

────後に少年は知る。奴は〝魂喰い〟またの名を〝暗麺麭男〟この世界で超S級指定されているレアエネミーであることを。

 

 

 

 




※補足

ツイスト 二ツ星ハンター 狩人
ワタナベ 二ツ星ハンター 騎士
アイラ  二ツ星ハンター 魔法使い
サイトウ 一ツ星ハンター アルケミスト

レアエネミー危険度

超S級≫S級≫A級≫B級≫C級
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