都条みちるは動かない   作:なら小鹿

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なぜかみちるちゃんが〈クール〉で全体的に〈ハートフル〉なストーリーになっちゃったけど、これはこれでグッドかな、と作者的には思ってます。



#06『門の中に鬼』③

 

「さて、どうしたものか」

 

 困ったようにコーチは腰にてをやった。スマートフォンで通話していたお陰で、さっきの話は美虹(みく)本人には聞こえていない。

 

「あの、もし〈門の中に鬼〉の文字が書かれた扉をくぐったら、どうなっちゃうんです?」

 

 入華が不安そうに尋ねる。それはみちるも気になっていたことだ。

 あの文字はいずれも扉や出入口に現れていた。コーチが推察したように〈死者の国への入口〉なら、あの文字は美虹(みく)に扉をくぐらせるようとしていたともとれる。

 

「わからないが、おおかた予想はつく」

 

 コーチは声を低くして言った。

 

「彼女の行く先々に文字は現れた。となると、これは恐らく〈お迎え〉だ。生者はこの世に、死者はあの世へという思し召しだろう」

「入ったら、成仏しちゃうってことですか」

「恐らくは」

「……」

 

 みちるは沈黙するしかなかった。思い出されるのは喫茶店で彼女が口にした台詞。

 

 ――実はわたしジェットバトル選手に、〈ドルフィン〉になりたかったんです。

 

〈なりたい〉ではなく〈なりたかった〉。語尾が過去形だったのは、それがもはや叶わぬ夢だったからか。

 

 きっと彼女自身〈幽霊〉になったことに気づいていない。だからコーヒーも飲めたし、手も握ることができた。それでも無意識のうちに言ってしまったのだろう。

 

 あるいは〈幽霊〉になったことで病弱な肉体という(くびき)から解放されて、憧れのドルフィンに会いに来られたのかもしれない。だとしたら皮肉なことだ。

 

(ヒントは最初からあったのに……)

 

 気づいてあげられなかった。〈クールな女〉が聞いて呆れる。みちるは下唇を噛んだ。恐怖ではなく、悔しさから握った拳が震えた。

 

 ――だから、わたしも都条さんみたいなガンナーになりたいって思ったんです。

 

「……!」

 

 同じく彼女が喫茶店で口にした台詞。

 もうひとつの夢〈ドルフィン〉になることはもう叶わない。けれども〈ガンナー〉になら、それこそみちるのファンサービスで叶うかもしれない。

 

「コーチ、無理なお願いをしてもいいですか」

「……俺にできる範囲内でなら。で、そのお願いっていうのは」

「あの子に、KIRISHIMAでガンナーとしてのトレーニングを受けさせてあげたいんです」

 

 みちるが日々こなしている射撃訓練や体力作り。正直ハードだと感じることもあるし、スランプに陥った時には何もかも投げ出したくなったこともある。

 でも、それを心からやってみたいと、憧れすら抱いている少女がいるのなら、みちるは全力で応えてあげたい。

 

「お願いします、コーチ」

 

 みちるは頭を下げる。

 しばしの沈黙があった。ふーっ、と息を吐く音。もしダメだと言われてしまったら、どうしようか。そうなったら、KIRISHIMAを首になる覚悟で押し通すしかない。そんなことを考えていると――。

 

「トレーニングの体験者、という体ならできないことはない」

 

 それを聞いてみちるは自身でも表情が明るくなるのを感じた。しかしだな、と言いながらコーチは乗ってきた車のドアを閉める。

 

「問題はこいつをどうするかだ」

 

 そこにはデカデカと〈門の中に鬼〉の文字があった。四つのドアすべて。さらに後ろのトランクにまで現れている。ここまでくると不気味さより図々しさ、怖さより呆れの感情が湧いてくる。

 

「それなら問題ありません」

 

 踵を返してみちるは美虹(みく)に駆け寄る。そして屈み込んで、いつかのように目線を合わせる。

 

「ねぇ、美虹(みく)ちゃん」

「あ、都条さん。お話はもういいんですか」

 

 美虹(みく)には大事な話があるから少し待っていてと伝えてあった。

 

「そっちはもういいの。それより、私と一緒にガンナーとしてのトレーニングしてみたくはない?」

「えっ、いいんですか……!」

 

 美虹(みく)はまるで願いが叶ったかのように瞳をキラキラと輝かせる。病室のベッドで試合の動画を見ながら、なりたいと願いつつも諦めていた夢。一日だけとはいえ、それが叶うのなら、みちるは憧れられた相手として全力を尽くすまでだ。

 

「当然よ。ファンにサービスするのもドルフィンの務めだから」

 

 とこれはコーチの受け売りだが、と心の中だけで付け加える。

 

「あっちに停まってるコーチの車で行きましょ」

「あっ、でも、この車にも文字が……」

「大丈夫よ、私に任せて。――入華、ペンは持ってる?」

「はい、ありますけど」

「どうする気だ?」

 

 みちるは入華から受け取ったマジックペンのキャップをはずす。どうするつもりか。その問いに対する答えは既に出ていた。

 

「さっきコーチは言ってましたよね。漢字にはそれぞれ成り立ちと意味があるって。だから」

 

 みちるは〈門〉の中にあった〈鬼〉の上から大きく〈一〉と書いた。〈鬼〉の字を横線で消したような形だが、そうではない。

 

「〈門の中に一〉で〈(かぬんき)〉。これでしばらくは扉も開かないでしょう」

「なるほどな」

「おおー、さすがはみちるセンパイ! とっても〈クール〉です!」

 

 微笑む二人に、美虹(みく)はぽかんとしたまま首を傾げる。そんな美虹(みく)に、みちるは優しく語りかける。

 

「もう怖がらなくていいわよ。それより早くしないと、一緒にトレーニングする時間がなくなっちゃうわ。さ、急ぎましょ」

「は、はいっ」

 

 みちるに促され、美虹(みく)は後部座席に乗り込む。その隣に座ったみちるはそっと小さな手を握った。

 走り出した車は間もなくして廃墟のようなビル群を抜け、陽光を反射する海原に架けられた幹線道路を行く。

 心地よく揺れる車内。みちるの握った小さな手には、確かな温もりがあった。

 

 

 To Be Continued……

 





ここまで読んでくださり、ありがとうございます!

今回の怪異は〈漢字〉を怪異にしたら、どうなるのだろうという発想から考えました。タイトルにもなっている〈門の中に鬼〉はオリジナルですが、みちるちゃんの書いた〈(かんぬき)〉は実在する漢字です。でなかったらスマホで入力できないですし。

ゲーム内では学校の成績(特に理数科目)はあまりよくないみちるちゃんですが、本作では〈霹靂〉も〈薔薇〉も知ってるインテリ(?)に仕上がってます。

今後もエピソードが書け次第、投稿していくので、また読みに来てくださると幸いです。

今後の投稿形式について、ちょっと質問です。今までエピソードを分割投稿してきましたが、まとめて一話完結がいいのか読者さんの声を聞きたいです。

  • こ、これは……『分割投稿』だとッ!?
  • いいや!『一話完結』だッ! 押すね!
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