なぜかみちるちゃんが〈クール〉で全体的に〈ハートフル〉なストーリーになっちゃったけど、これはこれでグッドかな、と作者的には思ってます。
「さて、どうしたものか」
困ったようにコーチは腰にてをやった。スマートフォンで通話していたお陰で、さっきの話は
「あの、もし〈門の中に鬼〉の文字が書かれた扉をくぐったら、どうなっちゃうんです?」
入華が不安そうに尋ねる。それはみちるも気になっていたことだ。
あの文字はいずれも扉や出入口に現れていた。コーチが推察したように〈死者の国への入口〉なら、あの文字は
「わからないが、おおかた予想はつく」
コーチは声を低くして言った。
「彼女の行く先々に文字は現れた。となると、これは恐らく〈お迎え〉だ。生者はこの世に、死者はあの世へという思し召しだろう」
「入ったら、成仏しちゃうってことですか」
「恐らくは」
「……」
みちるは沈黙するしかなかった。思い出されるのは喫茶店で彼女が口にした台詞。
――実はわたしジェットバトル選手に、〈ドルフィン〉になりたかったんです。
〈なりたい〉ではなく〈なりたかった〉。語尾が過去形だったのは、それがもはや叶わぬ夢だったからか。
きっと彼女自身〈幽霊〉になったことに気づいていない。だからコーヒーも飲めたし、手も握ることができた。それでも無意識のうちに言ってしまったのだろう。
あるいは〈幽霊〉になったことで病弱な肉体という
(ヒントは最初からあったのに……)
気づいてあげられなかった。〈クールな女〉が聞いて呆れる。みちるは下唇を噛んだ。恐怖ではなく、悔しさから握った拳が震えた。
――だから、わたしも都条さんみたいなガンナーになりたいって思ったんです。
「……!」
同じく彼女が喫茶店で口にした台詞。
もうひとつの夢〈ドルフィン〉になることはもう叶わない。けれども〈ガンナー〉になら、それこそみちるのファンサービスで叶うかもしれない。
「コーチ、無理なお願いをしてもいいですか」
「……俺にできる範囲内でなら。で、そのお願いっていうのは」
「あの子に、KIRISHIMAでガンナーとしてのトレーニングを受けさせてあげたいんです」
みちるが日々こなしている射撃訓練や体力作り。正直ハードだと感じることもあるし、スランプに陥った時には何もかも投げ出したくなったこともある。
でも、それを心からやってみたいと、憧れすら抱いている少女がいるのなら、みちるは全力で応えてあげたい。
「お願いします、コーチ」
みちるは頭を下げる。
しばしの沈黙があった。ふーっ、と息を吐く音。もしダメだと言われてしまったら、どうしようか。そうなったら、KIRISHIMAを首になる覚悟で押し通すしかない。そんなことを考えていると――。
「トレーニングの体験者、という体ならできないことはない」
それを聞いてみちるは自身でも表情が明るくなるのを感じた。しかしだな、と言いながらコーチは乗ってきた車のドアを閉める。
「問題はこいつをどうするかだ」
そこにはデカデカと〈門の中に鬼〉の文字があった。四つのドアすべて。さらに後ろのトランクにまで現れている。ここまでくると不気味さより図々しさ、怖さより呆れの感情が湧いてくる。
「それなら問題ありません」
踵を返してみちるは
「ねぇ、
「あ、都条さん。お話はもういいんですか」
「そっちはもういいの。それより、私と一緒にガンナーとしてのトレーニングしてみたくはない?」
「えっ、いいんですか……!」
「当然よ。ファンにサービスするのもドルフィンの務めだから」
とこれはコーチの受け売りだが、と心の中だけで付け加える。
「あっちに停まってるコーチの車で行きましょ」
「あっ、でも、この車にも文字が……」
「大丈夫よ、私に任せて。――入華、ペンは持ってる?」
「はい、ありますけど」
「どうする気だ?」
みちるは入華から受け取ったマジックペンのキャップをはずす。どうするつもりか。その問いに対する答えは既に出ていた。
「さっきコーチは言ってましたよね。漢字にはそれぞれ成り立ちと意味があるって。だから」
みちるは〈門〉の中にあった〈鬼〉の上から大きく〈一〉と書いた。〈鬼〉の字を横線で消したような形だが、そうではない。
「〈門の中に一〉で〈
「なるほどな」
「おおー、さすがはみちるセンパイ! とっても〈クール〉です!」
微笑む二人に、
「もう怖がらなくていいわよ。それより早くしないと、一緒にトレーニングする時間がなくなっちゃうわ。さ、急ぎましょ」
「は、はいっ」
みちるに促され、
走り出した車は間もなくして廃墟のようなビル群を抜け、陽光を反射する海原に架けられた幹線道路を行く。
心地よく揺れる車内。みちるの握った小さな手には、確かな温もりがあった。
To Be Continued……
ここまで読んでくださり、ありがとうございます!
今回の怪異は〈漢字〉を怪異にしたら、どうなるのだろうという発想から考えました。タイトルにもなっている〈門の中に鬼〉はオリジナルですが、みちるちゃんの書いた〈
ゲーム内では学校の成績(特に理数科目)はあまりよくないみちるちゃんですが、本作では〈霹靂〉も〈薔薇〉も知ってるインテリ(?)に仕上がってます。
今後もエピソードが書け次第、投稿していくので、また読みに来てくださると幸いです。
今後の投稿形式について、ちょっと質問です。今までエピソードを分割投稿してきましたが、まとめて一話完結がいいのか読者さんの声を聞きたいです。
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こ、これは……『分割投稿』だとッ!?
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いいや!『一話完結』だッ! 押すね!