約束のリアライズ   作:ひなせひろと

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第1章:旅の始まり

 

 

 十二年前。

 

 

 にげろー!  こっちだー!  こっちに避難するんだー!

「被害状況はどうなっている?」  

 燃え盛る火の中、ノーシュ国現騎士団長ランドルフは対応に追われていた。

「辺りをざっと見渡しただけでも恐らく三分の一は死んでるかと。被害規模は半分以上です。住宅地のほぼ全てです」  

 ランドルフは部下のバリウスと城下町で状況確認をしていた。

「くそ……民間を優先的に狙うとは……いったい誰が何のためにこんな事を。……わかっている情報から推測するに、城と国王がいるこの場所でやる辺り、見せしめが強いと思われます。未だ犯人を見つけられていませんから」 逃げきってしまったか……。これは長くなるな……」  

 ランドルフは悔しさを隠し切れず歯ぎしりする。 とにかく今は消化と避難誘導だ。民のケアも忘れるな」

 

 了解!

 

「……」

 ランドルフとバリウスは、目の前のことで頭がいっぱいだったからか、城壁の上で佇む謎の男の存在に気づくことはできなかった。

「はぁ……くそっ。どこだ……どこにいるんだ!?」  

 ノーシュ国首都レオネスク。そこで起きた大火事事件は、レオネスク大火事事件として、歴史に名を刻むことになる。ランドルフとバリウスは、自分達の国を隅々まで調べたが、犯人を探し出すことはできなかった。

「……チッ、帰るぞバリウス。これ以上調査を続けても意味がない」

「そんな!?3年も掛けて全国を調べまわったのに、ここで諦めるんですか!?」

「三年きちんとかけたからこそだ。少なくとも我々の国には犯人がいない事がわかったんだ。ひとまずはここで引き上げるべきだ」

これ以上の捜索は無意味と判断し、冷静に告げるランドルフ。

「それに、今回の件は被害者を除き、不幸な事件として記憶されている。復興も進んでいるし、後は被害者たちの精神のケアだけで十分だ」

「ですが……」

しかし、バリウスは納得がいかない。それは上司かつ先輩のランドルフも同じである。「わかっている。隣国のベアトリウスには足を踏み入れたが、完全に調査をするには色々面倒な事がある。被害者の心境次第では、再調査をしなければならないだろう。国としても未解決事件を放置しておくのは恥でしかないからな」

「再調査をしたくなるような被害者がいるとすれば……」

レオネスクでは、捜索する過程ですっかり身元不明の者や家や大切な人を失った人を保護する体制が整っていた。その中で一人――

「ああ……シグマだ」

「とにかく今は帰るぞ。現状を姫に報告しなければ」

「はい!」

 シグマ。シグマ・アインセルク。彼がこの物語の主人公である……。

 

 

 

 

「シャラ!シャラぁっ!しっかりして!」  

 

十二年前。シグマは幼馴染のシャラ・ワンダウェンと自宅で遊んでいた。両親は子供たちを逃がす過程で火の中に囲まれてしまい、シグマはいつのまにはシャラと二人きりになっていた。

「良かった……無事なのね……」

「ぼ、僕は無事だけど、シャラの足が!」

必死にシャラと一緒に逃げようとするシグマ。しかし……。

「ううん……あたしはもうだめ……。シグマは早く城に行きなさい……」

「嫌だ!僕がシャラを背負えば!」

「無理よ……だってもうこんなに周りが火だらけなんですもの……」

おんぶをして逃げる前に、燃え盛る火の中を回避するルートが消滅しそう。現状はこうだった。

「それにこの家は住宅地のど真ん中。シグマがあたしを背負っている間に火が迫ってきて一緒に死んでしまうわ」

「そ、そんなの!そんなのやって見なければ!」

だからシャラは、残酷なまでに冷静に、そして大切な幼馴染を助け出そうと、自分がすべきことを決断した。 「ダメ。お願い、早く逃げて……」

「……そんな!」

「くすっ。……でも、そうね。代わりにっていうわけじゃないけど、最後に約束しましょ?」

シグマのあまりにも悲しそうな顔を見て見かねたシャラは、最後とばかりに助言をする。

「やくそ、く?」

「うん」

「あのねシグマ。あなたは今のように嫌な事があると泣いてばかりよね?」

「今はしょうがないかもしれないけど、あたしはあたしがいない世界で生きている泣き虫のシグマを見たくないから、もっと強くなって……簡単には泣かない男になりなさい」

シャラが死ぬ前にシグマに言った事。このセリフは、シグマの中でずっと強く、残り続けるものになる。

「それと、誰かのために心の底から手を差し伸べ助ける、優しい人に……なってほしいの」

「うん」

「あともう一つ」

「あたしの分まで、生きて。幸せに、なりなさい……」

「それ、じゃあ……ね……」

「……シャラ?」  

 シャラはシグマを庇いながら逃げていた。その結果、一炭素中毒で死にそうになっていた。

「シャラアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

レオネスク大火事事件。

 

 それはノーシュ国の首都、レオネスクで起きた、大規模の未可決事件である。 未解決の名の通り、犯人は未だ見つかっておらず、この事件でレオネスクの人口は二割減少し、一割負傷者がでた。 シグマは、その大火事事件の被害者であり、数少ない生き残りである。

 

 

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「シャラ!」

 朝、目覚める。今日は成人の日であり、セレナ王女から直々に初任務の仕事を請け負う、素晴らしい旅立ちの日。

 

「っ!…………夢か……」

 そんな日にシグマは自分の運命を決定づけたあの日の事を夢として見てしまっていた。いわゆるフラッシュバックだった。

「(久々に見たなこの夢……)」

 シグマはシャラが亡くなった後、当然のごとく国に保護された。対応者達は、シグマの事を一時期は孤児院に入れる事も視野に入れたが、自分達の所属にした。その理由は……。

「シーグマ。おはよう」

「ああメイ。おはよう」

 メイ・ヘンドリーズ。彼女もまた、大火事事件で父親を亡くした。つまり同胞であり、同じ痛みを有する数少ない仲間の一人だった。

「今日はセレナ王女から初の仕事を承る日でしょ?早く準備しないと」

「そうだった。すぐに準備して行くよ。メイは先に行っててくれ」

「遅れないようにね~」

 ばいばいと手を振り部屋から退出するメイ。それを見届けるシグマ。

「はぁ……(危ない危ない……。メイにはバレてはいないみたいだ……)」

 大火事事件はシグマにとって、トラウマであると同時に生きる希望だった。シャラの約束が、シグマにとっての希望になっていた。

「シャラとの約束は大切にしているけど、今は関係ない。早く準備しないと!」

 だからこそ、一人で騎士になろうとしたメイの事が羨ましく、そして眩しかった。自分は彼女よりも強くないから……。

「……成人して初の任務だからなぁ~。楽しみだ!」

「やっときたの?もう始まるよ」

「ごめんごめん」

 支度を整え、謁見の間についたシグマは、メイからちょっと注意された。しかしそれは仲がいいからこそ発する物だった。

 

「よく来たわねシグマ。待ってたわ」

「おはようセレナ」

 セレナ。セレナ・ハードリウム。ノーシュ国の現女王。シグマやメイとは一切年上。そして義理の姉弟の関係だった。

 そう、シグマが騎士として育てられたのは、シグマの事をセレナが知ったからである。いわゆる王女権限だった。

「だからこういう場では敬語を使いなさいと……まぁいいわ――」

「うぉっほん」

「今日二人を呼び出したのは他でもない。二人が成人したからよ」

 セレナは義理の姉弟の二人を改めて祝福した。自分は二人と違って物心ついた時から王として政治をしてきたからである。

「おかげさまでね」

「……はい」

 二人は嬉しそうに返事をした。

「……ふっ」

 十二年経った今もなお騎士団長をしているランドルフは、それを微笑ましく見つめている。

「だから成人祝いとして、早速だけど王女である私自ら、あなた達にやってほしい依頼を告げさせてわ」

「ええ!?そ、それは急ですね……」

 驚くシグマ。

「なぁに言ってんのよ、こうなるのをずっと待ってたじゃない」

「それは、そうだけどさ……」

「そんなに固くならないでいいわ。今から言うのはシグマ、あなたに関する事でもあるのだから」

「僕に、関する?それはどういう事ですか?」

 首を傾げ、どういう事か想像するシグマ。

「話を聞けばわかるわ」

 そしてセレナは、何のことかを簡潔に、かつ単刀直入にあっさりと言ってのけたのだった。

「――シグマ、あなたは大火事事件の被害者よね?」

「そうですけど……」

「……」

 謁見の場には、セレナやランドルフ騎士団長の他にも、セレナの母親のナルセ、セレナの侍女のミネア・カーランド、そして、ランドルフ・サンダリアの部下のバリウス・フォーランドとワイト・コールマンがいた。シグマとメイは、セレナとナルセ親子王族を除く四人の計六人で、首都護衛部隊として配属、生きていた。

「……」

 バリウスは一人、ついにこの時が来たかというような表情で、二人を見守っていた。無論、見守っているのは他の護衛部隊の三人も同じである。

「その大火事事件の再調査を12年ぶりに、シグマ。被害者であるあなたを中心にやってほしいのよ」

「何……!?」

「……」

 今朝夢に見たばかりの事をセレナから告げられ、困惑と驚きを隠せないシグマ。早く説明をしてくれという表情を皆に向けていた。

「――ここから先は俺が説明しよう」

「ランドルフ騎士団長……」

 どうやらランドルフが説明してくれるようだ。

「知っていると思うが、12年前、約3年もかけてやった国内の徹底的な犯人の探索及び調査は、あまり良い成果をあげられずに終わった」

「う”ぅ~……(言いたい事言われた)」

「(姫、まあまあ)」

 王女をなだめるミネア。セレナはどうやら自分で説明したかったようだ。あ、はは……と苦笑いするメイ。しかしシグマはそんな三人のことを気付いていながら、そんな場合じゃないとばかりにランドルフ一人に集中していた。この場にいる人はシグマにとって大火事事件とは何なのかをよく理解している人たちばかりなので、そんなシグマを失礼に思う人はいなかった。

「一度調査をしたとはいえ、国からしてみれば犯人にしてやられたただの恥ずかしい汚点だ。一度で納得したかと言われればしてないと答える。だからこそ再調査をする意味がある。犯人が今はもう死んでいるのかどうか、せめてどういう人物だっただけでも知っておきたいだろ?……じゃないと、色々報われないだろうからな。お前とか」

「ランドルフさん……」

 シグマは自分の事をこんなにも想ってくれるランドルフに感動していた。

「でも、僕でいいんですか?」

 確認するシグマ。

「むしろお前しか適任はいないぞ?ノーシュ国の騎士団の中に大火事事件によって家族が死んだ者がいるのは、お前と、隣にいるメイだけだ」

「……」

 言われてメイも顔を強張らせる。

「悲しい事実だが、あの事件によって孤児になったのはシグマ、お前だけだ。だから国が引き取り、騎士としてお前を育てたんだから」

 事実の再認識と整理。そう、シグマは他の同世代の人達とはどうしても相容れない、天涯孤独の身という決定的な違いがあった。

「ようするに、だ。引き取ったお前をここまで育てたのは我々が養ってやったからなんだから、今ここで、恩を返してもらおう……と、いうわけだ。……いやぁ~、当時は落ち込みすぎて、再調査に任命できるかも怪しかったが……無事精神が回復してくれてなによりだ。良かった良かった」

「ランドルフさん……」

 ランドルフ騎士団長は、普段厳しい事をあまり言う人ではない。しかし立場上、言う必要があるので言う事はよくある。

「こういうのは、部外者よりも当時者が自らの手で調査した方がいいだろう?シグマ、君という適任者がいるのになぜやらないんだというだけ話さ」

「ワイトさん……。わかりました!皆さんがそこまで言うのなら、このシグマ、絶対にやり遂げて見せます!」

 ワイトに言われて、気合を入れるシグマ。よぉしと言って、皆に告げた。

「気遣いありがとうございます!では、行ってきま――」

「待ちなさい、シグマ。まだ話は終わっていないわ」

「えっ、まだなにかあるんですか?」

 振り返って、ぽかーんとするシグマ。なんていうかせっかく気合が無駄になった感じだ。いわゆる空回り。

「あるわよ。あなたにとっては依頼のようなものだけど、これは一応国の重要な任務なの。だから、定期的に私達に現状報告をしないと困るわ」

「それはもちろんするつもりです!」

 何を当たり前な事を。シグマは(もちろんメイも)騎士道精神をセレナと護衛部隊の四名から厳しく教わったため、どういう時に何をすればいいのか、言われなくてもわかる。

「ええ、でしょうね。だからその心配はしていないわ」

「なら!」

 譲らないシグマを見て、はぁとため息をつき、「相変わらずね……」と思わず口にでたセレナ。

 

「いい?犯人がどういう人物なのかを知り、捕まえるのが目的なのよ。もし相手が自分より強かったなら、援軍をよこさないといけないでしょ?危険な目にあうかもしれないから、まだ成人したばかりのあなたに単独行動はさせない。だから、メイと一緒に調査してもらうわ」

 

「メイと……」

 ちらっとメイを見るシグマ。

「それは、いいですけど……」

「あと、犯人は隣国のベアトリウス国にいる可能性が高いわ。12年前の調査で、自国は調べつくしたからね。だからあなたにはベアトリウスまで行ってもらうわ。目で見ないと実感しない事もあるだろうから止めはしないけど、自国の調査は細かくはしなくていいわ。あくまでメインはベアトリウスだって事を忘れないで」

「わ、わかりましたっ。ですけど……ベアトリウスにいるという根拠は?」

「あの国だけ、調査に非協力的だった。それだけの事だ。だからこそ疑いがかけられているし、それを払拭するという意味もある」

 ランドルフがシグマに言う。

「あの国を調べて犯人がいなかったら今度こそ迷宮入りだが犯人はいる可能性が高いというのが前回の我々の調査の結論だ」

「そうですか……」

 そういう事なら。

「わかりました。メイと一緒に、気を付けていってきます!」

「ええ、行ってらっしゃい」

 セレナは二人を応援する。

「有用な情報を待っているぞ。何かあったらすぐに駆け付ける」

 ランドルフも当然応援する。

「助かります!」

「行こう、シグマ!」

「うん!」

 護衛部隊とセレナ親子は、成人した新たな二人の首都護衛部隊の旅立ちを見届け、安堵し、心配していた。

「……本当に大丈夫かしらあの二人?」

「まかせるしかないでしょう。もはやあの二人だけが当事者なのですから」

 ミネアは言う。あの二人だからこそこの未解決事件を解決すべきだと。

「ミネア。わかっているわね?何かあったらすぐ動ける状態でいるのよ?この事件、あたし絶対に裏があると思ってる……」

「わかっております。あれだけ大規模に炎上しておきながら城門にいる兵士達が犯人らしき姿を見ていないのは不自然です。犯人は相当な戦闘能力を持っている可能性が高い。そうなると鉢合わせした場合……」

 ぼそぼそと囁きながら分析するミネア。それを黙って聞くセレナ。

「どう転ぶのかはわからないけど、首都護衛部隊を簡単に出すわけにはいかないの。シグマ、わかって頂戴……」

 セレナは可愛い子には旅をさせよの気分で、シグマの事を心配していた。

「(逃げているのは間違いない。だからこそ、必ず見つける。 汚点をそのままにしておくノーシュ国ではない事を思い知らせてやらねば)」

 シグマとメイを心配するセレナの身の安全を考えていたバリウスは、一人十二年前の当時に思いをはせていた。

「(12年前、突如として起きた大火事は、まるでテロのようだったがすぐに消火された。あれはいったい何だったのか?ノーシュの王族や人に恨みがなければ、到底できない行為をいとも簡単にやってのけた。犯人が見つからない事で逆に決定的になった犯人像……)」

 はっとするバリウス。

「(まさか……亡命?。だとしたら誰なのか暴かなければ……!じゃないと……とんでもない闇が、この国を襲うかもしれない……いや、考えすぎか……?)」

 首都護衛部隊は、城下町の住民とそして国王の命を守る組織である。なので、外に出て行くこともあるが、一人は必ず城にいなきゃいけない動きづらい組織でもある。だからこそ、シグマとメイを歓迎し、そして自分達の手で騎士へと育て上げた。

 この国としての選択が、やがて実を結ぶのかどうかは……ノーシュ自身でさえわからなかった。しかし、昔変革したからこそこういう事ができるようになったのだ、シグマとメイが騎士として、国を新しく導いてくれることをバリウスは願っていた。

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