約束のリアライズ   作:ひなせひろと

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第3章:見えてきたもの

「——ああ、その通りに頼む」

「わかりました。国としての方針は変わらず、警備は強化しろと」

「……それと、今回が初めてになるのかな、ノーシュからお客さんだ。 大火事事件の調査に来たんだと」

「ノーシュ?大火事事件?」

 監獄所内に入る。アレスハデスは、典型的な岩の刑務所で、牢屋も黒く塗られた鉄の檻で出来ていた。灰色で、夜はさぞかし暗いと思う。しかしその暗さが、犯罪者達に何もさせないでいるんだろうとも同時に思う。

 シグマは、マキナとジェイドに案内されて受付の前に険しい顔で出た。許可証を手に持ちながら。

「初めまして、シグマ・アインセルクです」

「——ただ話を聞くだけだ」

「マキナさんもいるのか……。なら、どうぞご自由に。……ここにわざわざ来たという事は何を言われるのか理解しているのでしょうし、ね」

「……ありがとうございます」

 受付の人は、なんだ、そんな事でしたかという顔で、淡々と処理をした。この反応が、自分達の存在が大したことじゃない証。まぁ、凶悪犯罪者専用の牢獄に来ているので、スイッチを完全には切り替えられていない自分達が悪いとみるべきだろう。

「歓迎されていないなぁ……」

「当たり前やろ」

 メイがぼやく。それにマルクが返す。

「ベアトリウス帝国がそもそも自分達がナンバーワンだと思ってるからこうなだけで、庶民はそこまででもないはずよ。兵士まで変な帝国イズムを継承しなくていいんだけど、そこは従順な人ばかり集めた結果かしらね」

「今更自分の国のやり方にとやかく言うつもりはないが、ここは監獄所。ベアトリウス帝国にとって重要な場所だ。歓迎される方がどうかしているわな」

「でも、ダグラスみたいに結果なし、というのは……」

 イリーナは自身が思っている心配を素直にルーカスぶつけた。

「それは祈るしかないな。俺やアリアならまだしも、シグマ達ノーシュにとってはこういう場所に来るのはほぼ勉強みたいなものだろう。成人している以上はこの程度やってくれないとな。なぁに。俺達がついているんだ。何かあったらすぐに助けるさ」

 自分達の領地に自分達の兵士がいる以上は、ベアトリウスはノーシュに気を使う必要はない。本来このように、不機嫌そうに仏頂面をしているのが普通なのだ。ノーシュを含め、ベアトリウス人と言えばこういう顔をするとよく知られている。

「あたしも流石にここには来た事がなかったわねぇ……」

「ほう、そうなのか。プライベートで1回はと思っていたが」

 マキナが意外だなとアイカに返事をする。

「耳にする情報が碌な物じゃなくてね……。中には子供に言えない事もあるし」

「犯罪者というのはそういうものだ」

「お二人って同期だったんですよね?当時は何をしていたんですか?」

「普通に仕事していただけさ。あの時はまだ軍人騎士としての誇りが皆にあったなぁ……」

「当時から既に欠片みたいな物だったけどね」

「そうですか……」

 マキナのしみじみしつつどこか諦めた顔をしたのを、イリーナはまじまじと見つめていた。一方、アイカは普段と変わらない表情をしていた。二人が並ぶと、軍人としてきちんと体を鍛えた事がよりはっきりとわかった。二人の後ろ姿は別れても友情は不滅。そんなメッセージを感じた。

「おい、大火事事件の調査に来たんだろ。さっさと地下に来い」

「あ、はい!」

 ジェイドがシグマ達を呼ぶ。

「急かすなぁ……何がそんなに嫌やねん」

「犯罪者を他国の人に見せるのよ?王子なんだから良い思いしなくて当然だと思うけど」

「昔はもっと余裕があった気がするんや」

「だったらその余裕がなくなったんでしょうね、年月を重ねるにつれ」

「はぁ……ベアトリウス帝国も扱いが面倒くさくなったなぁ……」

「……」

 ジェイドが王子として不機嫌になるのはわからなくもないが、ここまで雑になることはないのではないか、とシグマ達は思っていた。シグマ達ノーシュ人だって犯罪はするし、牢屋だって見た事がある。この監獄所内の独特の空気が彼をそうさせるのだろうか。

「シグマ……」

「うん、一つ一つきちんとやっていこう……」

「あ、あの……私は……」

「あ、無理しなくていいからね、マイニィちゃん」

「は、はい……」

 マイニィは社会勉強のために、大人しか入れない所でもなるべく連れて行かなければならない。セレナ王女との約束である。

 

 

 

 アレスハデス監獄所は三階建てだが、地下もある。地下は穴を掘れないように周囲は石で囲まれている。硬く掘りに利用できそうな物はとにかく禁止らしく、食用のスプーンでさえ鉄じゃなく木を加工した物を使っていた。それを見て、シグマ達はすぐに大きな声を地上に届かないようにするためだと理解した。自分達がいるから大声は上げないだろうが、定期的にここにいる犯罪者達はいわゆる扱いが面倒くさい事をよくするのだろう。

「ついたぞ。探すなら探せ」

 当たり前だが、部屋と受刑人には番号がついている。地下なのでわざわざ深く掘ってはいなかったが、少なくとも百人は収容できそうだった。ぱっとみ三割から四割ぐらいがいる感じだ。勘違いしてはいけないが、牢屋自体は二階三階にもある。でも、そこはわざわざシグマ達が入るようなところでもないんだろう、こうやって直接地下に案内された。

「よし、やろう……」

 マキナ達と並行して、シグマ達のこのアレスハデス監獄所での調査が今まさに、始まろうとしていた。

 

 調査はいつものように、殆どは知らないの一言で終わった。だが、たまに大火事事件の事を知っている人がいて、そういう人がいたら深く内容を掘り下げていくように接していた。心の中では思ってても、余計な事は言わずに、淡々と。おそらく犯罪者達にはお互いにお互いの感情が顔に写っていただろう。

「大火事事件、か。あの時はたまたま近くにいたぜ。当時盗賊だったけど、仲間内でもレオネスクを放火する計画なんて聞いたこともねえな。悪わりぃな」

「そうですか……」

 だが、あくまで知っている人がいるだけで、肝心の犯人像は素早く逃げたという当時の状況を報告する書類に書かれてある通りの事を言われて、シグマはこれで何回目だよ、と辟易していた。また、性犯罪者や精神が若干不安定で定期的に発狂し冤罪を主張する者や、女性、完全にアリバイがあり数秒で会話が終わってしまうものなど、会話の内容の薄さと濃さにかなり差があった。

「……」

 全体的な時間はそこまで掛からず、二、三時間で作業は終わってしまった。しかし、決して悪くはなかった。当時近くにいて盗賊が計画した事じゃないという言質をとれただけでも進歩だった。

「う~ん……。アレスハデスっぽい情報は得られたけど、犯人っぽい怪しい人物はいなかったわね……」

「そういう奴は今は刑務のせいでこいつらとは離れてるはずやからな。仲間が似たような犯罪をしていたとしても、ここには近寄れないから、いなくても不思議じゃあらへん」

「でもどうするんですか?ここにもあまり有用な情報は得られなかったという事は、そろそろ軍人の元に……」 

 メイがジェイドをちらっと見ながら話す。

「いや、もう少し探そう。犯罪者にいなかったのならあの大火事事件は本当に特殊な物だという事だ。おそらく犯人は、今でも一人で行動している可能性が高いだろう。それも、知り合いでさえ教えていないような」

「どこかに隠・居・でもしてるって?そんなのどうやって捜すのよ」

 それが出来たら苦労しないのである。しかし、どうしてもいなかったら一度はやる必要はある。徹底的に。

「何日も引きこもっとるとは思えへん。バレずに生きているのは間違いないけど、だからって神経を使わない生活を送ってるわけでもないやろ」

 親しい人間にも自分が犯行した事は話していないはずや、そこをあたるしかない、というマルク。

「私が怪しい一軒家でも探すか?」

 マキナが手助けを提案する。

「どうだろう。大火事事件というワードをぶつければすむ事だからな……。試してみるか?俺達の様な、いかにもな奴よりも、子供言わせた方が唐突すぎるから判断しやすいぞ」

 リアクションを見て、その反応でアリかナシかを見る。そういう方法もある。

「肝心なのは誰かが見ていなきゃいけないって所で、その時点で警戒されるんじゃないかって事だが」

「あの事件を起こす時点で普通の人間ではないからなぁ……。一般人をあまり相手にせずに捜索するのは正解だな」

 

 

 

「……とりあえず、ダグラスに戻りましょうか。悔しいですけど、ここもなしでした」

「そうね……」

 調査のために訪れる町の候補は少なくなってきている。次はどこに向かおうか、と思いながら、シグマ達はダグラスに帰っていった。

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