約束のリアライズ   作:ひなせひろと

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第3章:見えてきたもの

 ダグラスに帰って来て、数分後。

 

「た、助けてくださあああああああああああい!」

 

「な、なんですか⁉」

 皆がベンチや宿屋で休憩しながらダグラスの町を眺めている時、突如、女性の叫び声がダグラス全体に響きわたった。やっぱ何か起きたかと思ったシグマ達は、室内にいた人はスムーズにどたどたと外に出る。

「へっ、あばよっ!」

「こっ、この人泥棒です!刃物をつきつけられて、金をよこせと!」

「何ッ⁉」

「シグマ!」

「うん、助けるよ!」

 話を聞き、真っ先に動き出す。いつも通りの仕事を他国でやる。それだけの事だ。

「今度はなんや、強盗か?」

「仕方ない……俺達も助けるか」

「ええ、人道的に無視はできないからね」

 ダグラスに来て、まもなく一日目が終わりつつある。そんな時、今日最後の仕事が舞い込んできた。マキナに言われて治安向上という名のボランティア活動をして、ダグラスはすぐに奇麗にできる所は良くなったが、まだ色々ガタガタの状態だ。もちろんただ足を運んだだけの人間がしばらく滞在して対処すべき治安向上の問題にかなり貢献できるなんて思っていない。

 しかし、この町にへばりついている、まさに頑固な汚れのような負のオーラは、なかなか取り除けないだろうなとシグマ達は手伝っていて感じていた。

「そこにるお前達、止まれ!」

 仕事をきちんとこなしたくて、シグマは強盗の目の前に行き静止させようとした。

「っち、今日は見張りが仕事しやがるな……」

「(あたし達を見張りだと思っているのは好都合ね。このままそう思わせておきましょう)」

「(まぁ、わい達がダグラスの普通の住民の味方なのは確かやしな)」

 物事を深く考えていない強盗達の事を見て幸運だと思ったシグマ達は、このままの状態をキープしようとひそかに喜んだ。

「や~だねぇ!たまたま運が悪いだけで捕まってたまるかっつの!」

「悪いが、この数で負けるわけにはいかない!大人しく捕まってもらうぞ!」

 シグマ達は盗賊を捕まえるために強硬手段に出た。

 ダグラスで急に現れた盗賊は、それはそれはいとも簡単に捕まった。犯罪者がいるからこそ、彼らを危険視して怯えている雑貨屋の商品は簡単に盗めるはず。そう思っていたようだ。実際簡単に盗めたようだが、捕まらずに逃げられると思っていたらしい。わかりやすい傲慢だった。周囲をよく確認しない事が、そのまま捕まる原因になった。

「畜生……」

「ふぅ~……」

「まずは、やな。丸く収まってよかった」

「ええ、特に変な事が起きなくてよかったです」

 自分達はさっさとアレスハデスに行きたいのだ。シグマは素早く気持ちを切り替える。

「……チッ……」

「……うん……。周りの犯罪者達を見渡しても、厄介な奴らだと思われているようだ。これでダグラスにいる間は少し動きやすくなるだろう」

 マキナは、自分達の存在が割の犯罪者達にどう思われているか確認した。予想通り近づいてこないのだが。一般人にも。犯罪をしないための抑止力になっているのは間違いなかった。

 彼らは、証拠がないから捕まっていない確信犯なので、シグマ達は悔しい、と思う。

「あ、ありがとうございます!」

「いえいえ、当然の事をしたまでです」

 シグマ達は住民からお礼を言われた。マキナが代表して、野次馬達に何か国に報告する事はないか、と質問をしている。

「また、襲われていたら店がつぶれそうで……本当に助かりました!お金がないのでお礼はどうすればいいか……」

「いいですよ、お礼なんて」

「えっ、でも……」

「僕達は、人としてすべき事をしたまでですから」

 ノーシュでは、これが当たり前なのだ。

「まぁ、ベアトリウス人全員が悪なわけじゃないしね。ダグラスを見捨ててるのはあくまで国ってだけよ。……マキナみたいな人は違うけど」

 もちろん、大抵のベアトリウス人にも。

「(同郷のエドガーがあの様子だったし、居心地が悪い事がこの町を嫌う一番の理由になっていそうね……マキナが治安向上をしろとうるさく言うわけだわ……)」

 本当は口にしたかったが、今は関係ない事なのでアリアは余計な事は口にしないように心の中にとどめておいた。

「あ、ありがとうございます!人生捨てたもんじゃないですね!」

「——よし、宿屋に戻ってご飯にしよう!ねっ、マイニィちゃん、イリーナさん!」

 

「ま、マイニィ……?」

 

「え……?」

「その名前……どこかで聞いた事があるような……」

 シグマが協力者の皆にダグラスの宿屋に戻ろうと言った時だった。シグマ達が強盗と戦っている最中に建物から出てきた、強盗被害にあった女性の父親らしき男は、シグマが口にしたマイニィという言葉に反応し、よろよろと少しずつ近づいてきた。

「マイニィちゃんを知っているんですか⁉」

 イリーナがつい驚きの表情で聞き返す。

「失礼だが君、名字を教えてくれないかい?」

 しかし男は聞きたいのはこっちの方だと言わんばかりにマイニィに顔を向け質問した。

「カレア、です……。マイニィ・カレア……」

 質問されたので、マイニィはそのまま普通に答えた。

「カレア……カレ、ア……?——ああ、ノーシュの有名な……!」

 この男はどうやら、カレア家がノーシュで有名な貴族だと知っているらしい。自分がなぜマイニィという言葉に聞き覚えがあったのかぴんときたようだ。

「君がそうなんだね!いやぁ、出会えてラッキーだ!君にちょっとした話があるんだ!」

「ちょっとした話?なんやそれ?」

 シグマもマルク同様思った。急に話しかけてきて何を話すのかと思えば、まさかのカレア家に関する事。シグマはただでさえセレナ王女から直々にマイニィちゃんの保護者として面倒を見ろと命令されているので、聞くしかなくなる。

「あ~……君の両親、亡くなっているだろう?その両親の犯人が、この町出身でね。まぁ、彼はもう死んでいるんだけど、亡くなった場所も故郷のここなのさ」

「な、なんだって⁉」

「マイニィちゃんの両親の犯人を知っているって……⁉でもどうして⁉」

 シグマとメイが驚愕する。他の調査隊メンバーも驚いてはいたが、話の内容の方が気になる、と言っているような表情をしていた。

「話すと少し長くなるんだが……そうだねぇ、まずは名前から。犯人の名前はリゲラ・ハイニスト。この町生まれだから、育成環境は悪くてね。彼の両親は幼い頃に他界。泥棒で生計を立てていたんだ」

「……」

 マイニィは男の話を黙って聞いていた。

「更生してほしかった……っていうのは結果論だね。彼は大人になったら犯罪者仲間とつるんで盗賊団を結成して、旅をするようになったんだ。そこでノーシュのシエルエールにある日たどり着いた。たどり着いたタイミングで、世界各地の色んな盗賊団が、大規模な泥棒を計画して、その対象としてカレア家の屋敷が選ばれた。まぁこれは当事者である君にとっては不幸な事だね。で、君の両親は殺害されたんだけど……。問題はこの後さ。盗賊達は大量に捕まったが、逃げるのに成功した奴らもいた。リゲラもその1人だ。だが、故郷であるここに数年ぶりに帰ってきたら、変な薬でもやっていたのか、やせ細っていてね。2、3年でさらに体調がやばくなって、泥棒する回数も少なくなって、気づけば衰弱死……。ノーシュの騎士がここにやって来る頃には、既に死亡していた。僕達がリゲラの事を知らなかったら、ずっと君は犯人が誰であるかわからないまま、大人になっていたわけだ。まぁその方が良かったのかも知れないけど」

「そ、そうだったんですか……」

 まさか自分の両親の犯人について知る事になるとは思っていなかったので、困惑しつつ感謝するマイニィ。

「でも、なぜそれを僕達に教えてくれたんですか?」

「君達と同じさ。助けられたんだから、そのお礼にね。後はやっぱり、ノーシュ人がこんな所にいるとは思わなかったからね。恩でも売っておこうと思って」

「……」

 意外な場所で、意外な人物から、意外な事を教えてくれた。自分に関係あるけど、関係ない話だ。シグマはもやもやしながら、話が終わった事に安堵していた。この件もまたどこかで話す事があるだろうから。

「(リゲラ・ハイニスト、かぁ……)」

 今は亡きその人に、メイは想いをはせる。誰に何かを言われるかなんて考えず、やりたい事をやっていつのまにか死んでいた。流石に大火事事件の犯人まで死んではいないだろうが、可能性としてはあり得るのだ。マイニィちゃんみたいに、恨みを言う事もなく死んでいるのは嫌だなとメイは心の中で思った。

「シエルエールに帰ったら、この事を伝えると良いよ。君が気になっている事は無くなって、自由気ままに生活できるはずだから。こうして大人に守られてるのも、なんとなく察しがつくしね」

「あ、ありがとうございます……」

 マイニィは普通に生活したいけど、できない人生を歩んできたのだ。だからこそ、自由をマイニィは望んている。なので彼女の生き方は尊重しなければならない。

「あたしと違って、マイニィちゃんの事は助けられたかもしれない事件よ。犯人はあたし達も知らなかったけど、なんか腑に落ちないわね」

「まぁいいじゃないか。助けたお礼っていう形で、何かは起きた」

「結果的にノーシュの騎士がいるって事がばれたけどね」

「そんなの時間の問題だ。今さっき犯罪者達に大火事事件の事を聞いたばかりなんだし」

 普通の庶民には自分達の素性を明かしても別に変には思われないだろうが、強盗のような人達からは間違いなく厄介に思われるだろう。

 そういう視線は不可抗力とはいえあまり浴びたくない物だ。

「マイニィちゃんの両親の事、教えてくれてどうもありがとうございました」

「ああ、ダグラスにいるなら今後も気をつけて生活するといい」

「はい」

 マイニィの事はこれで一件落着か。シグマ達は改めて大火事事件の事に集中する。

「……うん、周囲の人達も何も言ってこないみたいやし、今日はもう本当に宿屋に戻っても問題なさそうやな」

「そうか。ご苦労だった」

「あ~ようやく眠れるのかぁ~」

「……」

 マキナとエドガーとベリアルも、別室で眠る予定だ。こんな時間をベアトリウスの軍人と共有するのは初めてだな、とシグマは思った。

 本当に長い一日だった。シグマ達は皆、ご飯を食べた後ちょっとした話をしただけですぐに眠ってしまった。

 

 

 

 シグマ達が強盗を捕まえている時。

「はぁ……」

 シグマ達の行動を、遠くから眺めていた若い男がいた。男は、強盗の事件を見て、世界の真理を悟っていた。

「(ここはもうダメだな……。今まで世話になったけど、ノーシュの奴らに助けてもらうなんて……。国にも見捨てられて、滅んでいくだけだ……)」

 男はベアトリウス人。たまにふらっと自国の色んな町を見ては、その雰囲気を楽しむのが趣味。……だった。大人になって色々な事を知るまでは。

 

「(やはりテロを起こさないと人は目覚めない……。自分の存在を証明して、世界をより良くするためには、痛みを伴った改革しか……!)」

 男は真面目な性格だった。ゆえに、戦国時代の後のこの今の時代を、よく考えていた。昔より良くなっただろうかと。

 しかしそれは、今回のこの件やノーシュから亡命してきた人間が自国の軍部にいる事や、怪しげな研究をする男を招き入れて研究させている事を知り、良くないと決定づけようとしていた。

 

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