朝起きて。
「……」
一足早く起きたマキナは、昨日の強盗が何か怪しい物はないか、首都の牢屋に入れる前に服や品物をチェックしていた。
もちろん他人の男をまさぐる趣味などないので、ベリアルに協力してもらっている。エドガーは純粋に疲れているのでまだ寝ている。
「……ん?」
強盗は別に変な格好はしていなかった。普通によくある盗みをしただけ。しかし、マキナはある部分に目がいった。
「この金貨と札……何か変なような……」
「どうした?なにかあったか?」
ベリアルはそれまで普通だったマキナの違和感を見逃さずに話しかけた。
「これだ。……違和感が無かったら終わりだな」
「これは……」
マキナはすっと強盗が持っていた金をベリアルに手渡して立ち上がった。明後日の方向を見ながら今の事で何か考えている。
「んん?」
ベリアルも違和感を感じたので、軍服の下半身のポケットの中に入っている自分の金貨と見比べる。
「……」
殆ど違いは見当たらない。……ように見える。
「若干……だが……薄いのか?」
偽物らしき物の方が、だ。本物はきちんとメッキされている。
「お前がその反応だと捜査するか悩み所だな。ようは偽物かどうか断定しづらいんだろ」
寝ている強盗が起きる前に調べ上げわかった事。それはどうやら、このダグラス周辺で偽物の金が流通しているという事だった。
「しかし、首都に偽物の金の噂など聞いた事がない。となると、一体誰がこんな物を……」
そもそも偽物の金というのは、偽物だとわかっていないと意味がないのだ。だから商人がどこかにいてこの町の奴らとグル、というよりは、今まさに流通し始めてこれから騙すつもり、と言った方が正しいいいだろう。もちろん小さな個人単位では既に騙されているはず。
しかし軍人である自分達の方まで報告が上がってきていない。それは何故だ?
この問題は偽金騒動ではなく偽金製造疑惑。二人はさっそく皆を起こす事にした。
「偽物の金やと!?」
「よく気がつきましたね……」
朝ご飯を食べながら、シグマ達はマキナの話に耳を傾ける。新たな問題が発生した。
「全容を調べたい。が、どこまですればいいのかわからん。まさか静穏に暮らしているだけど普通の住民まで黒じゃないだろうし」
「そうだな……」
「……」
エドガーは一人問題が起きて嬉しいような、その場所が自分の故郷だからか、喜んでいいのかよくわからないでいた。
シグマもシグマで、大火事事件の調査はダグラスでは終わった以上次に行きたいと思っていた。
「そういや、この金貨はどこで製造してるんですか?誰が鍛冶屋なんです?」
「……ベアトリウスの金貨は全て、このダグラス周辺の工場で作っている。大小問わずな」
「!」
シグマの問いに、マキナは嫌々答えた。どこも似たような物だろうと思いながら。製造自体はどこの国でもできるだろうが、
変な問題が起きないよう皆自国で自生産しているはずだ。
「……このダグラス周辺ならそのうちのどれか一つでも黒やったらそこが犯行現場やろ」
「ああ、そうだ。しかし今からベアトリウスの国土を歩き回って犯人を捕まえるのは気が引ける。現状だとこのダグラスで見張っていた方が犯人を捕まえやすいだろう」
捕まえた強盗に金を支払う代わりに、犯人の居場所を吐かせた方が効率的。マキナはそう考えた。
強盗が捕まっていないとわかれば、このダグラス周辺でまた別の誰かが犯行するだろうから、抑えるどころか広まりに成功していると思い込んでくれる。そこを狙うべきだと。
「しかし犯人がどこにいるのか気になるのは事実。そこで……」
「まさか、僕ですか!?」
シグマ達ノーシュ組に白羽の矢が立った。一応、両替してノーシュまで広まったら困るので、この問題は小さな国際問題ではある。
「ああ。ベアトリウスの違う場所で大火事事件の調査もできるし、丁度いいだろ?」
「……」
最適な配置をして、マキナはとりあえずこれでいいはずだと確認を促す。あとはそれぞれの了承を待つのみだ。
「あのぉ~。その見張り、俺がやってもいいスか?」
今まで話を聞いていたエドガーがようやく口を開く。シグマが行動するかもしれないとわかったらすぐ、だった。
「別に構わないが……」
「ッシ!じゃ、そういう事で」
食い終わった皿を片付けて、エドガーはそのまま外に出る。窓から見ると、出口付近で待機していた。
「……で?お前はどうするんだ、ベリアル」
「あいつの好きにさせようと思うのだが」
「ここに残って治安向上の手伝いをする気があるのか?居心地が悪いはずだ」
「……行った方がいいか」
エドガーが故郷とはいえあの振る舞いなので、住民からはあまり好かれていない。そう思ったベリアルは仕方なくエドガーについていく事にした。マキナからしてみればノーシュ人であるベリアルをダグラスにほっつき歩いてほしくない、というのが本音だろう。
「私はここで報告を待ちながら治安向上を続ける。アイカも含め、シグマの大火事事件の再調査に協力したいなら好きにしろ」
「「「……」」」
そう言って、マキナはようやく朝ご飯を食べ始めた。この様子、明らかに昼から仕事をする気だ。
「どうします?」
「大火事事件と同じやからなぁ。何か少しでも証拠があればっていう」
「一応、我々の調査と違って目の前で起きている現在進行形の問題ですから、今この場にいないだけで近くにいるのは確かなはずです。何事もなかったの報告でも意味はあるかと。帰ってきたらマキナに入念に調べたか問い詰められるでしょうが」
「あたし達はここにいる必要がないのは事実よ。行った方がいいかも、シグマ」
「……」
それぞれ意見を行って、歩くのは気が重いがまぁできなくもないとなんとなく皆がやろうとする。そんな感じをしたのが自分でもわかったので、
「行くか……」
シグマはエドガーを白い目で見ながらついていく事にした。彼の案内には期待せずベリアルがいかにフォローしてくれるかにかかっている。
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「ついたぞ。ここがダグラスから一番近い工場だ」
エドガーに連れてこられてやってきた場所。そこでシグマ達が目にしたのは、煙がもくもくを空にあがっていっている灰色の大きな建物だった。
「へぇ。きちんと大規模に生産してるなんてようやるわ」
「戦国時代の名残だからな」
「……」
マルクはエドガーの返事に褒めるんじゃなかった、と後悔した。そういやそんな時期から作られているはずやと思った。
「で?偽物かどうか調べるって話だけど……まさか殴り込むわけじゃないでしょ?どうするのよ?」
メイが来たはいいけど、と返事をした。
「工場の奴らには俺が言っておこう。変な反応をしないか、物がないかも確認しておく。後は見張りしかあるまい」
「……」
ベリアルがさっそくエドガーでは不十分な可能性が高い事をやってくれる。それには感謝だが、こっちは怪しいから来たのに、何の証拠もないなんてありえないだろう。見張りだけで本当に何かボロを出すのだろうか。
「僕達はそこそこ人数が多い。見失わない程度に分散して、他人のふりをしておこう」
マイニィちゃんをイリーナに任せて、シグマはメイと一緒に行動する事にした。これで4つの場所で見張っている事になる。
「あ!何か来たわね!(小声)」
「そうだね(小声)」
見張って数十分後。そう時間が経たないうちに何かアクションが起きた。大きいバ社から荷物を降ろしている怪しげな二人組を発見したのだ。
自分達がやるべき事は、今この場所が偽物の金貨を生産している現場なのかそうじゃないのかという事。そしてもし別の場所ならここでその話をしているか否か。この2つだ。
チームが分散する前に、ベリアルが工場に行って戻ってきて、生産しているのは普通の金貨である事を確認したので、ここは城であり犯行現場ではない可能性が高いが……。
「〇〇が取り寄せた物だ。~~~~、これならバレまい……」
「???どこで取り寄せたって?」
シグマとメイの見張り場所では、よく聞こえなかった。他の班に期待する事になる。
「【エジーナ】から取り寄せた物だ。良く調べないとわからない。金を塗る量が違うだけで工程は同じだ、これなら皆をバレまい……」
「(エジーナから取り寄せた、やって!?誰が!?)」
ベリアルの確認は騙すための演技だったか。これから人を騙す向上に切り替わろうとしている所だったらしい。
マルクは倉庫の陰にひそみ、そこそこ近くで確認していた。近くに人の出入りはなく、安全に状況を確認できる。
「(わい達が見ていたから、後は犯行現場やな……)」
「これならバレまい……」
「しかし、さっさとダグラスで使ってよかったのか?100円のコインを50円で仕入れ200円で売ればそりゃ儲けになるけどさ。だからって、【エジーナ人のゼルガ】なんていう怪しげな奴と取引しなくても……」
「うるせぇ!誰だって贅沢な暮らしがしたいだろうが!こうでもしないと一瞬でも豪勢な暮らしが出来ねぇだろ!地道に稼げっていうのかよ!」
「……」
「(なるほど……?)」
「(まぁ、こんな事をする奴はそんな理由だろうさ。気持ちは理解できなくもないがな)」
「(早くシグマさん達の元に戻りましょう)」
「(ええ)」
子供を守りながら隠れる事が慣れているわけじゃないイリーナは、少し負担が強いので何かあった時の事をベリアルにお願いし、エドガーとベリアルの二人が目を見張れる距離で見張っていた。二人は犯行の作戦会議をしている事を見た以上、もう見る必要はないと、途中からずっとそわそわしていた。そんな自分達に気づいていたのでバレないように、他の皆とさっさと合流したかった。
「皆見た?」
「ああ」
「ゼルガ?って奴がエジーナ人で、そいつ経由みたいね」
「ゼルガ?なら城の謁見の間にいるよな?なぁ、ベリアル師匠」
「……ま、まぁな」
しかしエドガーがさらっと衝撃の事実を告げた。
「なんやて!?なんでそれを早く言わんねん!」
「そりゃあ俺達も犯人が誰なのか今知ったしな」
「ちょっと、マキナに伝えなきゃいけない事が出来たわね。急いで戻りましょう」
「そうですね」
「うん、進展してよかったよ」
自分の事は違うけど……。シグマはほんの少し、心の中でそう思った。
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一方その頃。
「ま、マキナさん!」
「……何か外であったのか?」
走って急いでマキナの元に駆け付けた警備兵は、マキナに衝撃の事実を告げた。
「ダグラスの住民が、数週間前から行方不明になっているとの情報が!今我々が見ているのは、かなり少ないとの事です!自然な人口減少ではありません!」
「なに!?行方不明だと!?そ、そんな馬鹿な……我が国は急にそんな事が起こる国じゃ……」
マキナはわかりやすく狼狽えた。マキナが来てから、ダグラス担当のベアトリウス兵士は少し楽できる、と彼女がいる状況を歓迎していたので、サボりたかったからサボっている者はいたものの、仕事に対するモチベーションは高かった。
マキナはシグマ達が戻ってくる間、アイカやアリア達と一緒に情報を集める事にした。
「ま、マキナさん!」
「現状を教えてもらえるか」
「は、はい……」
広場に出てみると、マキナを見つけたベアトリウス兵士が走ってきた。急いで報告したい事があるようだ。
「行方不明者は、わかっているだけでも数名です。マキナさんような軍人がいないと我々が動けないので、住民にはとりあえず全員自宅待機と命じました。もちろん各世帯を二名以上にした状態で」
「そうか。なら住民の事は私にまかせろと伝えてくれ。捜索の方はどうなってる?」
「周辺を探していますが、痕跡さえ見つからず、どうするか悩んでいる所です」
「他の町に伝え、兵士総動員で探すと伝えろ。早急に終わらせる」
「他の町との協力は既に兵士長がやってくれています。しかし兵士総動員ですか……わかりました。伝えておきます。ですがマキナさんはどうするおつもりで?マキナさんも捜索するんですか?」
「もちろんそのつもりだ」
マキナは当然とばかりに頷いた。
「というか、私や王にはどこまで伝えている?まさか宿屋に泊まった者の中で私が一番最初にこの行方不明に気付いたのか?」
「そう、ですね。俺達はずっとここでマキナさん達が来るのを待ってたんで。報告兵が行きましたから」
「(くそっ、ならゼルガやジェイドもこの事は知らないのか…………ゼルガ?)」
マキナはふとある事に気が付いた。シグマの事を王と同僚に報告した際に、すぐにいなくなったという男の存在に。
「——おい、首都にいる他の奴らはどうしている?特にゼルガは今どこにいるか何か知っているか?あいつはこの期に及んでまたどこかで変な研究をしているんじゃ……」
マキナは首都に残っている他の兵の数を知っているか、ダグラスの見張り兵に聞いた。誰がどこに移動したのかさえ分かっていればいい。
「ゼルガさんですか?ゼルガさんなら西のいつもの実験室に行くと首都からここに来る前にそう言っていましたよ?」
「……はあ?」
「(あ、怪しい……!)」
マキナは直感的に黒だなと思った。一人だけ都合がよすぎる。ましてやろくに操作もしていないなんて。
なぜ寝て起きてすぐに捜索活動をしているのか。なぜ行方不明だとすぐに理解できたのか。それは、いなくなった人が自宅や部屋でそこにいたのを見た人がたくさんいるからである。
そして、それがいなくなったという事は、少なくとも音を立てずに、あっという間に攫う事が出来ないといけない。だからこそ、マキナは全国一斉捜査を命じた。誰がどこまでいなくなったのかをすぐに把握できるから。
「ここ、スラム街のダグラスよ?意外と人の数は多いのに……よく行方不明にさせる事ができたわね」
「もし起きてすぐに報告が来ていたら私がすぐに駆け付けただろうから、気配を消すのに長けている者の犯行か……これは厄介だな」
「眠らせるというより、幻惑の類かしらね。人が連れ去らわれているなんて思わないような光景を一時的に見せたのかも。人が多いここじゃ、そういうタイプの魔法が効きやすいだろうから」
「それで、どうするの?そのゼルガっていう人、あなたと同じ軍人なんでしょ?」
アイカはマキナにどうするか聞いた。
「……同じ軍人だが……決定的瞬間が来れば、処すしかあるまい」
シグマ達はシグマ達でこの事を知らない。戻ってきた時にどうなるか……。マキナはそれを考えながら仕事していたが、内容次第では難しい判断を下さなくてはならないだろうなと思っていた。
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アレスハデス監獄所内にて。
「ヒャッハアアアアアアアアアアア!」
「な、なんだ!?」
唐突な叫び声と、バァンという音。どたどたという走る音が、下・か・ら・響いてくる。
「大変です!バレンが、バレンが逃げ出しました!」
兵士がすぐに状況を報告しに来てくれた。
「何ッ!?」
「ジェイド王子……」
「――老朽化、か」
ずっと監獄所内にいたジェイドが今回の原因の推測を言った。
「今になってか?メンテナンスは何年か事にやっていたはず。なんて不運なんだ……」
「だから人員を増やすよう決めたのに。アレスハデスは多すぎるぐらいが丁度いいって」
「わ、私はバレンを捕まえに行きます!早くしないと!港から別の大陸に逃げるつもりでしょうから!余裕があればそのままここの強度修復をやり始めてください!」
「お願いします。もし人員が足りなかったら私が伝えておきます」
「助かります!」
「……」
ジェイドは、今起きたハプニングに、この事はきっとダグラスにいるマキナさん達がなんとかやってくれるだろうと淡い期待をしていた。
約束のリアライズをどう思いますか?
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作家視点でやるなと思ってみてる
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