約束のリアライズ   作:ひなせひろと

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第3章:見えてきたもの

 ベリアルは死んだバレンの肩を担ぎ現場から遠ざけようとする。途中まで運んだら部下に運ぶのを交代させた。

 ベアトリウスの国としての課題。その一つは、ダグラスをどうするかだった。ダグラスその物を何とかするという議題よりも、その後の他の町の住民に被害が出ないようにするにはどうするか、という点でもめていた。

 エドガーは自身の境遇とベリアルという恩師から影響を受け、典型的な嫌なベアトリウス人になりつつあった。

 

「じゃあな、イリーナ。他の奴らも」

 

「あ、はい。ありがとうございましたぁ~」

 ジークはすぐにダグラスをあとにし、別の大陸に行こうとした。イリーナだけがきちんとさよならを言った。

「(こんな所でノーシュの今を見るとはな。30年前の紛争からどう立ち直ったんだか……)」

 ジークは別大陸の出身で、なおかつ全世界パトロールみたいな事をしているらしい。余計な事もあまり喋るような人間ではなく、淡々と仕事をするマキナみたいな人間だったとシグマは感じた。

 

「……エドガー、俺達も行くぞ」

「はい、師匠!」

 

「おい。そろそろ俺達は城に戻るぞ」

 

「ああ、好きにしろや」

 バレンと戦ったせいか、城に報告する必要があるとエドガーとベリアルは割と必死な表情でダグラスを出てしまった。

 帰りたがっていたであろうエドガーとベリアルを、これ以上自分達もあてにするつもりはない、と思いながらマルクがノーシュ組を代表して言い返した。シグマも他の皆も止めようとはしない。

 

「待て!本当に大火事事件の事何も知らないのか?」

 

「シグマ……」

 だが最後に一つだけ、シグマにはどうしても聞きたい事があった。バレンを運び、ジークがレリクスを後にした今、言えるのはこの二人だけだ。ジークはさっさと祖国へ帰ってしまい、大火事事件の事は質問できなかった。

 

「俺は知らない。……だがノーシュから引っ越してきた」

 

 マキナが言うより自分から言った方がましだと思ったのか、どういう反応するか予想できつつもベリアルはシグマに有力な情報を言った。

「という事は、あなたはノーシュ人!?」

「なんでノーシュ人がベアトリウス帝国なんかに……。下手したら売国奴扱いを受けるんやぞ!」

「ふっ、なんとでも言うがいいさ」

「……」

 人手不足なベアトリウスはよそ者でも実力があるならどんどん軍人にさせるらしい。昔はこうじゃなかったのだが。

 

「お前にあーだこーだ言われるとうぜぇから今のうちに言っておくけど、俺もお前と同じで当時はガキだったからそもそも犯人候補ですらない。本当にいるといいがな、大火事事件の犯人ってのはよ。完全犯罪成立寸前だぜ?」

 

 辛い過去を持っている人間には優しいのか、エドガーは大火事事件について素直に意見を言った。シグマにとって、このエドガーの言葉は意外だった。

「(まだだ、まだ諦めるのには早すぎる)」

「シグマ……」

 自分は絶対に見つけてやると意気込んで旅に出た。しかしそのやる気は、徐々に下がっているのを自覚していた。本当に何も見つからないからだ。なぜあのままベアトリウスまで追いかけなかったのだろう、とシグマはランドルフ達の事を思う。しかし、これで諦めたら自分はただの城で育った都合の良い人間ではないのか。なんのために騎士として鍛錬を積んできたんだ。

 人としてのプライドが、シグマを支えていた。

「じゃあな」

「バレンの事はきちんと運んでいく。引き続き大火事事件の調査をするといい」

 こうして、エドガーとベリアルはダグラスをあとにした。

「(本当に見つかるといいがな)」

 ベリアルはシグマを陰ながら応援しながら、自分の仕事を処理する事に切り替えた。

「(犯人、どこにいるんだろ……)」

「(シグマさん……)」

 シグマは首を下に向けていた。手は握りこぶしを作っている。何もわかっていない。ただそれだけなのに、無性に腹立たしかった。

 自分は何も間違えていないはずだ。

 バレンの一件に付き合った事も、エドガーに言った事も、自分の本心からそうしようと思って出た事で、初めてベアトリウスに来て教えれられた通りの国だとつくづく思った。

 この経験はのちに糧になるだろう。だからこそ、結果が出ていない事が次に進める事を拒否していた。

 

 マキナにエドガーとベリアルが返った事を伝えなきゃ。これでこの町の事はおしまいにしよう。

 

 最後の人仕事を片付けようと、シグマ達はマキナを待った。無事だといいなと思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

「——とまあ、後始末はこんな感じだ」

 

「ふう……」

「ようやく落ち着けるか……」

 

「……そう、だったんですね……見つかって良かったですね……」

 

 エドガーがとベリアルがダグラスをあとにして約三時間後。アリア達が帰ってきた。ゼルガを無事に倒せたらしい。

 シグマ達は泊まった宿屋で話を聞いていた。ディスカーも宿屋で疲れをとるために座って休んでいる。

 これで行方不明事件&できれば生きたまま捕まえたかったバレンの討伐が完全に終わり、シグマ達はダグラスでゆっくり休憩しながら後始末をしていた。

 それは良かったのだが……自分の大火事事件は全く解決の意図が見つけられていないため、ダグラスでの最後のご飯を食べ話を聞きながら絶賛落ち込み中である。どうしたらいいのか。

「はぁ……」

「シグマさん……」

「(流石に目に見えて落ち込んでるな……。まぁでも、ここまで徹底して調べてもいないって事は、普通の一般人から有用な情報は得られないような奴、っていうのは間違いないな。どこにいるんや犯人は……)」

 バレンがジークのとどめで死んで数十分後。シグマ達はようやく今起きた事を振り返る余裕ができた。

 会話の流れでアレスハデス監獄所に行ったらジェイドに会った事。そして、バレンとジーク。三人と会ってどういう人だったのかを振りかえりたいなら、流石にどこかで休憩する必要があるだろう。

 

「それにしても、まさかだったわね。あんな奴が軍にいたなんて信じられないんだけど」

 

 ゼルガを役職にしたのはベアトリウスにとって黒歴史となる事だろう。

「……もう一度謝罪しておいた方が良いか?」

 マキナが申し訳なさそうにほほ笑む。

「ああ、ごめん、そういうわけじゃないんだけどさ。ただ、これが広く国民に伝わるとどうなるのかを考えると、あんた達には流石に少し同情しちゃってね……」

「大事なのは今後だ。今さっき亡くなったが、ゼルガを招き入れたのはギウル帝王だ。責任を取るというのなら彼にしてもらわないと困る」

「まあ、責任取りそうにないわよね、あいつは。誘ったのも今とは状況が違うとか言いそうだし。ゼルガ自身もベアトリウスに何年もいたからね、言い訳としては上出来でしょ?」

 近くにいても、本当に知らない、という事はあるのだ。たとえほぼ確信犯のように見えていても。

「しっかしこれで終わりでええんかー?ベアトリウスの事はまあ気になるけど、被害者は黙らせて終わりなんて」

 マルクが気になる事を言う。

「何もされずに寝ていただけなんだ、何をしていたかなんて言わない方がいいだろ。お互いのためにな」

「信用されなくなってもか?」

 シグマ達はマキナとちょっと会話をしてからダグラスを出ようと思った。

「……元々あまり信用はされてない」

 ベアトリウス人は国の愛し方が他とは違う。誇りを持っているし、自分達で何とかするという気持ちが強い。だから、帝国制でもやっていけてるのだ。ただ、強い者が権力を握るべきだという、男性性が強く保守的な所がある。ベアトリウス人女性は、この価値観に影響を受け、女性だからという発言をあまりしなくなる。その結果、マキナのような女性でもこういう仕事をするのだ。

「用がないなら私はこれで立ち去るが……お前達はこれからどうするんだ?特にレバニアル、役目は無くなっただろう?」

「そういえば……」

 シグマがマキナの言葉に思い出したかのようにつぶやく。

「別にいい事ディスよ?普通の商売人に戻るだけディスし、この組織は最終的に解散するのが目的です。そりゃあ寂しい気持ちがないと言えば嘘になりマスが、会おうと思えば会えますしね。突然死するわけでもないんディスし」

「不吉な事を言うのぉ……。まぁ境遇を見ると言わないといけないか」

「まあ、確かにレバニアルはこれで解散よね。——皆ありがとう、おつかれ!あたしはこれで自由よ!あんた達も久しぶりに自由に生きて!」

「と、言われてもな……サユリの事があってから、ずっと犯人を追いかけてきたわけで、目的がなくなった身でな……」

「私はアリアお嬢様の世話を今後もしますよ!」

「それはやめて……」

「なんでですか!」

「あたし、割と一人でできるから。レバニアル創ったのもそうだし、束縛されるのも嫌。どうしてもって言うのなら、あたしのグッズでも作ってれば?そしたら出来が良かったらたまに買うわ」

「そ、そうですか……。そうおっしゃるのなら仕方ない……。なら、ファンクラブを作って待ってますね!案はたくさんあるんです、ブロマイドとかまくらとか……」

「あんたあたしをどうするつもりよ……」

 

「本当、ダグラスに着いてから色々ありましたねぇ……」

 

 話を切り替えようと、イリーナは今までの事を話題にした。

「……」

「うん……バレン、それにジーク……。まさかこんなに強いとは思わなかった……」

 大火事事件の事は少し忘れたかったので、シグマのその話に食いついた。

 人が多いから苦戦はしなかったが、混乱し、脳で処理しながら戦っていたという意味で、疲れていたし余裕はなかった。

 人が多くいなかったら、今のようにその場で座って休めてはいない。

「あまり事を大きくしたくはないだろうからバレンの事は隠密に済ますだろうが、今回起きた事はベアトリウスにとってはかなり大きい。アレスハデスの実情を他国の人間に知らされたくはなかっただろうな」

「わざわざジェイド王子が出てくるって事はそういう事よね」

「ええ……」

 自分達がいかに本気で大火事事件の犯人を捜しているか、伝わっただろうか。

 

 

 

「結局監獄所に行っても大火事事件の犯人は見つからなかった……。本当にいるのかなぁ……犯人……」

 

 

 

 監獄所の話についなったので、シグマはそこでの調査を思い出す。アリアと違って自分は解決できていない。

「(シグマ……)」

 休憩して気が緩んだからか、シグマは思わず本音を漏らす。この本音は皆が理解しているものである。

「だ、大丈夫ですよ!きっと犯人は見つかります!」

「イリーナさん…… 」

 イリーナがシグマを励ます。

「なんやシグマ、らしくない。普段ならこんな休憩なんてせずにすぐに聞き込み調査してたやないか。色々立て続けに起きたからとはいえ、不安になるのはちょっと違うんやないか?」

「マルク……。そ、そうだよね!簡単に諦めちゃいけないよね!どこかにいるのは間違いないんだし!」

「そうだぞシグマ。犯人はいなかったが、まだベアトリウスを探しきってはいないんだ。まだ焦るのは早い」

 マキナも落ち込むシグマを見て、珍しいように眺めながら慰めた。

 

「そう、でした……。マキナさんをはじめ、応援してくれる人がいる……。彼らの為にも僕は簡単に諦めちゃいけない……。皆の言う通り、ご飯を食べた後に調査をするよ……」

 

「ああ、そうせえそうせえ。——しっかしあれやな。かなり賑やかになってもうたな」

「そうですねぇ」

「初めは2人だったのにね。すぐにマイニィちゃんが加わったけど……」

「旅というのはこういう物です」

 シグマに協力者が現れた事はなにより頼もしかった事だろう、おかげで今の今まで再調査に対して不安も持たずに来れた。

 今回有力候補が潰れた事と、ベアトリウスの軍人に何人か会った事で気が変わり、一度立ち止まるべきだと判断した。彼らを調査するかしないのかが、話の焦点である。

 

「……ダグラスを出るのは明日でいいか。それで、次の町に……」

 

 シグマは時計を見て、もうずっとここにいる必要はないと皆に言った。

「そうですね」

「(何か……なんでもいい。何かシグマを勇気づける物があればいいんだけど……)」

「(ああは言うたけど、有用そうな所から調べるのは当たり前や。それでダメだった以上、作戦は変える必要がある。残る可能性はあるにはあるが、隠居してそうな所を探す、いわゆるしらみつぶし。それでダメだったらお手上げや。諦めて城に戻る前に、なんでもいいから進展するといいんやけどな……)」

 シグマの再調査のモチベーションの低下はかなり深刻だった。誰の目にも明らかなくらい。あの時の光景は今でも忘れた事はないのに、知るのはほぼ完璧犯罪だったという事実。うんざりせずにはいられないだろう。

 イリーナをはじめシグマの協力者達は皆、シグマの事を泣かないように心配していた。

 

 

 

「(シャラ……。~~~~っ、それでもっ、僕は……)」

 

 

 

 少し上の方を見ながら亡き幼馴染の事を思う。想うたび泣きたくなる。あの時の自分にとって、彼女は自分の全てだった。流石に今は違うが。

「(……)」

 シグマがこんなに必死になっているのも、自分が当事者だからというのもあるが、死んだシャラから命を貰い、せめてもの報いとして、なんとしてでもなしとげたいと思ったからだ。

 大火事事件が無かったら、今の自分もいないのだ。犯人は見つかるか、というのはあくまで結果に過ぎず、シャラに恥ずかしい姿を見せていないか、自分は少しでも彼・女・と・約・束・し・た・人・物・像・に近づいているかが、シグマがいつも気にしている事だった。

「……ねえ、シグマ」

「なんですか、アリアさん」

 アリアの方は見ず、素早い返事をして会話の処理をするシグマ。

 

「大火事事件って、本当にベアトリウスに犯人がいるの?逃げられようと思えば別の国でもいけるわけじゃない。わざわざ1年も待つ必要はないわよね?」

 

「それは、そうですけど……」

 シグマはアリアの言葉を聞きながら、自分がこの調査の旅で一番言われたくない事を言おうとしていると、直観的に理解した。そして、とうとう来てしまった、と思った。自分だって、なぜランドルフ達はベアトリウスまで追いかけなかったのか、とはずっと思っていた事なのだ。今は騎士になっているが、当時は目指すとかそういうのは考えてすらいない。気がつけば自分は、騎士になりシャラとの約束を果たす、そのためだけに生きる人間になっていた。そういう意味では、とても縛られている。

「あんたがやけにやる気になって再調査してるのって、死んだ幼馴染の……シャラちゃんだっけ。シャラちゃんから立派な騎士になってほしいって言われたからなんでしょ?本人の為にもなんとか犯人を捕まえたいのはわかるけど、常識的に考えてほぼ完全犯罪よこれ。初めから無理があるの。だから、そこまでやる必要はないんじゃない?」

 善意で言われているその言葉は、ぐさぐさとシグマの胸に突き刺さる。今の自分を否定する言葉として。

 

「悔しい事だけど、別に他の事をしても【立派な騎士】にはなれるわよ。だから、調査を辞めてノーシュに戻ってもいいのよ?」

 

「そんな事するわけない!絶対犯人はいる!だから絶対に捕まえる!死んでるか生きてるかだけでも調べるんだ!」

 

 シグマは頭では理解しながらも、その逆の言葉を気がつけば口にしていた。

「っ!」

「あ……。ごめん……」

 今思えば、調査をすると言っても聞き込み調査だけなのか。本当にただ火事を起こして逃げただけなのか。色々よく考えずやった事もあったと思う。でも自分は、シャラのための大火事事件の再調査という大義名分を利用して、シャラが望んでいる立派な騎士像を目指す事から目をそらし、自己満足していたわけじゃない。自分でこれぐらい解決できないとシャラに顔向けできないと苦しめていたわけじゃない。きちんと真面目に、本気で解決できると思って、真剣に今まで調査をやってきたのだ。

 

 なのになんだ。この様は。

 

 ワンパターンの知らない、ごめん。次々町に行ってはそれっぽい作戦会議。他にやっている事と言えば、たまに騎士の本懐である住民の助けをしているだけ。今思えば、ただ旅に出るだけじゃなくて、ベアトリウス側に脅迫しても良かったのかもしれない。そっちも協力しろと、それぐらい言っても良かったかもしれない。自分はベアトリウスにいる、としか言われていない。しかも暫定で。そんな言い方じゃあ、良い奴しか調査に協力してくれなくて当然だ。犯人はそもそもベアトリウス人なのかさえわかっていないのだから。

「責めてるわけじゃないが、アリアの言う事も一理あるぞ。俺達はお前達の事を想っているが今回はただの付き添いで、本当に犯人がいて捕まえられそうかが焦点だ。よほどいなさそうだったらああいう事も言うさ。まぁ、シグマの言動を見るに、幼馴染のシャラはよほど理不尽な死に方をしたんだろ?亡くなった者の気持ちは亡くなった者にしかわからない。満足するまで探すといいさ」

 アリアは自分の意見を言っただけ。それも、シグマは嫌な顔をするだろうと思っていた事を。言わなきゃ、犯人がとことん隠れている事を心の底から認識しないし、それをなんとかするための一・斉・調・査・をする事も出来ない。

「でも、今までのやり方は今回で終わりだ。ベアトリウスはノーシュと地続きで地理的な事情は同じだ。ましては大火事事件は世界規模で知っている。だからここまで一般人が知らないなら本当に知らないんだろう」

「いよいよ、ベアトリウスについた時から言っていた、国の人間を全て調べるのが有力手段になりそうですか……」

「ああ……」

 ベアトリウスの関係を危うくするその行為は、その危険性故ギリギリまで実行に移す事ができずにいた。シグマ自身、成人したばかりなので大胆な行動を取るか悩んでいた。

 

「……。すみません。少し落ち着きました……」

 

 しかしシグマはルーカスの言葉を聞いて、やるしかないと覚悟を決める。国に言わなきゃ進まない事を、ただやるだけなのだ。問題は言い方と姿勢だが……。

「あたしに謝らなくていいわよ?思った事を口にしただけなんだから。今まで思ってたけど我慢してた事をね」

「うん、わかってる……」

 ごめん、とアリアに謝るシグマ。

「本当にいいんかぁ?シグマの活動している要因を根本的に潰す発言だったやんか」

 確かにそうだ。あーもうだめ、と誰かが言うだろうなと誰もが思い、それを言ったのがアリアだっただけだ。

「あたしはただいる可能性といない可能性の両方を考えていただけよ。もしベアトリウスで犯人を見つけられなかったら別の国に行くとはアレスハデスの酒場の時に聞いていたし、もしそうなったら一旦帰って別れるのは必ずある事だからね。今がその時かも知れないし、急に別れるってのもなんか寂しいから、今のうちに言っておこうかなって思っただけの事よ」

 大火事事件のそのものは諦めてはいない。しかし調査では限界がある。それは、今までの有用な情報の少なさで分かりきっていた。だからこそ大胆な行動を取る必要がある。犯人に自分達の存在が伝わるように。もっと目立つべきなのだ。

「ならええけどな」

 

「(しかしシグマのあの激高ぶり……。あたしにさえやって来るという事は、よほど先輩や上司の活動を信頼しているわね。ここまではっきり犯人はベアトリウスにいると断言されると、じゃあどこにいるのかという話になる。あたしだってベアトリウスの全てを知ってるわけじゃない、もしこの国に隠れやすい場所があって、そこに何年も隠居しているんだったら、それこそ国の力を借りた方が探しやすい)」

 

 調査は新たな進展を迎える。今回の会議で今までの調査では全然ダメだと結論をづけた。大分アリア達ベアトリウス人に引っ張られたが、シグマ自身、その結論に納得していた。ゆえに、今日から起こす行動を変える必要がある。

 

「話を整理しましょうか。ここ、ダグラスにもいなかった。そして、調査の仕方は変えた方が良い。シグマ、どうするの?」

「う~ん……」

 メイがシグマをじっと見つめる。自分も父親を亡くしているが、シグマみたいに友人を無くしてはいないので、いつも彼の活動エネルギーに引っ張られてきた。だから、大火事事件の事は彼に一任しているし、士気が下がると心配になる。

「ここまで探したのなら、一般人経由からの犯人の情報は得られないと思って間違いない。でも、だからこそ今度は国の人間を調べなくちゃいけなくなる。だから、本命のアギスバベルに行ってもう一度話を聞いてみようと思う。特に兵士に」

「そっか」

 

 

 

「……シグマ、お前のような奴になんて言ったらいいかわからないが、ベアトリウスはこういう国だ」

 

 

 

 シグマがダグラスを去る前に。自分達軍人の事を調べると言ったからか、マキナはシグマに助言と苦言を言い始めた。

「それは理解しています……」

「(シグマさんの表情が少し険しくなった……?)」

 マキナがシグマの顔を見て、他者に向ける視線をぶつける。ベアトリウス兵士によく見られる、外国人に向ける独特の表情。列車で初めて見たその顔を、シグマは今一度見る事になった。

「ですけど、ノーシュとベアトリウスの決定的な違いはちょっとわからないです。何が違うと言うんですか?」

 流石のシグマも、最初の時ほど威圧にのまれてはいない。怖気づかずにマキナに質問し返えした。

 

「ベアトリウスはノーシュを含む、色んな国と比べても法律が厳しい事で有名だ。もちろん他の事も並行して厳しい。そのせいで国民達は国の事を信用していない。正確には、国を信用していないから、人も信用していない。他の国ではこうじゃないんだろう事は理解しているが、この国では軽い犯罪が軽い物として処理されない。独裁だった当時からのなごりだ。だからああ言った事が起こる」

 

「それはおかしいんじゃないですか!?きちんと妥当な刑にすべきですよ!」

 他人が他人の何が嫌いかなんて把握しきる事は不可能である。やったとしても、不可能に近いだろう。ましてや、監視社会にしたいわけでもない。配慮や気遣いという言葉と概念が程遠い帝国制のベアトリウス内では、自分のような振舞い方が望ましい。マキナはそう言いたいようだった。しかしそれはベアトリウス人であるマキナのベアトリウス人らしい感想、意見でしかない。

 ノーシュ人として初めて見たシグマは、何百、何万人目であろうベアトリウスでの日常風景に対して、きつい疑問をマキナに指摘した。

「その通りだ。だが誰も変えようとは思わない。なぜだかわかるか?」

「ぐっ……国に、脅されるからですか……」

「……一言で言うとそうだ」

 ベアトリウスがよく勘違いされるのは、住民が正義で帝国が悪だと思われている事だ。しかし、実際はこの状態で良い、この状態だからこそ良いと住民も軍人も皆思っている。しかしそれは自分に被害が出ないなら、であり、あのようにいざ自分が敵視の目を向けられたりすると簡単に手の平を返す。もちろん、今のベアトリウスを良く思っていない人間自体はちゃんといる。マキナやアイカのように。しかし絶対数はかなり少ない。

「まぁ、そういう国だからこそ、今は昔のような勝手が出来なくなって、皆が皆自由に自分達の事だけを考えて生きているのは、我々国の人間からしてみれば良い事なのだろう。 だが、人を信用できなくなった結果、 自分を大切にするようになったのは皮肉に過ぎない。私が最初の頃、お前達ノーシュを歓迎していなかったのはこういった理由があるからだ。昔は良かったのは書物などを見ても確かなのだが、今がダメダメだからな」

 軍人としては、人手不足で困っているというネガティブな弱さ。一人の人間としては、輝く栄光の時代が過ぎ去り、しばらく下りの時代を迎えている今のベアトリウスをどう過去最低にならないように留めて次のチャンスに繋げるか、という難しい疑問をマキナは解決しようとしていた。マキナはいわゆる狭間の世代で、大人になった途端露骨に下降していく国を見る事になった人間である。思う所があるのだろう。

「国の人間が他国の人間をそう歓迎しないのはどこも同じだろうが、うちは上司ギウル帝王が特にそれが顕著でな。たまに自分は厳しすぎてはしないだろうかと考える事があるよ……」

「そういう国だってわかってて、マキナさんはどうして軍人に……」

「はは、シグマ。それは君と同じだよ」

 こんな国だったら自分はとっくにアイカのように辞めている。マキナは何故辞めないのかシグマは不思議に思っていた。だからマキナも、そんなシグマに素直に答えた。普段あまり言わない事を。今までの事に少し感謝しながら。

「僕と同じ?」

 

「正確に言おうか。シグマ、お前は自分の身内や城にいる自分の国の人間をとても信用しているようだが、もし大火事事件の犯人が自分の国の人間だったらどうする?」

 

「えっ?」

「それって……」

「もしベアトリウスに犯人がいなかったら、って奴やな」

 ベアトリウスは大火事事件に対して、協・力・な・ら・できる関係にある。単純に恩を売れるし、厄介な人間がいるのなら安全面から排除した方がいいからだ。

 しかしそれは国として、一般的な見方をしたら、の場合であり、帝国制でありなおかつ他人に厳しいベアトリウスだと、パトロールぐらい普段からしているので、メリットがあまりない、となる。

 そして思考が先に進み、大してメリットもないので怪しい奴を見かけたら報告する、という消極的な対応になる。現にシグマ達はそんなベアトリウスの軍人を何人か見てきた。

 エドガーやベリアルだけじゃなく、基本的にベアトリウス人は皆そんな感じなのだ。マキナ以外は。基本的に。

「ベアトリウス人の私からしてみれば、どうしてそこまで仲間の事を信頼できる。裏切りが怖くないのか?確証がないうちはたとえ身内だろうと疑う物ではないのか」

「それは……」

「ベアトリウス人なら誰でも思う事ね。ノーシュの奴らは平和ボケしている、みたいな奴」

「まぁ、本音を隠さずに言うとそうだな。俺も正直よくシグマみたいな奴を育て上げたと思ってるよ」

 なぜ自分だけ、なんてよく思っている。だけどそれ以上に、ただ解決したいのだ。犯人の行動がわからないから。

 わからないからこそ、出会って、質問したい。未解決なのは資料を見て良く知っている。シグマも散々通り過ぎた道を何度も振り返るなんてことはしない。

 大事なのは今なのだ。

 

 

 

「……シグマ。エドガーとベリアルが戻ったように、私もゼルガとバレンの事を報告するために一度城に戻る。だからそろそろお前達ともこれでお別れだ」

 

「……はい」

 エドガーとベリアルも別れた以上、自分もだ。そう告げるマキナ。そういや、アイカさんも、レバニアルの皆ももう自分達と協力する義理がないのだ。

 

 皆がご飯を食べ終えたタイミングでマキナは立ち上がり、宿屋を出て去っていく。

 

「結論だけを言えば、昔の独裁だったベアトリウスで、頭を抱えたくなるような真実を知ったり、それこそ裏切りがあったからこそ、それを過去の教訓とし、今の私の世代がその影響を受けているに過ぎない。私から言えるのは、成人したばかりなら、大火事事件が終わった後でもいいから歴史の事を多少は勉強するんだなという事だ。ベ・ア・ト・リ・ウ・ス・で・起・き・た・事・が・、・ノ・ー・シ・ュ・で・は・起・こ・ら・な・い・な・ん・て・、・そ・れ・こ・そ・あ・り・え・な・い・ん・だ・か・ら・な・」

 

「……」

 別れ際、マキナはシグマを鼓舞する発言をした。

 最初は警戒していたが、マキナの事をシグマはとことんただの良い人だなと思った。

 

 

 

「——あ、あたしもその調査に協力してあげるから!」

 

「え?アリアさん、も……?」

 アリアは落ち込んでいるシグマを見て、しょうがないなと思いながら最後まで付き合う事にした。姉貴肌が性分が出たのか、やけにのりきだ。

 ずっと思い悩んでいたようだ。

「あたしも暇だからね。このまま昔のような生活もそれはそれでありだけど、どうせなら刺激が良い生活を送りたいじゃない?大火事事件が無事解決すれば、それこそハッピーエンドでチャンチャンって良い感じに別れが言えるじゃない。マイニィちゃんっていう同じお嬢様仲間もいる事だし、あたしも一緒にいた方が良いでしょ、間違いなく」

「だそうですけど?」

「……それは大歓迎だけど……」

「なんや、これじゃ足らへんのか?贅沢な奴やな。ほら、元気だしぃな!」

「まぁ、これからよろしく、な」

「はい……こちらこそ……」

 自分の為なのでそこまで喜べない。人が多くいたって根本を解決できなくては意味がないのだ。

 ましてやアリア達レバニアルは活動理由がなくなった以上、自由だ。そのまま自分の手伝いをするというのもそりゃあ数ある案の一つだろう。

 自分はこんなに手伝ってもらわないといけない犯人を捜しているのか……シグマは下を向きながらそう考えこんでいた。

 

「……(複雑ね。大火事事件についてこんなに真剣に協力してくれる人がいるのに、シグマが色んな人と関わる事に寂しさを感じるなんて)」

 シグマだから自分は一緒に活動しているというのに。肝心の本人が落ち込んでいちゃあ、他人に嫉妬もぶつけられない。

「(もしかして、シグマさんは私と大して変わらないんじゃ……)」

 マイニィは、シグマの仕事ぶりが自分の世間知らずのそれと似ている事に今回の件で気づいた。

 

 

 

 

「もういくつか調査しても進展が無かったら、潔くノーシュに戻ろう……」

「うん……」

 自分達は必死にやった。それを受け入れない護衛部隊の先輩達ではない。ないものはないんだと、後悔しないように今後の作業をしようとシグマは思った。

 そんなシグマを、仕方ないよね……とメイ同情していた。

「いやぁ疲れた。話のネタに尽きない案件だったで」

「色々ありましたから、今回はきちんと泊まって何日か休みましょう。その後調査を再び初めてもばちはあたりませんよ」

 治安が悪いダグラスの宿屋は、意外と居心地が悪くなかった。シグマは騎士の本懐を忘れないようにマキナを見習って住民の手伝いをしながら、休憩する事にした。

 そうしたら結局、シグマ達がダグラスを離れようと決意するまで三日ほどかかった。

 

 

 

 しかし、この三日で事態が急展開する……。

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