約束のリアライズ   作:ひなせひろと

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第3章:見えてきたもの

「……シグマと話をしてきた。もう既に報告にあがっているでしょうが、私はゼルガを、エドガーとベリアルがシグマ達と一緒に脱獄したバレンを倒しました」

「ほう?名前はシグマというのか」

 マキナは無事謁見の前に戻り、真っ先にシグマ達の件をギウル帝王に報告していた。

マキナを待っていたベリアルはようやく話せる、とギウル帝王に具体的な内容を話し始めた。

「ゼルガに関しては元々疑惑があった。我々軍人の中でも嫌われていたし、今更って感じだろ」

「その今更が起きるのがダメなんだろうが。私以外ろくにあいつの事を調査をしようとしなかったじゃないか、めんどくさがって。エドガーはお前と鍛錬ばかりしているし、ネールはここ数日ずっと城内で事務処理の毎日。王族ぐらい仕事してくれないと困る」

 歩きながらマキナはこっちは列車破壊問題も担当している。と仕事に対する愚痴をベリアルに言った。エドガーはベリアルと一緒じゃないとそもそもあまり仕事をやろうとしない。ようするにわがままなのだ。そんなのに付き合う暇なんてないので、こういう言い方、接し方になる。

 

「俺は最初から、調査したいならすれば?という立場だったぞ?」

 

 軍部の独自行動を状況が状況なので黙認している、という立場をギウル帝王はアピールする。

 しかし、部下からは冷たい反応をされた。

「その言い方だと、口では許可していないから、後でいくらでも訂正できるだろ。書類に残して正式に許可を出すべきだろうが、わざわざ言わせるな」

 こういうのは帝王直々に発行してくれないと意味がないのだ。それを理解しているだろうに、自分から動こうとはしない。うんざりするほど見てきたが、それでもマキナはそれを指摘し、怒るのを止めない。

 勝手に動いていい部分はもう何年もマキナは独断で動いていた。

「事務なんてしなくていいような黙認が続いているからって、肝心の証拠がないと後でいくらでも隠蔽できる事もわからないのか?まぁ、帝王自らそういう事をするんだったら、そりゃあゼルガもあんな事をするよな。そもそもゼルガを連れてきたのもギウル帝王、あなたのはずだ。なぜ責任を取ろうとしない?」

「……招き入れたのは事実だが、あいつは最初から怪しかったぞ。大規模にやっていい許可は一度も出していない」

「なら招き入れたのがそもそも間違いだった、という事じゃないか。どうせ経済のためだとかなんとか言われたんだろう?」

「……」

 ベアトリウスは現在人手不足の状況である。戦国時代の影響で、常に人を募集している。ゼルガは他の大陸から、ある日ふとやってきてベアトリウスのこの状況を知るなり自分の履歴を説明して軍人になった。のだが、この通りである。

「私は別に大火事事件の事に限って言ってるわけではない。国民が経済第一に考えているからって、我々軍人は仕事をしないのはおかしいだろう?その結果、国として負の部分が出たり、謝罪しなければいけない事が起きるのは避けたいはずだ。そんなに仕事をしたくないのか?」

「……」

 正論を言われて、ギウルは何も言い返せない。そう、このマキナという女は帝王自分が怖くないのである。

「私でよければ後で仕事のお手伝いをします。ですから今は怒りを鎮めてください」

「……」

「ふんっ」

 息子のジェイドはよく出来ている。が、不満は本人にぶつけているのでそういう話じゃない。きちんと直してくれないと困るのだ。

 マキナがネール以外に不満を言うのは日常茶飯事だった。特にこの城内では。だからこそ、変わらない他の奴らにいらつく。マキナはこの光景をいつまで見なきゃいけないんだといつも思っていた。

「昔の繁栄があるおかげで、外部から侵略されずに自由に経済出来てるんだから、そこは感謝しないとね。昔の貯金を食いつぶすような馬鹿な国じゃないでしょ、ベアトリウス帝国は」

 良い国でしょ、とネールが愛国心を見せる。

「俺は別にこの国がどうなろうと構わないけどな。俺の存在を知るまでまともに国民を救おうとしなかった奴らの事なんて、信用なんてできないし」

「「…… 」」

 エドガーは治安が悪いダグラス出身のため、国の状況にさほど興味も愛国心もなかった。とにかく権力がほしい、そんな感じ。

 彼にとって、ダグラスでなんとか生きていたら、ベリアルに会った。そんな今を大切にしているのだ。修行しているのは、一日も早く、普通の青年の状態から軍人のレベルにまで体を強化したいから。

 マキナやネールからはサボりとか言われているが、いつも正論を言われているので、嫌々事務もこなしている。

 

「内部分裂を避けたかったら、その重い腰をあげてもらおうか」

 

 ギウル帝王は、無能だが武力はある、というのが厄介だった。常に政治に関してだけ批判しなければならない。……じゃないと暴れるから。

「背中に火がつかないとどういう状況なのか理解できないのは、やはり外を見ていないからだろう。エドガーに鍛錬させているのも、数年前にジェイド王子に自由な外出許可を出したのも、結果だけを見れば正解だったようだな」

「そうだ、ベリアル師匠がいなかったら今頃この国は弱小軍部が運営する名ばかりのもろい帝国だった。わざわざ軍人になってくれたんだ、もっとベリアル師匠に感謝しろ!」

 ベリアルの一言に、よく言ってくれました!と加勢するエドガー。

 

「よく言う。ベリアルに関して言えば、ベリアルの存在がばれて困るのはベリアル自身とノーシュだぞ?俺はベリアルの過去を知ってる。それはエドガー、お前も同じだろうが。俺はこの事をノーシュに言ったらノーシュがどう動くのか、楽しみで仕方ないんだよ」

 

「はんっ、変に画策しやがって。俺はただ助けてもらった恩を返しているだけだぜ?人として当然の事だろ。それよりも、こんな時代に戦争しようってんならしてみせてみろよ。どうせ大した規模じゃないんだからよ」

「……」

 ベアトリウスはこんな状態だった。ギウルが帝王らしく偉そうな最もらしい指示を出して、皆が表向き従い、自由に動く。この不満の言い争いだけは、この中で一番良く仕事をしているマキナが、外によく出向いている事もあり一番表に出したくない事だった。やらかしている事よりも、やらかした事に対して責任を取らず責任転嫁ばかりしている今のこの光景を、守るべき同胞のベアトリウス人達に見せたくなかった。幻滅するだろうから。

「やはり昔より、軍人が従順ではなくなっていますね……」

「だからこそお前だけは俺の言う事を聞いてくれないと困る。この国で民主化運動が起きたら、帝国でいる必要性が無くなる」

「わかってます。祖父はあまりにやりすぎた」

「……私が反省しなくても(できなくても)、お前は反省し(てもらわ)なければ。この国の後継者であり王子なのだから」

「……時代が違えば、私達も自由というものを楽しめていたのでしょうか……」

「……わからん。が、悪くはなさそうだ……」

 自分達だって、何もしていないわけじゃない。しかし、マキナ達軍人が有能で、自分達王族があまりする事がないのも事実だった。だからこそギウルは帝王ごっこを思う存分楽しんでいられている。ギウルとジェイドは、いつもこのように何かをしなければと思いつつ、しかし結果として何もできないまま、マキナ達の仕事の成果を心待ちにしていた。

 

 

 

 ベリアルはギウルとマキナ、そしてエドガーの話を聞きながら、過去を懐かしいなと振り返っていた。

 

 それを、マキナが複雑そうに見ている。そして指摘した。

 

 

 

「おいベリアル。なにほくそ笑んでいる?喜んでいる場合か?やはりお前はノーシュ生まれらしく、故郷に思い入れがあるようだな。私達は先程役人に成り下がったとはいえ、軍人だったゼルガをこの手で処刑したんだぞ。国として」

「亡命した身だ、とっくに俺はベアトリウス人だよ。……ノーシュは捨てたんだから」

 ノーシュ人には話せないベアトリウス人としての本音が、ここでは好きに言える。だからこそマキナは、嫌な事がありつつもずっと仕事をしていた。

 相手が例え現ベアトリウス人のノーシュ人という複雑な経歴の持ち主であっても。

 

「大火事事件の調査は許可すると言っておきながら、肝心の我々がどこまで知っているかは殆どノーシュに伝えられていない。だから次シグマ達と会った時のために国の結論を今のうちにまとめておきたい」

 

 完全に善意で行動しているマキナは、後々するつもりだが今やってしまおうと、謁見の間にいる皆に大火事事件の事を話せと聞いてまわろうとした。

「それで……なにか情報はあるか?特にベリアル。いつからベアトリウスにいた?」

 

 マキナは、今のベアトリウス内で自分知ってる中で一番怪しいベリアルを標的にした。

 マキナ自身、国内から碌に出た事ない(もちろんたまに仕事で外国に行く事はあるが)ので自分の生き方がアリバイのようなものになっている。

 だから疑われるなんて気にせず、他人に堂々とこんな言い方ができた。

 

「……大火事事件が起きる前からだ。ノーシュには20年近く戻っていない。だから大火事事件の事は知らない」

 

「だったらノーシュ人の友人は何人いる?大火事事件が起きた後は何をしていた?」

 マキナはベリアルに質問を続ける。

 聞きながら次は自分達だなとギウル親子は思っていた。

「確かに友人と言える者はノーシュの頃は何人かいたな。だが今は連絡さえとっていない」

 ベリアルは表情を変えず、マキナの質問に対し素直に答え続ける。

 

 

 

「……ああ、でも今もなお交流を続けている者が1人だけいたな」

 

 しかしそれは、ある人物の名を挙げるまでだった。

 

「……ゲルヴァか?」

 

「っ!お前がなぜあいつの名前を知ってる!」

 

 今まで黙っていたギウル帝王が急に話に参加したので、ベリアルは余裕がない表情で叫んだ。

 

 

 

「立場上、色んな奴と会うのでな。たまたま皆が仕事でばらばらだった時に、一人になっていた俺に直接会いに来た奴がいて、そいつがゲルヴァと名乗っていた……。怪しい奴だったから要件を聞き流してさっさと帰らせたがな。とにかく交流してこちらの情報を聞き出そうとする胡散臭い奴だった」

「ちっ、あいつはこんな所で繋がっていたのか!」

 なぜずっと黙っていたのか。いや、そもそもわざわざ教える義理なんてないからそのままスルーしようとしていたのだろう。ギウルはゲルヴァなんて当然知らないと思っていた。その認識が、結果的に間違いだった。ベリアルは目を丸くし、震えだす。

「ゲルヴァの事は俺もよく知らない。お前のようにノーシュを捨てたようだが、あいつはそこまでお喋りじゃなかったからな。俺は奴には興味ないよ」

「……」

 ジェイドは父親の事をなんで今更、というような目で見つめた。気になるなら会えばいいなんて皆思っている事なのだ。そもそも帝王として調査許可証を出したのに。

 突如名が浮かんできたゲルヴァが一気に大火事事件の犯人疑惑へ浮上する。このまま調べつくしてしまおうと、マキナはまずは驚きっぱなしのベリアルの事を終わらせようと会話を再開した。

 

「やはり、お前はベアトリウスの事はまだそこまで詳しくないみたいだな。大火事事件の事は本当に知らないのか?怪しい奴め」

 

 マキナは強気にベリアルに質問し続ける。ゲルヴァをこのベリアルが知っているんだから当然だ。ベリアルはゲルヴァがきっかけで自分の過去もばれてしまうと感じ、感情がこもった声を出す。

 

「ゲルヴァとは今はあまり連絡を取っていないと言っているだろう!」

 

「なんでそんなに余裕がない?……じゃあ最後に連絡を交わしたのはいつだ」

「……詳しく覚えておらん。少なくとも数年前だ」

 早く終わってくれ、と思いながらベリアルは答える。本当に珍しい光景だ。エドガーもずっとベリアルの事を見続けているし。

「数年前……」

 大火事事件の前か後か。どっちでもいいが、事件の前後に会話していた事が発覚した。これはゲルヴァが犯人である事を強める発言である。時期が時期なのだから。亡命する前から、このベリアルは同じノーシュ人であるゲルヴァと顔見知りなのだ。

「ゲルヴァと何を話した?」

「……俺もそっち(ベアトリウス)に行くとだけ」

「……」

 こういう時、言い方が重要になる。ベリアルは都合の悪い事は言いたくない。しかし、素直に答えなければならない。嘘を言っているようなそぶりをしたら思う壺なのである。だからこそ、ベリアルは端的に、わかりやすく、事実である事を少しだけ、質問に答えた。これ以上掘り下げられたくないから。

「肝心の住む場所は?」

「知ってたらこっちから会いに行くさ。それが友人というものだろう?」

 これまたごもっともな発言だ。しかし、結局ゲルヴァは自分の居場所を友人のベリアルでさえ伝えていない事になる。

 ゲルヴァはベアトリウスにいるなら家があるかないかなどどうでもいいようで、なんでそんな生活をしているんだと皆が思った。普通にどこかにいてくれよと。

 この友にさえ居場所を説明しない事は、ゲルヴァ犯人説を強めるが、あくまで状況証拠に過ぎない。ゲルヴァと会話した時、彼からアリバイを言われたらその時点で無意味だ。こちらがどんなにそうであってほしいと思っていても。

 【一番近い】は【=(イコール)】ではない。

 

 

 

 

「(さっきからベリアルもマキナもゲルヴァゲルヴァと……。そんなに奴の事が気になるのか?)」

 

 ベリアルがゲルヴァと知り合いだなんてな……まぁ俺も今さっきそう名乗っていたなと思いだしたばかりだが……。

 

 ギウル帝王は心の中で、面白い反応をするものだと目の前の光景を楽しみ笑っていたが、すぐに重要なの事を思い出さない自分の記憶力の低さに少しショックを受けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな中。大火事事件の犯人ゲルヴァは、ベアトリウスの首都アギスバベルにたどり着き、ベアトリウス城の謁見の間へ何も言わずに突き進んで行った。

 

 ベアトリウス城の謁見の間でそれぞれ報告したり会話している最中に、とんだ嵐が吹き荒れる。

 

 

 

「……誰だお前は」

 何も言わなかったので、当然近くにいるマキナに怪しまれる。ゲルヴァは心の中で、今はこんな奴が軍人をしているのだなと思っていた。

「……ゲルヴァだ……」

「ゲルヴァ、お前……!急に現れて!どんなタイミングで来たと思ってるんだ!」

「その様子だと、何かあったようだな……」

 ベリアルは心の中で思っていた人間が目の前に現れたので、丁度良いと本音をぶつける。周囲からどう思われようと気にしていなかった。

「様子も何も、先程ノーシュの騎士達がこの国を訪れたから、その話をしていたんですよ。大火事事件の事を今更調べに来たってね。その過程で、ゲルヴァさん。あなたの事もベリアルから詳しく聞きました。あなたもノーシュ人で、しばらく顔を合わせなかったようですね。何しにここに来たんです?」

「おかしいな、ベアトリウスとはそこそこ交流をしていたはずなんだが……」

 若い奴が多い。そのせいか、と心の中で思いながら、ここに来るのは初めてじゃないととぼけながらアピールをする。

 

「お前は世間話しかしなかっただろうが。ベアトリウスの事がそんなに知りたいのか?」

 

 気になる存在そのものが今目の前にいる。急激に何か嫌な予感がするとマキナ達軍人は思っていた。目の前のゲルヴァその事を認識していない。

「あの時はお前がベリアルと同じノーシュ人だという事しかわからなかったが、今なら何を目的にしていたかわかる。自分だけ過ごしやすい環境を作りやがって……」

 国を捨てた、自分はノーシュ人だ、とわざわざ言わなくていい事を言ってきたのはゲルヴァ自身である。ギウル帝王はその事を怪しむぐらいはきちんと帝王をしていた。しかし、ノーシュとは長年の付き合いがあるとはいえ、たまにしか会っていない奴にこれからは友人としてよろしくと言われて仲良くする奴なんているだろうか。いくらなんでも馴れ馴れしすぎやしないか。ギウル帝王は当時からこのゲルヴァの事を怪しんでいた。こいつは俺達に何かを隠していると。大火事事件の再調査の事もあり、そりゃあノーシュやあの若い奴らは必死になるはずだと思った。

「しかし、俺を歓迎したのはギウル帝王、あなた自身ですよ。俺からしてみれば、何を今更という話だ」

「お前は確か、俺にしか自分は騎士だった、なんていう貴重な情報を言っていないはずだ。それはなぜだ?」

「交流しに来たのは俺の方なのに、ギウル帝王の方から質問とは珍しい」

 

「いいから質問に答えろ。あの時も、そして今も、何をしに来た?交流が目的なのは事実だろうが、それが本当の目的ではないはずだ」

 

「……」

 

 昔はそりゃあ歓迎していた。なんなら今もそうだ。しかしそれは人手不足だからであり、なんとかしてくれるなら誰でもいいわけじゃない。特にゲルヴァみたいに居場所さえ教えない奴になぜ役職を与えると思うのか。勝手にやってきて関係を築き上げようとしているのはそっちの事情だろう。自己紹介をしただけで去り数年ぶりに再会してきたこのゲルヴァという男を軍人に、なんてギウルはするつもりなどさらさらなかった。

 

「……ジェイドよ。大火事事件の調査をしに、ノーシュの奴らがここに来たんだな?」

 

「はい。……先程そう言ったはずですが」

「そうか……」

 いぶかしげに見つめるジェイドに、ようやくだ……と目をつむるゲルヴァ。

「(ふんっ、あいつらようやく俺を探し当てたのか……)」

 今まで自分がなぜベアトリウスにいたのか。ギウルと会っていたのか。それは全て、このためだった。

 ゲルヴァはベアトリウスの軍人達に、気になっている自分の目的を、包み隠さず堂々と言った。

 

 

 

「あの大火事事件を起こしたのはこの俺だ」

 

「「「「なっ!?なんだと!?」」」」

 

 

 

「お前っ……自分が何を言っているのかわかっているのか!」

 マキナは震えながら、衝撃の一言を言ったゲルヴァの事を指さして激怒する。

「ああ、理解している。全て理解しているとも……」

「ならなぜ!?」

 なぜか満足げな顔をしているゲルヴァの事が気味悪く見え、マキナの眉毛はどんどん八の字に近づいていく。

「……俺はこの件でノーシュと戦い、話したかった事があるんだ。ノーシュにも色々あったからな」

「答えになっていない、そのためにベアトリウスを巻き込んだというのか!」

 人の都合で戦争を仕掛けられちゃたまったものじゃないのだ。ベアトリウスといえど。なぜなら戦国時代はもう過ぎたのだから。

「……いや。ベアトリウスを隠れ蓑にしたのは事実だが、お前達を巻き込むつもりはなかった。まさか、調査がこんなに長くなるとは思わなくてな……」

「……」

 ゲルヴァでも、なぜ12年間も大火事事件の調査をしなかったのかは不思議だったらしい。

 自分はわざわざベアトリウスまで逃げ、兵が追いかけてきていたのも把握していたのに、そこから先がなかったのだ。気がつけば、大火事事件の調査は打ち切ったというニュースをベアトリウスで知った。ベアトリウスにいたせいで、なぜそんな選択をしたのか理解できなかった。当然情報も集められなかった。大火事事件の調査をしている、なんて12年ぶりに言わなかったら、前のようにただの付き合いで終えれたのに。

 ゲルヴァはノーシュから、タイムリミットを宣言されたのだとマキナ達に説明した。

 

「ゲルヴァアアアアアアアアアアッ!貴様、自分が何をしたのかわかっているのか!」

 

「全て理解していると先程言っただろう……」

 ベリアルは友であり、過去同じノーシュの騎士だった者同士として、自国にテロを起こした事が許せずにいた。お互いレドナール紛争を経験し励まし合ったのは何だったのか。

「ふざけるな!だとしたらなぜ俺と交流した!なぜベアトリウスで過ごせる手助けをした!俺はお前が牢屋に入る存在だとは思ってもいなかったんだぞ!」

「ああ、それはそうだな……。それは申し訳ない事をした……。こんな俺を、友人だと思ってくれる人がいたんだからな……」

 予想外の事はあった。調査の打ち切りや、ベリアルについて。あの紛争がなければ、自分も普通のままでいられた。ゲルヴァはしみじみと過去を振り返りながら、こういう結果も悪くないと、ようやく物事が前に進んだ事に感謝した。

 

「だが、それは所詮茶番という物だ」

 

「茶番だと?」

「ああ、茶番さ」

 そして自分一人だけ、戦争モードに入る。ここから先は、大人の、世界や人や生き方に関する人としての大事なプライドの話になる、と一人で大将気分を勝手に味わっていた。

「12年前に犯行を実行した時点で、俺の運命は俺自身が決めている。ここまで隠せてこれたのは、ただ単にベアトリウスが大火事事件の犯人が俺だと知らなかったに過ぎない」

「そりゃあ、あなたは隠れていましたし……」

「肝心のノーシュは調査を途中で打ち切ったしね」

 ゲルヴァはベアトリウスの軍人に全てを話し始めた。もう茶番は終わりだと。あの紛争の続きをしようじゃないかと。自分一人だけ、過去に縛られてしまった事をどうか謝らせてほしいと。

「こんな形で、自分の存在と目的を話す事になったのは不本意だが、真実を知ってくれてなによりだ。これで後はノーシュの奴らと戦うだけだ……」

 他国に迷惑をかけるわけにはいかなかった。しかし、ノーシュで犯行を計画するわけにもいかなかった。だからずっと、ベアトリウスでひっそり暮らしていた。12年間調査がなかったので、ずっと隠居生活を続けざるを得なかっただけである。

 もう隠れる必要もないので、堂々としていられるのが嬉しいのだろう。しかしそれはゲルヴァだけが嬉しい事だった。

「おいてめぇ、勝手に話を進めるんじゃねえよ。お前のせいで国の責任問題に発展したんだぞ!」

 エドガーは自分の師匠がキレたのを許す性格ではないので、今からでも戦おうかと思いながらゲルヴァを睨む。ほら、ノーシュ人にもこういう奴はいるだろ、という感じに。大分ベアトリウスに影響を受けたなとも思っているが。

「ああ、犯人がいたのに隠していたという事をノーシュに勘違いされたら、どうなるかわかったものじゃない。あんたはそれをわかってて今このタイミングでわざわざ告白したんだろう?責任はとってもらうぞ」

「ふんっ、自分の住んでいる国がどういう国かわからないくせによく言う」

「何ッ!?それはどういう……」

 マキナはゲルヴァの発言が理解できなかった。いや、ゲルヴァがいかに外国人のなのにベアトリウスの事を知っているか、の方が正しい。

 

 

 

「……戦争だ」

 

「えっ?」

 

 突如、後ろから不穏な言葉が聞こえた。マキナは思わず後ろに振り向く。

 

 

 

「ベアトリウスは1週間後にノーシュに攻め入る!列車の個人情報流出問題はチャラだ!」

「父さん!?自分が何をおっしゃっているのか、わかっているのですか!?」

 

「ククク……ギウルは親の教育が悪いせいで、こういう問題が発生した時は戦争でチャラにしようとする!そう父親のウーザンに教えられてきたもんなぁ!?そしてそれしか教えてこなかったはずだ!」

「……」

「こいつ、こうなる事をわかってて……」

 ギウル帝王には常識が通用しない。好き勝手やれた父を見て、自分も好き勝手できると思っている。しかし、帝王の座に座って以来、それはできないと部下であるマキナ達に否定されてきた。だが、唯一今も根っこの部分でしつこく残っている概念がある。それが、戦争だった。今も強兵のためにゼルガを使って研究していたり、共和国にしない事や権力を手放さないのも、これのせい。本人の性格もあるが、元をたどれば、大半はそういう風に育てた親であるウーザンのせいだった。

「父さん、おやめください!国と国だけで話し合えば、穏便に話が終わらせられます!犯人が目の前にいるんですよ!?何をしているんですか!」

「……ジェイドよ、それは無理だ。大火事事件はシグマ以外にも数多く被害者がいる。知られた時点で終わりなのだ」

「だとしても、謝罪をすればすむ事です。なぜ戦争なんか……!」

 ギウルの口ぶりが戦争モードのそれになる。それを見てジェイドはこの日、自分がなぜこんな時代に帝王の息子として生まれたのかを肌と心で理解した。祖父のウーザンがなぜ黙っているのか。それを父親である現帝王のギウルはなぜいつも睨んでいるのか。全ては、今更変えられない自分に全てをまかせた父に責任を取らせるためだった。そのためには、わざと長生きさせて生きてもらうのはもちろん、可能な限り影響を少なくして息子である自分に引き継がせなければならない。十代の頃からずっと謁見の間で権力をふるう姿を見てきたのも、こういう事をわかりやすく教えるためにあったのだ。

「そしてそれがむしろダメージを少なく終われるからだ。国のいざこざが起っているうちに、こいつ(ゲルヴァ)をノーシュに渡せばそれですむ。戦争を茶番にすればいい」

「父親から受けた教育がゴミみたいなものだと帝王になってから自覚したギウルは、後世には残さないと何としてでも結婚して子供を授かろうとした。それで生まれたのがジェイド、お前だ」

「……」

「歴史の勉強が足りんようだなぁ!自分がどういう理由で生まれたのか知らないとは!」

 ジェイドはゲルヴァの話を黙って聞くしかなかった。そして戦国時代がどれだけ壮絶だったのか、想像の何倍かはとんでもなかったらしいとゲルヴァの話し方を見て理解する。

 マキナに続いて、ジェイドも体がぶるぶる震え始める。

「くそっ、くそっ……ゲルヴァ……。お前だけは、お前だけは絶対に許さんぞ!」

「……諦めろ、ベリアル。今は心も体もベアトリウス人でも、昔は俺もお前もノーシュ人。その事実は変わらない」

 このゲルヴァの言葉はベリアルにとって、過去からは逃げられないという意味だった。

「俺は間違えてない……間違えてないんだ!」

 あの日、自分がどんな目にあったのか。すごく悲劇的に言える。実際悲しい事だ。報われなかったのだから。

「全ては神の目が教えてくれる……。じゃあな、ベアトリウスの軍人共。戦場で会おう。楽しかったぞ、お前達と話すのは」

 とことこと、笑って手を振り城を去って行こうとするゲルヴァ。去り際、ちらっ、とマキナの方を見る。自分が去った後、誰が何をするのか、そうしたらどんな事が起こるのか、目に浮かぶようだった。

「嘘だ……こんなバカげた事が起こる国では……」

「マキナ……」

 ネールが友を心配そうに見つめる。

 

「こんな事になるのなら、もっと早くギウルを!ウーザンを!うわああああああああ!」

 

「あっ、マキナ!」

 マキナはゲルヴァが丁度城からいなくなったタイミングで声を上げて走って出て行った。今までどんな事があろうとこの国が好きだったのに。たった一言、戦争をする、だけで軍人と帝王の関係が壊滅的状態になった。

「き・さ・ま・らあああああああああああああ!絶対に許さないわよ!」

 ネールは、アイカに引き続きマキナまで去って行ったのかと思い、周囲の人間に怒りをまき散らす。

「(ははっ……シグマとは喧嘩別れしたはずだが、まさかあいつに少しばかり同情する日がくるなんてな……。お前も所詮、俺のように大きな運命に巻き込まれた哀れな存在だったか)」

 前へと進んでいると思っていたら、ずっとその場で停止していた。その事が判明した時、人は平気でいられるだろうか。いられる奴もいるだろう。しかし、国家経営だと話が違う。外国人、それもノーシュ人に、自国の帝王が哀れな存在だと見抜かれていたばかりか、12年間も調査をしなかったせいで、ここまで結果的に追い詰められた。大火事事件が無事にきちんと終わっていれば、こんな事は起きなかったのに。自分が何もできずに、何も言えずに、国として大切な事が進んでいくのだけは避けたかったのだ。あの時みたいに、誰かが決めた事を自分が責任取るのはたくさんだ。そう思って毎日必死に仕事をしてきたのに……。全てを否定された。

 ゆえにマキナは泣きながら走って出て行ったのである。

「決断は覆らない。我がベアトリウス帝国はノーシュ国に1週間後、攻め入る!あいつらなら民間人に被害が出ず終えてくれるだろう!」

「(……俺が帝王に居座る日はそう遠くない……。そのうちに全てを清算するつもりなのですか、父さん……)」

 戦国時代が終わった直後から、ずっとベアトリウスは今のマキナとギウルのような関係だった。たまにお互いに本音を言い争っては、どちらかが譲歩する。そして気がつけば、軍人が辞めている。だから必然的に人を集める。待遇を良くする。結果、軍人は好きに許可なく行動できるようになる。どうしろと。

 ギウルにとって、ゲルヴァという存在はさっさと処理したい人間に過ぎなかった。深く話したわけじゃないし、友人でもない。向こうから急にやってきて、無理やり知りあいにまでさせられた、その程度の存在。死のうがどうでもいい存在。だから戦争をするという発言ができる。

 昔と今は違うと、ギウルも頭では理解している。しかし心では理解できていない。だから戦争が出来る。今のノーシュの戦力がどのくらいか、この目で見る事が出来ると、一人戦国時代の気分になっていたギウルは、心の中でどうか自分の判断が間違っていないように、と神に祈っていた。

 こてんぱんにやられれば、やり続けるなんてあほな判断は下さないだろうから。向こうもこちらの事情はある程度は理解しているはずだろうから。

 

 

 

 こうして、あと一歩まで追い詰めた大火事事件の再調査は、犯人であるゲルヴァがベアトリウスの軍人達の前に現れ、犯行を自白する事で幕を閉じた。状況はこのまま、一気に戦争へと進んでいく。シグマ達はゲルヴァとは戦場で向かい合う事になる。

 昔の事件が尾を引いて影響し、今の今まで事件が続いている。それを後世に残さないための戦いが始まろうとしていた。

 ある意味可哀そうなゲルヴァだが、大火事事件の被害者であり当事者であるシグマ達には同情されない。死地ぐらい自分で選べる。彼の正義をシグマが人生を通して理解できるかは、現時点ではまだ未知数だった。

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