ダグラスを後にし、ノーシュに帰りながら会話シグマ達。少し遠回りして帰り、出会う人に大火事事件の事を聞いてみるも、結局犯人の証拠は何一つ見つけられなかった。
その事自体は残念だが、ひとまずの区切りがつき、歩きながら達成感を味わっていた。
「はぁ……。終わったなぁ……」
「とりあえずはまぁ、お疲れ。ようやった方やで」
ぽん、とシグマの肩を叩くマルク。
「あたしはこのままノーシュについて行くから安心して。今は完全フリーだし」
「わかりました」
「結局、犯人の名前さえわからなかったわね」
「うん……そうだね……」
今となっては段々仕方がなかったと思い始めている。自分はやりきった。それを何人か見て知っている。まずはその事を報告するんだ、とシグマは思っていた。
……マキナが必死で追いかけている事は知らずに。
「結構単独行動が好きな感じですよね。聞いた限りだと」
犯人の居場所。それはわからないまま、シグマ達はノーシュに帰らなくてはならなくなった。
「このまま城に戻るのはええけど、具体的にノーシュは何してくれんねん。きちんと調査したからほぼ完全犯罪は立証されたようなもんやで?」
シグマ達がわざわざやった調査を人だけ増やしてもう一度するのかはわからない。しかし、数を増やさないと見つける確率も上がらず、同時に犯人にバレる確率も上がる。やるしかない状態ではある。
「それでもやれるだけやるしかないよ……。ランドルフ騎士団長は3年かけて国内を探しても見つからなかったからこそ、ベアトリウスに行っても見つからないだろうと判断したんだし」
結果的にそれは、犯人を逃す時間を与えたと向こうでは受け止められた。
「まぁ、俺達だってノーシュには行った事ないんだ。このまま旅行する気分で行こうじゃないか。その方が、人生楽しめられるしな」
「そうね」
シグマ達がダグラスをあとにする数十分前。
「はあ……はあ……急げぇ!急いでくれぇっ!」
マキナは一人、首都とダグラスを結ぶ街道を突っ走っていた。
近くにいたダグラスに来た事がある兵士に話しかける。シグマ達がまだダグラスにいる事を知った。そろそろ後にしてる頃じゃないですか?と兵が言っている最中なのを振り切り、走るのを再開する。
見失わないように追いかける。走っている限りどこかのタイミングで追いつくはずだ。
「——いた!」
「え?」
後ろから声がして、自分達の事かとシグマ達は歩みを止める。
「マキナさん!?」
「はあ……はあ……。っ、ゲルヴァが!大火事事件の犯人が城にやって来て!俺が犯人だと告白したぞ!」
「「「なんだって!?」」」
「それだけじゃないんだが、とにかくそっちの王に会わせてくれ!私は亡命する!」
「わ、わかりました!ついてきてください!」
「亡命って……」
「急に進むじゃん……」
シグマ達は訳が分からないまま、急いでノーシュ城まで戻った。
犯人が見つかったのは急だが良い事。それ以上に訳が分からず、何かに駆られている気分で走り出した。
「はぁ……はぁ……!」
「うおっ!?」
「おい、お前、誰だ!?勝手に城に入って、あっこら、待て!」
「すみません、僕達の知り合いです!」
「……」
戦闘を突っ走るマキナは、涙目になっていた。シグマはノーシュ城を見張っている兵士に走りながら謝罪する。
思わず伝えなくちゃ。そうマキナもシグマも思っていた。
さあ、始めようじゃないか。犯人との激突を。リアライズを。
ドタドタバタバタ。
「あら、外が騒がしいわね……」
セレナは二階から、一回の音が響いたので珍しい、荷物でも運んでいるのかしら、と思って外の町の景色を見ていた。
「おい、お前!勝手な行動は許さんぞ!」
「……騒がしいどころではないのではないか?」
しかし、段々音が大きくなり、はっきりと声も聞こえてくるようになり、日常的な事ではない事を察する。
「ワイト」
「かしこまりました」
ミネアがワイトに様子を見てきなさいと命令を出す。しかし、ワイトが見るより先に彼・女・が謁見の間まで辿り着いてしまう。
「はぁ……はぁ……はぁ……!」
ランドルフ達にも良く見える距離まで来て、ようやくマキナは立ち止まった。両手の平を太ももにおいて、思いっきり息を吸っている。
「ベアトリウスがノーシュに宣戦布告をした!1週間後に攻めてくるぞ!」
「はぁ!?なんでそんな事になるのよ!?」
息切れを整えながら、マキナが王であるセレナに重要な報告をした。シグマ達はセレナ王女に顔を向け、自分達もいる事をまずは報告する。
ベアトリウスからここまではそれなりに距離があり、三日ぐらいじゃあ辿り着かない。だから直った列車でも使ったのだろうかとセレナは思っていた。急いできたのは見て理解できるので、体が動く限り移動してきたのは間違いない。
「仕事の報告を帝王ギウルにしていたら、急に犯人のゲルヴァがやってきて……色々話をしていたら、奴が大火事事件をやったのは自分だと……。本当に急に自白したんだ!」
「犯人……ゲルヴァっていうのか……」
「そんな……」
マキナが犯人の名を口にする。すぐにどういう事かわかるとマキナは城にたどり着くまで殆ど具体的に話さなかった。
話を聞きながらシグマはようやく犯人の名前を聞けて前に進んだ感覚を味わっていた。
「シグマ、どういう事!?彼女はどういう人なの!?」
ベアトリウス軍人と一緒に城に帰って来たので、セレナのいう事はごもっともだった。
「セレナ王女、マキナさんは……」
「さっさと説明しなさい!」
「——ただの国内担当の軍人だ。色々雑務をこなすタイプの。貴様らの言う騎士と殆どやる事は変わらんよ」
自分の事だから気にするな、と目線をシグマに向けながら、マキナがセレナに自分の事を説明した。
「~~~~っ!はぁっ……。——初めましてマキナ。現ノーシュ国王のセレナよ。あなたとシグマが今言った事は本当なのかしら?」
セレナとマキナが対峙する。今は状況が状況なので、マキナがセレナに思う私情は表に出る事はない。
「私は普通に仕事をしていただけだ。まさか大火事事件の犯人ゲルヴァと出会うとは思わなかった。そしてその後はまぁ、当たり前の話だが、ゲルヴァと出会って話をしたから私は今ここにいるわけで、確認するまでもないだろう」
ゲルヴァはノーシュの騎士がベアトリウスに、なんて不思議に思ってはいない。仕事で何か行かなきゃいけない事があったんだろうと思っていただろう。こ・こ・数・年・は・そ・ん・な・こ・と・一・度・も・な・い・と・言・う・の・に・、なんたる失態。
「それにしても信じられないわよ、なんで急にうちと戦争なんか……」
王女としては聞きたい部分はそこだろう。戦国時代の名残を説明しなければならないのはマキナとしては不服だった。
「すまない、というしかないが、一応表向きには列車の問題をちゃらにしたいと……」
こんな事を言って納得しない事は、言っているマキナが一番理解している。
「はぁ!?それこそ意味不明じゃない、あれはベアトリウスの商人達が勝手にやった事でうちは土地を貸してるだけのはずよ!」
「そんな事私だってわかっている!おかしいからこうして来たんじゃないか、なんとかしてくれって!」
「どうやら、ただ事ではないようだな。ベアトリウスがどういう現状なのかは、また後で詳しく聞こう。しかし今は戦争の準備をした方が良いのでは?死傷者が出てはまずい」
戦争と言っても、被害は大きく出るわけではないだろう。被害が大きくなろうと失態を隠したいギウルと、そんな馬鹿馬鹿しい事はしないでさっさとやるべき事をやって終わりにしたいマキナの抵抗。大火事事件の犯人を捕まえるというだけの事に、ベアトリウスのいざこざがここで入り込んできた。急遽、協力して犯人ゲルヴァを捕まえなければならなくなった。
「……やむをえないわね。シグマ、メイ。それとまだ名前もよくわからない協力者の皆さんも。良く聞いて。ノーシュは最悪の事を想定して戦争準備に入る。少ししか休憩できなくて申し訳ないんだけど、あなた達にも戦場に出てもらうわ」
戦力増強のために、と付け加えるセレナ。これは体のいいカモフラージュである。今更戦闘能力があるノーシュ人をいちいち探すのは手間だ。向こうは既に準備しているであろう事から、セレナのこの判断は妥当に思える。
「やれやれ……騎士の協力をしたのが悪かったって事かいな。——わいはええで!全てをはっきりさせるチャンスやんか!」
「あ、マイニィちゃんは未成年だから戦争に行かなくても大丈夫よ。安心して」
「は、はぁ……」
「(今までの事を考えると、むしろ一緒に戦った方が良いかもね。そんな大規模な戦争じゃないだろうし)」
最悪は想定しているが、今回はその最悪にそもそもならないようにする戦いでもある。こっちから先に仕掛ける事も想定している。だからマイニィがやられる可能性は低く、特別戦闘に出しても危険はないと思われる。が、ノーシュは基本的に未成年は戦場に出す規定はない。もし出したら罰則もある。
「あたしも!……って、ここにいるベアトリウス人は皆シグマの味方よ。向こうが攻めてきたのならむしろ好都合よ」
「あいつら、戦争で全てを解決する気だな……」
こんな結末、誰が予想しただろうか。大げさな事を言われると、万が一のためにその事に対して対応しなければならない。これがブラフであろう事は誰もが理解していた。しかし、関係ない部外者に知られるわけにはいかない。我々は今から、戦争だとは言わずかつ広めもせずに戦争をしなければならなかった。
「ランドルフさん、どうするんですか?」
「戦争準備を進めるしかあるまい!この戦争のきっかけはなんなのか、俺は今から調べる!調べなければある意味負けるだろう!少なくとも、大火事事件の解決をしたいシグマや我々ノーシュ国にとって、犯人が戦場で待っているというのは嬉しい事だが、どういう意図かしっかり考えないといけない事だ。倒して勝って捕まえたらそれで終わりなのか、そもそもわからないからな」
向こうからわざわざやってくる事があらかじめわかっている以上、礼儀もかねてこっちも向こうの情報を集めておくのは当然だ。
「ゲルヴァがどういう奴か次第という事ですか……」
「我々も戦場に行くんだ。シグマ達がゲルヴァに勝つ事を祈るしかない」
「くそっ……ベアトリウス帝国め、厄介な事をやってくれる!」
自分達はギウル帝王を相手にしなければならない。そもそもゲルヴァと対峙するべきなのはシグマなので、自動的にこういう配置になる。
「再度確認しますが、ゲルヴァと出会った事と、ギウル帝王が戦争を仕掛けたのは事実なんですね?」
「ああ、しばらく祖国に戻るつもりはない。私が証人だ、いくらでも話してやろう」
「……わかりました。女王、久々の大仕事になるかと」
シグマの旅の終わりは、戦争準備の休日というゴールに辿り着いた。ゲルヴァと出会い、どうなるかはわからない。しかしとにかく捕まえるしかないのだ。自分のためにも。シャラのためにも。
「ギリギリまで一般人には伏せておきなさい。まだ兵士を使う時ではありません」
「承知しました」
「王女様……」
「わかってるわ、国民がシグマに矛先が向く事だけは避けないと……。後、大火事事件の再調査を国が後押しをしてやったのは事実なんだから、当然事が大きくなったら私達の責任になるわ。被害を最小限に抑えて勝つのは前提条件ね……」
皆がいる。そういう意味では安心ではある。しかしそれは事前に役割分担などをしているからで、成人になったばかりのシグマとメイが戦場に行くのは少し重荷かなとセレナやランドルフ達は思った。しかしそれでもやらなきゃいけないのだ。
「ゲルヴァは確保できて、戦争には負けるなんて事はあって良いのですか?」
「良いわけないでしょ。最善を目指しなさい。向こうが全面的におかしいとはいえ、事が大きくなるかならないかは私達次第なんだから」
「かしこまりました。このミネア、久々に戦場で華麗に戦って見せましょう」
普段セレナを守るのが仕事のミネアだが、ベアトリウス以外で攻めて来る存在も情勢的にありえないと判断し、彼女も戦場に行く事になる。まさかの事があってはならないので、ノーシュの主力戦力が戦場へ向かい準備万端の状態でベアトリウスと戦う事となる。
「(全てはこの時のため……?相手はおそらく中年の男……。わからない、なんでこんな事をするの……」
「(二人に外の世界を見せないで大人しく平和に過ごしていたら今頃どうなっていたか。少なくともゲルヴァは逃げ切っていたのだろう……。ノーシュにずっといたら国の体制がウェイザー様の頃と違って変化していることぐらいわかるはず。しかし、おそらくゲルヴァはセレナ王女が就任した事を知らないな?知っていたら大火事事件の調査の仕方に疑問を抱くはずだ。くくく……これはもしかしたら勝機かもしれない……。なぜ12年も調査をせず放置していたのか、理解していないのだからな……)」
ウェイザー前国王は10年間もレドナール紛争のために奔走していた。その最後しか自分は見ていないが、今となっては当時と今を繋げる唯一の生き証人になっている。ウェイザー前国王が託した事を、自分はしなければならないのだ。ノーシュ人だというゲルヴァも、もしウェイザー前国王が今も生きていたら、おそらくテロを起こしてはいないだろう。当時、ウェイザー前国王の体が衰えていくのを見て、国の行く末を心配していた者は少なからずいた。だからこそウェイザー前国王自身が先手を打ったのだが……そのまいた種が実を結ぶ時が来た。
「(当事者であるシグマにやらせるのはもちろんだが、それだけではない。時代を任された者としてきちんと役目を果たさなければ)」
「シグマさん……」
「……僕はやる。やるしかないんだ……」
「……」
「(シャラ……見ていてくれ……。ゲルヴァと会って全てを終わらせてくるよ……)」
ベアトリウスの城での出来事から、この今の出来事がまるで昨日の今日のようだ。ただ故郷に帰って来ただけなのに、記憶にまさかの一ページが追加された。
時間は待ってくれない。しばらくしたら、自分も進軍しゲルヴァに備えなくてはならない。だから、今のうちに覚悟した。旅が終わるのだ。ありがたい事に、向こうからわざわざやって来る事によって。
しかし、ゲルヴァを殺してもいいのか、それとも捕まえるべきなのか、会議をする時間の余裕はなかった。会って話さなくてはならない。が、こういう事が起きた以上は話が通じるか不安だ。
シグマは成人して初めて、大仕事をやる事となった。悲しみから始まった自分の人生は、こうして過去と今が繋がることで、報われようとしている。しかし、この件はシグマの騎士人生の始まりに過ぎなかった。
このゲルヴァとの戦いを通じて、シグマは世界の闇を少しずつ見ていくようになる……。
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その他