約束のリアライズ   作:ひなせひろと

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第4章:誰のために

「なるほどね、ベリアルという男もいるのか」

「知っているんですか、ランドルフさん」

「いや、知らない。だが当事者であるのは間違いないだろう。調べれば出てくるはずだ」

 ランドルフは出会った時にさらっと言ったマキナの言葉を聞き逃さなかった。

 

 

 

 シグマ達は、久しぶりに帰ってきたノーシュ城でゆっくり休んでいた。シグマの協力者となったイリーナ達も同様である。結果的にだが、シグマとメイそしてノーシュは大火事事件の犯人を知り、旅の目的を無事果たせた事になる。それのおかげかノーシュには安堵した空気が流れていた。当事者であるシグマとメイは特にそういう気持ちになっていた。

 そんな中、着々とベアトリウスとの戦争の準備は進んでいる。シグマ達は、当事者としてベリアルとゲルヴァの関係性について調べていた。

 

【レドナール紛争の全記録。その騒乱について】

 

「これだな……」

 ランドルフが真面目な顔で本棚から手に取った本を確認する。シグマ達はノーシュ上の保管庫、資料室にスピアリアフォースと共に集まっていた。

「他にも良い情報が乗っているものはありそうですが、一番信用できるのはそれでしょうね」

「では、調べてみましょう」

 

「レドナール紛争について。レドナール紛争とは、今から7年前に起きた(執筆時1552年)、南にあるレドナールで起きた一連の事件の事である。当時の時代背景が強く影響し、一時は封鎖までするなど、事実上壊滅状態に陥った。その後、レドナールを立て直したのは復興ボランティアで参加した他の町に住む民間人と、騎士のベリアル・ジャックとゲルヴァ・ハーニアムである。現在レドナールは人口はあまり戻っておらず、未だ多数の人が首都レオネスクで生活している状況である。また、貢献したはずのベリアルとゲルヴァも行方をくらましている……」

「「……」 」

 裏が取れた事で、ゲルヴァがノーシュ人であった事が証明された。これは、ノーシュの国内問題に該当する。責任感があれば、の話だが……。

「なるほど?そういう事か……」

 レドナール紛争についてはシグマ達ノーシュ人なら全員知っている。しかし、個人単位で誰が何をしたのかまで知りたいのなら、このように本などで多少調べたりする必要がある。

「執筆者は恐らくゲルヴァの事を知らない。書いてある内容は国の人間じゃないと知らない事も多いですから、城の人間ではあるのでしょうが、彼は間違いなくノーシュ人で騎士だった……」

「……内容を読めばわかるが、当時の状況がいかに酷かったかが書いてある。俺は昔習った。知らない奴は読め」

 スピアリアフォース、特にランドルフはこの資料室に出入りする事が珍しくない。ノーシュの歴史書の管理は彼一人に任せてある状況だ。

 

「レドナールという地名は勉強したから当然知っているな?あそこは今から30年前、今のノーシュから考えてると、かなり荒れていたんだ」

 早急に言わなきゃないけないだろうと思ったのか、ランドルフがレドナールとこのノーシュという国の裏の事情について説明をし始める。

 

「……当時、その紛争を解決するために奔走していたのが、前国王である、セレナ王女の父上のウェイザー様だ」

 

「そ、そうだったんですか!?」

「段々繋がって来たわね……」

 30年前なのだから、実権を振るっているのは父親のウェイザーなのは当然ではある。()()()、ウェイザーは現在亡くなっている身なのである。

「知っての通り、ウェイザー様はセレナ王女を産んですぐ、約17年前に亡くなられている。……理由はレドナール紛争の影響による多忙。つまり過労死だ。正確には、セレナ王女が生まれるのを見届けるくらいには健康だったのだが、解決するまでにかなり体を悪くし、結果寿命を縮めた。レドナール紛争を解決して数年後、自分の死期を悟ったウェイザー様は、自分の死後、セレナ王女が国を運営するよう城の体制を大胆に変えた」

 今の体制が出来たのはこのレドナール紛争がきっかけだ、と衝撃の事実を話すランドルフ。しかし体制が変わるのは別に大切な事じゃないという顔をして、語り続ける。

 

「それが今の俺達の首都護衛部隊スピアリア・フォースだ。セレナ王女が国王に就任したのはわずか6歳。大火事事件が起きる数か月前の事だからシグマ、お前も知っているはずだ」

「あ、あの時から……」

 ただの子供が王の座についているのはきちんと説明しているノーシュ国民は別に不思議に思っていない。しかし、情報を集めている他国、特にベアトリウスはこの件を知った時、急におままごとでも始めたのか、という目線でノーシュを見ていた。ノーシュがそんな変な事を考えもせずにするわけないというのは歴史からわかるのだが、まだ認識のずれがあるようである。

「セレナ王女が国王に就任するまで、この国を実質的に運営していたのは、妻で母親のあちらにおられるナルセ女王だ。大火事事件もその時に起きた。6歳になったらセレナ王女が国王になるのはウェイザー様が決めたスケジュールだ。その時までに体制を整えろ。それがウェイザー様の最後の命令だった」

 わざわざ娘に継がせろと言ってきたのだから、部下はそれに従うしかない。当時まだ騎士になったばかりのランドルフも急だなぁとは思っていた。ランドルフはその後ウェイザー国王から直々にノーシュの改変計画を任せられるのだが、これはまた別のお話である。

「具体的にどう体制を変えたのかについては色々あるのであまり語りませんが、そのうちの1つは平均年齢の減少。つまり、新陳代謝を上げて動きやすい組織にした事です。見ての通り昔はわりとベテランがいましたが、今は数えるほどしかいません」

 我々を見てわかるでしょう?と語るワイト。あくまで若い人が強い権力を持っているだけで、目立たない仕事場では普通にベテランが仕事をしている。当然アドバイスをたまに聞いたり言ってくれたりもしている。しかし表向きにはとにかくベテランがいないように変えたのだった。それはなぜか?

「それで国がうまくいくのか、成人するまでナルセ女王が実権を担っていていいじゃないか、などの意見はあったが、長期的にはセレナ王女が新国王になるのは当然の流れ。だったら早い段階で王にした方が良い、そう決めて今の体制になった。皆ウェイザー国王が言うならしょうがないとしぶしぶやめていった」

「セレナ王女の就任後、ナルセ女王はセレナ王女のサポートに徹し、娘のセレナ王女の意見を尊重して就任後の実権は担わない事にしたんです」

「ようは、10年早い体制替え、という事だ。こういう風に国の運営の仕方を変えて良かったのかは、数十年後経たないとわからない。お前が気にする事じゃないぞ、シグマ」

「わかってます……」

 中年は色々言われる。更年期だの、権力乱用だの、頭が固いだの。若いというのはあくまで見る側の印象でしかなく、無能か有能かは全く関係ないのだが、ノーシュはセレナ王女に合わせて国家経営の体制もがらっと変えたのだった。ウェイザーは自分の手で、一つの時代の終わりと新しい時代の始まりをそれらしく作った。自分の娘に花を持たせるために。

 

 話を聞いて次にするべき事を決めるシグマ達。ランドルフの話は、レドナール紛争を調べるうえで重要な背景だった。その後から今につながるまでの。

 

「——へぇ~、こういう事が起きていたのねぇ……」

 

 ベアトリウス人であるアリアが素直な感想を口にする。

「これは……。きちんと読むのはそこそこ時間が掛かるぞ。感情にふける事も考えると、3日では無理だ……」

「だからこういう所に保管されているんだ」

 ランドルフがルーカスに当然、というような顔で答える。

「なぁ~んだ、思ったほど解決が近そうね」

 ここまで話を聞いたら気になるでしょ、という顔で引き続きシグマ達に協力する事を表明するアリア。

「どうやら、ゲルヴァがレドナールで具体的に何をしていたのかについても乗っているようですね。 まとめたものを欲しいのなら私がやりますよ」

「頼む」

「しかし、これで相手がどういう奴かわかったわけやな。わいらはあの紛争の時代を知らへん。 だからこうする事になったわけやけども……。まっ、知れて良かったんでないの?これで戦争に本気で立ち向かえるやろ」

「そうだけど、その人が今ベアトリウスにいるのよ?」

 昔の事を何年も引きずっているのはシグマも同じだ。しかしこっちは内容が内容だ。シグマとメイはそもそも大火事事件が起きなかったら普通に平和に暮らせていたのだ。まさかこのレドナール紛争の事を黙って隣国にいるなど、それこそ調べないとわからなかった事だろう。

「それに関しては、しょうがなかったと言うしかないな。当時はレドナール紛争以外も色々と酷くて、人事の事なんてそこまで考える余裕なんてなかった。まぁ、だから大火事事件が起きた時も、対応は後手後手で、被害こそ抑えられたもの、迅速に動かなければ責任問題になっていた」

「大火事事件は、初めからレオネスクだけが狙いだったんじゃないかと言われていましたね。実際の調査中に1度も似た事が起きなかったので」

「ああ」

 我々は戦後の時代を生きている。この、一見平和そうに見える時代を……。どこの国でも昔より犯罪率が低下している。しかし比例して活気が昔よりなくなった。これはもちろん、良い意味で静穏になったという事だが、刺激が足りないと思っている中高年は少なくない。

「ふ~ん……。まっ、確かにノーシュ人って事を抜けば、ベアトリウスにとっては有益か……」

「皆さん、そろそろ大丈夫ですか?この後マキナさんの亡命宣言ですよ」

 マキナはノーシュから保護観察を受けている。もちろん犯罪を犯したわけではない。正式に亡命と発表するには、あまりにも急すぎるからそうしているだけである。この亡命の発表は表向きの、ノーシュの一般国民に向けたものだ。大々的に発表するわけじゃなく、ニュースとしてきちんと報道するタイプの。

「問題ないわ。大体の事はわかったし」

「俺もだ。確かな情報がノーシュにあってよかったよ」

「シグマさんは……」

「うん……ちょっとまだ落ち着かないけど、状況は呑み込めたよ」

 イリーナがシグマを心配して言う。

 

「言いたい事は全部、戦争中に言うよ」

 

「そうですか……」

 戦場では、どんな軽い被害でも油断はしない戦い方を心掛けなければならない。よって、自分の身を守るので精一杯な人も多く出る。イリーナは自分達を無視してシグマがゲルヴァと二人きりで戦わないか心配していた。

「じゃあ皆、行きましょ」

「はい」

 

 

 

 

 

 シグマ達は三か月ぐらいの旅をしてきて帰ってきた。

 ノーシュの町をめぐるのはそこまで時間を掛けなかったので、必然的にベアトリウスでの時間の方が長いのだが、

 ランドルフ達が言っていた通り、あの国での経験はシグマにとってとても考えさせるものだった。生き方が違かったから。

「マキナが話す前に、そろそろ自己紹介をしてくれないかしら」

 どういう名前なのかはシグマとかが言ってわかってるけど、と謁見の間の王の座に座るセレナが皆に話しかけた。

「んじゃ、わかりやすくシグマに協力した順番で行こうや。こっちは王女様と会えるのを楽しみにしてたんでな」

 ランドルフ達も当然この謁見の間に集まっている。後々紹介するのも面倒なので、アリア達が自分達で自己紹介をした。

「わいはマルク。情報屋や。酒場でシグマに話しかけたら大火事事件の再調査をしてるって言われて面白そうだから乗っかったんや。当然、払ってくれるんやろ?」

 

「「……」」

 

「あれ、なんやこの反応?」

 マルクがおかしな事を言っただろうかと皆の顔を見比べる。

「現金な奴だなぁって思われてるだけよ。金のためにやってるのと、シグマのためにやってるのとじゃあ意味が違ってくるでしょ」

 情報屋はいつの時代もグレーの存在である。本人の倫理次第で、何でも売り、取り扱う。そういう意味では出禁になりやすく、慎重に扱わなければならない存在だった。マルクは見ての通りの性格なので、警戒心は薄い。が、そういう風に振舞っていると捉える事もできるので、面倒事を避けるために固く接するのがお決まりだった。

 

「――初めまして、セレナ王女。あたしはアリア・コリエーヌ。そしてこの二人がルーカス。あたしを含め全員ベアトリウス人よ」

 

「へえ、そうなの」

 セレナはベアトリウスがうちに来るとはね、と以外という顔をしながらニヤニヤ笑う。

「当事者だから話しますけど、あの後ベアトリウスのマキナとはうまくいって、無事にベアトリウスの首都のアギスバベルに到着しました。途中、マルクを始め4人の協力者を得たのは嬉しかったです。アリアとルーカスはレバニアルという組織にいて、それは――」

「あ~、シグマ。それは言わなくていいわ」

「……いいんですか?」

 自分から説明し、何があったのかを話始めるシグマ。が、特殊な経歴だからか、アリアがストップをかけ、自己紹介同様に自分から語ろうとする。

「ええ。自分で言うし、もう役目は終わったんだから。あたしはアリア。ただのベアトリウス人よ。その方が面倒な事がなくてすむでしょう?」

「……わかりました。途中、アリアとルーカスは仲間と別れ、僕達に協力してくれました。ベアトリウス人なので、地名などを調査をするうえで色々役に立ってくれました」

「そう。……うちのシグマが世話になったようね、あなた達には後で報酬をあげるわ」

「ありがとうございます、王女様」

「(この王女……やけに育ちが良いな……。素直に報酬をくれるとは……)」

「なんや、ベアトリウスには報酬確定なんか!?」

 ベアトリウス人にまさかの報酬が支払われる事が決まったので、マルクが憤慨してセレナに怒る。

「あら、あなた達って、マルクも含めて言ったつもりなんだけど。違う風に聞こえた?」

「すいませんでした王女様、なんでもありません」

 

「「(切り替えが早すぎる……)」」

 

「それで、シグマ。ベアトリウスはどうだったのよ」

 シグマの旅はノーシュの反省でもある。セレナ王女はシグマが何を体験してきたのか、さっそく聞いた。

「シグマ……」

「……」

 セレナが話の本題に入った。シグマはグサッと刺されたような気持ちになりつつ、震えないように力を入れてはきはきと喋り始めた。

 

 

「僕達はベアトリウスについた後、首都のアギスバベル、ダグラス、アレスハデス監獄所に行きました。ダグラスでしばらく滞在し、調査しながら住民の頼み事などを手伝っていました」

 

「そう……」

 色々語りない感じがするが、シグマはマキナとセレナ王女を見て、とりあえずはここで、と話を終わらせた。

 

「シグマ、メイ。よく頑張ったわ。あなた達二人はしばらく休みなさい。かなり旅に出ていたんだから。もちろん、マイニィちゃんを始めとした協力者の皆さんも」

 

「流石王女様やな。城で寝られるなんてありがたいことやで!」

「一応空きはあるけど、スペースは限られてるわよ?早い者勝ちだから、結局外で寝る事でなるかも」

「はっ、話が終わったらすぐ部屋確保するわ」

 皆これからどうするかの話になり始めた。マルク達協力者は後々の手続きもあるため、城に泊まる事になる。もちろん無理に泊まる必要はなく、宿屋なら宿屋でもいい。

「ふぅ~、これで流石に心が少し落ちつきますかねぇ……」

「イリーナさんもお疲れ様、かなり長い旅になっちゃいましたね」

「そうですねぇ、でも楽しかったから良かったですよ。何も前に進まないのだけが心配でしたから!」

「そうね……」

「なんだか、パーティー気分だな」

「ずっと少し休憩したら別の町へというのを繰り返していたんですから、ほっとして一息いれたくなるのも無理はないかと」

「しかし俺達の仕事はこれからだぞ。ちょっとした戦いをしなくてはいけない」

 ランドルフはこれからする自分の仕事をわくわくしつつも疲れるだろうなと思いながら部下の二人にはっぱをかける。

「それについてですが、流石にベテランや昔の人にも少し話を聞いた方が良いかと。レドナール紛争のせいで大火事事件が起きたなんて広まったら大変な事になりますよ」

「そうだな……流石に俺達が直接会いに行けば、あの人達だってどういう事か察してくれるはずだ……」

「(これから忙しくなるな……)」

 ワイトは事務を終わらせてこの件をじっくり掘り下げたいと、知的好奇心がうずうずしていた。

「セレナ様、ナルセ様……」

「わかっております、ミネア。状況次第では大胆な事もしないといけないかも知れません」

「……」

 セレナは自分が知らない父親の話を、どういう顔を聞いていいのかわからず、いつもどこか空虚な顔で聞いていた。シグマの話を聞くのは面白かったのに、話の流れで急にランドルフにバトンタッチしたせいで、途中から黙っているしかなかった。内容が内容なので、不満はない。

「わかっていますか、セレナ。これは私達の事なのかもしれないんですよ?」

「わ、わかっていますわ、母上……」

 その件を母のナルセから突っ込まれる。しかしどうしろというのか。あ、変わったとしか思っていなかった。話が終わったかと思えば、皆しばらくの間の休日をどう過ごそうかと考え始めているのだ。いつも城にいる自分はくつろぎたいという気持ちがよくわからない。かと言ってシグマみたいに旅に出る事を許可されてないので、どういう気持ちなのかは察するしかない。

 セレナはやっぱ母上に怒られたか、と思った。

 

 

 

「――私、マキナ・レトラーは、ベアトリウス人の軍人として、ギウル帝王のノーシュ侵攻に反対する。ってその意思表示として、終わるまで敵国のノーシュに亡命する」

「今回の事はこれで終了です。戦争は何も変な事が起きないなら3日後、始まります。各自、引き続き注意するように」

 マキナについては、一般には伏せておく事も視野に入れていた。しかし、大きく広めていないだけで、ノーシュの皆が知る可能性がないわけじゃない。なので存在をアピールしておいた方がいい、という事で発表した。これで変なトラブルは回避できるのだ。少なくともノーシュの田舎はベアトリウスと引き渡しのために戦争するなどというわけのわからない琴など知らないし、知らなくていい。

「ワイトはああ言ったけど、この戦争は一応表向きには起きてない事になるんやから、注意とかせえへんやろっていう話なんやけどな」

「ふっ……国の人間が国の人間に言った事が分かればいいのさ、こんなのただの確認したという手続きに過ぎないんだから」

「一応、向こうから見れば人質でもあります。変な事を言えば、シグマが標的にされますからね。お前のせいで戦争が起きたのかと」

「まぁ、ありえない話だが、名目はそうだな」

 関係性は明らかにしておくに越したことはない。メリットにはなっても、デメリットになどならないのだ。

「さっ、これで面倒な事は全て終わった。後は当日を待つだけだ。君もゆっくりしていいぞ」

「助かる。と言いたい所だが……状況はここで眺めさせてもらうよ。ゆっくりは、させてもらうがな……」

「立場上離れられないならそうした方が良いだろう、俺と似たようなポジションなら行動制限もできないだろうしな」

「外交交流みたいなもので楽しいんですけどね。戦争じゃなかったらお茶でも飲めたのでしょうが……」

「(全くだ……)」

 ノーシュはベリアルとゲルヴァに終止符を打つため、ベアトリウスは恥を国民に知られないために戦争をする事になる。どちらもあまり良い理由じゃない。相手側を馬鹿にするとか、そういう気持ちすらない。ただの流れ。大火事事件を再調査したらこうなったのだ、最後までやり遂げるのみ。マキナ含め、ノース上の謁見のまではそういう空気が流れていた。

 

「……」

「(気持ちは変わらない。ゲルヴァは絶対に捕まえる。だけど……マキナには世話になった。ああいうの見ると複雑だな……)」

 ベアトリウス帝国の事を地理の一般常識としてしか知らないシグマにとって、ベアトリウスの軍部にマキナのような愛国者がいたのは幸運だった。彼女の存在を知れただけで、あまり近づきたくない国ではなくなったのだから。

「(今シグマが抱いている気持ちはあたしと同じかしらね。マキナについて……。このような形で捕まえる日が来るとは思わなかったけど、終わらせるためにはやるしかない!終えるまで変な気持ちは抱かない事よ……)」

「(もう3日や。もう3日待てばこんな茶番聞かずにすむんやな!早く報酬もらって、良い物でも食べたいものやなぁ……)」

「(長かった旅もようやく終わるようですね……)」

 開戦の日は着実に近づいている。ノーシュはこれを、被害最小限で、死者数ゼロで乗り越えなければならない。ただの引き渡しに死傷者が出るなど、あってはならない事だから。向こうもそれはわかっているが、肝心のゲルヴァを捕まえるまでこの大げさな演劇は続くのだ。

 だから、シグマの再調査の旅は、シグマ自身の手で終わらせる。事が大きくならないために。

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