分担させていたメイとマイニィの二人が戻ってきた。マイニィが見たサンバニラの倉庫は、半壊ならぬ、半盗という言い方が正しいぐらい、荒らされていて、数日間、数週間は間違いなくここに保管されていたであろう痕跡がいくつも見られた。
「う~ん……まさか夜に停電していたとは……」
「来てすぐ泊っただけの私達にとっては、町の事情が分からないのはこういう状況ではかなり不利ね。仕方のない事だけど」
「そうですね……」
話を整理しよう。食料の盗難は事実だし、その時刻は夜中。たまたま村人が夜中にトイレに行く途中、ついでに確認したら事件が発覚したんだろう。犯人はさっと盗み、すぐに逃げた。証拠もなし。犯人像はわからない。
「深夜、寝静まってる間に何もかもを終わらせ、町の人達が起きればすぐにパニック。そして夜が明ける前に逃げた。完璧な犯行だよ」
「だとしたら、普通に周辺を探しても意味はないわね。他の町に逃げられたらもうアウト。余計に探す手間がかかってしまうし、その間に逃げ切られる。何かいい犯人の絞り方はないかな……」
「う~ん……」
すぐに決断しないと逃げられる状況だが、昨日の今日なので、そう遠くまで逃げられるはずがないというのが鍵であり救いだ。なんとしてでも捕まえなければならない。しかしどのように……。
「……お困りのようですな」
と思っていたら。シグマ達が通ってきた道から商人らしき老人が話しかけてきた。
「誰だ!」
シグマは警戒する。
「わしはゲロニカ。この町で君達のように泊まっていただけの、旅商人じゃよ」
散歩でもしていたのだろうか?と思い、シグマは警戒を解く。
「初めましてゲロニカさん。犯人に心当たりがあるんですか?」
「流石にそこまではわからんよ。ただ、情報提供に協力しようと思っての」
「それは助かります。でも具体的にどういう情報をくれるんですか?」
自分達が知りたいのはそこだ。
「まあまあ。詳しい話は宿屋の中で話そうではないか」
「「「……?」」」
そう言って、ゲロニカという謎の老人は宿屋に入っていった。
ゲロニカは受付にお金を払い、荷物を整理し、自分の身をいつでも外に出られる状態にして、近くの椅子に座った。シグマ達も座って話始めるのを待つ。
「それで、詳しい話というのは?」
「うむ、実は、信じるなら割と深刻な話なのじゃが、同業者の友人が同じ同業者に命を狙われているらしくてな」
「命を狙われている!?」
さっきからこんな事ばかりだ。マイニィちゃんが実際に命を狙われる経験をした後、盗難に殺害予告。盗難まではまぁよくある依頼だとして、こんな所で誰が誰を殺人しようとしているのか……。全然思いつかない。
「そんなことが……」
マイニィちゃんも素直に驚いていた。どうやらこれは普通の盗難事件じゃないようだ。まだそう決めつけるのは時期早々か。しかしすぐ動き出さないといけない。
「命を狙っている男の名は同じ商売人の、ウェイラー。まぁ、わしも友人から最近ウェイラーの様子がおかしい、という事ぐらいしか知らんから詳しい事はわからんが」
「ウェイラー……」
ゲロニカの口から、はっきり同じ商売人のという言葉が聞かれた。つまりこの老人は正真正銘の老人だという事だ。最初に思った商人っぽいは嘘ではなかった。
「その様子がおかしいというのは具体的に何を?」
メイが言う。
「さあ?ただ、友人が言うには得体の知れない薬を集めたり、たまに自分を見る目が怖いと言っていた。恐らく友人に特別な恨みというよりはウェイラー自身に何かある」
「自身に何か……」
「わかったら苦労しない事じゃ。後は会って話でも聞いてみる事じゃ」
その通りなのだが、その所在が聞きたくてこうして話しているんだ。
「ゲロニカさんは、そのウェイラーっていう人の居場所を知っているんですか!?」
だから、こう聞き出すことになる。
「同業者で取引している以上、あやつの居場所くらいはわかる。丁度東の街道を通ってクレアドロンに着く所の道の途中に、あいつの隠れ家があるのじゃ」
「クレアドロン?」
聞きなれない地名に、マイニィちゃんが首を傾げる。
「ここから東にある町よ。もう少し先にはベアトリウス帝国との国境があるルンバがあるの」
「そう、なのですね……」
マイニィは旅に出るまで、シエルエールから離れた事がないし、離れられるわけがなかった。昔、両親がまだ生きていた頃ノーシュのマップを見た事があるが、どこになにがあるかなどは忘れた。マイニィは少し懐かしい気持ちになり、同時に復習しているような気持ちになった。
「なんでただの商人が隠れ家なんか……」
シグマは聞き手に徹し、注意深く話を聞く。ゲロニカに当然の疑問をぶつける。
ゲロニカはちょっと残念そうに、つまらなさそうにウェイラーの事情を喋り始めた。
「それも本人に会って直接聞いてみるといい。いるのは事実だ、あそこに行った事があるからな」
交流もかねて行った事があるが、結果はごらんの通りだと言う。
シグマはそろそろ情報収集は十分だなとゲロニカに「貴重な情報、ありがとうございます」と礼を言い、椅子から立ち上がった。
「よし、二人とも。ウェイラーの所に行こう!」
「は、はい……」
「でも、行くのは良いけど、そう簡単にうまく行くかしら?会ってもまずは犯人かどうかを確認しないといけないじゃない」
「わかってる。未解決にはしないよ。きちんと話は聞かないと。まぁこれも向こうが話してくれることを願うしかないんだけど」
「一応戦う事を覚悟していきましょう」
「はい!」
シグマ達は宿屋から外に出て、街道に向かいウェイラーの隠れ家を探して歩き始めた。
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シグマ達がゲロニカと出会う数か月前。
「なあ、ゲロニカ。少し相談があるんだが聞いてくれないか」
「なんじゃ、ノール」
ベアトリウスの南の町、レリクスの酒場。
「ウェイラーから殺されそうな気がするんだ……」
ベアトリウス人の商人、ノールは自身の不安を友人のゲロニカに吐露していた。
「殺されそうな気がする!?」
ゲロニカは突然の言葉に、驚愕の表情をした。
「ああ。出会った当初はわりと明るかったのに、最近は真顔でどこか感情がなさそうに取引するし、怪しい品を取り扱う事も増えたんだ……」
「……」
「それだけじゃない、俺の事を遠くで睨んでいるような所も見たし、他の奴の話では、遠い地域では商人が何人か謎の死を遂げたという事もあったらしい。皆ウェイラーの、【商人に恨みがある】という噂だけは知ってるっていう状態だ。……俺が商人をして30年、歴史の本を読んでもそのような事件はなかった。だから……」
「ついに自分も襲われそうだと?」
「ああ。商人仲間の皆あきらかに奴が犯人だと疑っているし、俺もそう思ってる。何よりこの件を知って以降、皆ウェイラーに近寄らなくなった……」
「う~ん……証拠がない事には動けないが、睨んでいる事は気になるのう」
商人同士の付き合いはあるが、いわゆる自分ルールを決めて独自に商売をしている人はあまり少なかった。ゲロニカは商人界隈の中ではいわゆる温厚派と言われる立場で活動しており、波風立てず、客第一で商売をしていた。だからこそ多少資金繰りに困る事があり、そういう時はノールなどの友人の手伝いをしてなんとかしていた。それでうまく生きて行けてたのだ。それがウェイラーという謎の同業者をきっかけに崩れようとしているのだから、真面目に聞いて、対応しなくちゃいけない。
「ほら、最近商人の謎の行方不明者が増えてるだろ?ウェイラーに殺されたんじゃないかと思うと、仕事にならなくて……」
この話は、事を大きくしないために国の一部の人間か、同業者の商売人達のみが知っている。しかしそろそろ対処しないと表に出て人々が混乱しそうな頃合いでもある。当事者である商人達とっては、間近で見聞きした事だから。
「わかった。わしが本人に話を聞いてみるよ」
「ああ、気をつけてな……」
だからゲロニカは、友人の頼みを聞く、当然だと思った事をして、いつものように外に出ようとした。しかし—―
「た、たすけてくれええええええええええええええ!」
「な、なんじゃ!?」
「おい、どうした!?」
ゲロニカとノールの前に突如現れたのは、血だらけで、服装がぼろぼろの中年の男性。
「ウェイラーが、ウェイラーがああっ!」
その男性のこのセリフだけで、同業者だという事がわかる。
「ウェイラーがどうした!?」
聞いても反応がない。よく見れば、地面に血が大量についており、ここに来るまでに既に出血していた事がわかる。という事は出血死?
ゲロニカはそのような事を考えていたが—―
「くそっ、本当っぽいなこれは!すまんゲロニカ、この件なんとかしてくれ!俺は逃げる!」
「お、おいノール!」
ノールが事態を理解し、逃亡する。相談を聞いた身としては、つい口には出しても逃げさせるしかなかった。
「本当に死んでる……」
ゲロニカは倒れた商人男性の脈を確認し、酒場で死亡を確認した。
ノールが立ち去った後の後始末は大変だった。酒場のマスターに協力してもらい、死体を運び、商人仲間にこの事を報告する。もちろんウェイラー以外の商人にだ。
ゲロニカはもろもろの始末を終わらせた後、やっとの思いで旅を再開した。
「あ~くっそ。忘れ物をしちまった」
そんなゲロニカの気遣いをノールは気づくわけもなく、再びゲロニカと飲み交わしたレリクスの酒場にやってきた。
……それが、彼の最期だった。
「あったこれこれ。よし、宿屋に戻―—」
「……」
「!お、お前はウェイラー!」
「……っ!」
「ぐああああああああああああああああ!」
一閃。ノールは即死した。
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その他