「外に出たね」
「うん……」
クレアドロンの街道は、よく人が通るため整備されている。ゲロニカが言うウェイラーの隠れ家は、森の中にあるらしいが、その目印は割と近くにあった。
ここから先立ち入り禁止。
謎の看板。普通に考えたら国の人間がやったと思うだろう。しかしシグマとメイにとってはこれが嘘だとすぐにわかった。こんな所には置かないと理解しているからだ。なぜなら置く必要がないから。つまり誰かがこれ以上近づかせないために置いた偽の看板。その誰かはもちろん、推定だがウェイラーだろう。
「そういう事。だから最小限の事しか言わなかったのね」
「この先を普通に通るとしたら、地形的に割と時間が掛かるはずなんだけど……一部の人だけが通るって事はわざわざ通りやすく整備されてるはず。これもウェイラーが?」
近づかせないために、という変な努力はするものだ。
シグマ達は看板を目印に歩き進め、そして謎の家らしき建物を発見した。
「あの家が、ウェイラーという人の家なのでしょうか……」
「だと、いいけどね」
「うん」
任務としてここまで来た以上、後はやるしかない。シグマ達は扉を開け、入っていった。
「失礼します」
「誰だ?」
そこにいたのは、目つきが鋭い中年の男。年齢はわからない。若くも置いてるようにも見える。表情は眼だけが鋭く、やたら人をひきつけない感じがした。
「私達はレオネスクの騎士です。サンバニラで停電と盗難があって、その調査をしにやってきました。あなたがウェイラーさんですか?」
メイが単刀直入に説明する。まず聞きたいのは目の前にいる人がウェイラーかどうかだ。そして、彼がサンバニラの盗難をしたのかどうか……。
「いかにも、私がウェイラーだが……なるほど、盗難、ね……ふむふむ」
シグマ達が若いからか、やたらじっと見て見定めようとしてくるウェイラー。任務特有の、緊張した空気が流れていた。
「君達ぃ……あの短時間でよくここまで突き止められたね」
短時間?なんの事だろう。シグマ達はなんのことだかわからず、首をひねる。
「……なんの事ですか?当時の状況をよく知っているような口ぶりですが」
「ゲロニカさんという商人が調査に協力してくれたんです。ウェイラーさん、あなたがサンバニラの盗難の犯人なんですか?」
マイニィちゃんがついゲロニカについて話をする。それがトリガーだった。
「ゲロニカだぁ?……ハハハハハッ!そうか、奴が仕業だったのかぁ!そりゃあいつが協力していたらここにたどり着くよなぁ!?」
「(表情が変わった!?)」
シグマ達はすぐに臨戦態勢に入る。どうやら全てが本当だったようだ。
「(この様子……どうやら当たりっぽいわね)」
「(怖い……)」
メイがマイニィちゃんを守るため手で抑制する。シグマは剣を握ろうと鞘まで手を伸ばすが……。
「残念だが、君達には死んでもらう。俺はゲロニカを殺さなければならないんでな!」
……握りたくても、握れない、握れなくなるような事を言われた。
「ちょ、ちょっと待ってください!なぜゲロニカさんを殺そうとするんですか!?」
シグマは手でジェスチャーをし、詳しい事情を聞こうとする。しかし—―。
「お前らにそれを言う必要はないっ!」
シグマが鞘に手を伸ばしたのを見てウェイラーの方も戦うつもりだったのか、変な薬物を近くにあった袋から取り出した。
「シグマ、来るわよ!」
それを見てメイはシグマとマイニィを外に出るよう指示し、扉を開ける。ウェイラーとの戦闘が始まった。
惑星フェルミナ。この星の名前である。女神フェルミナが創ったと言われている。我々人類を含む、魔族などのあらゆる生命体は、マナを消費して魔法を放つ事ができる。やろうと思えば派手な戦闘も可能だ。しかし、それは力がある者にとって、必要のない者まで殺し、壊し、世紀末にするという意味だった。
しかし、時に、ウェイラーのように力があるのに隠し、どこかで使っている者もいる。だからこそ、騎士が生まれた。
「ぐう!?」
シグマとメイは、騎士として育てられた。だからこそ、戦闘になった時、同胞には容赦するなと護衛部隊の先輩達から教えられた。叩き込まれた。
一応、民間人であるウェイラーと、実務は少なくとも、実戦は訓練で何度もやった事がある騎士のシグマとメイ、おまけのマイニィの1対3の戦いは、あっという間に勝敗がついた。
「はああっ!光霊剣!」
「ぐあああ!」
ウェイラーはシグマの攻撃を食らい、ふっとび、転がる。
「ぐぬぅ……」
ウェイラーは勝てると思っていたのか、わかりやすく悔しがっていた。
「どういう事なのか、教えてもらえますよね?」
シグマが詰め寄る。そう、自分達はまだ何もわかっていないのだ。あなた(ウェイラー)と違って。それは今になっては腹立たしい事だった。
「……」
「(シグマ……)」
「(メイさんのこの表情、初めて見た……)」
勝敗がつき、緊張の糸がほぐれたのか、メイはシグマをうっとりとした目で見つめていた。マイニィはそんなメイを見て、惚の字なのかなと思ったが、口に出さないでいた。
「っはん、そんなに聞きたいなら教えてやる。サンバニラの盗難は、確かに俺一人でやった。盗んだ物も全て家の中にある」
「やっぱり……」
「じゃあ、どうしてこんな事を?」
聞きたいのはそこだ。
「復讐するためさ」
「復讐だと?」
思ってもいなかった言葉だ。うまく盗難と結びつかない……。
「ああ。俺は元々名の知れた商人の家系に生まれてな」
そう言って、ウェイラーは自身について語り始めた。
「だが俺が思春期の頃、親が商売仲間に裏切られ借金を背負った。そのせいで家族は離散、そして自殺した。今では天涯孤独の身さ」
ウェイラーは、自分の過去を端的に説明した。その後——
「だから復讐しようと思った!」
強く吠えた。
「そんな……でも、可哀そうな事だけど、だからって殺すまでしなくても」
「商売をしたことがない女は黙ってろ。俺は本気で生きてるんだ。復讐したいなら、同じ商売をして、裏切った奴を見つけて殺した方が早いだろうが。飢えをなんとかしのぐような日々も送って、ようやく今かたき討ちをしているんだ。邪魔をするな!」
自分達は確かにこの男のように生きてきたわけじゃない。大火事事件を起こした人間に恨みはあるが、怒りよりもただ悲しかった。特に自分にとっては。シグマはそう思いながら話を聞いていた。しかし自分にも言いたい事はある。
「その復讐相手の中に、ゲロニカさんは入っているのか?」
「知らんな。嫌いな奴を手あたり次第殺せば、その中に何人か復讐すべき相手がいるはずだ」
ウェイラーのこのセリフを聞くまで、自分達は復讐すべき相手のみを殺しているのだと思った。そうしたら後は本人同士の感情の問題だからだ。……誰かが止める止めないも含めて。でもそうじゃなかったようだ。ゲロニカの言う通り、目を付けた商人なら誰でも殺している。それじゃあただの大量殺人者になるだけだとわかっていながら。
「そのやり方じゃあ無駄な死者が出てしまうだろ!」
だから怒る。怒らなければいけない。
「なんだ、若者の分際で説教か!?俺のやり方に口を出すな、俺はそのぐらい怒っているんだ!」
ウェイラーは引き下がらない。全てを理解して、その上での犯行。自分がどうなるか理解しているんだろう、後は引き渡した方が賢明だった。
「シグマ、これは無理よ。大人しく牢屋に入れた方がいいわ。後は城の皆がなんとかしてくれるはず」
メイのこの言葉が決め手となり、シグマはやむをえず。
「~~っ。……仕方ない。ウェイラーさん、あなたを拘束します。抵抗しないでついてきてください。いいですね?」
「……好きにしろ」
ウェイラーを逮捕し、サンバニラにいる警備兵に引き渡す事にした。
「……」
マイニィは事が片付くその瞬間を黙って見守るしかなかった。シグマもメイも、成人したばかりとはいえ、大人で、自分は子供だからだ。できるできないじゃなく、見守るしかないのである。
「そうじゃったか……やはり」
「はい、ゲロニカさんの言う通り、ウェイラーが犯人でした……」
事件はすんなり解決し、食料も住民がウェイラーの隠れ家から持ち運んでいるのを見て、シグマはゲロニカにお礼を言う。
「わしも後でレオネスクの牢屋に行ってウェイラーと会って話をしてみる。今回は助かった、ありがとう」
「いえいえ」
「シグマー、ウェイラーを警備兵に引き取らせたわよー」
「ああ、ありがとう」
これでここでの任務は終わりだ。急な任務だったため、大火事事件の事を聞く時間がなかったが、この調子だと多分シエルエールと同じ感じだろう。シグマはそう思っていた。
「君達はついていかなくていいのか?」
「ああ、それはですね、僕達は元々大火事事件の犯人を捜す旅をしているんです。ここサンバニラに来たのもそれが理由で……」
シグマの話を聞いてゲロニカは目を丸くする。ただの騎士ではなかったからだ。
「12年前の大火事事件を?それはまた難しい事を……。犯人が見つかるといいな」
「はい、今回は協力してくれてありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
シグマとメイは国の人間として、お礼を言う。突発任務はなんとか解決できた。ゲロニカさんという老人の協力があって、だけど。
「よし、僕達も次の町へ行こう」
「いいけど結局、この町にも大火事事件の犯人はいなかったわね。盗難の際についでとして聞いたけど全然よ」
そう、実は大火事事件については何人かに聞いたのである。受付の人にも、村長にも。一言知っているか聞くだけなのだから、そこまで時間も必要ない。でも結果はごらんの通り。シグマはシエルエールの経験のおかげで、今回は実を結ばないだろうと思っていたし、実際そうだった。
「仕方ないよ。ただでさえあの事件の被害者が今となっては少ないんだから。ノーシュは首都とはいえレオネスクを除いた人口の方が多いからね」
多いからこそ、知っている人も多いと踏んでるが、人はそこまでレオネスクと行き来していないんだろう。それがわかるような再調査になりそうだ。
「次の町ではいるといいですね。次の町はクレアドロンでしたっけ」
マイニィは二人をフォローする。
「うん。そう、クレアドロン。本当に、いるといいな……」
シグマは空を見上げ、昼過ぎになってしまった事を憂いていた。行く前に少し休憩が必要だと。
「(あいつら誰だ?見かけない顔だな……)」
そんなシグマ達を、珍しそうに見つめる謎の青年が一人。
「(そう言えば、倉庫の食料が無くなってたな。たまに盗み食いしてただけなのに)」
実は彼はベアトリウス人で、修行のため、ノーシュに許可なく出入りしているのだが、素性を隠しているため、シグマ達にもサンバニラの住民や警備兵にもばれずにすんでいた。目立つ行動はできないが、許可なく出入りしているのは気分がいい。謎の青年はそう思っていた。
「(俺みたいに盗んだ奴がいて、そいつを捕まえたんだろうな。という事はあいつらがノーシュ国の騎士様って奴か)」
実は修行と偵察、この二つが目的だった。たまたまベアトリウスに帰るタイミングがシグマ達とかぶってしまったため、時間をずらす必要がでてきた。クレアドロンの先の先に、ベアトリウスがあるからだ。
「(くくく、やっぱり隣国に来てよかったぜ。思わぬ収穫があった。だが帰るのはもう少し後だな。あいつらが出発してしばらく経たないと動けねぇ……しゃあねぇ、もう少し魔物を狩ってから帰るか。ベリアルの師匠にこれ以上舐められないために)」
シグマ達がこれからいくクレアドロン。シグマ達がウェイラーの盗難でひと悶着あった頃、この町では。
「くくく……」
クレアドロンの教会。神父サイフォスは一人、佇みながら笑っていた。
「(私の搾取に気づかないとは、愚かな住民共だ)」
誰も自分がやった事に気づかない。なんて面白い事なんだろうか。
「(愛想笑いはうまいと言われ続けて十数年……。フェルミナ教になど興味もないのに、その待遇の良さにつられて入ってみたらこれだ。献金システムもうまくいき、このまま老後までいけば……。ふはは……ハーハッハッハッハ!人生楽勝!他人を騙す事など、たやすい事よ!)」
しかし、そんなサイフォスだったが、自分の住んでいる教会から、窓の外から覗き込んでるとある女性の存在には気づいていなかった。
「う~む……。クレアドロンについて3日経ちましたが……怪しい動きはなさそうですねぇ……。ここまで悪事を隠していると本当にしていないんじゃないかと思えてきました」
彼女の名前はイリーナ。きちんとしたフェルミナ教の信者である。
「が、既に情報が出ています。黒なんですよねぇ……」
腕を組み、どうしたもんかと考え込むイリーナ。
「もう少し待ってそれっぽい動きがなかったら、入って直接聞くしかなさそうですねぇ。いやぁ~めんどくさい事になったなぁ」
自分にとっては耳も胸も痛い話だ。神父を捕まえろという命令を受けたからだ。
「捕まえろと指示されたとはいえ、いきなり問答無用というのは、何か違いますよねぇ?」
結局今日も、決断できなかったと嘆き、だからこそここから離れず、ため息をついていた。どうしたものかと……。
「はぁ~困った困った……」
約束のリアライズをどう思いますか?
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作家視点でやるなと思ってみてる
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その他