【完結】♪ぼざキャン△   作:迷えるウリボー

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3話 もうすぐ、寂しくなるな。

 

 

 テント設営班、リン、恵那、ひとり、郁代。奮闘中。

 《結束バンド》が管理棟で借りたテントは年代物で、今時のワンタッチで設営できるようなものとは違う。複数人で設営した方が確実なやつだ。

 キャンプが実質初めての、ついでに言えば女子学生だけの結束バンドで建てるのは心もとない。野クルメンバーやリンがいたのは幸運だった。

 そんな中、設営の手は止めないままリンがひとりに話しかけた。

「そういえば、ふたりは元気?」

 人の数を表す『ふたり』じゃない。後藤ふたり、ひとりの妹のことだ。今は七歳、小学校に通っている。

 ポールの扱いに手間取りながら、ひとりはたどたどしく答えた。

「あっうっうん。お母さんに似て陽キャみたいになったけど」

「へー、美智代叔母さんに」

「とっ時々ふたりの友達が遊びに来るんだけど、幽霊みたいな役にされて……」

「妹にもそんな扱いかよ」

 リンがふたりと最後に会ったのは赤ん坊の頃だ。その頃からひとりの妹だとわかるような顔つきだったから、少なくとも想像は難くない。ひとりの小学生時代を思い浮かべればいい。

 ひとりの小学生時代……。

(やべぇ、死んだ目のひとりしか思い出せねぇ)

 ある意味、従姉妹同士の二人が一番会話に苦心していた。会話するたびに爆発したり溶け崩れたりするから、人間と接している気がしない。まだちくわ──恵那の飼い犬──の相手をする方がコミュニケーションが取れるかもしれない、なんて思った。

「リ、リンちゃんは……すごいね、げっ原付に乗ってキャンプなんて」

「別に。慣れたもんだし。私からすれば楽器ができることの方がすごいけど」

「う、へへぇ」

「え」

 なに、今度は背中から『ホメテほめて褒めて』と言葉が飛び出てる。なんで見えるんだよ。こわ。それが見える私も怖い。

「ギター、か。しかもロックバンド」

「うっうん……中一の時から」

「奇遇だね。私も中一からキャンプ始めたんだよ。ほら、お爺ちゃんから道具貰って」

「そっそっか……」

 二人のお爺ちゃんは、キャンプが趣味だった。いや、趣味以上に精通している。

 家の庭で肉を焼いてくれた。オドオドしながら食べたステーキは熱くて、舌がやけどしちゃって、でも美味しかった。

「なっ懐かしい、ね」

「だね。……あ、ひとりそこのポール挿すところ間違ってる」

「あっごごめんなさいキャンプ場で死刑だけはしないでください処刑だけはぁ……!」

「おいひとり、従姉妹の顔忘れんなや」

 なんだかんだ、話が弾む二人。一方、郁代と恵那は一緒になって写真を撮っていた。

「ハイ、キャンプーッ」

「ハイ、チーズー。え、キャンプー?」

「うん、キャンプ! こういうのを写真に撮るとバエてイソスタも盛り上がるの~!」

「イソスタって、ああSNS! 私たちロインくらいしか使わないからなぁ。喜多ちゃん、本当キラキラしてるねー」

「ありがとうっ!」

 郁代のSNS中毒はやっぱり異端だった。それでも恵那はゆる~く流している。

「キャンプはどう? って言うにはまだ体験時間が少ないか、あはは」

「ううん、普段は都心にいるから、こう大自然! な場所にいると心が洗われるわ……!」

「そう言ってもらえると梨っ子としては嬉しいなぁ。まあ、身延はずっと奥にあるけど」

「身延町にも、キャンプ場はあるのかしら? 大学に行って、余裕ができたら行ってみたいわ!」

「おっ野クルに早速一人メンバーが増えそうだねぇ~」

 久しぶりのアウトドアでテンションがちょっとハイになってる郁代だった。

 そんなこんなで、四人はテントを設営していく。ひとりは不器用な方だし、郁代は結構行動が脱線するので、ちょいちょい監督役の千明が口を挟んでいた。リョウは寝てた。

 調理組の虹夏、あおい、なでしこを除く六人が再び焚火へ戻ってくる。さすがに調理が終わるよりは早い。

 なでしこたちが用意したミニ机、それに虹夏が山田家から借りた──リョウの実家は金持ちでキャンプ道具もあった──大きな机を用意する。それに元々焚火の周りを囲んでいた椅子を持っていけば、完成だ。

 時刻は黄昏時を超えて、空は黒と藍とオレンジと白がグラデーションを作っている。大自然の下のレストランができる。

 さらに、なでしこ、リン、千明──本栖高校メンバーが持っていたランタンを灯せば、ムードもとても幻想的になる。

「やー、いいねぇ、やっぱりこの空気は」

 山中湖、最低気温は6.6℃とはいえ、恵那や千明には苦い経験がある。

 二番手で焚火に戻ってくつろぐ恵那は、寒そうに手を炎にかざした。一番手はもちろんリョウ。

 千明は郁代に聞いてみた。

「なあ、喜多さん。山田先輩ってすげぇマイペースだな?」

「クールでしょー!? すごく、もうすっごくカッコいいんだから!」

「へ、へぇ……?」

 これだけ無口で自堕落そうなのに? いや、無口だからカッコいいのか? 確かに顔はユニセックスって感じで、少なくとも本栖高校にはいなさそうな垢ぬけた雰囲気だけど。

 と、それはともかく。

「えーっと、山田先輩ってどうすれば動いてくれるの?」

「食べ物と音楽なら釣れるわ! リョウ先輩、普段から金欠だから!」

「お、おぅ……」

 郁代のリョウ狂いに引く人間がここにも一人……。

 後ろから虹夏の声が響いた。

「千明ちゃん、だからといってリョウに無駄に尽くすのは禁止だよ? リーダー命令だからね?」

「うぉ!? 伊地知先輩、驚かさないでくださいよ~」

 両手に鍋を持っている虹夏。それだけじゃない、なでしこもあおいも、それぞれ食器や料理をその手に持っている。

 なでしこが朗らかに笑った。

「さあ、みんな。ご飯の時間だよっ!」

 今日のメニューはとにかく豪華だ。

 山中湖の秋なんてとにかく寒くなる。だから体が温かくなるように、鍋系統だったりピリ辛な料理を選んだ。

 調理担当のなでしこは料理好き、しかもソロキャンに行くたびに新しいメニューを考えるような発明家だ。けど、今回は急なキャンプ計画だしそこまでの余裕がなかった。ということで、以前キャンプで作った料理の中から選ぶことにした。

「まずは、いつかの担々餃子鍋だよっ!」

『おお~!』

 歓声は結束バンドに本栖高校、両方から。なでしこが鍋を丸ごとドカンとテーブルへ。赤みグツグツ、香ばしい匂いがとにかく食欲をそそる。

「続いて~ウチと伊知地先輩で~」

「トマトすき焼き鍋~!」

『おお~!!』

 あおいと虹夏も鍋をドンッ! 坦々餃子鍋とは違う赤みと酸味が、やっぱり食欲をそそる。

 ここに赤の帝国が誕生した……! 華の女子高生と大学生(一人はニート)? そんなものは関係ない!

「それじゃあみんなで!」

『いただきまーす!』

 全九人。人も少ない山中湖の畔で、黄色い声で斉唱が響く。

 リンは、まずは坦々餃子鍋から汁や餃子をつまんでいく。

(まずは一口……)

 落ち着いて、息をフーフーして熱を冷ます。そうして口に運ぶモチモチの餃子はそれでも熱い。

「はっ、ふっ……ふっ」

 坦々餃子鍋。それを食べたのは……そうだ、まだ高校一年生の頃だ。しかも、まだなでしことそんなに仲もよくない時だった。富士山を望むことができる麓キャンプ場で、恵那からリンがソロキャンしていることを聞いたなでしこがやって来たのだ。

 急に現れたなでしこが坦々餃子鍋を作ってくれたんだった。

(あの時はソロキャンだけ、なでしことのキャンプもちょっと抵抗あったけど)

 辛さにヒリつく舌を労わりながら顔を上げる。

「あはは、ひとりちゃんトマトで口がべったりだよぉ!」

「あっ、ご、ごめんなさい、かっがみ、原ちゃん」

「なでしこでいいよぉ~」

 ひとりとなでしこがワイワイしていた。ひとりはまだキョドっているけど、困ってはないみたいだ。

「伊地知先輩、なでしこにも負けない料理の腕っすねー! トマトすき焼き、最高っす!」

「ありがと、千明ちゃん! でもこれはあおいちゃんも手伝ってくれたんだよ~」

 両グループの代表が笑ってる。

「山田先輩、どうです? ウチら、犬山家発明のトマトすき焼きは」

「イける……! イケる! 酸味が……! 草よりいい! シェフを呼べ!」

「いやシェフここにいますやん。ていうか草?」

 どこぞのクッキーを食べるゲームに出そうなミニキャラみたくリョウが変形してた。そんなリョウに、あおいはふっつーに接している。

 郁代と恵那もテント設営で距離が縮まったらしい。最初は郁代のペースに戸惑っていた恵那だけど、今では仲のいい友達同士だ。

 リンはふっと笑う。

 一人だったリン。別に本当に独りぼっちだったわけじゃないし、一人の時間が嫌いなわけじゃないけど。

 少なくとも、今この騒がしい時間は、大切な時間だ。

(……もうすぐ、寂しくなるな)

 このキャンプが終われば、結束バンドの四人とはお別れ。

 高校を卒業すれば──

 

 

────

 

 

 食事は楽しく、食後も楽しく。

 たとえ寒くても、その分だけ焚き木の火は暖かい。火であぶったマシュマロをビスケットで挟む──スモアやジュースで宵の口を楽しんでいた。

「そ、それにしても、夜はやっぱり光がなくて暗いですね」

「ひとりちゃん、怖いの……?」

「い、いえ……むしろ落ち着くというか」

「わ、私はちょっと怖いわ……下北の光が恋しくて」

 秀華高校三年生の二人の言葉を、犬山あおい姉は見逃さなかった。

「後藤さん、喜多さん。実はなぁ……」

『え……?』

 あおいの眼が暗かった。

「湖沿いの、まだ外とも連絡の薄い村だった頃、このあたりで女の子が亡くなったんやって」

『……』

 ──元々富士山を望める場所として有名やったから、その子も夜に富士山を見たくて家から抜け出したんやって。たった一人で。そして足を踏み外して湖に落ちて、数日後におぼれた姿で発見されて──

『…………』

 ──それ以降、ここでキャンプする人が、たまーにな? 長い黒髪の女の子を見かけるんやって。ちょうど亡くなった女の子と同じ容姿で。ふらっと深夜に現れては、自分が死んだことも気づかずにふらっと山中湖へ入っていく──

「ところでなぁ」

『な、なに……!?』

「その女の子が亡くなったのは秋──ちょうど今頃なんやって。あ、ほら、山中湖見て? あんなところに女の子が──」

『きゃーーー!?』

「ウソやでぇ」

 千明があおいの頭を叩いた。

「免疫ない人にホラ拭くんじゃねえよ嘘つき姉」

 あおいの口が笑っていた。

 

 

────

 

 

「伊地知さん、晩御飯美味しかったです。ごちそうさまでした」

「恵那ちゃん。ううん、私もなでしこちゃんの料理、ご馳走様でした」

「いえいえ」

「いえいえ」

「ところで、食事のお礼に髪結ってもいいですか?」

 言われて虹夏は自分のサイドテールに触れた。

「お礼……? うん、いーよ。恵那ちゃんそういうの得意なんだ?」

「リン、今日は降ろしてますけど、私がシニヨンにしたりしてるんですよ」

 リンが口を挟んだ。

「許可してねーけどな」

「へぇ、リンちゃんのシニヨン」

「画像ありますよ」

 恵那はスマホを虹夏に見せてきた。今までのキャンプの思い出でもある。

「あ、見せて見せて! 本当だ! リンちゃん可愛い~!」

 虹夏の満面の笑みに、そこはかとなく顔を赤くしたリンだった。

「これは伊豆に行った時の写真で、大室山とか」

「おお~!? 静岡か、行ったことないなぁ」

「これは朝霧高原……クリスマスにキャンプしたんです」

「真冬にキャンプ……!? 楽しいのそれ!?」

 今も似たようなもんだと、リンが心の中で呟いた。

 虹夏からすれば、キャンプというのは完全に非日常で、山中湖みたいな自然豊かな場所も同じくらいの非日常だ。恵那が見せてくれるたくさんの写真は質は違ってもいつかの姉のライブみたいにキラキラして輝いて見える。

「……キャンプ、いいねっ」

「ですよねっ。私も帰宅部だけど、そう思うようになったんです」

「そっかぁ。……あ、髪、いいよ? いつもサイドテールだし、楽しみ!」

「やたっ!」

 恵那の眼が妖しく光った。

 虹夏は恵那のスマホを借りて思い出を楽しみつつ、その後ろで恵那が虹夏の髪をいじる。

 十分後。いい汗をかいた恵那が手鏡を持ってきた。

「完成、しまりん団子二号……!」

「ありがとー……ってなんか頭の上に富士山できてるんだけど!?」

 

 

────

 

 

 大垣千明は考えていた。山田リョウと会話をしたい、と。

 郁代はもう絵にかいたような都会の女子高生。放っといても向こうから会話をしてくる。

 虹夏は結束バンドのリーダーだ。そもそも朗らかで年上とは思えない愛らしさがあるし、少し話せばとても社交的なのがわかる。

 ひとり、リンの従姉妹。人間かどうか疑ってしまうレベルの人見知りだけど、本質的には悪い子じゃないというのが分かった。

 山田リョウだけだ。ひとりを除いて一番《女子》というキャピキャピさから遠いのは。

(しかし、しかしだ。この数時間の攻防はすべて跳ね返された……!)

 最初の会話は、初対面の時のリン以上に会話をする気がねぇぶっきらぼうぶり。それを嘆いて郁代に聞いてみても対処法がよくわからねぇ。

(けど、飯はドカ食いしてた。グルメなのか……?)

 千明に特別な調理スキルはない。レシピがあれば人並みに作れる程度、なでしこや虹夏には負ける。

(それでもなぁ、女には! 逃げちゃいけねぇ時があるんだ……!)

 千明は一時撤退して、テントから目的の道具を取り出すそして焚火には戻らずに一度テーブルに向かった。

 少し経って。満を持して、リョウの隣に再び座った。

 リョウも周りに興味がないわけじゃない。千明が持っている()()を見てわずかに反応する。

 千明は、緊張しつつそれを掲げた。

「山田さん、口寂しくないっすか?」

「……確かに、スモアも満足してきた」

「これ、どうっすか? 私が作ったんです」

「……詳しく」

「自作のノンアルコールカクテルなんです」

 リョウの眼が見開かれた。

「私、キャンプ行くと大体カクテル作りしてて。最初はちょっと失敗したりしたんですけどね。今は結構うまくなりましたよ~」

 千明はリョウのコップを受け取って、元々作っていた小鍋の中の液体を注ぐ。

「これ、サラトガクーラーっす。ご賞味あれ」

 サラトガクーラー。ジンジャーエールの甘さをライムで引き締めた飲みやすいノンアルカクテルだ。

「では一口──」

「……」

 緊張の一瞬。

 リョウは、千明に手を差し出した。

「……! 山田先輩」

「山田リョウ。私の名前」

「それ、もう聞いたっす。でも!」

 リョウの手をがっちりと握る。ここに東京と山梨を超えた友情が──!

「リョウ先輩……!」

「もう一杯ちょーだい」

「はいっ!」

 なーんてことをやってたら、リョウと千明の会話を耳にした虹夏が止めに入ってきた。

「待って千明ちゃん!」

「ん? どうしたんすか?」

「リョウにお酒はだめなんだ! って、もう飲んじゃった?」

「飲んじゃいました。でも大丈夫っすよ~、これノンアルですよ?」

「それが駄目なんだよ! リョウ、昔甘酒で酔っ払ったことがあって──」

「いやいや、そんなバカなことが──」

「いやいや、リョウはバカなんだよ──」

「ロックバンドが陽キャよろしくキャンプ!? おいふざけるな!!」

『酔ってるー!?』

 リョウが正気に戻ったのは十分後だった。リョウは「虹夏の背後に富士山が光ってた」とのたまってた。

 

 

────

 

 

「うーん……やっぱりお酒は人をダメにさせるなぁ」

 富士山ヘッドの虹夏のボヤキを、恵那とあおいは「お酒じゃないんだけどなぁ」と思いながらも話に着き立っていた。

「ああ、そういう人いますよね」

 恵那とあおい、本栖高校のキャンプメンバーからすれば思い当たる人は一人いる。

 虹夏は続けた。

「いるんだよねぇ。知り合いに常に飲んだくれてて金欠で、私の家に入り浸る人が」

「ええ……」

「家に入り浸る、ですか?」

 恵那がちょっと引いた。

「うん。万年金欠のバンドマンでね? お風呂も家無しアパートだし、酔っぱらってない時の方が珍しくて、だいたいライブの機材壊しちゃうし」

「ええ……」

 恵あおいがちょっと引いた。

「鳥羽先生のグビ姉……やばいと思ったけどまともなんだね」

「グビ姉?」

「あ、ウチら野クルの顧問の先生のことです。優しくて、美人で、車も出してくれるいい先生なんですけど……お酒を飲むと途端に」

「きれいな鳥羽先生、さよならって感じなんです」

「うーん、廣井さんは……音楽に関しては頼れるんだけど……でも酔いが醒めるとぼっちちゃん以上に陰キャになるし」

『ええ……』

 恵那とあおいが盛大に引いた。

 廣井きくり。酒好きクズベーシスト。

 鳥羽美波。お酒大好きグビ姉。

 虹夏、あおい、恵那。一応は目上の人を盛大にディする。

 結論。

「お酒は……よくないね」

「ね」

「ウチらも気を付けないとなぁ……」

 将来、野クルメンバーの中から二代目グビ姉が誕生するとも知らずに……。

 

 

────

 

 

 ワイワイ、年頃の女の子たちの話は尽きない。

 それぞれに話し合ったり、時々みんなで一つのことを語ったり。

 ひとりとリンという従姉妹同士がいるにせよ、お互いのグループに社交的なメンバーがいるにせよ、初対面で簡単に打ち解けられるのはある意味、キャンプという非日常の空間だからこそかもしれない。

「ご飯もスモアも食べたし、ノンアルカクテルも飲んだし! 次は何しようかぁ?」

 大喰らいのなでしこが、そうは見えないお腹を撫でて呟いた。

 そんななでしこに郁代が聞く。

「普段、野クルのみんなは何をしているのかしら?」

「グルキャンの時はねー、みんなで映画鑑賞したりー、のんびりティータイムをしたり……」

「なでしこ、それはだめだ」

『え?』

 待ったをかけたのは千明だった。千明の黒縁眼鏡が光っている。グラスの奥の瞳がみえない。

「結束バンドの皆さんがいるんだぜ……『ティータイム』なんて発言はダメなんだ……! 四人が芳醇な文を連ねる編集社に消されちまう!」

「消されねーよ」

 リンが突っ込んだ。どこのヒットマンだ。

 閑話休題、あおいが笑った。

「まあ、実際のところそれぞれ好きなことをやるのが多いんよ、喜多さん」

「好きなこと、ねぇ」

 それは特にソロキャンの醍醐味でもある。リンは読書、なでしこは料理研究、千明はノンアルカクテルに小物づくり。キャンプのまったり時間とは違うけれど、あおいはサイクリング、恵那は犬の散歩、いろいろとのんびりするだけじゃないそれぞれのやることがあった。

 グループキャンプの場合は何かしら企画があることが多い。とはいえ突貫キャンプ決行の九人だ。何か特別な準備をしてきたわけじゃない。

 虹夏が言った。

「喜多ちゃん、こんなところまで来てイソスタなんてしないでよ?」

「う……でも! キャンプですよ!? バエますよ!?」

「私は満足だ。明日はSICK HACKのライブもある」

「てめーはただ寝て食ってるだけだろーが……」

 リョウに対してだけ修羅が生えてくる虹夏。

 ひとりは、特に何も言わなかった。

 そんな中、おずおずとリンが手を挙げた。

「あのさ……それじゃあ」

 結束バンドだけじゃなくて、本栖高校のメンバーも首をかしげる。

 リンの口調の少なさは知っている。高校生活で充分仲良くなったし、リンの人となりも知った。たまに声を出してくれることもある。でも、やっぱりこういう大所帯で率先して手を挙げてくれるのは珍しい。

 そんな、沈黙した空気。リンはちょっと恐縮して、それでもしっかりと口を開いた。

「ひとりの演奏……聴いてみたい」

 沈黙。

 五秒後。

「ゑ」

 ひとりが凍りついた。

 

 

 

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