*ネタバレ注意
話毎に文字数はバラけそうです。切りのいい感じに分けていきたいな
結構がっつりネタバレしていきそうな感じなのでご注意ください
感想とか誤字・脱字報告とか、諸々待ってます
プロローグ 第一話 はじまり
Side:???
夢を見ているような心地だった。とても長い夢。
さて、今となってはどんな夢だったかも思い出せないが...きっと俺に似つかわしいひどく愚かな夢だったのだろう。
「おはよ」
その声に呼応するかのように閉じていた目蓋を開けば眼前には人型の影が学生時代の懐かしさを感じさせる木製の椅子に座り同じく木製の机に頬杖を突きながらこちらを見ていた。
その背後には、いや周囲に目を配れば視線に映る全ての景色が雲一つない快晴の空と鏡のような水面で構成されているのが分かった。
「おはよう、君が今回のマスターかね?」
表情の分からぬ人影が困ったように微笑んだのが分かった。
「うーん...なんというべきかなぁ。呼び出したってことならそうなるんだけどね?マスター、とは違うかもしれない」
「というと?」
人影の言葉を確かめるように自分の今の状態を確かめようと魔力に気を配ってみるが確かに不可思議な契約内容が結ばれていた。
複雑怪奇で摩訶不思議、猫が弄んだ後の毛糸玉のように複雑に絡まった契約は今の私には理解しきれない、と判断して思考を目の前の存在に戻す。
「君にはこれから“ある世界”に行ってもらいたいんだ」
「ある世界、か...」
「うん、本当は僕が行くはずだったんだけどね。代わりに君に行ってほしいんだ」
何故、が溢れるように脳内を覆うが幾たびの年月を経て皮肉屋へとなり果てたこの舌は疑問の解消でなく不満へと向けられた。
「『行ってほしい』とは言うが、そもそも私に拒否権はあるのかね?」
「うん、無いね」
いっそ清々しいまでの断定だった。続ける言葉が見当たらず少しの静寂が訪れてしまう。
「...まぁいい。それでその世界というのは?向こうで契約者となにを成せばいい?」
「なにを成す、か...難しい質問だな。大前提として僕は招かれただけの存在だからね。
あの世界について詳しいわけではないから、成り立ちは勿論だけど結末も知らない。だから...そうだな、あえて言うなら君らしくあってくれればいい」
「私らしく...?ふっ、どうやら君は相当運が悪いらしいな。私のような紛い物の贋作ではなく真の英雄たる彼らを呼ぶことが出来なかったのだから」
私の言葉に表情のない人影は悲しそうに微笑む。
「...意図的に君を呼んだんだ。正確に言えば借りてるだけなんだけど...いや、こんなこと話してる時間は無いな...もっと話していたかったけれど、もう時間だ」
人影の背後から透き通った世界が闇に覆われ始めたのが見えた。
「こほん。別れ時ぐらいちょっとカッコつけてみようかな」
椅子から立ち上がった人影がそう言うと改めてこちらに向き直る。
「抑止の守護者。無銘の弓兵よ」
その言葉に呼応するかのように自分の視界が徐々に暗転していく。
「透き通る世界へようこそ。神秘に満ちた彼女たちの楽園で――
――願わくば君に幸福の日々あらんことを」
すでに視界は闇に閉ざされた。もはや声しか聞こえない。
「...まぁ、休暇みたいなものさ。君からしてみればかなり身勝手な話だろうけどね...あ、そうそう
休暇だからね、ひと時の憩いでも君なら羽目を外し過ぎることはないだろうし...それと、少しだけ
あとは...やべ、もう時間ないか。それじゃあ...いってらっしゃい」
短い邂逅だったにもかかわらず人影、否――彼が優しげに手を振ってこちらを見送る様子がやけに脳裏にこびりついた。
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「『シッテムの箱』へようこそ、先生」
暗転した視界が開けたとき、そこは電車の車内に類似した景色を映していた。
目の前に座る少女以外に人の気配はない。
「私のミスでした。私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況。結局、この結果に辿り着いて初めて、あなたの方が正しかったことを悟るだなんて...」
独白を続ける少女の言葉を、そこに含まれた感情をうかがい知ることはできない。俯いた彼女がどのような表情をしているのか、今の私には分からない。
「...今更図々しいですが、お願いします。先生。きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから...」
その言葉にかつての自分を否が応でも思い出す。どうしようもなく歪で愚かだったあの頃の
こちらが過去に思いを馳せている間にも少女は言葉を続ける。それはきっと、本来であれば私が聞くべきものではなかったのだろう。しかし...
「ですから...大事なのは経験ではなく、選択。あなたにしかできない選択の数々」
聞いてしまったのだ。他の誰でもなく、この私が。
「責任を負うものについて、話したことがありましたね。あの時の私にはわかりませんでしたが...今なら理解できます。大人としての、責任と義務。そして、その延長線上にあった、あなたの選択。それが意味する心延えも」
その過去を私は知らない。それは私に向けられた言葉ではない。それでも...
「...ですから、先生。私が信じられる大人である、あなたになら、この捩じれて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を...そこへ繋がる選択肢は...きっと見つかるはずです。だから先生、どうか...」
「その先の言葉は必要ない」
思わず出てしまった私の言の葉に俯いていた少女が僅かに顔を上げる。そして...その口角を安堵のため息とともに少しだけ歪めた。
...あぁ、愚かだな。本当に自分の愚かさには、ほとほと愛想が尽きてしまう。
あれほど後悔してきたというのに...あれほど絶望してきたというのに...
誰かを救いたいという願いへの憧憬を俺は未だ忘れられないのだ
きっとこの選択を未来永劫、
世界が暗転する