~モモトークwithホシノ~
『先生、明日学校に来てもらってもいいかな?ちゃんと話そうってみんなで結論を出したから』
『承知した。セリカは落ち着いたかね?』
『うん、だいじょうぶー』
『なら良かった。学校には何時ごろに着けばいい?』
『うーん、普段集まる時は10:00には皆いるからそれぐらいかなー』
『了解だ。あまり遅くならないようにな』
『もーおじさんは子供じゃないんだからそれぐらい分かってるよー』
『そうだな。では、また明日』
『うん、またねー』
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アビドスが抱える大きな問題、その一端に僅かに触れた日の夕刻西日に照らされたシャーレの部室でホシノから届いたモモトークに返信を返しつつ考えを巡らせる。
借金問題
一口にそうは言っても、その額や借金の原因によって解決策は異なる。借金を全額返済することで解決する問題ならば額にもよるが、解決は容易な類だろう。
「問題は借金の要因そのものが問題解決の障害となる場合、か...」
アビドス高等学校の現状、アビドス自治区の環境、在校生の人数...現状把握している情報から推測できることなどは所詮、創造の範疇を出ない。まずはより詳細な情報の入手が先決となるだろう。
「それも全て明日には分かることか...」
一度、思考を打ち切り連邦生徒会からの書類の処理を再開する。
「リンやアユム達はちゃんと休めているといいのだが...」
これ以上の量の書類が連邦生徒会で処理されていると思うと、そこに所属している生徒たちのことが心配になってしまう。ちゃんと休みを取れているといいが...
呟きながらも動かし続けた手は宵の口まで続いた。
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翌日アビドスへと向かう道中、ここ数日で見慣れた顔に出会った。
「おはよう、セリカ」
「うっ...せ、先生...」
どこか気まずげな表情のセリカを見て先日のことを気にしているのだろうかと思いはしたものの、あまり取り上げるべき内容ではないかと思い他の話題をあげる。
「これから学校かね?ホシノに教えてもらった集合時間には些か早いように思うが...」
「きょ、今日は私用事があるから!話は先輩たちから聞いて。私は行けないから」
「ふむ...そうか、もしよければ目的地まで送っていくことも出来るが」
大型の二輪にはサイドカーも付いている。これまでの搭乗者は補給用の物資だけだが本来は人を載せるためのものだ。セリカさえ良ければと思い聞いてみるが...
「い、いらない!大丈夫だから!私のことは気にしないで!」
案の定というべきか振られてしまった。これ以上追いかけても機嫌を損ねるだけだろうと考え、進路は変えずそのまま学校へと向かう。
本来の生真面目さとアビドスの抱える問題から鑑みるにセリカの言う“用事”とやらはおそらくバイトだろう。持っていた荷物も特殊なものはなかったし、学生にとっては普通のことだ。
教えてくれなかったのは単に嫌われているか、照れ隠しか...バイト先に知り合いが来るのは人によっては気乗りしないものだからな。前者ではないことを願っておこう。
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アビドス高校周辺の地理が少し気になったので約束の時間までは散策をしつつ時間を潰した。集合時間にいつもの教室へと足を向けてみればセリカ以外は既に揃っていた。
「すまない、待たせてしまったな」
「ううん、時間ぴったりだから」
「ですね。あっそれと、先生セリカちゃんは――「用事があるのだろう?道中で偶然会ってな。聞いているから大丈夫だ」――それなら良かったです。では、早速ですが本題に入りましょう」
アヤネはそう言うとホシノへ視線を向ける。シロコもノノミもそれに倣った。
「うへー、といっても簡単な話...ざっと9億ぐらいかな。この学校、借金があるんだ」
9億。想像よりもはるかに大きな数字に思わず目を見張って固まっていると、アヤネが正確な金額を補足してくれた。
「...正確には9億6235万円、ですね。それが私たち対策委員会が返済しなくてはならない金額です」
「...ま、額が額だからさ。完済できる可能性は限りなくゼロに近いんだよねー...それでほとんどの生徒は諦めて、学校や町を捨ててどっか行っちゃったってわけ」
「ん、そして私たちだけが残った」
「アビドスの多くの問題、廃校の危機や生徒の少数化、町のゴーストタウン化も全てこの借金が大きな原因です」
「...その金額から察するに何か要因となる事情があったのだろう?それを教えてくれないか?」
「それは...数十年前に起こったアビドス自治区郊外の砂嵐です」
「砂嵐か...」
「はい、元々この辺りの地域では以前から頻繁に砂嵐が起きていました。
ただ、その時の砂嵐はその中でも想像を絶する規模のものだったようで、学区のいたるところが砂に埋もれ掘り出すことも出来ずに砂がたまり続けてしまったんです」
「その砂嵐の後始末とか、そもそも砂嵐自体を克服するためにアビドスは多額の資金を投入するしかなかったんだろうねー...それがたとえ多額の借金をすることになったとしても...ま、現状を見てもらえばわかる通りこんな片田舎の学校じゃ、そもそも銀行の融資すらまともに出来なくてね」
「結局、悪徳金融業者を頼るしかなかった」
「きっと、当時のアビドス高校の生徒さんたちはすぐに返済できる算段だったんだと思います。ですけど、砂嵐はその後も毎年その規模を大きくするばかりで...」
ホシノの言葉の続きをシロコが引継ぎ、ノノミは当時の生徒会を責めないようにと言葉を紡ぐ。
「学校の努力も虚しく、借金は手が付けられないほど悪化しちゃったんだよねぇ...そしてついに、アビドス自治区の半分以上が砂に呑まれ、それと同じように借金もみるみる膨れ上がっていった、ってわけだねー」
『......』
誰もが口を噤む中、少しでも場の雰囲気を明るくしようと思ったのだろう。アヤネが私の支援に対して感謝を述べてくれた。
「先生がいらっしゃってくれたのは本当にありがたいタイミングだったんです。私たちの力だけでは毎月の利息を返済するので精一杯で...弾薬も補給品も、底をつく直前でしたから」
「セリカが昨日、あんな態度を取っちゃったのはこれまで誰もこの問題にまともに向き合ってくれる大人がいなかったから。話を聞いてくれたのは、先生が初めてだった...ありがとう」
「礼を言われるほどのことでは...いや、やはり受け取っておこう。そしてこちらこそ、部外者の私に詳しい事情を話してくれてありがとう」
「うへー...まぁ、どこにでもあるありふれた話だよ。先生のおかげもあってヘルメット団っていう厄介な問題は片付いたからねー。これからは借金返済に全力を注げるようになったよ。私からもありがとねー」
「本当に助かりました」「ですねー☆」
「借金のことは気にしないでいいからね。セリカちゃんじゃないけどさ、これは私たちの問題なわけだし...話を聞いてくれただけでもありがたいことだからさ」
「ん...そうだね。先生はもう十分力になってくれたから。これ以上迷惑はかけられない」
「迷惑、か...」
セリカやホシノの言う通り、私はまだ出会ったばかりの部外者なのだろう。きっと私は、まだ彼女たちの苦労を半分も理解できていない。その苦難を、寂寥を、不安を...理解するにはまだ時間が足りない。
「そうだな...たしかに私が役に立つことは難しいのかもしれない」
「...」
だが、それは彼女たちも同じだ。
「今の話を聞いて、キミたちの苦悩のすべてを理解ったなどとは口が裂けても言えない」
「......」
落胆、あるいは「そうだろうな」という諦観か...曇った表情を向け、俯く少女たちにそれでも言葉を続ける。
「だが...」
「...?」
「それは私が手を差し伸べない理由にはならない」
風向きの変化を感じ取った少女たちが真っ直ぐにこちらを見つめる中、私はかつての理想に思いを馳せていた。
「...!それって」
誰もが幸福であって欲しいという夢物語。自己犠牲により他者を救うという考え。
「“先生”としてまだまだ未熟な私にも譲れないものはあるという事だ。ここで君たちの問題に見て見ぬフリをしてしまっては私はもう先生ではなくなってしまうだろう」
一度は折れた理想だ。足掻き続けた成れの果て、砕け散り露と消えたはずの
「へぇ、先生も変わり者だねー。こんな面倒ごとに自分から首を突っ込むんだ?」
「事情など関係ないさ。そこに困っている生徒がいるならば助けることに迷いなどありはしない」
かつて得た“答え”を思い出す。
「改めて言っておこう、アビドス対策委員会。私が
「...そこまで言ってくれるんだね。ならこちらこそ、よろしくね先生ー」
「ん!ありがとう先生」
「うふふ♪セリカちゃんも喜んでくれると思います♪これからもよろしくお願いしますね先生?」
「はいっ!よろしくお願いします、先生!」
今日、俺はアビドス対策委員会の一員となった。
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「よっしゃ、それじゃ湿っぽい話はここまでにしてお昼食べに行こ」
「いいですね~先生は何か食べたいものとかありますか?」
「ふむ、もうそんな時間か。この辺りの店にはまだ疎くてね、良ければオススメを教えて欲しい」
「それじゃあそこだね」
「あっ!柴関ラーメンですね?あそこ美味しいですもんね」
「よーし、しゅっぱーつ」
空腹を促し、より美味しくラーメンを食べるためにと徒歩で目的地へ向かう。それほど離れていない立地というのもいい。
もしかしたらアビドスが正常に運営されていた頃から親しまれていた店なのかもしれないな、と想像を膨らませながら歩を進めると十数分ほどで目的地に辿り着いた。
パット見た外観の印象は親しみやすさを抱かせるものだった。個人営業のお店なのだろう。広すぎず狭すぎず、いい塩梅の規模感で所々に年季を感じる。
ただ、それがマイナス要素になっているかというとそうでもない。むしろ親しみやすさに一役買っているように思える。お昼時故か中には複数の客の気配があり、ここがアビドスという事を考えれば十分に繁盛しているのではないだろうか。
高まる期待感を胸に暖簾をくぐった。
「いらっしゃいませ!柴関ラーメンです!何...名、様で――」
「5人で~す☆」
「あはは...セリカちゃん、お疲れさま」
「お疲れ」「おつかれさま~」
そこにはバイトの制服に身を包み、溌溂と仕事に精を出すセリカの姿があった。
「み、みんな...どうしてここに...!?先生までいるし...!」
もしかしてストーカー...?と小さく呟かれた言葉に念のため訂正しておく。
「あらぬ誤解だ。今はお昼時だからな、みんなにお勧めの店を聞いたらここを教えてくれた。それだけさ」
「そうだよー。ま、セリカちゃんのバイト先と言えばここかなって思ってね。話し合いも終わったしセリカちゃんの様子でも見に行こうかなーって」
「ホシノ先輩の仕業かぁ...!もーっ!」
そんな風に店の入り口付近で騒いでいると厨房から二足歩行の犬の大人が現れた。
「アビドスの生徒さん達だな。セリカちゃん、お喋りはそれぐらいで注文頼むわ」
「あ、はい!...うぅ、それでは席にご案内します...こちらへどうぞ...」
案内されたのは四人掛けの大きめのテーブルだった。四人で使うには十分だろうが、こちらは五人。少々手狭に感じるかもしれない。
とはいえ、決して故意の嫌がらせではない。単純にこの店で一番の大きなテーブルのサイズがこのサイズだったというだけの話だ。
「はい!先生、こちらへどうぞ。私の隣、空いてますから」
「...ん、私の隣も空いてるよ」
ほとんど同時にノノミとシロコが声をかけてくれるが、二人とも少し強引に席を詰めてくれたようだ。ありがたいが、食事の邪魔になってはいけないからな。ここはもう一つの手段を取ろう。
「わざわざ詰めてくれたのはありがたいが食事の邪魔になってはいけないからな。セリカ、使ってない椅子を一つ借りてもいいかな?」
「今、持ってくるから」
「ありがとう」
通路の邪魔になることもなさそうだったので、テーブルの側面に椅子を置いて場所を確保することにした。
「もぅ...遠慮しなくていいのに」「むぅ...」
少しだけ不満げな二人の表情が印象的だった。
唐突ですが、エミヤの過去回想描写をもっとかっこよく書けるようになりたいです
具体的には、読んでる最中にLast Stardustとか脳内再生されるような表現力が欲しいですね(´・ω・`)