運ばれてきた
ホカホカと立ち上る湯気
白濁したスープの隙間からこちらを覗き見る麺
視界に大きく居座るチャーシュー
濃淡のはっきりした黄味で食欲を刺激する半熟卵
「いただきます」
食への感謝を胸に、いざっ――!
「っ!」
美味い――長ったらしい解説など不要。そんなものを挟む暇すら与えはせんと視覚が、嗅覚が、なによりも味覚が箸を次なる旨みへと導く...!
記憶の限り幾年ぶりとなるラーメンだろうか...
しかし、未だキヴォトスへと召喚されてひと月程度しか時間が経過していないこと。親交が深い生徒たちに気遣いのできる生徒が多くいてくれたことが幸いして、これまでは健康を重視した食事を取ることが多かった。
故にこそ、久方ぶりのラーメンは“沁みる”のだろう。
ズズッ...ズズッ...ゴクッゴクッ...
「...ふぅー。ご馳走様でした」
『......』
止まらぬ箸に身を任せ、気づけば空となった皿を机に置いていた。食卓を囲むみんなが静かなことに気づき、何かあったかと首を傾げる。
「どうかしたかね?...何かマナーなどに至らないところがあっただろうか?」
「いえいえ!そんなことはっ」
「うふふ♪先生がと~っても美味しそうに食べるのでつい、みんなで見入っちゃったんですよね~」
「うんうん、先生いい食べっぷりだったからさー。おじさん達目の前にラーメンあるのにお腹空いちゃったぐらいだもん」
「美味しかった?」
「あぁ、久しぶりに食べたという贔屓目を抜きにしても店主のこだわりを感じる逸品だった。美味しく頂かせてもらったとも」
「それはよかった。じゃあ、おじさん達も改めて食べよっか?」
『いただきまーす』
アビドスの皆は思い思いに麺を啜り、頬を緩ませながら会話を弾ませる。その様子を私は静かに見守りながらお冷に口を付けた。
#####
「セリカちゃん、休憩入っていいよ。賄い出すからせっかくならアビドスの生徒さん達と一緒に食べな」
「えっと、でも...」
「一通り昼の客は捌き終わったからな。遠慮せず休んでくれ」
「ありがとうございます!大将」
椅子を持って私と対になる位置に腰を落ち着けたセリカは「いただきます」と嬉しそうにラーメンを啜り始める。その様子を見てノノミが声をかける。
「それにしても...セリカちゃん、バイトのユニフォームとっても可愛いですね~☆」
「そうだねー。セリカちゃん、もしかしてユニフォームでバイト決めたのかな?」
それを聞いて慌てた様子で否定するセリカ。
「ち、違うからっ!ユニフォーム関係ないしっ!ここが行きつけのお店で偶々バイトを募集してたから...」
「はいはい、そういうことにしといてあげるー」
「バイトはいつから始めたの?」
「い、一週間ぐらい前...」
「あぁ...!たしかに、ちょうどそのぐらいの時期から学校に来る頻度が減ってましたね~。バイトだったんですね!セリカちゃん、偉いです☆」
「も、もういいでしょ!ズズッ...ズズッ...!やっぱり美味しい...!」
このままバイトについて根掘り葉掘り聞かれてはたまらないと少し強引に話題が変えられる。
「ところで、みんなお金は大丈夫なの?もしかして、またノノミ先輩に奢ってもらうつもりなんじゃ...」
「私は全然かまいませんよ?カードの上限にはまだ余裕がありますから☆」
「いやいや、いつもノノミちゃんにご馳走になるわけにもいかないでしょ。そ・れ・に?きっと、生徒想いの先生が奢ってくれるはず。だよね?先生ー」
「生徒に奢られるのも、生徒と割り勘にするのもたしかに少しばかり格好がつかないな。問題ないとも、元よりそのつもりだ」
「うへへー、さっすが先生。頼りになるぅ」
「先輩、最初からこうするつもりで柴関ラーメンに誘ったんですね?もぅ...」
「ん、先生ご馳走様です」
「...先生、こっそりこちらでどうぞ」(ボソッ)
「学生が変な心配をするんじゃない。大丈夫だ」
「えっと...でも...」
こちらを心配してくれるのはありがたいが、金銭に関してはむしろ使い道に困っていたところだ。生徒の為とあらばこちらも気持ちよく散財できるというもの。
それでもなお、こちらに視線をやるノノミを諦めさせるあために少し強引に話を切り上げる。
「さて、それでは皆食べ終わったしいつまでも長居しては店に迷惑をかけてしまうからな。お暇させてもらうとしよう」
会計に向かうと店主の柴の大将がわざわざ厨房から出てきて対応してくれた。
「大変美味しかったよ、店主。今後もぜひ伺いたい」
「口にあったようで何よりだ。今度来たらもっとサービスしてやるからよ!...あの子たちのこと頼んだぜ」
「無論、言われずとも」
年季の入った暖簾をくぐり外に出る。満腹感のせいか、アビドスの乾いた空気さえ心地よく感じる。
「ゴチでしたー、先生」「ご馳走様でした~」「お腹いっぱい」
「もぅ!次は私のシフトが無い時に来てよね!」
「あ、あはは...セリカちゃん、また明日ね」
プンスカと分かりやすく機嫌を損ねたセリカを宥めつつ解散する。生徒たちがそれぞれの帰路につくのを見送った後、アビドスの問題について早速現状でできる事を探すために動き出した。
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Side:黒見 セリカ
「お疲れ様でしたー!」
「あいよ、お疲れさん」
夕日が沈み、辺りが暗闇に包まれる頃柴関ラーメンでのバイトが終わって私は荷物を手に帰宅していた。
「はぁ...やっと終わったぁ...今日はなんだかいつにも増して疲れたわね...」
ホシノ先輩にはあらかじめ相談してたこととはいえ、まさか皆でバイト先にご飯を食べに来るだなんて...
「騒がしいったらありゃしないんだから...」
先生も一緒だったし...借金について話した後であれだけ仲良さそうにしてたってことは、きっと先生は手伝ってくれるつもりなんだろうけど...
「ふん...そんなあっさり私たちの仲間になろうだなんて、そう簡単にはいかないんだから...!」
みんながどう思おうと私はそう簡単に折れたりしない。それなりに時間が経てば先生だって他の大人たちと同じように尻尾まくって逃げるに決まってるんだから...!
そんな風に一人決意を固めているセリカの背後で複数の影がひっそりと蠢いていた。
「...アイツで間違いないな?」
「...はい。アビドス対策委員会のメンバーです」
「分かった。全員、戦闘準備だ。次のブロックで捕獲する」
#####
「...そう言えば、この辺も結構静かになったなぁ。前はもっと人がいたのに...治安も悪くなったし、このままじゃやっぱり駄目ね。もっと私たちが頑張らないと...」
昔の賑わいを思い出し少しの間、感傷に浸る。目下最大の問題である9億円以上の借金を解決すれば寂れてしまった街並みもいつか活気を取り戻すと信じて決意を新たにする。
「学校を立て直したら...きっと、入学してくれる在校生も増えて徐々に人も戻ってくるはず。とりあえず今月のバイト代が入ったら、まずは借金の利息に充てて...」
これからの計画を脳内で練っていると、周囲からガタガタと物々しい足音が響いてあっという間にヘルメットの集団に囲まれてしまった。突然の事態への焦りから威嚇するように声を上げる。
「!?...なによ、あんたたち!」
「黒見 セリカだな?大人しくついてこい、そうすれば痛い目を見ずに済む」
「はんっ...カタカタヘルメット団の残党ね?まだこの辺をうろつく度胸があったなんてね...ちょうど良いわ。今虫の居所が悪くてストレスを発散したかったところなの」
こちらの態度に戦闘を予感したヘルメット団が装備を構える。
「二度とこの辺りを歩けないようにしてあげるッ!」
リーダーと思しき人物に向かって一歩踏み出した直後――
ダダダダダダダダダダダダッ!!
背中に強烈な衝撃を感じ身体が硬直してしまう。
(くっ...後ろにも敵が...!?こいつら、最初から待ち伏せして私を...!)
「おかわりだ。確実に意識を奪ってから捕獲する。Flak41改を出せ」
「了解です」
(ちょ...!流石に食らったらヤバい!急いで逃げないと...!)
しかし、時すでに遅く身に迫る危険はすぐそこまで迫っていた。目前に迫った砲撃に自身の敗北を悟り、せめてもの足掻きとして衝撃に備えるために目をつぶる。
ドゴーーーン!!ブシュゥゥゥーー!!
爆発音が辺りに響き、続くように辺り一帯を煙が包む...だけど、不思議なことに予想していた衝撃に襲われることはなく五体満足で私はその場に立っていた。
「...?なにが――」
目を開いて最初に目に入ったのは黒と赤の背中。それは、ごく最近見る機会の増えた変な服装の大人の背中だった。
「遅くなってすまない、セリカ」
「な、なんで...?」
右手に持たれた先生の身長と変わらない大きさの真っ黒な十字の盾がその堅牢さを誇示するように月明かりに照らされて金属質な光沢を魅せている。
煙が晴れて相手もこちらの様子に気づいたのだろう。驚愕の声を上げている。
「いやなに、もう暗くなる頃合いだろう?だから夜遊びをする不良生徒がいないかと個人的な見回りをしていたところだったのさ。
それで近くを通りかかったところ、銃声が聞こえてきてね。慌てて駆け寄り現在に至るわけだ」
「そんなこと言ったって...あっ!それよりも!怪我してないの?!
「安心してくれたまえ。この程度造作もない。話しただろう?私の正体については」
そういえば、魔術がどうのこうのと言っていたのを思い出す。見た感じ怪我もなさそうだし、先生がそう言うなら今はひとまず置いておこう。
「さて、向こうの狙いはセリカのようだが...誘拐して何をするのが目的だったのか。素直に話してくれると助かるのだがね」
「そんな奴らだったらそもそも奇襲なんて仕掛けてこないでしょ!さっきは油断しちゃったけど、もうあったま来た!許さないんだから!」
「火力面はセリカに任せよう。どんな境遇や理由であれ、私は生徒に武器を向けることはできないからな」
「ふんっ...!任せてよね!」
先生としての矜持だか何だか知らないけど、そんなハンデみたいなことして大丈夫なのかしら...?そう思ったけれど...
「その代わり、盾は任せろ。銃弾一つ通さずに護り切ってみせる」
その言葉が、その姿勢がなんだかすごく頼りになるものに見えて...少しだけ、ほんっとうに少しだけ信じてもいいのかな...って感じちゃった。
「...ふん、精々怪我しないように気を付けてよね...」
頬が少し熱いのを無視するためにヘルメット団に向けて愛銃を構える。困惑したままのヘルメット団を強引に突破して囲いから抜け出す。流石に相手も焦ったのか慌てて銃を構えなおしている。
「隊長...!どうしますか?!」
「くっ...黒見 セリカの方に攻撃を集中しろ!大人の方は足を狙え、殺すなよ!」
「了解しました!全員、撃てぇ!」
ダダダダダダダダダダダダッ!!
銃弾の雨が一斉に降り注ぐ。このままじゃダメだと障害物を探すために思わず足を止めてしまう。
(しまった...!)
襲い来る衝撃に耐え抜くために体を丸めようとした瞬間、先生が私の前に出て全身が隠れるほど大きな盾を軽々操り銃弾の雨を凌ぎ切った。
私の射線を確保しつつも言葉通り銃弾一つ通さないその堅牢さにホシノ先輩の面影を感じた。
「どうやらあちらは一斉掃射で押し切るつもりのようだ。リロードに合わせて削っていこう。できるな?」
「当然でしょ!舐めないでよね!」
#####
数分か数十分か、あるいはそれ以上か...正確な時間は分からないけれど携帯していた銃弾が底を尽きる頃、襲ってきたヘルメット団は全員地面に転がっていた。
「ハァ...ハァ...や、やっと...終わったぁ...」
思わず地面に座り込んで荒い息を整える。思った以上に数が多かった。先生が防御に徹してくれたおかげでこっちに大した怪我はないけど...多勢に無勢、火力が少し足りなかった。
「大丈夫か?セリカ」
あんなに重そうな盾を振り回して的確に銃弾を防いでいた先生はなぜか、私よりもピンピンしていた。その余裕のある表情になんだか無性に腹が立って、つい言葉が荒くなってしまう。
「私なんかより自分の心配しなさいよね!勝手に飛び込んできてさ、危ないじゃん!」
「危なかったのはセリカの方だろう?戦闘直後で興奮しているのは分かるが、少し落ち着きたまえ」
何を思ったのか、安心させるようにポンポンと頭を撫で始めた先生にピシリと身体が固まる。
「ホシノ達には連絡済みだ。疲れているところ悪いが、このまま一度全員で集合して無事を教えてあげてくれ」
「せ、先生は...?」
「心配せずとも傍にいるさ。全員を無事に返したら私もシャーレに戻ろう」
「べっ!別に、心配なんてしてないんですけど!」
「フッ、あぁそうだな」
「うぅ...!」
何を言っても口では勝てない気がして私は黙り込んだ。
感想にてFateにおける「神秘」とブルアカにおける「神秘」は別のものですよ、と教えていただいた方がいらっしゃっいました。感想ありがとうございます。一応その辺りは存じております。
そして、少しばかり本作における神秘の扱いについて補足をさせてもらいます。
自分も完全に理解しているわけではないのですが、同じ『神秘』という単語が使われているのは面白い共通点だと思います。なので、2作品の『神秘』には“互換性がある”と解釈していただいて本作を愉しんでいただければ幸いです
それと、私用により2週間ほど更新できなくなると思われます。【FGO×呪術】の方は更新するのでそちらを見てくださっている方はそちらでお会いしましょう
...ひと狩りいってきます(ボソッ)