透き通る世界の無銘の弓兵   作:矛盾ピエロ

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お姫様救出のその後

 

 月明かりに照らされ夜闇の静けさに包まれた校舎内。普段なら人のいない時間だが...夜が更ける頃にも関わらず校舎の一角、保健室の明かりが煌々と周囲を照らしていた。

 

「セリカちゃんっ!」

 

「わ、わわっと...アヤネちゃん!?」

 

 アヤネがセリカの無事を確認した瞬間、勢いよく抱き着いた。ホシノやシロコ、ノノミもセリカが襲撃を受けていたことを聞きつけ大急ぎで保健室へと集まってきてくれていた。

 

「よかったぁ...」

 

「もぅ...おおげさだよ」

 

「うへ~...いやいや大げさじゃないでしょー?ホント先生から連絡を受けたときは口から心臓が飛び出るかと思ったよぉ」

 

 普段通りの態度を貫いているホシノだったがその瞳からは安堵の感情が隠しきれていなかった。まぁそれは、この場にいる全員に言えたことかもしれないが。

 

「無事でよかった」

 

「本当にそうですね。まさか、バイト終わりを狙ってくるなんて...先生、セリカちゃんを助けてくれて本当にありがとうございました~」

 

「偶然だったが間に合って良かった」

 

 再会を喜び合っているアヤネとセリカの邪魔をしないように少し離れた位置で見守っていると本日何度目かのノノミからの感謝を受け取った。それに続くようにホシノが言葉を続ける。

 

「んー...にしてもホント、すごい偶然だねぇ。結構早い時間に別れたはずだけど...あんな時間になにしてたのさ?」

 

 しかし...その言葉には、少しばかりの疑念が生じているようにも感じた。

 

「これでも一応先生だからな。先生らしく夜間の見回りでもしてみるかと思っての行動だったわけだが...いやはやまさか、見回り初日から事件に遭遇するとは思わなかったよ」

 

「先生、運がいいんだね」

 

 シロコは褒めてくれたが...あまり持ち前の運の良さには自信が無かったので困ってしまい苦笑する。

 

「...どうだろうな。自前の幸運には全く期待できないと結論を出しているんだが...きっと、セリカの運が良かったのだろう」

 

「ふーん...なんにせよ、ありがとね?先生にとっては巻き込まれて散々かもしれないけど、セリカちゃんを助けてくれて本当にありがとう」

 

「私から巻き込まれに行ったんだ。だから気に病む必要はない。感謝はありがたく受け取らせてもらうがね」

 

「うへーまるでお伽噺の王子様みたいな台詞だねぇ。アビドス(うち)のお姫様もイチコロかなー。これは」

 

 私の発言を聞いてある程度納得する要素があっただろう。鎌首をもたげていた疑念はなんとか解消されたようで、先程よりも幾分和らいだ表情でホシノはそう続けた。

 

「フッ、光栄なことだが私には少々過ぎた役割だな。お転婆なお姫様にはもっと優しい勇者が必要だろう」

 

「ちょっ!誰がお姫様よ!」

 

「おや~?誰もセリカちゃんのことだって言ってないんだけどな~?」

 

 ここぞとばかりに弄りに行くホシノ。

 

「はっ!?ちょ、そ、それは...!」

 

「ん、セリカ顔真っ赤」「あらあら~セリカちゃんったら」

 

 後輩想いの先輩たちもどうやら止める気はないらしい。

 

「くっ...!」

 

「あはは...皆さん、それぐらいにしておきましょう?セリカちゃんも疲れてるでしょうかし...無事も確認できましたから、今日のところは解散しましょうか」

 

「そうだねー。それじゃセリカちゃん、今晩のところは保健室(ここ)でしっかり休んでねー...もし寂しかったり怖いならおじさんとお泊り会をしてもいいけど?」

 

 宥めるアヤネの言葉に全員が同意して帰宅の準備を始める。辺りはすっかり暗くなっているが大丈夫だろうか、と考えているとどうやらセリカも同じ気持ちだったようで...

 

「誰が寂しがりよっ!大丈夫だし!...みんなも夜道に気をつけて帰ってよね」

 

「うん」「は~い☆」「えぇ」

 

「そんじゃねー」

 

 4人を見送ったら自分も見回りに戻るか、と続いて保健室を出ようとしたところでセリカに呼び止められる。

 

「せ、先生はちょっと待って...言いたいこと、あるから」

 

「?...あぁ、分かった。皆を見送ったら戻ってこよう」

 

「ん...」

 

 4人を見送って保健室へと戻ると、ベッドに横たわり窓の方を向いたまま動かないセリカがいた。

 

「...セリカ?」

 

 一瞬、すでに寝ているのかと思ったがどうやらちゃんと起きているようだ。こちらの声に反応しつつ、それでも窓の方を向いたまま普段からは考えられないような慎ましさを多分に含んだ声でセリカは話しを切り出した。

 

「...その、えぇっと...そういえば、ちゃんとお礼、言ってなかったなって...思って...その、ありがと...色々。この借りは、いつか返すから」

 

「フフッ」

 

「!...な、なによ!笑うことないでしょ!?」

 

 まさか正面切って感謝の意を示してくれるとは思っていなかったため驚きと喜びで思わず口角が緩んでしまった。ただ、セリカからしてみれば感謝を嗤われたように感じてしまったようで、急いで誤解を解く。

 

「あぁ、いや...すまない。決して馬鹿にしたわけではないんだ。ただ...そうだな。子供の成長の速さに少し驚いてしまっただけさ。すまない、そしてどういたしまして。借りだとは思っていないが、どんな風に返してくれるのか楽しみに待つことにしよう」

 

「...ふん。それだけだから...おやすみ」

 

 なんとか納得してくれたのか、それ以上話を続けることはなく背を向けたままセリカは話を切り上げて眠ってしまった。ただ、ピコピコと嬉しそうに動く耳が見えていることは...おっと、これは言わない方が吉か。

 

「あぁ、おやすみ。よい夢を」

 

 ガラガラと立て付けの悪い扉を開け保健室を後にする。夜半の暗闇の中、外へ出るために校舎の中を歩く途中、ふと立ち止まり独り言を呟くように言葉を零す。

 

「今日のところはこれ以上の襲撃はないはずだ。私も警戒しておく...だから君も今晩くらいはしっかりと休みなさい。明日からもみんなとアビドスを守るために」

 

「...」

 

 暗闇の向こう、当然の如く返答は無かったが気にせず歩き出した。

 

 

#####

 

 

 セリカ襲撃から一夜明けた本日はセリカの体調を慮ってか、休日になったとモモトーク経由でアヤネから連絡があった。こんな風に融通が利くのは授業が個別の学習用BDで済むことの利点だろう。

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 アビドスへと顔を出すはずだった時間が丸々空いてしまい、どのように時間を使おうかと考えた結果...連邦生徒会へと顔を出すことにした。

 

「およ?先生じゃん。どしたの?こんな時間に」

 

 連邦生徒会が活動している高層タワーに足を踏み入れて真っ先に出会ったのはモモカだった。相も変わらず片手は明太子味のスナックで占領されたままロビー付近のソファで一人ゆっくりと寛いでいた。

 

「モモカか。少し時間が空いてしまったのでね、リンやアユムの様子を見るついでに調べたいことがあって来たところだ」

 

「ふぅーん...二人とも忙しそうにしてたよ?早く行って労ってあげたら?」

 

 伝えた用件に自分は関係ないと思ったのか、ついさっき見たばかりの二人の様子を教えてくれる。しかし、今回の調べ物に一番向いているのはモモカなのだ。ここは少し手伝ってもらうとしようか。

 

「そうだな...そういえばモモカは交通室の室長をしていたんだったか」

 

「まぁそうだけど...なに?イヤーな予感がするんだけど...」

 

 話の流れが変わったことに片眉をしかめるモモカ。しかしもう遅い。

 

「少し調べ物を手伝ってくれないか?交通関連で知りたい情報があってな。すぐ済むとは思うんだが...」

 

「えー...」

 

 案の定、渋るモモカだがそれは予想通りだ。当然、こちらもタダで手伝ってもらうつもりはない。労働には正当な対価が必要だからな。

 

「もちろん、タダでとは言わないさ。この前立ち寄った店でモモカの好きそうなお菓子を見つけたからそれを報酬にするのはどうだろうか」

 

 そう言って差し入れとして持ってきていた大きめのバッグから取り出したお菓子を見た瞬間、それまでの気だるげな表情が一気に吹き飛んだ。

 

「そ、それは...!パリパリチップの冬季限定:旬の特別明太子味!えっ?なんで?!わざわざ店先に出向いてまで探しても全然在庫確保できなかったのに!」

 

 偶然立ち寄った店で見つけた時に限定の文字に惹かれ、モモカへの差し入れにと思って買っていたわけだが...どうやら大当たりを引いたようだ。それにしても明太子の旬が冬だったとは。

 

「?...まぁ、運が良かったのだろう。記載されている賞味期限にも問題はない...それで?どうだろうか?」

 

「ぐぬぬ~...ま、いっか。も~ホントにちょっとだけだからね?」

 

 それでも面倒ごとの気配に渋っていたモモカだったが最終的には折れて調べ物を手伝ってくれることになった...まぁ、手伝ってくれずとも渡すつもりではあったのだが。それは言わぬが仏というやつだろう。

 

「あぁ、ありがとうモモカ」

 

「ほいじゃ、さっさと済ませよっか。ついてきてー」

 

 促されるままに交通室に入り目的の情報を探す。時間と場所が分かっていたのも良かったが、それと同等以上にモモカが手伝ってくれたのはやはり大きかった。おかげで探し物はすぐに見つかった。

 ただ少々アクセス権限の敷居が高い情報だったようでリンに見つかったら説教されかねないものだったことだけは誤算だったが...見つからないことを祈っておこう。

 

「ふぅ~ん、先生今アビドスで仕事してるんだ?大変だねぇ。めっちゃ暑いでしょ、あそこ」

 

 パリ...パリ...

 

「否定はできないな。だが、これでも暑さには耐性がある。心配してくれてありがとう」

 

「ホント、体調には気を付けてよねー。先生が倒れちゃったら私たちにしわ寄せが来るんだから」

 

 パリ...パリ...

 

「それは困るな...ところで」

 

 パリ...パリ...

 

「ん?」

 

 パリ...パリ...

 

「ちゃんと栄養に気を使った食事はしているのかね?報酬を早速開けて...それでは昼食が入らないだろう...」

 

 ちょくちょく連邦生徒会には顔を出しているが、モモカに会った時はいつもお菓子を口にしている。あまりに乱れた食生活に少しばかり小言が出てしまった。

 

「お母さんじゃないんだから...お小言はノーサンキューだよー」

 

「はぁ...とにかく助かった。今度はお菓子だけじゃなくお弁当でも届けようか?」

 

 こちらの言葉にそれでもモモカはお菓子を要求する。

 

「ダーメ。お弁当作ってくれるくらいなら、その分お菓子買ってきてよ...あ、できれば明太子味ね」

 

「ブレないな...善処しよう。改めて助かった、では私はアユムとリンの方にも顔を出してくるよ」

 

「はーい。またねー」

 

 大事そうに明太子味のチップスを味わうモモカを見て食生活の不安は払拭できなかったが、とりあえず他の面々にも手伝えることが無いかと声をかけるため交通室を後にした。

 

 




(個人的)原作準拠の二次創作あるある:原作展開から少しズレると筆止まりがち
まだまだ勉強不足で申し訳ない(;´д`)

楽しんでいただけたら幸いです
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