燦々と輝く日差しが今日もアビドスの砂に塗れた街並みを照らしている。カラッとした暑さにも慣れてきた今日この頃、アビドス対策委員会のメンバーは定例会議と題して学校の借金問題への解決策を話し合うために集まっていた。
「それでは、アビドス対策委員会の定例会議を始めます。進行は私、
「は~い☆」「もちろん」
「あたしはいつも真面目にやってるんだけど...」
「まぁまぁセリカちゃん。とりあえず先生もよろしくねー」
「あぁ、ただ良案についてはあまり期待しないでくれ」
「早速議題に入ります。本日の議題は主に二つ。一つ目は先日のセリカちゃん誘拐未遂について。二つ目は私たちが抱える最大の問題『学校の負債をどう返済するのか』についてです。
セリカちゃんの件に関しては先生から追加情報があるようですので後ほど詳しく話していただきます。まずはアビドスの借金問題について話し合っていきましょう。ご意見のある方は挙手を」
「はい!はい!」
勢いよく挙手をするセリカに視線が集まる。
「はい、1年の黒見さん。お願いします」
「...あのさ、やっぱり名字で呼ぶの、やめない?なんかぎこちない気がするんだけど」
「でも、せっかく先生もいらっしゃる会議ですし...」
「たまにはいいじゃーん?おカタ~い感じもさ。アヤネちゃんの言う通り珍しく先生がいるんだからさ」
「ん、珍しいというより初めてだね」
「ですね!なんだか委員会っぽくてワクワクしちゃいます!☆」
「はぁ...まぁ先輩たちがそういうならいいけど...とにかく!対策委員会の会計担当としてはっきりさせなきゃいけないのは現状の我が校の財政状況が破産寸前ってこと!このままじゃ廃校一直線だよ!」
「うんうん、それで?セリカちゃんのアイデアはー?」
「毎月の利息だけで788万円もあるんだし、私たちがどんなに頑張って稼いでもこれじゃあ焼け石に水!このままじゃ埒が明かない...だから私はでっかく一発狙えるアイデアを提案するわ!」
「でっかく一発...って、例えば?」
アヤネの疑問を受けてセリカは自信満々に一枚のチラシを取り出し見せつけるように掲げた。しかし、なぜだろうか?セリカの自信に比例するようにそのでっかい一発とやらへの胡散臭さが増していくよう気さえする。
「これ!町で配ってたチラシ!」
「これは...」
「どれどれ...『ゲルマニウム麦飯石ブレスレットであなたも一攫千金』ねぇ...」
「そうっ!これで一発でっかく稼ごうよ!」
『......』
みんなの表情に気づかずに言葉を続けるセリカ。
「この間、街で声を掛けられてね。説明会に連れて行ってもらったの。運気を上げるゲルマニウムブレスレットってのを売ってるんだって!」
『......』
「これね、身に付けるだけで運気が上がるんだって!で、これを周りの3人に売れば...みんな、どうしたの?」
ようやく周りの反応が薄いことに気づいたセリカだがその原因が分からずこてん、と首を傾げていた。
「はぁ...」
その純真無垢な感性は是非とも大事にして欲しいところだが、なぜ
「却下ー」
「えーっ!?なんで?!どうして!?」
訳が分からず困惑するセリカにそれぞれが畳みかけるようにダメ出しをする。
「セリカちゃん...それ、マルチ商法だから...」「儲かるわけない」「詐欺の典型的な手口だな...」
「うへ~そもそもゲルマニウムと運気アップって関係あるの?」
「あはは~...セリカちゃん、詐欺についてもう少しお勉強した方がいいかもしれませんね~...」
「えぇっ!?そんなぁ!私、2個も買っちゃったんだけど!?」
「ものの見事に騙されちゃいましたね...お茶目なセリカちゃんも可愛いですけど☆」
「いやはやウチのお姫様は世間知らずだねー。今後は気を付けないと、悪い大人に騙されて人生取り返しのつかないことになっちゃうよー?」
ぐうの音も出ないほどの言われようにようやく自分のミスを悟ったセリカは涙目になる程に落胆していた。
「そ、そんなぁ...全然そんな風には見えなかった...あぁ、せっかくお昼抜いてためたお金で買ったのにぃ」
「よしよし、大丈夫ですよ~セリカちゃん。お昼、奢ってあげますから一緒に食べましょ?」
「ぐすっ...ノノミせんぱぁい...」
セリカが元気を取り戻すまでその場は何とも言えない空気が漂っていた。
「えっと...それでは、黒見さんからの意見はこの辺で...他にご意見のある方...」
なんとか空気を変えようと次の案を募集するアヤネの言葉に反応したのはホシノだった。
「はーい」
「はい、それじゃあ3年の小鳥遊委員長。ちょっと嫌な予感がしますけど...」
「えぇ?アヤネちゃんは心配性だなー。大丈夫大丈夫...コホン、まずね?我が校一番の問題は全校生徒がここにいる数人だけってことなんだよねー。
生徒の数イコール学校の力。トリニティやゲヘナみたいに生徒数を桁違いに増やせれば、毎月生徒から徴収する学費だけでもかなりの額になるはずー」
「...そうなんですか?」
「そうそう。というわけで!まずは生徒の数を増やすことを考えよー。そこからかな?そうすればアビドスから議員も輩出できるし、連邦生徒会での発言権も与えられるし」
分かりやすい理屈だ。数は力、というと少し違うかもしれないが...塵も積もれば山となる。問題はどうやって生徒を増やすのかだが...
「なるほど...鋭いご指摘ですね。ではどうやって生徒数を増やすんですか?」
「簡単だよー?他校のスクールバスを襲って拉致ればオッケー!」
「...ん?」「...はい?!」
あまりにも大胆な発言に思考が一瞬フリーズしてしまった。聞き間違えであることを願いつつ、続きを聞いてみるが...
「登校中のスクールバスをジャックして、
...どうやら聞き間違いではなかったようだ。そして意外なところからこの案を支持する声が上がった。
「それ、興味深いね」
「シロコ...?」
冗談であってくれという思いを込めてシロコに声を掛けたが、計画に夢中になっているシロコには届かなかった。
「ターゲットはどうする?トリニティ?ゲヘナ?ミレニアム?狙いをどこに定めるかで戦略を変える必要がある」
「お?...えーっと、うーん...そうだなぁ、トリニティ?いや、ゲヘナにしよーか」
思わぬところから追い風を受け少し困惑したホシノだったがすぐに切り替えて精一杯追い風に悪乗りすることにしたらしい。冗談だとしても流石にそろそろ止めておくか。
「待ちたまえ。アビドス復興に協力するとは言ったが、いくらなんでも犯罪行為を見逃すわけにはいかないぞ?ホシノが冗談を言っているのは分かったが、シロコ...君は真面目に考え過ぎだ」
「ん...」
しょんぼりしたシロコを見て再起動したアヤネが生真面目にホシノにツッコミを入れる。
「そ、そうですよ!それにそんな方法で転校手続きが通るはずありません!ゲヘナの風紀委員が黙っていませんよ...!」
「うへ~やっぱりそうだよね~」
「やっぱりそうだよねー、じゃありませんよ。全くもぅ...ホシノ先輩?もっと真面目に会議に臨んでいただかないと...はぁ、次の案がある人はいらっしゃいますか?」
「ん!」
ここで勢いよく挙手をするシロコの姿を見て、おそらく私とアヤネの気持ちは一致していた。
(不安だ...)
「いい考えがある」
「...はい、2年の砂狼 シロコさん」
「銀行を襲うの」
「はいっ!?」「...やれやれ」
「確実かつ簡単な方法。既にターゲットも選定済み。市街地にある第一中央銀行」
「ちょ...」
「金庫の位置、警備員の動線、現金輸送車の走行ルートは事前に把握しておいた」
「さっきから熱心に見てたのはそれですか!?」
「5分で1億は稼げる。実は覆面もすでに準備済み」
そういってシロコは持ち込んでいた紙袋の中から色違いで1~6までの数字が入った覆面を取り出した...待て。6?もしや私の分まで...?
「おぉー...!これ、シロコちゃんの手作りなの?」
「わぁ、見てください!レスラーさんみたいです!☆」
「...」
あまりの手際の良さに絶句するアヤネ。
「いやーいいねぇ。さっきセリカちゃんも言ってたけど、やっぱ人生一発でっかく決めないと。ねぇ?セリカちゃん」
「却下!却下ー!」
「ふぅ...シロコ、その計画は白紙に戻すように」
「でも...」
「でもじゃない。百歩譲って...まぁ、そういうシミュレートをするのは趣味の範囲、かも...しれない?が。実行に移した時点でアウトだ。犯罪で手に入れた金で学校を取り戻しても意味がないだろう?」
「...」
イスに座ったままふくれっ面で無言の抗議をするシロコに視線を合わせるべく膝を折る。
「そんなにむくれてもダメだ。その能力は別のところで活かしてくれ」
「そ、そうですよ!犯罪はいけませんっ!」
「むぅ...分かった」
渋々ながら納得してくれたシロコを見て安堵する。常々思っていたが、キヴォトスの生徒たちは身体能力が一般人と乖離し過ぎているせいか過激すぎるきらいがある。どうにか改善して欲しいところだが...難しいか。
「はぁ...みなさん、もうちょっとまともな提案をしてください...」
「はい!次は私が提案します!」
「はい...2年の十六夜 ノノミさん。犯罪と詐欺は抜きでご意見をお願いします...」
「ふふん♪任せてください!犯罪でもマルチ商法でもない、とってもクリーンかつ確実な方法があります!」
あまりにも堂々と言い放ったノノミの姿にこれまでの話の流れを思い出してどんな突拍子もない案が飛び出すのかと身構えてしまう。
「それは...?」
恐る恐る、期待の眼差しを向け問うアヤネに対して放たれた答えは――
「アイドルです!スクールアイドル」
「アイ...」「どる...?」
「そうです!最近アニメで見たんですけど、学校を復興する定番の方法はアイドルになることだそうです!私たち全員がアイドルとしてデビューすれば...アビドス復興も夢じゃありません!」
「却下で」
私やアヤネが口を開くよりも早く、ノノミのアイデアはホシノからスッパリと切り捨てられた。
「あら?これも駄目なんですか?」
「うへー、こんな貧相な身体を好きとか言っちゃう輩なんて、そもそも人間として駄目でしょ。ないわー、ないない」
「そうですか...?せっかく決めポーズも考えたのに...」
「決めポーズ、ですか...」
もはや疲労の色が濃くなりつつあるアヤネに憐憫の視線を向けずにはいられない。しかし、そんなアヤネの表情にも気づいた様子はなく、ノノミは気合いを入れて考えてきた決めポーズを披露した。
「じゃーん!☆水着少女団のクリスティーナで~す♧」
「だっさ...水着要素ないし...「で~す♧」ってなんなのよ...」
セリカからオブラートで包み忘れた酷評が飛ぶ。
「えー、せっかく徹夜で考えたのに...」
「...どこから指摘するべきか...まず、徹夜で考えたからと言って良案が浮かぶわけではないだろう。健康的な生活だからこそ思考もクリアになり良案が浮かぶというものだ」
「先生...?もはやツッコミどころはそこではないと思いますが...はぁ、本日はもう一つ議題があるんですから、そろそろ結論を出さないといけないのに...」
アヤネの呟きを聞き、ホシノから飛んでもキラーパスが飛んでくる。
「それは先生に丸投げしちゃおー。先生?これまでの意見で実行するならどれがいい?」
「これまでの意見限定なのか...」
非常に難しい選択を迫られてしまった。そもそも実質的な選択肢がないに等しいのに“選ぶ”とは...?アヤネも同じように感じたようで。
「えっ!?これまでの意見から選ぶんですか!?も、もう少しまともな意見を出してからの方が良いのでは!?」
「大丈夫だいじょーぶ。先生が選んだやつなら間違いないって」
「ちょ、ホシノ先輩!絶対めんどくさくなってるじゃないですか...!」
ホシノとアヤネのやり取りを聞いてセリカが威圧する。
「まさかアイドルやれなんて言わないよね?」
ノノミも負けじと推してくる。
「アイドルで☆お願いします♧」
シロコは最後方からこちらにだけ見えるように覆面を被り無言でアピールする。
「...」(スッ)
我慢の限界が近いのか、ぷるぷると震え出すアヤネ。
「...」(プルプル)
そして決断を迫るホシノ。
「さぁさぁ、先生の回答はー?」
「ほ...」
『ほ...?』
「保留で」
『...』
「今日のところは時間も押していることだし、また改めて議論の時間を作るべきだろう」
「逃げたねー」「逃げたわね」「ん、逃げ」「逃げましたねー?」
案の定非難轟々だったが毅然とした態度を貫い抗議する。
「なんとでも言ってくれ。真面目な提案をした人間の抗議だけ受け付けよう」
「むぅ...先生いじわる。アヤネ?アヤネはどう?計画は大胆なほどいい...でしょ?アヤネ」
「...い」
『い?』
「いいわけないじゃないですかぁ!!!」
「おっと...」
遂に堪忍袋の緒が切れてしまったアヤネが目の前にあった机に爆発したストレスを全てぶつけるようにちゃぶ台返しを決めた。けが人が出ないように慎重に受け止めて机を下ろしたが...「フーッ!フーッ!」...どうやらまだ完全には発散できていないようだ。
「で、出たー!アヤネちゃんのちゃぶ台返しー!」「おぉ...!」
「きゃあ、アヤネちゃんが怒りました!非常事態です!」
「ちょ、そんなはしゃいでる場合じゃないでしょ!?」
「うへ~、二人ともキレのある返しができる子に育ってくれたねぇ。ママは嬉しいよ~」
「誰がママですかっ!もう!いっつもふざけてばっかりなんですから!たまには真面目にやってください!銀行強盗とかマルチ商法とかそんなのばっかりじゃないですか!」
ギクッと過敏な反応を示すセリカを見て詐欺に引っ掛かったのが今回が初めてではないという悲しい確信を得てしまった。いや、まぁ...みんなの反応から薄々気づいていたことではあるのだが。
アヤネはその後も10分ほど爆発した感情に身をゆだねて全員に説教をしていた。
推敲に時間を割きたいので、来週は更新が間に合わないかもしれません。確定ではないですが、そのつもりでお願いします。
いつも楽しんでいただけていたなら幸いです(´▽`)
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