透き通る世界の無銘の弓兵   作:矛盾ピエロ

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便利屋とすき焼き②

 

「はー...食べた食べた。ごちそうさまー」

 

「うぅ...こんなおいしいものが食べられるなんて...あ、ありがとう、ございます...」

 

「ごちそうさま、先生。美味しかったよ」

 

「えぇ...ホントに。感謝するわ、先生。ちょうど夕飯に難儀していたところだったの」

 

 腹が膨れ、満腹の心地よさと料理の余韻に浸る四人の様子に確かな充足感を感じる。だがもう時間も遅い。後片付けを手早く済ませると早速本題に入らせてもらった。

 

「さて、リラックスしている所悪いが本題はここからだ。いくつか話を聞かせて欲しいことがある」

 

「えぇ、美味しい食事をご馳走してくれたのだもの。一通りのことは話してあげるわ」

 

 その言葉にすぐさまキリっとした表情を作る便利屋の4人。改めて対面に座り直して順に尋ねていくことにした。

 

「助かる。話せそうな範囲で構わない。まずは...そうだな、今私はアビドスの支援に力を入れているんだが...」

 

「うっ...」

 

 居心地の悪そうな顔をするアル達にこれまでの経緯を簡単に説明する。

 

「――というわけで、私たちはセリカ襲撃を実行したカタカタヘルメット団の拠点に向かったわけだが、既に拠点はもぬけの殻だった...単刀直入に聞こう。ヘルメット団の拠点を襲ったのは君たちだな?」

 

「...えぇ、その通りよ。依頼人からの指示でね」

 

「やはりそうか」

 

「でも、どうして私たちがヘルメット団を襲ったと分かったの?証拠は...まぁ派手にやった部分(爆破跡)もあったでしょうけど、確たる証拠は残していないはずよ?」

 

「私が玄関先で見せた名刺があっただろう?あれを拾ったのがカタカタヘルメット団の拠点だったんだ。そしたらその日のうちに柴関ラーメンで君たちと出くわした。単なる偶然として片づけるには少し出来過ぎているだろう?」

 

「あちゃーツイてない...ってわけでもないか。ラーメン美味しかったし、アビドスの子達も面白そうだったし、すき焼き食べれたし♪」

 

 ケロっとした様子でそう言うムツキの気楽な雰囲気に少しばかり場の空気が緩んだような気がした。

 

「お気に召してくれたようで何より。そうだな...次はヘルメット団の拠点襲撃と今日のアビドス襲撃を依頼した人間について詳細を知りたいのだが...」

 

「それは答えられないわ。いくら先生でも仕事には守秘義務があるもの」

 

 元より教えてもらえるとは思っていないが、聞くだけ聞いてみるべきだろうと考えて尋ねてみる――が、当然アルはすぐさま拒否した。どんな仕事だろうが信用とはそう簡単に勝ち取れるものではない。アウトローな“それ”ならばなおさらの事。

 

「どうしても、かね?」

 

「どうしても、よ。もし力ずくでもというのなら――「いや、そこまでする必要はない」――そ、そう?」

 

 警戒心を露わにしようとしていたところに肩透かしを食らった彼女の方が「え、いいの?」とでも言いたげな表情をしていて少し笑ってしまった。生来の気質が憧れたものに噛み合っていない感じが...色んな意味で目が離せない子だと、そう思った

 

「あくまでも聞いてみただけだ。元より教えてもらえると期待していたわけではないさ。出会って一日ではあるが、君たちの依頼への取り組み方を見ていれば多少は見えてくるものもある」

 

「そ、そうでしょう!そうでしょう!なんたって私たちは真のアウトローを目指しているんですもの!」

 

「それ言ってるの、社長だけな気もするけど...」

 

「あはは♪アルちゃん、そういうの好きだもんねー?」

 

「ふむ...真のアウトローか。立場上、表立っての応援はできないが目標があるのは良いことだ。頑張りたまえ」

 

 鼻高々に胸を張る姿は真のアウトローと言うには微笑まし過ぎたがそれを口に出すことはなかった。

 

「それでいいの...?」

 

 生徒を教え導く立場としてその態度はいかがなものか、と自分でも頭を過ぎらないと言えば嘘になる。しかし、ここは私の元居た世界ではない。引き金は軽く、比例するようにヒトの体は頑丈だ。郷に入って郷に従うのか、それとも自身の中にある価値観を押し付けるのか、どちらが正しいのか...まだ答えは出ない。

 

「いい。道を踏み外すようなことさえしないのであれば“先生”として信じる――コホン、話が逸れたな、次の質問だ。ヘルメット団の襲撃とアビドスの襲撃、この二つは同一の人物から依頼されたものかね?それとも別々の人間から?」

 

「それは...」

 

 チラ、とカヨコの方を見るアル。カヨコが僅かに頷いたのを見て視線をこちらに戻した。

 

「それぐらいなら契約違反にはならないでしょう...多分、うん、大丈夫よね...?コホン、同一人物よ」

 

「なるほど...これは君たちの所感でいいのだが、アビドス高校あるいはそれに類するものを目的として動いている組織やグループは現在どれぐらいあると思う?」

 

「んー...不良やチンピラを除くならそう多くはないんじゃないかしら?みんなは?」

 

「私も同意かなー」「わ、私もアル様と同じ意見です...」

 

「そうだね、精々一つか二つぐらい...かな。不良とかチンピラも雇われて、ってケースが多いと思う」

 

「そうか...ありがとう。これが最後だ。キミたちが襲撃した拠点に残っていた違法兵器の部品、その流通ルートについて心当たりは?」

 

「あーそれなら...」「うん、あそこかな?」「え、えっと...」

 

「ふふん♪それなら簡単よ。ブラックマーケット、連邦生徒会の手が及んでいない非合法のマーケットがその手の物品を手に入れるのにちょうどいいわ」

 

 どうやら次の手がかりも一筋縄ではいかないらしい。

 

 

 

 

 

 聞きたいことも聞けたのでその日はそれで便利屋の事務所をあとにした。

 

「色々と興味深い話を聞くことができた。助かった」

 

「気にしなくていいわ。すき焼きもご馳走して貰ったし、むしろ先生はもっと強欲になってもいいくらいよ!...あ、でも依頼は依頼だから!次にアビドスを襲うときは今日のようにはいかないわ!」

 

 リベンジに燃えているアルとそれを見て、同じようにやる気満々のハルカ、楽しそうなムツキ、ため息を吐くカヨコと個性的な反応を見せる四人。

 

「おや、それは困ったな...その時はお手柔らかに頼む。では、達者でな。なにか困ったことがあった際には依頼を出させてもらうかもしれない」

 

「!...えぇ!先生からの依頼なら大歓迎よ♪」

 

「それではおやすみ」

 

「おやすみなさい!」「おやすみー」「お、おやすみなさい...」「ん、おやすみ」

 

 静まり返った夜道を歩きながら今日聞いた話をどうやってアビドスの子達に伝えようかと考え巡らせていた。

 

 

#####

 

 

「あ、先生。おはようございます」

 

 翌日の朝、アビドスの住宅街を抜け学校へと向かう途中でアヤネを見かけた。

 

「あぁ、おはようアヤネ。今朝はずいぶん早いが...なにか急ぎの案件かね?」

 

 まだ朝日が顔を出してからそれほど時間は経っていない、普段よりも早い登校に疑問を投げかけた。

 

「あはは...今日は借金の利息を返済する日なんです。ですから色々準備しないといけなくて、返済の日はいつもこれぐらいの早起きになっちゃうんですよ」

 

「そうだったのか。出来る事があれば私も手伝おう。あぁ、それと――「どーん☆」――っと」

 

「! あ、あなた?!」

 

「おっはよーせんせ?とメガネっ娘ちゃんも♪」

 

「おはようムツキ。早速奇襲を仕掛けられてしまったな」

 

「あはは!気づいてたくせにー?」

 

「?!...っな、ななにを!?」

 

 唐突な展開に呆然とするアヤネ。背中から飛びついてきたムツキはこちらの首に手を回したまま、面白いおもちゃを見つけたような視線でアヤネの事を見ている。

 

「あまりイジメないでやってくれ。今日は大事な用があるんだ」

 

「あはは♪だいじょうぶだいじょーぶ。ちょっとからかうだけだって!先生はもうちょい我慢してて♪」(ヒソヒソ...

 

(止めないとは言わないあたり小悪魔というかなんというか...)

 

「ちょ、ちょっと離れてください!先生が困ってますから!」

 

「んー?いいじゃんいいじゃん!それより...こんな朝早くに会うなんてちょー偶然だねー?」

 

「馴れ馴れしくしないでください!私たちはそんな間柄ではないでしょう...!」

 

 昨日の襲撃を思い出しているのか、フレンドリーな態度がアヤネの癪に触っているようだ。たしかに昨日の時点で変わり身の早さには感心してしまうものがあった。

 

「えー?昨日は仲良くラーメン啜った仲じゃん。それだけじゃダメ?」

 

「その後、うちに襲撃しかけてきたじゃないですか?!どういうつもりですか?というか、いい加減離れて、くだ...さい!」

 

 アヤネが強引にムツキと私を引き離す。オペレーターとはいえ、やはりキヴォトスの人間。一般人よりも力はあるようだ。

 

「おっとっと...あはは♪そんなに怒らないでよ。別に私たちアビドスが憎くて襲ったわけじゃないからさー?部活で請け負ったお仕事が偶然そうだったってだけ。それなら仕事以外では仲良くしたっていいじゃん?」

 

「い、今更公私を区別しようって言うんですか?!」

 

「うん?昨日も言ってなかったっけ?...それに噂のシャーレの先生は別にアビドスのモノってわけじゃないでしょ。だよねー?せんせ?」

 

「ぐぬぬ...」

 

 正論に言い返せないアヤネとそれを楽しそうに見るムツキ。そろそろ満足してくれただろうかとやんわりと間に入る。

 

「まぁまぁ...それよりムツキはこんな時間にどうしたんだ?なにか用事があったんじゃないのか?」

 

「んーん、朝の散歩をしてたらたまたま先生とメガネっ娘ちゃんが歩いてるのが見えたからさ?ちょっかいかけに来ただけ♪」

 

「メガネっ娘ちゃんじゃありません!アヤネです!」

 

「うんうんアヤネちゃんね?そんじゃ、二人にちょっかいもかけれたし私もそろそろ戻ろっかなー。多分、次会うときはお仕事の時だと思うけどよろしくねー」

 

「お手柔らかにな」

 

 どうやら満足してくれたらしい。朝から元気なのは喜ばしいことだが、もう少しアヤネには手心を加えてやって欲しかったところだな。

 

「あはは♪それ昨日も言ってたけど、ちょい難しいかもよ?アルちゃん、けっこーモチベ高いからウチらも真面目にやろうかなって思ってるし」

 

「昨日?」

 

 ムツキのわざとらしい引っ掛かる言い方に疑問を口に出すアヤネ。しかし、そんなものは気にも留めず終始楽しそうにムツキは帰っていった...最後に爆弾を落として。

 

「それじゃ、ばいば~い!...あ、昨日はすき焼き美味しかったよ、せんせ♪」

 

 おっと...?

 

「す、すき焼き!?」

 

 天真爛漫にその場を振り回したムツキが台風のように去っていったあと、じとーっとした目でこちらを見るアヤネに一応の弁明を試みる。

 

「この後、皆が揃った場でちゃんと話すつもりだったんだ。だからそう睨まないでくれアヤネ」

 

「...ちゃんとお話聞かせてもらいますからね?」

 

「もちろんだとも」

 

 朝から妙に体力を使う一幕があったが、とりあえず利息の返済準備のために寄り道することなく学校へと向かった。

 

 

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