~モモトークwithスズミ~
『こんにちは、先生。スズミです。覚えていらっしゃいますでしょうか』
『もちろんだとも。シャーレ奪還時には世話になった。おかげさまで無事にシャーレを取り戻すことができた』
『その節はどうも。お役に立てたようで何よりです』
『何か急用が?』
『あぁいえ、そういうことではなく。まずは挨拶だけでもと、ご連絡した次第です
お忙しいところすみません』
『謝る必要はないさ。連絡してくれてありがとう。
何か困ったことがあれば気軽に相談してくれ』
『お気遣いありがとうございます。その際はぜひ
それでは、またいつかお会い出来たら嬉しいです』
『あぁ、こちらこそ。再会を楽しみにしている』
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キヴォトスの地理把握を兼ねた個人的な見回りを行うために、夜が更ける頃にトリニティ自治区の街外れまで来ていた。
トリニティと言えばお嬢様学校というイメージが一般的で街並みも元居た世界の欧州に似たものを感じる。特に自治区の中心部は街の景観が上品で優雅に保たれていることが多い、が...
「流石にゲヘナやミレニアムに並ぶ大規模学区。端から端まで全てを綺麗に飾ることはできていないか」
街外れとなれば寂れた雰囲気が漂っていることも多々ある。個人的にはこの景観も長い歴史を感じられる風情で嫌いではないが。
「いらっしゃいませー」
ふと、目に着いたコンビニに入ってみる。レジに待機していた店員はロボットの...おそらく男性だろう。コンビニと言うとよく利用しているエンジェル24のソラのイメージが強いが...時間も時間だ、大人が店員をしていて当たり前か。
ウィィィン...
「いらっしゃいませー」
特に目的もなく品ぞろえを流し見ていく。興味を惹かれるようなものは特に見当たらないが、せっかく入ったのに何も買わずに出るというのも少々味気ないか...と考えて飲み物でも、と手を伸ばした瞬間――
ダダダダダッ!ダダダダダッ!ダンッ!
――夜の静寂に
「動くな!全員手を頭の上で組んでうつ伏せになれ!」
「ヒィッ...!」
「無駄な抵抗はすんなよ!痛い思いしたくねぇなら大人しくしとけ!」
身をかがめ、コンビニに押し入った不良生徒達を陳列棚の隙間から覗き込む。どうやら不良生徒たちは二人組で今はレジに待機していた店員を丹念に脅しているようだ。
こちらに気づいた様子はない。銃声が響いた直後、反射的に棚を壁にして身を潜めたことが功を奏したようだ。見つかることにメリットはない、そう判断して即座に霊体化する。これでこちらが発見される可能性は限りなく低くなった。
いつでも制圧できるように静かに移動を始めながら、店員と不良生徒たちのやり取りに耳を澄ます。
「あ、あなたたち、ここはトリニティの自治区ですよ!?こんなことしてもすぐ―ガチャ―ヒィッ!」
「ごちゃごちゃうるせぇ!んなこと、百も承知だっつーの」
「ハッ...正義実現委員会なら当分来ねぇぜ?巡回ルートは把握済みなんだよ」
「っ!」
得意げにそう言う不良少女たちと明らかな動揺を隠せない店員。それなりに計画的な犯行らしい。
「ま、そもそもこの辺の寂れた区画は巡回自体滅多に無いがな」
「そういうわけだ、無駄な期待はせず早く金を出しな!...安心しろ、大人しく指示に従ってりゃあ怪我はさせねぇからよぉ。よかったなぁ?ウチらが優しくて」
「全くだぜ...ん?おい、店の中、もう一人居なかったか?入った後出るのを見てねーぞ」
どうやら入店の瞬間をしっかり確認していたらしい。それでも押し入ってきたという事はこちらが
「あ?...チッ、おいもう一人はどーした?」
「え?わ、私は何も知りません!一人お客様が来店したのは確かですが...」
「んだよ、トイレにでも籠ってっか?通報されたらメンドクセーな...おい、ウチはここでこいつが金詰めんのを見とくから確認してこい」
「しゃーねぇな...ったく、余計な手間かけさせやがって」
(来るか...)
霊体化している以上、見つかることはないがその結果店員が危険にさらされるのは望ましくない。
(あまり手荒な真似はしたくないが...)
トン
「あ?――――ガクッ」
レジにいるもう一人から死角になる位置に来た不良少女の意識を刈り取る。倒れ込む少女が怪我をしないように支えつつ、簡易的に拘束しておく。
(さて、もう一人は...)
と、物陰から様子を見たとほぼ同時にナニカが店内へと転がり込んできた。
カチッ、コロコロコロ...
「ん?なん...閃、光...弾?」
バンッッ!!キイイィィィィン――
「ぐおあぁぁっ!?め、目が見えないィ!?」
「嫌な予感がしたので念のために、とパトロールをしていたのですが...どうやら正解だったようですね」
突然の閃光に全員の視界が奪われる中、聞き覚えのある声が耳に届いた。そして、どうやらそれは不良少女たちにとっても同じだったらしい。
「は!?そ、その声!な、なぜあんたがここに...っ!」
ダンッ!ガッ!ドスッ!
「グフッ...」
「ふぅ...本当に懲りない人たちですね。大丈夫でしょうか?店員さん」
「は、はい...なんとか。あっそうだ!もう一人いるんです!今、店の奥の方に!」
「なんと...ではあなたは安全なところに一時避難を。もう一人の不良については私が「いや、その必要はない」――!先生?どうしてこのようなところに...」
店の奥で気絶させた不良生徒を小脇に抱えながらレジ前へと姿を現す。そこには聞き覚えのあった声の通りに
「こんばんは、スズミ。不良生徒の片割れは私が既に制圧済みだ。一応簡単な拘束は済ませてある」
「こんばんは。お久しぶりです...えっと、いくつかお聞きしたいことがありますが...とりあえず正義実現委員会に連絡して、引き渡しまではまとめて拘束しておきましょう」
そう言うと、スズミは不良少女たちを襲撃のあったコンビニ近くの電柱に雑に拘束し、正義実現委員会へと連絡を入れた。当然、手伝ったわけだが...
「あー...スズミ?もう少し手心を加えてもいいのではないかね?何も電柱にぐるぐる巻きにしなくても...」
「いえ、これぐらいヘイロー持ちなら罰にもなりません。先生も今後こういう事態に遭遇した場合は躊躇せず徹底的にやってください」
「...善処しよう」
正義実現委員会はどうやら十数分ほどで来るようなので、それまで気絶した不良少女たちを監視しながら雑談に興じる。
「先生はこんな夜更けになぜトリニティに?」
「あぁ、私はこちらに来たばかりだろう?地理の把握を兼ねて色々なところを歩き回っていたところだ。少し飲み物でも――と思ったらこの有様さ」
「なるほど...先生に説教まがいの事を言うのは気が引けるのですが、あまり深夜の外出はお勧めできません。いくら先生が...えっと、魔術でしたか?それを使えるとは言っても“多勢に無勢”という言葉もありますから」
「心配してくれてありがとう。確かに深夜の散歩というのは褒められたものではないが、それを言うならスズミこそ夜更けに少女一人と言うのは不用心に思えるのだが?」
「私の事ならご心配なく。公式な部活ではなくともトリニティの自警団としてこういったパトロールは日常茶飯事ですから。戦闘経験も一般的な生徒の比ではありません」
どことなく誇らしげにそう言い放つスズミ。自分の行いに自信があるのは良いことだし、実際間違いなく善行の類ではあるのだが。
「あまり危ないことはして欲しくないというのが私の本音だが...ここではそうも言ってられないのだったな。分かった、深夜の“無意味な”外出は自粛すると約束しよう」
「はい、日中であればそれなりに安全ですので是非そうしてください。それ「う、う~ん...」――っと、どうやら不良たちの目が覚めたみたいですね」
「そのようだな」
「こんばんは。起きて早々ですが、あと十分もすれば正義実現委員会の方々が現場に駆けつけます。それまで大人しくしていてください」
「チッそう言われて『はい、そうですか』って答えるわけねぇだろぉが!」
「そーだそーだ!」
「...やれやれ。引き渡しがスムーズに行われないのはこちらとしても困ります。既に夜遅い時間帯ですから。というわけでお二人を無力化させていただきます」
「...スズミ」
「ご安心を、先生。危害を加えるつもりはありません。私は納得できていないのですが経験上、容易に不良を無力化する手段は確立させてありますので」
自信満々にそう言いながらスズミはどこから取り出したのか、二つのヘッドフォンを不良たちの頭に取り付けた。
「お二人には耳元で高音質の「オスティン・ビーバー」の『ベイビー』を聞かせてあげましょう」
「...!?」「な、なんてセンスしてやがる...!」
?...オスティン・ビーバー...?のベイビー...?微妙に聞き馴染みのない歌い手と曲にどう反応すべきかは分からなかったが、不良少女たちの反応を見るに流行の最先端ということはなさそうだ。
「一体いつの時代の曲だよ!?」
「おじさんだ...!センス押し付けおじさんがいる!!「なんでこれが分からないかなぁ」って昔の歌に酔いしれながら若者に古い趣味を押し付けるおじさん「♪~」がああぁぁ!!」
「ほぎゃぁぁぁあ!!」
「これは...罰、なのか?」
「私は好きな曲なのですが不良にはよく効きます」
「...そうか」
「コンビニ強盗を企んだのですからこれぐらいで音を上げてもらっては困りますが、ひとまずは無力化できたので良しとしましょう。それで、先程の話なのですが――」
その後、正義実現委員会の生徒が到着するまでヘッドフォンをして電柱に縛り付けられた不良少女たちの横でスズミとの楽しい雑談を再開した。
#####
不良少女たちが満身創痍で正義実現委員会に引き取られた後、シャーレへと戻る道中をスズミと共に歩んでいた。
引き渡した後はてっきり解散するか、断られなければ家の近くまで送っていくつもりだったのだが...逆にシャーレまで送り届けられることになるとは。スズミ曰く、
「先生はどこか抜けているというか、まだ不良たちを甘く見ているような気がしてならないので。いつ悪い生徒の罠に掛かるのかと気が気でないですから」
とのことだった。
「それでスズミの気が晴れるなら何の問題もないさ。エスコートをよろしく頼む」
「はい」
シャーレまでの道中は決して短いとは言えない距離だったが苦ではなかった。話し相手がいてくれたのが大きい。話題の大半は他愛の無いものだ。トリニティについてやスズミの普段の学校生活、シャーレの仕事についても話せる部分は話した。近々、書類仕事を手伝いに来てくれるらしい。
「...あそこの角を曲がればすぐでしたか。お疲れ様です、先生。寄り道はせずにまっすぐ帰ってくださいね?」
「あぁ、ありがとうスズミ。エスコートしてくれたおかげで楽しい道中だった」
「わざわざ感謝されるほどの事では...それにしても楽しかった、ですか。事件に巻き込まれたというのに変わった感想ですね?」
「フフッ...終わりよければなんとやら、というやつさ。スズミのおかげで今晩はよく眠れそうだ」
「そちらでしたか...きゅ、急にそう言ったことを言われましても、少々困ってしまいます、ね?でも、そういうことでしたら...私も楽しかった、です」
ぎこちない微笑を浮かべながらスズミは続ける。
「私はこういう性格ですので、あまり会話が得意ではないのですが...先生といると自分の責務を忘れてしまいそうなくらいお話しに没頭してしまいました。もし次があれば、次はもっとゆっくりとお話しできればと思います」
「あぁ、シャーレの扉はいつでも開いている。気軽に声をかけてもらえたら私も嬉しいよ」
「はい...あ、そうだ。これはちょっとしたプレゼントですが...」
プレゼントの中身に見当がつかず頭に疑問を浮かべながら差し出されたものを手に取った。
「...閃光弾?」
「銃器を持たずとも自衛手段くらいは確保しておくべきでしょう。もっとも、先生は魔術でどうとでも出来てしまうかもしれませんが...」
「ふっ...く、ははっ!まさか、閃光弾をプレゼントされる日が来るとは。ありがとうスズミ。だが、おそらくこれを使う日は来ないだろうな」
「?それは一体...」
「今日のエスコートのようにスズミが守ってくれるのだろう?」
「そ、それは...!いえ、私も努力はしますが!頼りきりになるというのは...いえ、良いでしょう。それほどに信頼していただけているのなら自警団としてしっかり先生をお守りできるようにこれからも精進します」
「あぁ、期待しているよ。それでは、おやすみ」
「はい、おやすみなさい先生」
身を翻し、スズミは夜闇の中へと消えていった。その歩みが少しだけぎこちなさそうだったのは私の見間違いか、あるいは――
余談だが、スズミお勧めの曲は悪くなかった。
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~モモトークwithスズミ~
『スズミです。先生、無事に到着しましたでしょうか?』
『あぁ、おかげさまで無事にシャーレに着いた』
『でしたら良かったです。それで』
『その』
『えっと、』
『ゆっくりでいい』
『...ありがとうございます。何と言えばいいか』
『また必要な時はいつでもおっしゃってください。すぐに傍に行きますから』
『それは頼もしいな。ありがとう、ぜひ頼らせてもらおう』
『はい』
『えっと...』
『エスコートの話、です』
元ネタの曲調べてみたんですけど30億以上とかいうトンでも視聴回数で笑っちゃいました。凄すぎでは...(汗