透き通る世界の無銘の弓兵   作:矛盾ピエロ

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次からアビドス行きます


幕間・連邦生徒会

 

~モモトークwithリン~

 

『数日ぶりです先生。その後、どのようにお過ごしでしょうか?

 慣れないことも多々あるかと思われますが、キヴォトスでの生活を好ましく思っていただけるといいのですが...』

 

『わざわざ連絡をくれてありがとう。まだ少し慣れない部分もあるが楽しく過ごさせてもらっている。

 そちらこそ、多忙な日々を送っているようなので体調には気を付けてくれたまえ』

 

『ご配慮痛み入ります。本日は先生に是非とも伝えておきたいことがあるので連絡をさせていただきました。

 近日中にお時間を頂戴したいのですがよろしいでしょうか?』

 

『代理だがね?こちらはまだ本格的に動き出していないからいつでも問題ない。リンの都合のいい日時に合わせよう。

 あぁそれと、シャーレに送られてきた書類のマニュアルのようなものはないだろうか?恥ずかしながらこういった書類に触れる機会が少ない人生を送ってきたものでね。どのように書けばいいのか分からない部分がいくつかある』

 

『その冗談はもういいとお伝えしたはずですが?...はぁ、では一度連邦生徒会へご足労頂いてもよろしいでしょうか?書類のテンプレートをご用意しておきますので。ついでに何人か私以外の連邦生徒会のメンバーとも顔合わせをしていただきたいと思います』

 

『手間をかける』

 

『いえ、その分先生にはこれからもキヴォトスのために手を貸していただきますので』

 

『善処しよう』

 

 

#####

 

 

 以上が少し前のモモトーク上でのリンとのやり取りだ。あの日から数日、約束の日時になったので連邦生徒会へと足を運んでいた。謎の人影にキヴォトスへと送られた日以来、訪れなかった場所だが迷わずに済んでよかった。

 

「待ち合わせの部屋の場所はどこだったか...」

 

 リンからのモモトークを開いて部屋の場所を確認しようと思った矢先、大量の書類を抱えてこちらへと向かってくる人物がいることに気づいた。

 

「...大丈夫かね?」

 

 視界を完全にふさいでしまうほどの書類に躓かないか心配になり思わず声をかけてしまった。それがいけなかったのだろう。

 

「えっ!?あっ...あ、あわわわわわ...!?きゃぁっ!?」

 

「おっと...」

 

 宙を舞う書類の束を気にせず、咄嗟に倒れかけた少女の体を支える。結果、少女は無事で済んだが書類はそうもいかず床に無造作に散らばってしまった。

 

「あ、あの...ありがとうございます...危うく転んでしまうところでした」

 

「いや、こちらこそ急に声をかけてしまってすまない。手伝おう」

 

 リンの着ていたものとは意匠の異なる連邦生徒会の制服を着こなし、膝のあたりまで伸びた金色の長髪と腰のあたりから生えた漆黒の翼をもつ柔和な雰囲気の少女は鈴を鳴らしたような声で感謝を伝えてくれた。

 

 視界をふさぐ位置にまで達していた書類の束を崩してしまったから相応の量が床に散乱してしまっている。通行の邪魔にならないうちに手早く片付けなければ。

 

「この書類は種別に分けられたものだったりするのかね?それとも片っ端から拾っても問題はないかな?」

 

「仕分けのために運んでいる最中でしたから気にせずに拾っていただいて大丈夫です...すいません、わざわざ手伝ってもらってしまって...」

 

「いや、これに関しては私が悪い...っと、このままでは同じ会話の繰り返しになってしまいそうだな。どうだろう?ここはひとつ、お互い様ということにしてもらえないだろうか?」

 

「は、はい...!」

 

 その後も二人で書類を拾い続けたがその間に何度も隣から視線を向けられたので、何か気になることでもあるのかと質問してみる。

 

「先程から視線を感じるんだが...なにかおかしなところでもあるだろうか?」

 

「あっ...す、すみません!えっと...本日のアポイントメントで大人の方はお一人しかいなかったので...えっと...シャーレの先生で合っていますでしょうか?」

 

 少女の言葉に自己紹介がまだだったことを思い出す。キヴォトス(ここ)に来る前は自己紹介なんて英霊として召喚されたときの口上が精々だったからな。

 

「あぁ、そういえば自己紹介がまだだったか。遅れて申し訳ない、つい数日前より連邦捜査部シャーレに所属し先生...の代理をしている。アーチャーだ、よろしく頼む」

 

「こ、こちらこそご挨拶が遅くなってしまい申し訳ありません...!私は連邦生徒会所属、行政委員会『調停室』の岩櫃(イワビツ) アユムと申します。今はリンせんぱ――じゃなくて、リン行政官の秘書のような役割も務めています」

 

 こちらに対して丁寧に自己紹介をしてくれた少女の名はアユムというらしい。リンが会わせたがっていた連邦生徒会のメンバーの一人だろうか?

 

「まだキヴォトスに来たばかりで勝手が分からないことも多々ある。手間を掛けさせてしまうこともあるだろう。その時は手を貸してくれると助かる。よろしく、アユム」

 

「こ、こちらこそ...!よろしくお願いします、先生。先生のことはリンせんぱ...えっと、リン行政官からお話を伺っています。色々と凄いと言うか...私なんてこんな書類整理だけでも手一杯なのに...」

 

 謙遜した言い方と表情から察するにあまり自分に自信を持てないタイプなのだろう。これだけの書類を処理できるのはこちらからしてみれば十分に凄いことだが...連邦生徒会という組織はキヴォトスの学校の枠組みから見ても特殊な立ち位置のようだし、身近に同じくらい優れた生徒がいるのかもしれないな。

 

「そう謙遜する必要はないだろう。私からしてみればこれだけの量の書類を処理することができるだけで称賛に値するさ」

 

「あはは...ありがとうございます」

 

 ふむ...社交辞令と取られてしまったか。もう一押し、してみるか。

 

「恥ずかしながらこの手の書類に触れる機会が少なくてね。今日だって書類のテンプレートを受け取りに来たんだ。アユムのように書類整理の手際がいい人材が連邦生徒会にいると分かって頼もしいと感じてる」

 

「あ、ありがとうございます...先生」

 

 こちらが本心を伝えていることがある程度は伝わっただろうか。先ほどと比べ表情も若干柔らかくなったし、肩の力も抜けたように感じる。それにしても...

 

「それにしても...改めて思うが本当にすごい量の書類だな。なにか手伝えることはないか?いくらアユムが頼もしくともこの量の書類の処理をこなすのは一苦労だと思うのだが...」

 

「えぇっ!?そんな...先生に手伝っていただくなんて...あ、いえ!もちらん嬉しいのですが、これらの処理は毎日出てくるものですから、お手間を増やしてしまいますし...」

 

 この量が毎日出てくるのか...と衝撃の事実に少し唖然としてしまった。それはともかく、遠慮されるのは想定済みだ。こちらにもメリットがあることを示せばアユムも多少は甘えやすくなるだろう。

 

「そう遠慮しないでくれ。手伝うことで私が書類に慣れるための練習にもなる。始めはアユムに迷惑をかけてしまうかもしれないがね?」

 

「迷惑だなんてそんな...えっと、でしたら、その...お言葉に甘えさせてもらっても、良いでしょうか...?」

 

「もちろんだ。まずは書類を運んでしまおうか。運んでいる途中だったのだろう?」

 

「はい...!ありがとうございます!先生!」

 

 アユムに先導されながら書類を運び、運び込んだ書類のうちいくつか簡単なものを引き受ける。これで多少なりとも彼女の負担が減ってくれるといいのだが...

 

 その後はお互いにまだやるべきことがあったのでその場で解散した。アユムから教えてもらったリンの場所に向かっている道中、今度はこちらが声を掛けられる形で新しい出会いを果たすことになる。

 

「あ、ちょっと待って。そこの大人のひとー」

 

 突如かけられた声に立ち止まる。周囲を見回すまでもなく、この場にいる大人と言えば十中八九自分を指すことになるだろう。声に応えるように振り向くとそこにはリンやアユムと似たような意匠の制服に袖を通した小柄な少女が立っていた。

 

「こんにちは。あなたがリン先輩が言ってたシャーレの先生?」

 

「こんにちは。私自身はあくまで代理だと思っているがね」

 

「おーリン先輩が言ってた通りに否定した」

 

 少女の口ぶりから察するに私が自己紹介の時に“代理”と言い直すことがばれていたようだ。うーむ...あまりしつこいと彼女の機嫌を損ねかねないか?しかし...図々しくも“先生”を名乗り、生徒を導けるような大層な生涯を歩んできたわけではない。

 

 故に、そう名乗ることにどうしても抵抗を感じてしまうし、何時か真に生徒たちを導く“先生”が現れるのではないか、私はその間の“繋ぎ”として呼ばれたのではないかという考えをどうしても振り払うことができない。

 

 少しばかり思考の渦に囚われている間、少女は私の周りをぐるぐると回りながら上から下まで無遠慮な視線で品定めをしていた。

 

「ふーん...思ってたよりは、まぁアリかな。ま、どうでもいいんだけど」

 

「多少なりともお眼鏡に叶ったようで何よりだ。ところで呼び止めた理由を聞いても?」

 

「まぁま、そう焦らないでよ」

 

 パリッパリッ

 

 そう言いながら、ポテトチップスをつまむ少女。

 

「そんな目で見ても、このお菓子はあげないよ?」

 

「おや、それは残念だ」

 

「む、なんか棒読みじゃない?ま、いいや。私はモモカ、リン先輩と同じく連邦生徒会に所属してる幹部だよ」

 

「つい数日前より連邦捜査部シャーレに所属したアーチャーだ、よろしく頼むモモカ」

 

「うんうん。話を戻すと、私たち連邦生徒会ってば連邦生徒会長がいきなりいなくなっちゃったせいで、お菓子を食べる暇もないくらい忙しいんだ」

 

 そう言いながらもパリパリとお菓子をつまんでいるモモカ。これは...いわゆるツッコミ待ちというやつなのか...?

 

「それは...大変そうだな?色々と」

 

 なんというべきか言葉に詰まり、曖昧な返答になってしまったがモモカは特に気にすることなく話を続けた。

 

「そうなんだよねぇ。それでね?さっき先生がアユムと話してるのを偶然聞いちゃったんだけど、先生って忙しい生徒のお手伝いをしてくれるんでしょ?」

 

「言いたいことはなんとなく想像がついたが...続けてくれ」

 

「アユムのことを手伝ってくれたんだもん。もちろん、私の仕事も手伝ってくれるよね?あ、ちなみにまだシャーレが本格始動してないっていう情報は把握済みだからね?」

 

 パリッ

 

「先生はこっちに来て日が浅いんだからキヴォトスに慣れるためにわざわざお仕事を持ってきてあげたんだよ?私ってばやっさしー」

 

 パリパリッ

 

「はぁ...」

 

 思わずため息をついてしまったが、断るつもりはあまりない。これが一般人なら仕事に忙殺されて体調を崩してしまうこともあるだろうが、英霊である私には休息というものは必須ではないからな。人であった頃の名残、あるいは精神的な疲労を癒すために休むこと自体はあるが魔力さえあれば問題ないのだ。

 

 それにこういう風に生徒に甘えられたり、頼られたりすることは私にとっても好ましいことだ。誰かの助けになる、誰かの役に立てる、生前からの頑固な在り方とも合致しているしな。

 

「分かったとも。少しばかり言いたいことがないわけでもないが、アユムだけを特別扱いするつもりはないさ。まずはモモカが担当している仕事について教えてくれ」

 

「ふふーん♪さっすが先生、わかってるねー♪先生も知っての通り、連邦生徒会長が消えて以降キヴォトス全域のあちこちでバカな連中が暴れてるんだよね。正義の味方気取りで器物破損する奴らとか、機密書類を盗んで悦に浸る奴らとか...ほんと、猫の手も借りたいぐらい忙しいんだよね。ま、私は何もしてないんだけど」

 

「おい...」

 

 最後の言葉に思わず突っ込んでしまったが、それに構わずモモカは話を続ける。

 

「とはいえ、このまま放置してたらまたリン先輩からなにか言われるかもしれないし...ってわけで、そういうバカたちを懲らしめて欲しいなって♪」

 

「手伝うのはいいが、あくまでもモモカの手伝いということを忘れないように」

 

 頼られるのは嬉しいがあくまでも補助に留めておくべきだろう。なんでもかんでも甘やかすのは優しさではないし、本人のためにならない。

 

「だいじょーぶだいじょーぶ。先生にお手伝いして欲しいのは現場でおバカさん達を制圧することだから。手続きとかその後の処理とかぐらいはわたしも手伝うからさ。そ・れ・に~連邦生徒会の仕事は連帯責任だから、先生もこのことは無関係じゃないんだよ。ふっふっふっ...」

 

 如何にも悪巧みをしていますとでも言いたげな表情で笑うモモカ。こうは言いつつも、連邦生徒会に所属している以上きっと自分の仕事はきっちりこなしている...はずだ。内容からしても戦闘ということなら下手に書類仕事を押し付けられるよりも楽だろう。

 

「まったく...」

 

「ふふん♪じゃあ、簡単なのから始めてみよっか?」

 

 パリッという小気味よい音が鼓膜を叩いた。

 

 

#####

 

 

 モモカに連れられて手伝いに関する書類をいくつか受け取り、気を取り直してリンのもとへと向かう。扉を叩いて入室の許可を求めれば扉越しに許可が下りたので遠慮せずに中へ。部屋の中では二人の少女が書類机を挟んで話をしていた。

 

「こんにちは先生。時間よりも少し遅れているようですが何か問題でもありましたか?」

 

 一人はキヴォトスに来てからおそらく最も連絡を取り合っている生徒。連邦生徒会所属で失踪した生徒会長の代理を務めているリンだ。数日前にあった時と比べて、少しばかり顔色がよさそうに見える。サンクトゥムタワーの制御権が戻ったことで私が来る前の大騒動の後始末におおよその目途が立ったのだろか?しっかり休めているといいのだが。

 

「すまない。少しばかり生徒と雑談をしていてね。ついでに少しばかり仕事を引き受けたり押し付けられたりしていた」

 

「押し付けたのはモモカですね?はぁ...後で話を聞かないといけないようですね。ところで引き受けたというのは?」

 

「アユムから簡単な書類整理をな。うず高く積まれた書類を見ているとどうにも心配になってしまってね。モモカに関しては...まぁ、ほどほどにしてやってくれ。ところで――」

 

 そこで話を切ってリンと向かい合うように立っているもう一人の少女の方へと視線を向ける。それで意図を察してくれたリンが少女について紹介してくれた。

 

「紹介します。彼女は扇喜(おき) アオイ。連邦生徒会の財務室で室長の座についています」

 

「自己紹介くらい自分でできるわリン行政官。改めまして連邦生徒会所属 財務室長の扇喜 アオイよ。よろしくお願いするわ先生」

 

 青みの強いショートカットの隙間からはリンと同様に長く尖った耳が見える。そのためかは分からないが並んでみると姉妹のように見えるな。おそらく雰囲気が近しいことも理由だろう。

 

「こちらこそよろしく頼む、アオイ。ところでなにやら話の途中だったようだが出直した方が良いかな?」

 

「いえ、それには及びません。先生をキヴォトスにお迎えしてからの騒動の後始末に関して少々話し込んでいただけですので」

 

「そうね。話はほとんど終わっていたもの。問題ないわ」

 

「そうか」

 

 どうやらタイミングとしてはちょうど良かったようだ。話し合いの邪魔にならずに済んでよかった。

 

「先生も来たようだし、この後の仕事もあるから私はこれで失礼させてもらうわ行政官。先生も機会があれば」

 

「えぇ、報告ありがとうございます財務室長」

 

「あぁ、これからよろしく頼む」

 

 アオイが部屋を出ていき、改めてリンへと向き直り口を開く。

 

「良かったのかね?私と顔合わせをさせたいと言っていたメンバーにはてっきり彼女も入っているものだと思ったのだが...」

 

「あくまでも顔合わせですからこれぐらいで問題はないかと。道中でアユム調停室長とモモカ幹部とも会われたとのことでしたし、その件は終わりとしていいでしょう」

 

 リンがそう判断したなら大丈夫だろう。顔合わせについて脳内で完了の判を押してモモトークでリンが言っていた用事について尋ねる。

 

「そうか。それではリンの用事というのは?」

 

「まずはシャーレへと戻りましょう。私の用事はシャーレの地下にありますから。あぁ、それとこちらが連邦生徒会から今後処理してもらうであろう書類のテンプレートです。ほとんど使われなくなった書類に関しては省いてまとめたのですが...それなりの厚さになってしまいました」

 

 そう言って、リンが手渡してきたのは厚さにして10cmを超える束だった。各種書類のテンプレートだけでこの厚さである。これから処理することになるであろう書類の山を幻視してしまうようで思わず眉をしかめる。

 

「用意してくれたこと自体は大変ありがたいが...今後どれぐらいの書類が押し寄せてくるのか予想できてしまうのは参ったな」

 

「安心してください。先生の予想の5倍は押し寄せてくるはずですから」

 

 リンにしては珍しく良い笑顔での宣告だった。いずれ訪れる地獄を笑顔で告げる生徒を前に私は複雑な感情と表情でそれを見返すことしかできなかった。

 

 

#####

 

 

 お互いにここ数日の近況を話し合いながらシャーレへと戻った。

 

「少し待っていてくれ。お茶を出す」

 

「いえ、すぐに用事を済ませてしまいましょう。この後も仕事が立て込んでいますから」

 

 その言葉にリンの多忙さが心配になる。肉体的な労働がそこまでなかったとしても、いや書類仕事の方が時に単純な肉体労働よりも疲れを溜めることは往々にして聞く話だ。

 

「リンが忙しいのは重々承知の上だが、お茶を一杯楽しむぐらいの時間はあるだろう?」

 

「ある程度の平穏が戻ったとはいえキヴォトスの各地ではまだ多くの問題が残っていますから」

 

 焦燥感、という程強いものではないだろう。しかし、リンの表情に着目すればそれに近しいなにかを胸に抱いていることくらいは読み取れる。大量の仕事に忙殺されて疲労がたまっているのか、現在の連邦生徒会のトップに立つ者としての責任感ゆえか...あるいは急にいなくなった友人を心配してのことか。その胸中を察してやれるほど自分は聡くない。しかし、労わることくらいは借りにも先生であるならやってしかるべきだろう。

 

「いいから座って待っていたまえ。先日より多少良くなったとはいえ疲労が顔に出ているぞ」

 

 ここは多少強引にでも休ませた方が良いと判断してそう告げる。言われて顔を触るリンを視界の端にとらえつつ手早くお茶の準備を始める。

 

「リンの仕事を詳しく把握しているわけではないし、キヴォトスという地域についてもまだ不明瞭な部分はあるが...君が言う“問題”とやらは一日二日で解決するようなものではないのだろう?」

 

「...まぁ」

 

「君の立場上、無理をするなとは言えない。しかし、無理のしどころは選ぶべきだ。人というものは想像よりも脆い。常に全力で走り続けることはできないのだよ」

 

「...」

 

「それに連邦生徒会はリン一人で運営しているわけではない。上に立つ者であれば、人に頼ることを覚えなさい...ちょうど、先程知り合った生徒の中に暇を持て余してそうな娘が一人いたしな」

 

「ふふっ」

 

 それまで静かにこちらの話を聞いてくれていたリンがこらえきれずに笑みをこぼした。きっと、お互いに思い描いている人物は同じだろう。ティーカップをリンへと差し出しつつ話を締める。

 

「微力ながら私も力を貸そう。少なくとも君がお茶を楽しむ時間くらいは稼いで見せるとも...説教臭くなってしまったが、君たちよりも少しばかり長生きした先達からの助言だと思って受け取ってくれたまえ。分かり切ったことを言う口うるさいだけの小言かもしれないが」

 

「いえ...そうですね。ご忠告ありがとうございます。そうまで言って下さるのなら少しだけ休ませていただきます」

 

 そう言って、リンは真新しいソファに腰を下ろしティーカップに口付ける。

 

「ン...おいしい」

 

 少しほころんだ顔を見て安堵する。

 

「口にあったようで何よりだ。先日、少し遠出をした際に買ったものなのだがラベンダーティーというハーブティーの一種で心を落ち着かせたり、ストレス軽減効果があるらしい」

 

「なるほどラベンダーですか...」

 

「良ければ幾つか持っていくかね?色々と気になるものがあって少し買いすぎてしまったところだったんだ」

 

「ではお言葉に甘えさせていただいきます」

 

「あぁ、そうしてくれと助かる」

 

 その後、しばらくシャーレでは穏やかな時間が流れていた。お互いになにを話すわけでもない静寂の時間。ただし、そこに気まずさはなく安らかな雰囲気が室内に満ちていた。ティーカップが空になる頃、どこかスッキリとした様子のリンが改めて今日の用事について話し出す。

 

「改めて、本日先生のお時間をいただいたのはシャーレの地下にある“ある物”について説明させていただくためです」

 

「ふむ、地下には掃除以外では立ち寄ることは少ないな。触れてもいいのか判断に困るものも置いてあったからな」

 

「おそらく本日の用事と無関係ではないでしょうね。さっそく、地下へ向かいましょう」

 

 地下の一室にある不可解な装置。その目の前まで歩みを進めたリンは早速とばかりにこちらを振り返ってその装置の説明を始めた。

 

「こちらは連邦生徒会長が先生に残した物...いえ、どちらかというと施設と呼んだ方が良いかもしれませんね。名をクラフトチェンバーと言います」

 

「クラフトチェンバー...」

 

「ざっくり説明しますと、“シッテムの箱”の管理者だけが接続・操作可能なありとあらゆる物質を生成することができる機械です。大型の3Dプリンターと言えばわかりやすいでしょうか?」

 

「ほぅ...それは凄いな」

 

 私の投影魔術と似たようなものだろう。もっとも、こちらは私自身がその構造や成り立ちを理解していないと完全な投影は難しいのだが。

 

「私も原理や仕組みについてはよく分かっていないのですが...今は先生だけが作動させられるオーパーツ、ということになりますね」

 

「物資生成のための対価は?」

 

 ありとあらゆる物質を生成できる機械...施設?まぁ、どちらでもいいが。これほどの機能を持つのなら対価にはそれなりのものを要求されるのではないかと思いリンに質問をしてみると、リンは上着のポケットからなにかの欠片のようなものを取り出して私に見せてくれた。

 

「こちらのキーストーンと呼ばれる物質を用いて物資の生成を行っているようです。ただ、キーストーンは採掘場所などがあるわけでもないので適宜見つけたらクラフトチェンバーを使うぐらいの認識でいいかと」

 

「安定した収入にはなり得ないということか...」

 

「そうなりますね。私たちはこういう、連邦生徒会長が残していった玩具には興味がありませんので先生にうまく活用していただければと思います」

 

 玩具か...噂の連邦生徒会長とは私が想像するよりも茶目っ気がある人物だったのかもしれないな。

 

「了解した。そういうことならありがたく使わせてもらおう」

 

「説明したいことは以上ですね。では、私は連邦生徒会に戻ろうと思います。本日はお時間をいただきありがとうございます。また、何かあればいつでもおっしゃってください。お手伝いさせていただきますから」

 

「あぁ、リンも適度に休憩を取ることを忘れないように」

 

「ふふっ♪えぇ、分かっています。先生直々にお茶を嗜む時間を作ってくださると言われては断ることはできませんから」

 

 リンからの返答に先程までは見えてこなかった余裕を感じ、これなら大丈夫そうだと私はその言葉を肯定した。

 

「是非ともそうしてくれ」

 

「それでは失礼します」

 

 




1か月ちょいぶりですかね?
続きを楽しみにしてくださってる方もいらっしゃったみたいで遅れて申し訳ないです
(°Д °;)

幕間ですけど前回のソラちゃんと似た感じですね。今回は前話よりも人数が多かったので文字数はちょい盛りされました。

デイリーミッション系とか製造とか特別依頼の概要に触れた感じです。今後も幕間として指名手配とか総力戦とか戦術対抗とか書けたらいいな

誤字脱字報告、感想、評価等お待ちしています。特に感想は楽しく読ませていただいてます。感謝です。
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