第一話 出発
朝日が室内を満たす頃、閉じていた瞼を開きソファから身体を起こす。静寂が占める室内で静かに身支度を整え終える頃、手元のタブレットがひとりでに起動し画面に映った少女が朗らかに朝の挨拶を告げた。
『おはようございます、先生!』
「あぁ、おはようアロナ」
奇妙な縁に手繰られて召喚された異郷の学園都市キヴォトス。私は
『ところで先生?本日はなにかご予定がありますか?』
アロナの問いに私は今日の予定を振り返りながら答える。
「ふむ...先日連絡を取り始めた連邦生徒会のアユムの書類の手伝いとモモカから貰った情報を基に敵情視察に行こうかと考えていたくらいだが...なにかあったかね?」
『ここ数日の間にシャーレに関する噂がキヴォトスでたくさん広まっているみたいで、各学園の生徒たちから助けを求める手紙がいくつか届いているんです』
「それは良いことだな」
『はい!良い兆候です!ようやく私たちが本格的に活動を始めることができるということですから!...それでですね?そのお手紙の中にちょっと不穏なものがありまして。一度読んでもらった方が良いかもしれません』
アロナに促されるままに
『 連邦捜査部の先生へ
こんにちは。私はアビドス高等学校の奥空アヤネと申します。
今回どうしても先生にお願いしたいことがありまして、こうしてお手紙を書きました。
単刀直入に言いますと、今、私たちの学校は追い詰められています。それも、地域の暴力組織によってです。
こうなってしまった事情は、かなり複雑ですが...どうやら、私たちの学校の校舎が狙われているようです。
今はどうにか食い止めていますが、そろそろ弾薬などの補給が底をついてしまいます...
このままでは、暴力組織に学校を占領されてしまいそうな状況です。
それで今回シャーレの噂を聞いて先生に手助けをお願いできればと思いました。
先生、どうか私たちの力になっていただけませんか? 』
「かなり逼迫した状況のようだ。この手紙が届いたのは?」
『昨夜の19:00頃ですね。先生はシャーレ近辺の見回りに出ていらっしゃったので昨日は疲れていると思いお話しませんでした』
「そうか。気遣ってくれてありがとうアロナ」
『えへへ』
照れた表情で頬をポリポリとかきながら笑う少女を微笑ましく思いながらより詳しい情報を聞いていく。
「このアビドス高等学校というのは?」
『うーん...昔はとても大きい自治区でしたけど、気候の変化で街が厳しい状況になっていると聞きました。なんでも数年前から自治区が砂漠化の影響をかなり受けてしまったとか』
「砂漠か...たしかにそれは生活するのに不便を被りそうだな」
『キヴォトスでもかなり大きな自治区だったらしいんですけどね。どれぐらいかって言うと、街のど真ん中で迷子になって遭難する人がいたらしいですよ?』
「街のど真ん中で...?そんなことがあり得るのか?」
『あはは、うーん...私もさすがにちょっととした誇張だと思いますけど...いくらなんでも街のど真ん中で遭難だなんて...ねぇ?』
俄かには信じがたい情報だな。だが、噂の真偽はともかくとして、そういった話が出てくるぐらいには広大な土地を持っているのは確かなのだろう。
『それよりも!学校が地域の暴力組織に攻撃されてるなんて...何があったんでしょうか?ただ事ではなさそうな雰囲気を感じます』
「それについては現地で手紙の主から詳しい話を聞かせてもらうことにするとしよう」
『すぐに出発ですか?』
「いや、いくつか準備が必要になる。アロナはアビドス高校までの経路を確認してくれ」
『了解です!先生はどうするんですか?』
「私は一度連邦生徒会へ行ってリンに移動手段を工面してもらう。支援物資に関しては...何が必要だと思う?」
前々から長距離の移動手段を考えていたところだったからな。今回の話は渡りに船といった感じだ。
『手紙にも書いてありますから弾薬は必須だと思います。種類が分からないのでまんべんなく持って行くのがいいかと。あとは...定番としては保存の効く食料とか飲料水ですかね?アビドスは周辺環境が砂漠ということもあって水はあって困ることはないでしょうし』
「そうだな。あとは医療品の類も用意しておこう。移動手段には補給物資を積み込めるようなサイドカー付きの二輪か軽自動車を借りる予定だ。それを考慮してアビドスへの経路を割り出してくれると助かる」
『わかりました!シャーレ初のお仕事、一緒に頑張りましょうね先生!』
「最大限善処しよう」
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アビドスへと出発する用意が整ったのはその日の夕方のことだった。リンから移動手段として借りられたのは連邦生徒会が所有する大型二輪のうちの一つだった。取り外しが簡単なサイドカーは人の代わりに相当量の荷物を載せることも可能な優れものだ。
食料と医療品に関してはソラに協力してもらってエンジェル24から仕入れることができた。クラフトチェンバーを活用するという手もあったが、あちらはまだ対価になるキーストーンを十分な量手に入れていないからな。多種の弾薬をそれぞれ1セットずつ生成する程度にとどめた。
当然ながら、1セットずつでは到底足りないだろう。ではどのようにして弾薬を準備するのか...もったいぶる必要はないか。簡単に言うと、少しズルをした。
「
食料、医療品そして大量の弾薬を積み込みシャーレの戸締りをすれば出発だ。
『うーん...』
耳に付けたイヤフォンを通じてアロナの声が聞こえてくる。なにかが腑に落ちていない、そう感じさせる声音だ。
「なにか気になることでも?」
『あっいや、気になるというか...先生の使う、とーえーまじゅつ?って言うんですか?えっと、ズルくないですか?』
その歯に衣着せぬ物言いに思わず笑ってしまった。それをどう捉えたのかは分からないがアロナにとってはやや不満だったらしい。
『もうっ!笑わないでくださいよ。せっかくクラフトチェンバーが大活躍するチャンスだったのに、ちょっと使っただけで後は先生がご自分で作っちゃったじゃないですか...というか、各種弾薬を1セットずつクラフトチェンバーで作ってましたけど、最初からご自分で作っちゃダメだったんですか?』
「あぁ、そのことか。いやなに、キヴォトスで一般的に流通している弾薬と私が知る弾薬の種類や構造が一致しているかは分からなかったからな。確認も兼ねてそうしたまでさ。解析した構造からも投影して問題ないと分かったし、今後は手ずから作り出すことができるだろう。
それと...クラフトチェンバーをもっと活躍させたいのならキーストーンが不足している問題をなんとかしないことにはどうにならないだろう?」
『それはそうですけど...まぁ、それはいいです。それよりも、大丈夫なんですか?』
質問の意図が読み取れず質問で返す。
「なにがかね?」
『えっと...魔術で弾薬を作ったんですよね?私は魔術というものに詳しくないので分かりませんが、見ていた限り材料も使ってなかったですし...漫画とかのフィクションだとそういうのって時間経過で消えちゃったりするんじゃないかなって思うんですけど...』
「なるほど、全くもって真っ当な意見だな。それにアロナの推測はかなり的を射ている」
『そうなんですか?』
「あぁ、本来投影魔術というのは一時的に物体を作り出す、言ってしまえばその場しのぎの魔術だ。魔力の燃費もいいとは言えないし、術者の実力にもよるが再現性も低い。実体として維持できる時間も有限だ」
『それじゃあ、どうして先に準備を?
「説明が難しいな...端的に言えば、私の投影魔術は少々特殊でね。時間経過で消えることはないし、あらかじめ対象の構造を解析しておけば高精度で再現することができる。弾薬などの小物であれば魔力の消費も...まぁ微々たる範疇に収まる」
『えぇ...?やっぱりズルじゃないですか!』
「フッ、確かにデメリットがほぼ消えているからな。そう思うのも無理はない。それはそうと、もういい時間だが寝なくてもいいのかね?知人曰く、乙女にとって夜更かしは肌の天敵らしいが」
日が沈み、点々と続く外灯を頼りに風を切って進む。話し相手がいるのは嬉しいが、夜更かしを推奨することはできないな。と思っていたのだが...
『? 私はシッテムの箱のメインオペレートシステムですから睡眠は必要ありませんよ?』
「そうなのか?出会いが出会いだったからな、てっきり休息が必要なものだと思い込んでいたよ」
『あっ、あれは、その...うぅ~!先生はイジワルです!もう知りません!おやすみなさい!』
「あぁ、おやすみ」
イヤフォン越しに無言の圧に似たものを感じたが、運転に集中して気づかないふりをした。数分もすれば無言の圧は心地よさそうな寝息に変わり、深夜の二人旅は日が昇る前に幕を下ろした。
そして――――
――――荒廃した砂被りのゴーストタウンでものの見事に道に迷ってしまった。
原作だと手紙貰ってすぐアビドス行ってたけど、ぶっちゃけただの無鉄砲だと思うんです。アロナちゃんは「さすが大人の行動力!」って褒めてくれてましたけど
あと、各学園の地理関係というか距離感とかって公式情報出てますかね?そこそこ学園間で距離あるとは思うんですけどね。むずかしいです
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