透き通る世界の無銘の弓兵   作:矛盾ピエロ

8 / 25
 鷹の目持ちのエミヤが遭難なんてするわけないだろ!いい加減にしろ!

 と、思いつつもそうしないとシロコと会えないのでアロナちゃんのポンコツぶりを少し強化することで対策しました。


第二話 ようこそアビドス対策委員会へ!

 

 昨日のアロナの言葉は俗にいうフラグというやつだったのだろう。アビドス自治区へとたどり着いた私たちはものの見事に道に迷っていた。

 

『あ、あれ~?おかしいですね?この近くだと思うんですけど...』

 

 うんうんと唸りながら困ったように地図を見つめているアロナをそっとしておいてぐるりと周囲を見回す。

 

 ゴーストタウンという表現が適切だろうか?建造物自体はいくつもあるが、そのほとんどが砂をかぶって風化していたり、砂に半ば埋もれていたりと事前情報通りの廃れ具合を確認することとなった。

 

「一度、背の高い建物の屋根から周辺を確認するべきだな」

 

『うぅ~ごめんなさい先生。アロナがもっとしっかりしていれば...』

 

「なに、気にする必要はない。事前にアロナが教えてくれていた情報を軽視してしまった私にも責任はある。今度からはお互いに気を付ければいいだけの話だ。幸い、物資の面から見てもまだまだ余裕はある。だからあまり落ち込まないでくれ」

 

『ありがとうございます...先生』

 

 アロナに言った通り、遭難はしてしまったが状況はそれほど絶望的ではない。そもそもこちらは食事や睡眠を必要としない英霊(サーヴァント)なので肉体的な疲労をさほど気にする必要はないし、精神的な面でも余裕がある。いざとなれば用意した物資を消費するという手もある。

 

 これが幾度目かもわからぬ召喚。当然ながら砂漠や乾燥した地域での活動は初めてではないのだから勝手も多少は分かっている。

 

 ひとまず現状を打開するため、軽快な身のこなしで電柱や一軒家の屋根を踏み台にかつては高層マンションだったであろう廃れた建物の屋上へと到着する。

 

「どうだ?なにか手掛かりはつかめそうかね?」

 

『うぅ~ん...あっ、あっち!あっちの方にあるのがアビドス高等学校じゃないですか?!他の建物よりも学校っぽいです!』

 

 示された方向に視線をやると、なるほどたしかに見渡す限りの住宅や店に比べてそれらしい外見をした建物は一つしかない。ちらほらと人影も()()できることから、こちらよりも格段に人の気配も多いようだ。まずはあそこを目的地とするべきだろう。

 

「アロナの言う通り、たしかにそれらしい建物はあれぐらいだな。ではまずはあそこを目指してみるとしよう」

 

『はい!方角は南南西ですね!今度こそしっかりナビゲートして見せますから大船に乗った気持ちでいてください、先生!』

 

「フッ、あぁではよろしく頼むよアロナ」

 

 行動方針を決めて路肩に停めていたバイクの元へと戻ってみると、上半身が隠れるぐらい乗り込むような勢いでサイドカーの物資を物色している少女と出会った。あまりにも突飛な状況に思わず天を仰いでしまう。

 

「本当に...退屈しないな、ここは」

 

 呆れというかなんというか...小さく呟いた言葉はどうやら少女には聞こえなかったようでいまだに物色を続けている。

 

「なにをしているのかね?」

 

「!?」

 

 少しばかり声を張って問いかければ、少女はビクッと反応しておそるおそるこちらへと振り返った。

 

 照りつける日差しを反射して輝く、銀の髪の少女だった。特筆すべき点は頭頂部付近に生えた...おそらく狼の耳と汗が噴き出るような気温だというのに厚めのマフラーを首に巻いていることか。

 

 よく見れば済んだ双眸は瞳孔が異なる配色になっている。いわゆるオッドアイに似たようなものだな。

 

 バツの悪そうな表情でこちらを見つめているが、同時にこちらに対して十分な警戒心も抱いているようだ。肩に掛けたアサルトライフルに手を添えていつでも構えられるように体制を整えている。

 

「...えっと」

 

「そのバイクは私のものでね。サイドカーに積んでいる物資はこれからこの付近の生徒に支給するものだ。悪いが、盗ませるわけにはいかないな」

 

「ん、ごめんなさい。てっきりカタカタヘルメット団のものかと思った」

 

「そのカタカタヘルメット団という組織のことは分からないが、少なくとも私は無関係だ」

 

 そう弁明してみたものの少女の警戒はさほど解けることはなかった。

 

「この辺はアビドスでもかなり廃れてる。こんなところに何か用事?」

 

「先ほども言ったように私は救援要請を受けて支援物資を届けに来ただけさ。この辺りにあるアビドス高等学校という学校なんだが、心当たりはあるかね?」

 

「!ん、それなら知ってる。私もそこの生徒だから」

 

 アビドス高等学校、という単語に対して大きく反応を見せた少女は自らがそこに在籍している生徒だと名乗った。

 

「おっと、そうだったのか。なら話は早い。自己紹介が遅れてしまったが私はアーチャー、今は連邦生徒会に属する連邦捜査部シャーレで先生...のような仕事をしている」

 

 紛らわしい自己紹介に違和感を覚えたのだろう。こてん、と首を傾げ不思議そうな顔でこちらを見る少女。

 

「? アヤネが言ってた。最近、連邦生徒会直属の新組織ができたって。そこの先生?」

 

「うん、まぁ...そうだな...すまない、どうにもその“先生”という呼称に慣れなくてね」

 

「そうなの?べつに、おかしくないと思う」

 

「こちらの勝手な都合だから気にしないでくれ。それはともかく、可能なら道案内を頼んでもいいだろうか?私はつい最近キヴォトスに来たばかりでね。当然ながらアビドス自治区の土地勘が無くて困っていたんだ」

 

 ここにいる理由を聞いて少女は納得したように頷いた。

 

「あぁ遭難者だったんだね。さっきも言ったけど、この辺は元々こんな感じだから。もっと郊外の方に行けば市街地があるんだけど、初めてならしょうがないかも」

 

「なるほど、知らず知らずのうちに迷いこんでしまっていたか」

 

「ん、ドンマイ。アビドスが初めてなら体調は大丈夫?一応、ライディング用のエナジードリンクならあるけど...」

 

 そう言いながらこちらにエナジードリンクの缶を差し出してくれるが、あいにくと喉の渇きはあまり感じていないので丁重に断っておく。過酷な環境で生活しながらも他人を思いやる性根がある、優しい娘だ。第一印象があんまりにもアレだったので少々驚いてしまったが...

 

「気遣ってくれてありがとう。だが、心配はいらないさ。自分のためにとっておきたまえ」

 

「ん、分かった。じゃあ、行こっか」

 

「ロードバイクはどうする?サイドカーに括りつければ運べるとは思うが...」

 

「ううん、大丈夫。この辺は人もいないから少しぐらい放置してても盗まれる心配はないから。あとで取りに来るよ」

 

「そうか...その時はこの場所まで送らせてもらおう」

 

「ん、お願いする。それじゃあ改めて、出発」

 

 もしもの時に備えて準備していた同乗者用のインカム付きヘルメットを渡して二人乗りで目的地まで向かう。本来であればサイドカーを使うべきなんだが、サイドカーには積み込める限りの物資を積み込んでしまっていたため人一人乗せるだけの余裕すらなかった。

 

「こんな気温の中で申し訳ないが、暑くても落ちないようにしっかり掴まっていてくれ」

 

「ん、大丈夫」

 

 アロナから教えてもらった新しいルートをなぞりつつ、アビドス高等学校へと向かう道すがらアビドスの現状について話をして交流を深めていた。

 

 まず、少女の名前は砂狼(スナオオカミ) シロコ。アビドスの2年生で対策委員会という組織に所属しているらしい。

 

 対策委員会というのは文字通り、アビドス高等学校の問題に対して対策を立てて問題を解決していく組織らしい。手紙の主である奥空 アヤネという生徒もこの対策委員会に所属している。

 

 というよりも、アビドス高校は全校生徒数5名という最早学校としての機能を果たせないほどの少人数で運営している学校だと説明を受けた。

 

「それはまた、なんというか...」

 

「ん、けっこうギリギリだった。最近はちょっかいをかけてくる奴らもいるから先生が補給物資を持ってきてくれて助かった」

 

「ちょっかいをかけてくる奴らというのは先程口にしていたカタカタヘルメット団という連中のことか?」

 

「そう、いくら追い返してもすぐに襲ってくる」

 

 どうやら手紙から読み取れた通りの逼迫した状況だったようだ。遭難してすぐにシロコと会えたのはお互いにとって運が良かったと言える。

 

「ん、着いた」

 

 そうこう話しているうちにようやく目的のアビドス高等学校へとたどり着いた。校庭を突っ切って校舎の近くにバイクを止めさせてもらうと、エンジン音が聞こえたのだろう。校舎内から複数人の足音がこちらへと向かってきていた。

 

「シロコ先輩っ!」「シロコちゃん、おかえりなさい☆」

「そちらの方は?」「うへ~みんな、そんなに急がなくてもいいのに~」

 

 続々と校舎から出てきた4人の生徒。シロコを含めたこの5人が支援を求めたアビドスの在校生か。

 

「みんな出てきたんだ?うちの学校に久しぶりのお客様だよ」

 

 シロコからのパスを受けとって軽く自己紹介をする。

 

「連邦捜査部シャーレからやってきた、アーチャーだ。最近キヴォトスに赴任してきたばかりの、まぁ、なんだ...いわゆる先生、というやつだな」

 

 やはりまだ慣れないな...と独り言ちる。自己紹介に対して初めに反応を示したのは赤いフレームの眼鏡をかけた黒髪でボブカットの少女だった。

 

「あっ!私が送った手紙!」

 

 あまり期待してはいなかったのか、驚愕の表情で声を上げた少女が手紙の主なのだろう。

 

「君がアヤネか。手紙には要請する物資に弾薬以外の指定が無かったのでその他は適当にこちらで見繕わせてもらったぞ。保存の効く食料と飲料水、あとは簡単な応急処置ができるような医療品だ。リストを渡すので後ほど内容を確認してくれ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

「わぁ☆支援要請が受理されたんですね!良かったですね、アヤネちゃん!」

 

 おっかなびっくり差し出したリストを受け取ったアヤネと喜色に満ちた笑顔でアヤネに抱き着きながら全身で喜びを表す少女。

 

「ふぅん?ほんとに来たんだ?」

 

「うへ~とりあえずせっかく持ってきてくれた物資なんだから早く運んじゃおっか」

 

 警戒するようにこちらを値踏みする少女と物資の回収を指示する5人の中で一番小柄な少女。初対面から十人十色な反応...個性的というか賑やかというか...一つ言えるのは――

 

「一緒にいて退屈しなさそうなメンバーだな?」

 

「ん、みんないい仲間」

 

 誰にともなく呟いた独り言を耳聡く捉えたシロコは乏しいながらも自慢するような表情で自信たっぷりに答えてくれた。

 

 

#####

 

 

 用意していた支援物資を校舎内に運び込んだ後、まずは改めて自己紹介をすることになった。

 

「先生はさっきしてくれたからね。今度は私たちの番。まずは私からかなー」

 

 先陣を切ったのは5人の中でもっとも小柄な少女だった。膝上まで伸びた桃色の長髪と大きな癖毛、青と黄のオッドアイが特徴的だ。 

 

「対策委員会で委員長をしてるよー。3年の小鳥遊(タカナシ) ホシノ。よろしく~先生」

 

「はい!じゃあ、次は私が。2年の十六夜(イザヨイ) ノノミです☆よろしくお願いしますね、先生☆」

 

 続いて自己紹介をしてくれたのはブロンドの長髪を靡かせ、制服の上から黄色のカーディガンを羽織った少女だ。おっとりとした雰囲気を纏っており各々の個性が強そうな対策委員会のメンバーの中では比較的落ち着きのある娘だ。対策委員会の精神的な支柱、というと少々大げさかもしれないが...

 

「ん、次は私。アビドス2年、砂狼 シロコ。改めてよろしくね、先生」

 

 道中ですでに自己紹介を済ませていたからか、あっさりと終わらせたシロコは視線で次を促した。

 

「えっと、じゃあ次は私が...対策委員会で書記とオペレーターを担当しています。1年の奥空(オクソラ) アヤネです。支援の件、迅速に対応していただいてありがとうございます。先生」

 

「...アビドス1年の黒見(クロミ) セリカ。どうも」 

 

 最後、アヤネに続くようにつっけんどんな態度で自己紹介をしたのが、シロコ同様に動物の...猫か?おそらく猫の耳が生えた黒髪の少女。先程からこちらに対して一際強い警戒心を露わにしている少女だ。

 

 警戒されてはいるが、着崩すことなく着用している制服などから察するに根は真面目な娘なのだろう。まぁ、いきなり見知らぬ大人が現れたら警戒するのも致し方ないことだな。

 

「よろしく頼む。たしか手紙では地域の暴力組織に狙われているという話だったな。その組織に対抗するために手を借りたい、ということでいいだろうか?」

 

「はい、ここ最近頻繁に学校を襲撃してくる組織がいるんです。襲撃の理由は学校の占拠、組織の名前は――」

 

「カタカタヘルメット団、だろう?道中でシロコから簡単な事情は聞いている」

 

「ん、話した」

 

「そうだったんですね...なら、話は早いです。先生、お力を貸していただいてもよろしいでしょうか?」

 

 期待を込めた眼差しに対する返答はすでに決まっている。安心感を与えられるように微笑みを湛えながら向けられた問いに答える。

 

「もちろんだとも。どれほど力になれるかは分からないが善処させてもらうつもりだ」

 

「ありがとうございます!先生!」「やった~☆これで何とかなりそうですね!」

「ん、百人力」「あともうひと踏ん張り、だねぇ」「...ふんっ」

 

 連邦生徒会に届いた一通の手紙、その手紙を通してこれから私はアビドスを取り巻く複雑で深刻な問題の数々に関わっていくことになる。もっとも、この時点でそれを悟るほどの叡智は私にはないし、たとえ“その先”を知っていたとしてもこの選択を後悔することはないだろう。

 

 それが英霊エミヤの在り方なのだから。

 

 




 原作だと数日間彷徨ったらしいのですが、さすがにそれはやりすぎなので原作とのタイムラグの間(カタカタヘルメット団との戦闘前)に親睦を深める感じにしようと思います。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。