十等分して叩き割れ 作:漆さん
武器の柄を撫でる。
冒険者として身を立てる事になったナガトは、とりあえずダンジョンへと潜る為に入用な武器をライオスに借金する形で手に入れた。因みに、この借金という体裁はナガトから言い出した事。
ライオス、そしてファリンも冒険者祝いに、と自発的にお金を出してくれようとしたのだが、ただでさえ世話になり続けている立場であるナガトはそれが心苦しかった。という訳で、妥協点として借金としたのだった。
買ったのは、刀身が肉厚幅が広く、で切っ先が無い代わりに只管頑丈な大型の鉈。僅かに内側に湾曲した柄は、片手でも両手でも振りやすく衝撃に強いもの。
腰の後ろに提げた得物の重みは、これからの冒険の先触れを感じさせるものだった。
武具店の店主に礼を一つ言って、ナガトは店を後にする。
空は青色。白い千切れた雲があるばかりの快晴だ。
「ナガト!良い武器はあった?」
「ファリン。ああ、勿論。ライオスには後で礼を言わないと」
「見ても良い?」
「ん?ああ、これな」
腰の後ろに提げていた大鉈を取り外して、ファリンへと見せる。
刀身が凡そ、七十センチ強。柄がニ十センチ前後。かなりデカい。手に取ったファリンは、ずっしりとしたその重みに目を見開く。
「だ、大丈夫?これ、かなり重いけど」
「問題ナシ。ちゃんと素振りさせてもらったからな。それに、これ位頑丈な方が長く使えるだろうし」
ナガトが切れ味などを重視しなかったのは、彼自身の
ファリンから再度大鉈を受け取って腰から提げ直したナガトは、今後の予定を問う。
「これからどうするんだ?」
「えっと、兄さんが顔見知りの鍵師の人に仕事を頼むって。後は、酒場の方で募集を掛けるみたいだよ」
「募集か……初心者のパーティに人が来るのかね」
「多分、大丈夫じゃないかな。熟練者のパーティーの場合は初心者お断りみたいなところも多いから、逆に初心者同士が集まりやすいの」
「……それはそれで不安だ」
ライオスやファリンは、金剥ぎの護衛でダンジョンへと潜っていた経験がある。しかし、やはりそれは冒険者の経験というには余りにも足りない。
ナガトにしても、巨岩を砕く破壊力と元の世界で異形の化物を倒した実績があれども、ソレがそのままダンジョン攻略へと活かせるとは限らない。何より今の彼は勉強中の身。
「後は、ナガトの装備を幾つか揃えないとね」
「あ、そっちは大丈夫。開墾手伝った農家さんから使わなくなった背嚢とかを貰ったから」
「え、そうだったの?」
「おう。ついでに暇なときに手伝えば、賃金も出してくれるってさ」
「へぇ~、それじゃあ兄さんへの借金も直ぐ返せるね」
「だな。まあ、もともと借りっぱなしにするつもりはなかったけど」
着々と、独り立ちの基盤を固めるナガト。コミュ強というよりは、運が良かったのだろう。
実際、彼はここに至るまで運で生き残っている部分が大きい。
人の良いファリンに拾われ、ライオスと出会い、裕福な農家との繋がりを得た。変わり種の武器を手にしたからか、武具屋にも顔を覚えられた。
運も実力の内とはよくいったものだ。
*
酒場での募集を経て、数日後ライオスをリーダーに据えたパーティーが発足した。
メンバーは、ライオス、ファリン、ナガト、ナマリ、ダンダン、アシビアの六名。
「いよいよ、冒険の始まりだなぁ」
完全に浮かれている様子のライオス。
その背中へと冷めた目を向けるのは、ハーフフットのダンダンだ。
「おい、大丈夫かアレ」
「さあ……まあ、流石に魔物に正面から突っ込んだりはしないと思うけど。それより、ダンダン」
「何だ?」
「いや、鍵師について教えてほしいんだ」
「……そういや、そんな話もしたっけ。魔術師とかじゃなくて鍵師に興味がある奴は珍しいな」
「そう?」
ダンダンに言われ、ナガトは首を傾げた。
彼にしてみれば、異世界の知識は些細なものでも実に興味深いものばかり。特に他種族の話は、聞いていて面白かった。
「で、何を聞きたいんだ?」
「鍵師の仕事、かな。名前の通り、鍵だけを担当する訳じゃないんだろ?」
「ああ。そこらの街で鍵師をするってんなら、鍵を開けられればそれで良い。ただ、ダンジョンに潜るのなら、罠の解除や隠し通路の発見も俺達の仕事になるな。もっとも、個人差はあるが」
「へぇ……確か、ハーフフットは手先が器用って話だったし、だから鍵師が多いのか……」
「それもある。ただ、俺達ハーフフットは種族柄肉弾戦が得意じゃない。手足のリーチも短くて、体が軽い分筋肉が付きにくいんでな。オマケに、魔法への適性も低い。苦手分野を克服するよりは、得意分野を活かすってこったな」
肩を竦めるダンダンに、ナガトは頷きを返した。
ダンジョンの中では、ソロで潜るならば未だしもパーティを組むのならそれぞれの得意分野で互いをカバーし合った方が効率がいい。
この点で言えば、前衛三人、後衛二人、鍵師一人の現在のこのパーティはバランスが良いと言えた。
「そう言うナガトはどうなんだ?ライオスとどういう繋がりが有んだよ」
「俺?俺は……まあ、ライオスとファリンが恩人って話、かな。パーティに入ったのも恩返しの側面があるし、俺自身ダンジョンには興味があって渡りに舟って感じ」
異世界人の話はしない。したところでどうにかなる物ではないが、だからといって腫れもの扱いも御免被るからだ。
そんな談笑を重ねながら、一行はダンジョン内を練り歩く。
実力諸々を加味して、回るのは基本的に地下第二階層。相手となるのは、動物系なら大蝙蝠やバジリスクなど。しかしどちらかというなら、人喰い植物などの方が多いだろう。
「――――フッ!」
踏み込みと共に振り下ろした大鉈の一撃により、食らいつこうとしていた人喰い植物は真っ二つに切り裂かれた。
「良し、良い切れ味だな。強度も十分、軋みもしない」
人喰い植物の体液を拭ってコツコツと指で刀身を軽く弾いたナガト。
複雑に絡み合った繊維質も、厚めの毛皮も一刀両断。オマケに、彼自身の力とも相性がいい。
「お疲れ様、ナガト。怪我してない?」
「おう、平気」
力こぶを作る様に腕を曲げてから大鉈を腰の後ろに提げ直したナガトに、ファリンはホッと息を吐く。
実力を疑う訳ではない。現に、ここに至るまで彼は複数の魔物を一刀両断、仕留めてきたのだから。怪我も特に負っていない。
しかし、それはそれだ。何より、ナガトはこのパーティ内でも最年少。自分で拾ってきた事も相まって、ファリンとしては弟を世話している感覚に近いのかもしれない。
他メンバーも戦闘終了。元より、初心者と銘打っても冒険者として身を立てようとする者達だ、ある程度の相手には引けを取る事は無い。
そんな中で、ナガトへと視線を送る赤毛のドワーフが居た。
「ナマリ?」
「ッ、な、何だ!?」
「いや、じっと見てくるから……ナガトに用事?」
ファリンが声を掛ければ、ナマリは焦った様にあたふた。
気まずそうに視線を逸らすが、やはりチラチラと彼女の視線はナガトへと向けられる。
「どうかしたのか?」
「あ、うぅっ…………お、お前の」
「俺の?」
「お前の、鉈を見てたんだ」
「「鉈?」」
ナマリに言われ、二人は顔を見合わせた。
ナマリの種族であるドワーフは、鉱物への造詣が深く鍛冶の優れた技術を持っているものが多い種族だ。背の低さは坑道の往来に役立ち、夜目が利き、腕力と肉体強度に優れる。その一方で魔法に関する素養はヒトの種族の中では最低値。
そんなドワーフの打った武具というのは、実に質が良い物が多い。同時に、だからこそ優れた武具に対する好奇心も強かった。
ただ、ナマリからすれば他人の装備に強い興味を示すのは、卑しい様に感じられるらしい。これは、彼女が冒険者としてダンジョンに潜る理由に原因があった。
そんな内心を知ってか知らずか、ナガトは大鉈を再び取り外す。
「ほい」
「えっ」
「見たいなら、良いぞ。別に見た所で減る物じゃないしな」
「……あ、ありがとう」
大鉈を受け取り、ナマリはしげしげとその表面へと視線を走らせ、刃に指を添わせる。
「……普通の鉈だな」
「何かあるの?」
「え?ああ……さっきから魔物を馬鹿すか真っ二つに叩き割っていくから、何かしら凄まじい業物かと思ったんだが……」
「普通の鉈だった?」
「ああ。こいつを作った鍛冶師は、かなり腕がいい。芯鉄も歪んでないし、柄から刀身にかけてのバランス調整もキッチリしてる。でも、それだけだ。特別な素材を使ってる訳じゃない。質の良い鋼を使ってるんだろうけど、それでも伝説級じゃないな」
「ふぇー……」
ぽっかり口を開けて間抜けな声を出すファリン。ハッとするナマリ。
武具に対する知見と情熱を持つ一方で、その分野に対する話を一度始めてしまうとついつい語ってしまう。所謂、オタクの性。
気まずそうにしながら、ナマリはナガトへと鉈を返した。
「その……良い武器だと思うぞ?」
「あ、うん。それは気にしてない。それから、ナマリの疑問だけどさ」
「え、おう」
「何て言うか、俺の魔法みたいなもんだよ。それを使うと、強制的にクリティカルが出せる訳」
「はあ?……それって、武器要るのか?」
「最悪素手でも行けるけど……まあ、武器は要るね。結局、殴りつけるのは自分な訳だし、得物はあった方が良い。で、力任せに叩きつけるんだからなるべく頑丈で、尚且つ手入れが簡単なものが良かったんだ」
「ほーん、成程ね」
それから、武器談議に花が咲く二人。
そんな二人に、ファリンはニッコリと笑みを浮かべるのだった。