1
『愚鈍っ。くそ、完全に心臓がとまっているわ……ッ!!』
『緊急搬送要請、一名、一〇代男性、状態はDOA!傷の状態?分からん。本当に分からないんだ二〇年現場を行き来しているがどうやったらこんな負傷をするのか想像もできない!!』
『しかしこれは、すでに、あまりにも……』
『黙れ!!免許を持つ医師が正式に死亡確認をするまではまだ患者だ。貴様なにきっかけで今の仕事から転職した、資格のない者が手前勝手に命を諦めるな!!』
『ひっ!?』
『だから、言ったのよぉ。こんな事続けていれば、いつかこういう目に遭うってぇ……』
『……、』
『……一月六日、午後一一時五八分』
『搬送された患者の死亡を確認。すでに死んでしまった人間だけは、どうにもならない』
2
一月七日 〇時一〇分
「あああ」
第七学区の人気の無い路地裏であった。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
ベージュの修道服を着た金髪の女性がうずくまり涙を流していた。
いや、それはもはや泣くというよりも吠えるといった方が近かったかもしれない。
アレイスター=クロウリー。
世界最高の魔術師であると同時に世界最高の科学者と呼ばれた天才。
それでいて、未だ達人の域に到達できていない誰か。
その『人間』が今、一抱えのおまんじゅうのように小さく体を丸めたまま、絶叫していた。
「なんでっ!!どうしてっ!!いつもこうなるッ……!!!!上条当麻は死んだ!!!!アンナ=キングスフォードも!!!!!
もしも、もしかしたらっ!!永久遺体の調整が万全であれば間に合ったかもしれないのに!!結局今回も私の失敗じゃないかッ……!!!!!」
最早、無理やりにでも自分を責めなくては精神を保っていられないのか。自身への怨嗟の声は止まらなかった。
「どうして私のような大悪人の失敗のツケを彼らの様な真っ当な人間が払わなくてはならない?確かに私には未練があって、彼らにはそんなものは無かったのかもしれない!!でも!!いや、だからこそ!!そんな人たちが生き残るべきだったんじゃないのか??ちくしょう、なんで世界ってヤツはこんなにも善人に冷たいんだッッッ!!!!!」
完全に心が折れてしまっていた。
無理もないだろう、なにしろ憧れの少年に尊敬できる師──この『人間』は一夜にしてかけがえのない人を二人も失ってしまったのだから……。
だから、アレイスターがその後の展開に対処できなかったのはある意味当然の事であった。
パンッッ、と乾いた銃声が人気の無い路地裏に響き渡った──。
3
アレイスターは生きていた、いや傷の一つも負ってはいなかった。
普段ならともかく、現在の彼に不意打ちを防ぐことなどできなかったにも関わらずだ……。
──ではなぜか、答えは単純であった。
ガキンッ!!と機械でできた細いアームが凶弾を弾き飛ばしていたのだ。
木原脳幹、『七人の始祖の木原』によって脳の演算機能を拡張され人間以上の頭脳を手に入れたゴールデンレトリバーであり、アレイスターに残されたかけがえのない友人。ロマンを解するその男が今アレイスターを守るように立ちふさがっていた……。
『顔を見せたまえよ襲撃者。まったく、傷心中の人間を背後から不意打ちとはロマンというものを理解していないとみえる』
機械のアームを使い器用に葉巻に火をつけたゴールデンレトリバーが静かにそれでいて確かに怒りをにじませた声で物陰に潜む襲撃者に語りかける。
対する相手側も特に拘泥はしなかったらしい。
ザリッ、という足音とともにあっさりと木原脳幹の前に姿を現したのだ。不意打ちを防がれたというのに焦るどころか余裕すら感じさせる笑みをたたえて……。
『……
さしもの木原脳幹も声に動揺を隠せてはいなかった。ただしそれは相手の態度にでは無く容姿に対してであったが──。
月の光をまともに照り返す白い髪、鳩の血と呼ばれる最高級のルビーよりも美しく禍々しい瞳。
『
深い親交があるわけではなかったが、書類の上ではよく知る存在。つまりは、、、。
『
学園都市第一位の怪物にして、服役中のはずの現統括理事長がそこに立っていた。
4
「へえ、アクセラレータって呼ばれてるのかコイツは。けどその驚きようもしかしてこのガワのオリジナルと知り合いだったか?」
『ガワ……、だと?』
当初木原脳幹は自身の知らない所で一方通行のクローンでも作られたのかと考えた。確かに一方通行はアレイスターを殺したいほど憎んではいたがしかし、あの真面目な男が課せられた懲役を無視してまで直接殺しに来るとは考えづらかったからだ。
その予想は半分は正解だったといえるだろう、実際に目の前にいる一方通行は本物ではなかったのだから。ただし使われている技術は別物であった──。
「カルティベーションマッスルだったっけ?機械部品じゃあなくて、万能細胞で作った筋繊維とか神経組織を兵器に組み込む技術。俺はそれで作ったガワを着ているのさ」
カルティベーションマッスル、木原脳幹の専門分野ではなかったが、このゴールデンレトリバーは外に比べ科学技術が2,30年進んでいると言われる学園都市の中でもトップクラスの頭脳を持つ科学者だ当然ながらそれについての知識も確保していた。
彼の記憶が正しければ、確か本来は数センチ大の小さなロボットを制御する技術だったはず。例えばエイに似た水中活動ロボットを作る際に、モーター、歯車、シリンダー、バッテリー、制御チップ、など様々な機械部品を限られたスペースに詰め込むのではなく、一粒で柔軟に対応してくれる筋繊維で一部を補ってしまおうといった発想である。
つまりは、バイオミメティクスのように生物の特性を模倣するのではなく、直接体組織を組み込めば簡単に能力の一部を再現できるという理論。
逆に言えば、カルティベーションマッスルで再現できる性能は本物の一部のみとなる。つまりは、、、
(一方通行をどこまで再現出来ているかは定かではないが、少なくとも最も厄介な演算能力に関してはカルティベーションマッスルでは再現不可能だ。それならばA.A.A.の無い今の私でもつけ入る隙くらいはあるだろう)
ガシャコン!と木原脳幹の背で金属製の機械が変形する音が響いた。
『さて、貴様が何故アレイスターの命を狙うのかは知らないが。彼は私の友人だ、むざむざと殺させるわけにはいかない』
「へえ、どうやって?あんたが背負っている鉄くずじゃ万に一つも勝ち目は無いけど。それとも、負けるとわかっていても立ちふさがるのがロマンだとでもいうつもりか?」
ふむ、と木原脳幹は一拍置いた。
確かに、つけ入る隙はあるのかもしれないがそれでも、実際は勝ち目など無いに等しい状況なのだろう。
それでも美味そうに葉巻をくゆらせ、大型犬は言い放った、それが当然だとでもいう様に。
『わかっているじゃないか若いの。そうとも、効率や合理性じゃない。無駄を楽しむ心、こいつが野良犬と私を切り離す定義だよ』
5
「なるほど、そこまで突き抜けられたら何も言えねえなあ」
ゴドン、と襲撃者の背中側から拳大の金属の塊が落ちる音が響いた。
(遠隔起爆式の
パンッ、と軽い破裂音が鳴り
(この香り、ホワイトセージをベースにした
異変はこれだけでは終わらなかった。カッ!!と、爆発地点を中心に、路上に光を使った複雑な文様が描かれる。魔術に対しては知識の浅い大型犬であったが、直感的に理解した。これは、オカルトの技術体系に基づいて精密に計算された、ある種の『陣』……人工霊場であると。
変化は続く、いやすでに終わっている変化に後から認識が追いついたといった方が正しいのか。いつの間にか、爆心地に何かが佇んでいた。それは、『唯一無私』と刻まれた2メートル近い鉄骨を軽々と振り回す人身豚頭の怪物であった。
単なる科学ではありえない異様な現象。
『カルティベーションマッスルなんて物を使っているから科学サイドかと思えば、実際は魔術サイドからの刺客だったという訳か。相変わらず古き友は世界中に敵がいるらしい……』
相手の主な武器は科学ではなく魔術産、それ相応に対応を変えなくてはと考えを巡らせるが、ここでもまた予想外が起こった。
「いや、ハズレだ。科学サイドだの魔術サイドだのそんな枠組みは知らねえが、そもそも俺達はこことは別の世界から渡って来た存在だからな」
あまりにも荒唐無稽な回答であった。普段の木原脳幹であれば一笑に付していたのだろう、だというのに自分でも驚くほどにあっさりと、その事実を受け入れてしまっていた。まるで、
「そういえば、自己紹介がまだだったっけ……。『フリーダム』アワード899、『
『召喚術』、『魔術』とも似て非なる
自在に神話の神々や
初めて小説(というかss)を書くので更新頻度は低いと思いますが、創訳11巻発売までには完結させたい……!!。