彼女は英雄。彼女は伝説。それでも彼女は普通になりたい 作:wakawaka
とある国の立派な屋敷で一人の男が天寿を全うしようとしていた。
彼には何もかもがあった。
他人を虜にする容姿、他を圧倒するあらゆるものへの才能。
地位も名誉も富も得ていた。
まさに完璧だった。
しかし、それは彼から友人を、家族を奪っていった。地位も名誉も富も才能も綺麗な容姿もあったと言うのにそれらは彼を他人から見て化け物にしか見せなかった。彼を多くの者が妬み敵となった。しかし、彼はその溢れんばかりの才能によりねじ伏せた。まさに英雄まさに伝説。彼が残した逸話は数知れず。世界に轟き多くの者に影響を与えた。それだけのことを彼は成し遂げたのだ。それでも、彼は心を許す者を得られなかった。妻は政略的結婚で得た物であったがすぐに彼を恐れるようになった。子供達も成長するにつれ彼の異常さを知り恐れるようになった。
そして現在だ。
彼は一人で事切れようとしていた。
「何故だ。」
多くのことを成し遂げた。多くの人々を救った。だが最後になって彼はどうしようもない虚しさに襲われていた。
「なぜなのだ?」
何故私はこうなった。何故私がこんな死に方をしなくてはならない!
『いいや私は理解している。』
彼の中の冷徹な自分が答える。
『私はここまで老いても頭の切れは劣化していない。私はあまりにも恐れられているのだ。多くの国民を救うため多くの者を犠牲にした。多くの政敵から身を守るため多くの者を監獄へ落とした。そこに家族だからといった情は一切なくただただ合理性の塊として生き続けた。だからこうなった。』
だからこんなにも寒いのだろうか。戦場ではとても頼りになった冷徹な自分の答えに私は何も言い返すことが出来なかった。
悪事をしたが故に地獄に落ちる。理解できる。
人を騙し続けたが故に信用を失う。理解できる。
ならば私はどうだ。悪事をしたか?
いいや多くの民を守った。救った。英雄と呼ばれた。歓声を浴びた。自分の英雄譚が作られたことも知っている。悪人にはこんなものは作られない。
私は人を騙したか?
そうだな。多くの者を救うため自分を守るため敵を葬るためたくさん騙した。だがどうだろう騙さなければ私は死んでいた。私だけではない。国も民も家族も全て無くなっていただろう。これは人の信頼を失うに値するものだったのだろうか。
今までの自分を振り返る。何が悪かった。何をすればこんな寂しい終わりではなかったのだろう。もっと家族に情を抱けばよかのか。もっと人を大切にするべきだったのか。疑問は尽きない。
「何故?」
人生最後の問。しかしそれに答える存在は誰一人としていない。
「そうだ。」
彼は思いつく。
「才能も容姿も全て無ければ。」
もっと愚かになれば、もっと醜くなれば私は誰かといられたのではないだろうか。
合理ではなく感情で。強者ではなく弱者へ。そうなればこんな最後はなくなるのかも知れない。
「・・・ふん。といってももう意味などないが。」
だが、もし、もし次があるならば私は今とは反対に生きてみよう。
こうして彼は死んだ。
余談だが、この後彼の死を惜しんで国を挙げての葬儀が行われた。彼こそ英雄。彼こそ伝説。多くの逸話がその証明。世界中の彼のファンは彼に万雷の喝采を送った。彼は英雄。彼は伝説。これは紛れもない真実であった。
そして、彼は彼女になっていた。
ここは日本のとある民家。そこに一人の女の子が生まれた。共働きだが仲の良い夫婦。生まれたばかりの娘にもう既にゾッコンだった。
「はーい。玲奈おくちあけてー。」
娘の名は玲奈。彼女は両親の愛を受けてすくすく育っていた。もう離乳食へと食べる物も変化して育っている。
「あーん。あぁ何て可愛いのかしら?」
彼女の母はすくすく育つ娘にあふれんばかりの愛情を見せていた。
そんな中、彼・・・いや彼女は未だに状況を理解できなかった。
(・・・どうして、どうしてこうなったーーー!!)
彼は今まで(前世を含めて)で一番の絶叫を心の中で上げた。
私が私を自覚して3年が経過した。どうやらここは私のいた時代からしたら未来のようだ。しかし、それ以外が分らない。しかし、もう一度生きる事が出来るのだとしたら後悔しないように生きよう。それだけは心に決めた。ひとまずは知識を得ることからだ。
だからもうお願いだから両親よ頼むから心から頼むからいちいち私を他人の前で「可愛い、可愛い」言わないでくれ。何というか恥ずかしくなる。
そして私は小学生になった。
私は保育園と言われる所に預けられるようになったがその間に文字の読み書きに始まり、一般常識といったことからこの世界の歴史について調査することが出来た。この国では難解な文字が使用されており、多少手間取ったが母が家事をしている間にスマホと言われる情報媒体で「インターネット」と言われるものを使い大体のことは理解できた。そしていくつか驚くべきことが発覚した。一つ目は己の才能が容姿がその片鱗を見せており、今世でも高い素質をもつ可能性が高いことだ。物事の理解力、記憶力、前世の経験を持つことを考えても明らかに異常だろう。加えてスポーツに対しても同じく、おいけっこや木登りでは私が通った保育園では負け知らずだった。これは対策考えなくては前世と同じ結末を迎えかねない。二つ目はこの世界は私のいた世界ではないと言うことだ。理由は簡単だ。私の知る有名な人物が調べても一切でてこず地図も全く違う形をしていたのだ。三つ目は学び舎に10年以上通えることだ。私の両親は一般庶民だが国の補償やもろもろの制度で多くの時間を学び舎で過ごすことが出来るのだ。これは前の世界では貴族のみの特権だった。しかも10年以上とは本当に凄いな。
しかし、生まれながらの高い素質はどうにか隠さなくてはならない。対策を講じなければ以前と同じ轍を踏むことになる。だからといって容姿は親からの貰い物だ無下にはできない。よし。決めた私はバカな子として生きよう。そうすればいくら容姿がよくても妬まれる度合いは減るだろう。バカな子はどこに行っても「バカだから」ですむ。よーし!私はこの小学校と呼ばれる学び舎で新しい友を手に入れてみせる!
(保育園ではあまりにも他の子との差がありすぎて友達が出来なかった。なお、遊びでは自分自身を知るため何事も全力で行ったため無敗を誇り幼いながらに尊敬されていた模様。彼女は知らない)
そしてあっという間に小学校を卒業した。
彼女が得たものは一人の友達と多くの嫉妬と恨みそして軽蔑であった。
バスケが入れられませんでした。すみません。