ほのか宅から戻った達也は、自室で葉山からの連絡を受けていた。
『――というわけでして、イギリスのウィリアム・マクロードがドイツのカーラ・シュミットの引き抜きと見られる動きをしているとの事です。彼の真意は兎も角として、カーラ・シュミットは一応その申し出を断った事をご報告させていただきたく連絡した次第です』
「USNAだけではなく、ドイツかイギリスにもスパイでも潜らせているのですか?」
『ほっほ、こればかりは達也殿相手でもお教えする事は出来ませぬな。無論、真夜様の跡を継がれれば、そのスパイは必然的に達也殿の物となりますが、実際にいるかどうかは私めも存じませぬので』
葉山が知らないはずがないと達也は確信しているが、ここで追及しても何も教えてはくれないだろうと、過去の経験から無駄な事はしないのだった。
「それで、ドイツの魔法師排斥派と共存派の騒動はどうなっているのです?」
『精々取っ組み合いの喧嘩、と言ったところですかな。争っているのは魔法師ではない人間同士ですので、魔法が飛び交ったりすることは無いはずです。その代わり、銃弾や砲弾が飛び交った、という話は聞きましたが』
「魔法よりよっぽど過激ですね」
『全くです。ですが、この程度では軍が動くことは無さそうですな』
「そもそも軍部の影響を受けている人間も少なくないわけですから、その武器の出所が軍部であってもおかしくはないですしね。そんなところに軍が出動するはずもない」
『民間人に武器を流すなど、あるまじき行為ですな』
「本気で思ってます?」
何時もの柔和な笑みを浮かべたまま呟いた葉山に、達也は思わずツッコミを入れた。
『私めの真意は兎も角、軍が武器を横流しした裏を取って関係各所にリークしますか?』
「下手に刺激して魔法師排斥運動を加速させることも無いでしょう。取っ組み合い程度なら放っておくのが一番です。もちろん、こちら側が不利になるような展開は避けてほしいですが」
『まったくでございますな。それでは達也殿、ご報告は以上になりますので――』
『何々? 電話の相手はたっくんなの?』
葉山からの報告が終わり、これで電話を切れば一息つけると思った矢先、電話の向こうから嬉しそうな女性の声が聞こえてきた。
「葉山さん、母上はいないのではなかったのですか?」
『所要で屋敷を空けていたのですが、戻られたようですな』
『たっくん、なんだか嫌そうじゃない?』
「そのような事はありませんよ、母上」
葉山から端末を受け取ったのか、真夜が少し不満そうに達也に話しかける。達也の方も慣れているもので、すぐに真夜の機嫌を取ることにした。
『最近色々と忙しくてね。たっくんたちに報告に来てもらう時間すら取れなくてね』
「この状況ですので、母上が忙しくなるのも仕方がない事だと思いますよ」
『でも~、たっくんに会えないのは寂しいんだよ?』
「そうは言われましても……母上がこちらに来ればそれだけ命を狙われる確率が高くなるわけですし、母上の護衛の方にそれだけ負担がかかるわけですので、簡単に会うのは無理だと割り切っていたのではないのですか?」
『頭では分かってても、心では納得できないんだよ~! たっくん、なんとか時間を見つけて会いに来れないかな』
「入学式が終わってからも、しばらくはごたごたが続くでしょうから、会いに行けるとしてもそれ以降だと思います」
達也が正直に答えると、真夜はこの世の終わりのような表情を浮かべたようなため息を吐いた。
『亜夜子さんが羨ましいわね』
「亜夜子がどうかしたのですか?」
『だって、たっくんと同じ学校に通うわけでしょ? いつでもたっくんに会えるじゃない』
「あくまで端末を使わせてもらうだけで、亜夜子は四高の生徒ですが」
『学校が何処だろうが、たっくんと同じ校舎にいるのには変わりないのだから、羨ましいの』
そんなものなのかと、達也は真夜の考えに小さく頷いた。彼とすれば、亜夜子が使う端末は二年の、しかも一科生の教室にあるものなので、あまり自分には関係ないと思っていたのだが、真夜からすれば、同じ校舎であるだけで羨ましいと思うものなのだろう。
『夕歌さんもそちらに拠点を移すようですし、新居が完成すればほぼ毎日たっくんと会えるわけでしょ? 私だけたっくんとの時間が持てないのは不公平だと思うんだけど、たっくんはどう思う?』
「どう思うと言われましても、互いに忙しいわけですから仕方ないのではないでしょうか。もちろん、時間さえ合えば何時でも会いに行きますが」
こう言っておかないといろいろと面倒な事になると、過去の経験から重々理解している達也は、しっかりと真夜へのフォローを入れた。
『そう言ってもらえるだけで嬉しいけど、やっぱりたっくんに直接会いたいよ~。何とか時間を作って会いに行くからね!』
「あまり無理はなさらないようにしてくださいね。母上に万が一があったら、四葉家は大変な事になるのですから」
『心配してくれてありがとう。でも、たっくんに会う為ならどんな苦労だって耐えられるわよ』
これを本気で言っているのだから、達也は苦笑いを浮かべながらもう一度無理だけはしないように釘を刺して通信を切る。
「母上がこっちに来るとまた面倒な事が起こりそうだな」
そんな暇は無いと分かってはいるのだが、真夜なら本気で時間を作ってこっちに来るかもしれないと、達也は深いため息を吐き、リビングへと向かうのだった。
相変わらずリーナはポンコツ扱いでしたが、キャラが立ってて面白かったです