劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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この程度は造作もないでしょうしね


黒羽家の実力

 水波の予言が当たり、駅に到着した達也は、見覚えのある金髪の少女を見つけた。

 

「あら、リーナじゃないの、久しぶりね」

 

「ハイ、エリカ。この集団は何かしら?」

 

「これから雫の家が保有してる別荘で、深雪が料理教室を開くんだって。あたしは面白そうだから同行してるだけだけどね」

 

「タツヤも行くのよね?」

 

「そりゃこの面子で達也くんが来ないとか言ったら暴動になるでしょうし」

 

 

 実に楽しそうに言い放ったエリカに、達也は呆れ顔でため息を吐いた。

 

「なんだったらリーナも来る? 雫、一人くらい増えても問題ないよね?」

 

「うん」

 

 

 あまり興味なさげに頷いた雫だったが、リーナは雫にはあまり興味は示さず、その返事だけに反応した。

 

「それじゃあワタシもついて行こうかしら。ミユキ、いろいろ教えてね」

 

「リーナはミアさんに教わってるんじゃなかったかしら?」

 

「ミアにも習ってるけど、せっかくだしミユキにも教えてもらいたいのよ」

 

 

 正直なところ、リーナは深雪に教わりたいとは思っていない。当たり前の事だが、達也がいるからついて行くだけであって、まともに教わろうとは考える事はしない。

 

「教えるのは構わないけど、生半可な気持ちだったら容赦しないからね」

 

「上達したいって気持ちはあるし、ダーリンに食べてもらいたいって気持ちもちゃんとあるから大丈夫よ」

 

 

 リーナが使った呼称に、複数のメンバーが反応を示した。

 

「ちょっと貴女! 今達也様の事を『ダーリン』とか呼びませんでした?」

 

「それが何か? タツヤはワタシのフィアンセなんだから、別に問題ないでしょ?」

 

「達也さんはお許しになっているのですか?」

 

「注意したところで直さなかったのよ」

 

 

 亜夜子が飛びつかん勢いで確認すると、深雪が非常に残念そうに答えた。

 

「それじゃあ、私たちもそう呼んでもいいかしら?」

 

「駄目です!」

 

「深雪さんには聞いていないのだけど」

 

「それだけは許しません! 本当ならリーナにだって呼ばせたくないのですから、皆さんは今まで通りの呼称にしてください! そうでなければ私、何をするか自分でも分かりませんよ?」

 

 

 脅しではなく本気だと分かる深雪の態度に、真由美をはじめとする他の婚約者たちは一歩深雪から距離を取った。

 

「まぁまぁ、呼び方一つで達也くんが贔屓するとは思えないんだし、今まで通りで良いじゃないの。リーナも、あんまり勝ち誇った顔をしないようにね」

 

「別に勝ち誇ってるつもりは無いのだけども……まぁ、今のご時世にミユキが魔法を発動させたら日本でも暴動が起こりかねないしね」

 

「日本、でも?」

 

「こっちの話よ」

 

 

 エリカが首を傾げてみせると、リーナはすぐさま誤魔化した。別に隠してるわけではないが、あまり大っぴらに話せることでもないのだから、この反応は当然だろう。

 

「まぁいっか。それじゃあ、さっさと雫んちの別荘に行きましょう」

 

「何でエリカが仕切るのよ」

 

 

 他の面子も思ったことを、深雪が代表して言う。もちろんそんなことでエリカが大人しくなるわけもなく、そのまま別荘に到着するまでは、エリカが場を仕切ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 別荘に到着し、料理を教わる側の人間である泉美と香澄、エイミィ、それとリーナの四人に対して、料理を教える側の人間は深雪、水波、真由美、愛梨、ほのかの五人。残りのメンバーは部屋でくつろぐことになった。

 

「みんな張り切ってるわねー」

 

「エリカは参加しなかったの?」

 

「あたしは別に、教わるほど下手じゃないし、教える程上手でもないからね。そう言う雫だって参加しないんでしょ?」

 

「私もそこまで下手でも上手でもないから」

 

「えっと、確か四高の黒羽亜夜子さんよね? こうして話すのは初めてだよね」

 

「はじめまして、千葉エリカ様。私、四葉家の分家筋に当たります黒羽家の長女、亜夜子と申します。以後お見知りおきを」

 

「じゃあやっぱりあの噂は本当だったんだね」

 

「えぇ。ですが、あまり大っぴらには申し上げられませんので、この事はご内密に。私はあくまでも達也さんと結婚して四葉家に入る、という形になりますので」

 

「やっぱ四葉って大変なのね」

 

 

 他人事のように呟いたエリカに、亜夜子は満面の笑みを浮かべる。

 

「なに?」

 

「いえ、まるで他人事のようだな、と思っただけですわ。千葉様だって、いろいろとおありのご様子ですし」

 

「達也くん?」

 

「達也さんは関係ありませんわ。この程度、私たちでも調べる事は出来ますので」

 

 

 エリカは達也を問い詰めようとしたが、それよりも早く亜夜子が自分たちで調べたと告げた。

 

「黒羽家は主に諜報などを担当しておりますので、この程度の秘密でしたらすぐに調べ上げる事が出来ますの」

 

「この程度って……」

 

「実際、達也さんははじめ、貴女の事をあの『千葉家』の娘だとは存じ上げてなかったようですが、すぐに調べ上げたようですから」

 

「一応公認の秘密扱いだけど、外部には漏れてないはずなんだけどな」

 

「千葉家は剣術の腕は一流ですけど、情報の隠蔽はそれほどではないみたいですから」

 

 

 亜夜子が満面の笑みで毒吐いたので、エリカはどういう表情をすればいいのかに困り、結局は無表情で亜夜子を睨み返す事しか出来なかったのだった。




亜夜子の勝ち誇った笑みがやすやすと想像出来る……

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