劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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拡大解釈をして報道の自由を謳う輩など(笑)で十分です


亜夜子のマスコミ嫌い

 和やかとは程遠いエリカと亜夜子の会話を聞きながら、沓子は雫に話しかけていた。

 

「さすがは大企業の令嬢じゃの。こんな広い屋敷が別荘とは」

 

「別に。父が凄いだけであって、私の力じゃない」

 

「じゃが、雫嬢がいなければワシらはここには入れんかったじゃろうし、その点は雫嬢の力だと言えるのではないか? お主も頑なに自分の力じゃと認めないところがありそうじゃが、ワシはお主の力じゃと思っておる」

 

「沓子、北山さんが困ってる」

 

「なんじゃと? 別にワシは困らせようとしているわけではないのじゃが」

 

「まぁ沓子はそのつもりだろうけど、言われた方は反応に困るんだよ」

 

「そんなものなのか?」

 

 

 栞に言われたことをそのまま雫に確認する沓子を見て、香蓮は頭を押さえる。達観しているようでその実子供っぽい節が見られる沓子は、四人の中でも扱いに困るようだと、一連の流れを見ていた達也はそんなことを思っていた。

 

「ところで達也さん、最近世界中で暴動が起こってるってお父さんが言ってたけど、何か知らない?」

 

「まぁ、いたるところで暴動やらデモ行進だのが起こってるのは確かだが、今のところは大丈夫だろう。むしろ、問題なのはブラジル軍が戦略級魔法の使用を簡単に認めたことだ」

 

「そんなに問題なのか?」

 

「前にも言いましたが、戦略級魔法はおいそれと使うわけにはいかない魔法です。もし使うとしても、一般人や非戦闘員に被害を出さないよう細心の注意を払って使うべきです。ですが今回の使用は、非戦闘員を巻き込むのを気にした様子はなく、今後戦略級魔法の使用が簡単に認められてしまう世の中になってしまうかもしれないのですよ」

 

「ふむ……戦略級魔法というと、あの『灼熱のハロウィン』の時に使われた魔法もそうなのか? 四十九院家では調べられんかったのじゃが、香蓮は何か知らぬのか?」

 

「残念ながら、あの魔法については何処の家も詳細は知らないでしょうね。それこそ、使った本人に聞くしかないでしょう」

 

 

 随分とギリギリな会話をしているなと、達也は内心苦笑いを浮かべていた。達也が戦略級魔法師であることを隠したいのは四葉ではなく国防軍なので、真夜としては婚約者には教えてもいいのではないかと思っているが、ほんの一握りのメンバーにしか話していない。したがって沓子や香蓮があの魔法の正体を知らなくても仕方がないのである。

 

「そういえば達也さんは国防軍と関係してるって聞いたけど、何か知らない?」

 

「悪いが何も知らないし、知っていたとしても機密指定だろうから話す事は出来なかっただろうな」

 

「そっか……黒羽のお嬢様は何か知らない?」

 

「申し訳ありませんが、私もあの魔法がどのような原理で、何方が放ったのかは存じ上げませんわ」

 

「ふーん。やっぱウチの情報統制は大したことないって事ね……本当にすごいところでは貴女でも介入出来ないって事だし」

 

 

 亜夜子はもちろんのこと、エリカも達也が国防軍の特務士官であることは知っている。もっと言えば亜夜子は達也が戦略級魔法師であることも当然知っているのだが、その事を窺わせない程完璧な演技だった。

 

「まぁ、日本軍の切り札となり得る存在なのは認めますが、些かやり過ぎな感じもしないでは無かったですね。何せ朝鮮半島の形が変わってしまったのですから」

 

「でもさ、先に仕掛けてきたのは五年前も二年前も向こうなんだし、ある意味自業自得だと思わない?」

 

「エリカ嬢はそういう考え方が出来るかもしれんが、大抵の人間は大亜連合に同情するじゃろうな。実際に襲われた人間は兎も角、撤退した相手を悉く消し去ったのじゃから、やり過ぎと非難されても仕方ないじゃろう。さらに言えば、魔法師でない人間からしてみれば、島の形を変えてしまう程の威力など、恐ろしいものじゃという認識しかないじゃろうしの」

 

「魔法師であろうが無かろうが、仕掛けたらやり返されるのは当たり前だと思うけど?」

 

「それはエリカが千葉の剣士だからだよ。ウチの両親も、あの事件については判断しかねるとか話してたし」

 

「自分たちは破壊工作を目論んでおいて、自分たちが攻撃されたら非難する? そんなのおかしいでしょ」

 

「私も千葉さんに同意しますわね。そもそも、政治的解決が不可能だからこそ、あのような手段に出るしかなかったのではないか、という考え方が出来ないなんておかしいとは思いませんか? 無能な政治家の方々が出来なかったから、魔法師であるとある御方が大亜連合に制裁を加えたと考えるのが普通ですわ! それをまたまた無能なマスコミの方々が情報操作でもしてるかの如く、魔法師が悪いみたいに報道するからこのような――」

 

「亜夜子」

 

 

 マスコミ嫌いな亜夜子が熱弁を振るうのを、達也は名前を呼ぶことで抑える。達也もマスコミは好きではないが、ここで熱弁しても意味はないのだ。

 

「っ、申し訳ございません。つい『国民の代弁者(笑)』に対しての怒りをぶちまけてしまいましたわ」

 

「あたしもマスコミは嫌いだけどねー。それにしても、黒羽さんのマスコミ嫌いは筋金入りっぽいね」

 

「まぁ、好き嫌いは誰にでもあることじゃが、あまり叩き過ぎると狙われるかもしれないぞ? 何せワシらはあの『四葉家』の関係者になるわけじゃしの」

 

「私は最初から関係者ですけどね」

 

「じゃが、それは世間的には秘密なのじゃろ? あまり派手に叩くと探られたくない腹を探られることになるから気を付けた方が良いぞ」

 

 

 沓子の忠告に、亜夜子は少し落ち着きを取り戻して、申し訳なさそうに頭を下げたのだった。




中にはちゃんとしている人もいるんでしょうが、自分もマスコミは好きになれないですね

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