リーナを指導している深雪と真由美とは違い、もう一つのグループは平和的に調理を進めていた。
「泉美さんも香澄さんも、最低限は出来るようですね」
「ボクは兎も角、泉美は普通に出来るからね」
「そんなこと無いですわ。私など水波さんと比べれば出来ないと言われても仕方ありませんもの」
「私と比べる必要はありませんよ。そもそも、私は侍女ですので、名家の令嬢である泉美さんや香澄さんの対象になるのはおかしいのです」
水波の言葉に、愛梨が意外そうな顔を浮かべた。
「貴女、侍女でしたの? 新人戦での活躍や、その卓越した魔法力を見る限り、侍女というより護衛だと思っていたのだけど」
「あまり変わらないと思いますが……元々はメイドとして達也さまや深雪様のお世話を仰せつかっていたのですが、達也さまが次期当主に指名されてからは、本格的に護衛として働いております」
「そうだったの」
「水波ちゃんはあくまで『私はメイドです』って言ってきかない、って深雪から聞いたけど?」
「達也さまレベルの護衛を求められても、私には不可能ですので」
「それこそ、司波先輩と水波を比べる必要なんてないんじゃない? あの人はいろいろと規格外なんだしさ」
香澄の慰めともとれる言葉に、水波は苦笑いを浮かべながら頷いた。さっき自分が言ったセリフを自分にも当てはめられたのが少し恥ずかしかったのだろう。
「そうですね。達也さまと私とでは、護衛として求められるものや、魔法資質が違うのですから、比べる必要などありませんでしたね」
「そうそう。それに、みんなに司波先輩レベルを求めたら、大抵の護衛は実力不足でクビになっちゃうしね」
「そこまでではないと思うのですが……確かに司波先輩はお強いですが、まだ自分の魔法力を上手く扱えないと仰られておりますし、魔法師としてのレベルならそうたいしたことないのではありませんか?」
達也の真の実力を知らない泉美はそんな風に思っているようだが、ここにいる他のメンバーはある程度達也の真の実力を知っている。水波に至っては、達也を本気で怒らせると誰一人この世に存続出来なくなるとさえ思っているのだ。
「ほのか、これでいいの?」
「って!? エイミィ……何でちょっと目を離しただけでここまで悲惨な結果になってるのよ」
「だ、だって……そっちのお喋りが気になってつい……」
「最初からやり直しですわね……とにかく、その謎の物体は処分しましょう」
「私も昨日似たような失敗をしましたわ……」
「泉美が?」
双子の姉が意外そうな表情で問いかけてきたのを、泉美はめんどくさそうに頷いて答えた。
「深雪先輩のお美しい姿に見惚れてしまって、気付いたら謎の物体が出来上がっていましたの」
「あれよりも酷そうですけどね、明智様がお作りになったものは」
「明智様だなんて固いよ~。エイミィでいいよ~」
「しかし、私は下級生であり四葉家でお世話になっている身ですので、達也さまの婚約者であられる明智様にそのような呼び方は――」
「気にしなくて良いって! 何なら、後で深雪から許可してもらえるようにお願いするよ~?」
エイミィのフレンドリーな態度に、水波は困り果ててしまう。香澄と泉美は同級生であり友人だからある程度砕けた話し方が出来るが、エイミィは上級生なのだ。ましてや達也の婚約者の一人でもあるので、求められても応える事は難しいのである。
「試しに一回呼んでみなって! 一回出来れば二回目も出来るだろうし」
「その理屈で行くなら、明智さんは一回も料理が成功した事ないという結論になってしまいますが?」
「あっ、酷いな~もう! 愛梨だって一回目が出来なかったら二回目も無いって分かるでしょ?」
「それはまぁ……当然の事ですし」
エイミィの抗議に対して、愛梨は至極当然の事だと頷いた。エイミィがいきなり名前で呼んできた事に少し驚きを覚えたが、雰囲気が沓子に似ているのですぐにいつも通りに反応できたのだろう。
「(沓子の方が数段賢そうではありますがね)」
「ん? 私の顔になにかついてる?」
「いえ、何でもありませんわ。私もエイミィと呼ばせていただかせていただいても?」
「もちろんだよー! 泉美や香澄も気にしないでいいから、気軽に呼んでよ~」
「明智先輩は随分とフレンドリーなんだね」
「お姉さま相手にもあまり物怖じしなかったと聞いていますし、深雪先輩にもかなりフレンドリーだと聞いていますので、そういう方なのでしょうね」
「ほらエイミィ、早いところ片付けないと終わらないよ」
「ほのかが苛めるー!」
「苛めてないよ! てか、エイミィの為に教えてるんだから頑張ってよ」
「ほのかみたいにスタイルが良くて料理上手で魔法の才能まであったらよかったのにな~」
じろじろと自分の全身を嘗め回すように見つめるエイミィに対して、ほのかは身の危険を感じ逃げ出そうとしたが、振り返れば愛梨もほのかの事を見ていた。
「あ、あの……?」
「確かにスタイルが良いわね……ちょっと羨ましいくらい」
「一色さんだってスタイル良いじゃないですか!」
「愛梨でいいわよ。まぁ、私もある程度は自信を持ってるけど、貴女には敵わないわね」
「何の苛めなのよー!」
上級生たちの行動に、泉美と香澄、そして水波は呆れた視線を向けるのだった。
ほのかのスタイルは羨ましがる女子が多そうだ……