お喋りが盛り上がってる中、リーナだけは微妙に盛り上がれずにいた。このメンバーの中で、自分の正体を知っているのは深雪とエリカだけだと思っているが、四葉の関係者という事で亜夜子も知っているのではないかと疑っているのだ。
「いくら同性とはいえ、それほど見つめられると照れてしまうのですが」
「ゴメンなさい。貴女がタツヤの血縁とは思えなくてね……」
「私と達也さんは再従兄妹ですので、あまり似ていなくても不思議ではないと思いますが?」
「そうなの……でも、再従兄相手に恋慕しちゃうなんて、ミユキの血縁だけはあるなとは思うわね」
「深雪お姉さまは、達也さんの事を実の兄だと思っていた頃から達也さんに恋愛感情を抱いていましたから、私以上ですわ」
「あら、そんなこと言ったら文弥君はどうなっちゃうのかしら?」
この中でその名前にピンと来たのは姉である亜夜子を除けば水波のみ。他のメンバーは亜夜子の弟、という事以外の情報は無かったのだ。
「文弥は達也さんに憧れているだけで、別におかしな感情を抱いているわけじゃないと思いますが」
「達也さまは男の子が憧れる要素満載ですからね」
「水波ちゃん、達也様の真のお姿は男の子から見ればヒーローみたいなんですよ」
水波の言葉を訂正する深雪からは、反論を許さないような雰囲気を纏っていた。
「達也くんの真の姿って、横浜で見せたあんな感じ?」
「あれはまだ加減している部類よ。達也様を本気で怒らせたら――」
「深雪様。それ以上は真夜様に怒られる可能性があります」
達也の凄さを話そうとしたが、水波に止められて少し不機嫌になったが、真夜に怒られる可能性は確かに深雪も感じたので、とりあえず口を噤んだ。
「真夜さんって、四葉家当主だよね? あの達也くん大好きな」
「深雪の叔母さんっていうのが良く分かるよね」
「でも、前に深雪から聞いた話だと、深雪のお母さんって達也さんの事を軽んじてたんだよね?」
「そうね……お母様は達也様の力を認めようとしなかったわね。それどころか、達也様を貶める事も厭わない感じだったわね」
「そんなに複雑な家庭環境だったのですか?」
「一色さんなら分かると思いますが、二十八家の人間として絶対的に必要な魔法力が、達也様には無かったのですから仕方ないのですよ。まぁ、達也様の場合は無かったわけではなく封じられていたわけですが」
「そう言われれば、達也様は三高で言うところの普通科でしたね。ですが、達也様には一条を正面から相手にしても勝てるだけの実力があったではありませんか」
九校戦での達也の姿を思い出して、愛梨はあれでも認められないのかと深雪に喰ってかかる。だが深雪は、愛梨の熱を一瞬で冷ましてしまうくらい冷静な目を愛梨に向ける。
「達也様の体術や戦術は、四葉とは無関係なところで修得したもので、魔法力とは関係ありませんでしたし、あの試合で達也様が使用した魔法は、十師族の人間じゃなくても使えるレベルのものでした。術式解体は達也様のサイオン保有量あってのものですし、あれだけでは十師族の――四葉家の人間と認めてもらえるだけのものではありませんから」
「……四葉家の事情は私には分かりませんが、貴女が相当苦悩してきたという事だけは分かりました」
「達也様自身が、自分は四葉の人間ではないと割り切っていたので、私がとやかく言う事ではないと自分に言い聞かせていただけです」
「深雪お姉さま。四葉の事情は他の家の方には理解出来ないと思いますわ。そもそも、四葉の人間である私やお姉さまでさえ理解出来ないのですから」
深雪と愛梨のやり取りに亜夜子が口を挿む。彼女も四葉の人間の考え方は理解出来ない側の人間なので、深雪の考え方に同意している反面、それが四葉家なのだと割り切っている面も見られる。
「あたしたちには分からない考えだけど、香澄や泉美たちは理解出来た?」
「残念ながら、私たちにも理解出来ません。司波先輩は現当主様の息子なのですから、能力云々ではなく関係者だと認めるべきだと思います」
「ボクも泉美の考えに同意かな。司波先輩は魔法力云々を凌駕する力があるんだから、そんなことを気にして関係者と認めないなんておかしいと思う」
「世間体を気にする七草家ならともかく、世間の評価など気にしない四葉家が世間体を気にするなんておかしな話な気がするわね……深雪さん、他になにか事情があったんじゃないの?」
真由美の問いかけに、深雪は答えていいのだろうかと思考を巡らせる。気持ち的にはすべてをぶちまけてしまいたいのだが、母親の事を悪く言うのは憚られるし、何よりこれ以上は四葉の闇を他家に知られてしまうのだ。
「達也様はイレギュラーだったので、私を次期当主にしたいがために前当主が達也様を四葉の人間として扱う事を禁じたのです。その事を知っているのはごく一部の人間だけで、使用人たちには達也様は魔法が上手く使えないと伝えたらしいです」
「まぁ、達也くんはイレギュラーだっていうのは同意するわね……いろいろと普通の高校生じゃないもの」
どうやら違う解釈をしたようだが、これ以上追及されなかったのは深雪にはありがたい展開だった。愛梨がまだ何か聞きたそうな表情を浮かべていたが、そのタイミングで達也が料理を完成させてリビングにやってきたので、お喋りはお開きになったのだった。
達也の事を全て理解出来る人間などいるのだろうか……