劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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複数人衝撃を受けております


達也の手料理

 自分たちの前に置かれた料理を見て、数人は自信を失くしたかの如く肩を落とした。

 

「これ、本当に達也くんが作ったの?」

 

「何か問題でもあったか?」

 

「いや、あったっちゃあったかもしれないけど……」

 

 

 そういいながら、エリカはリーナとエイミィに視線を向ける。深雪曰く「人の食べるものではない」ものを作り出した二人にとって、達也の料理はそれだけ衝撃的だったのだろう。

 

「達也くん、必要最低限しか出来ないって言ってなかったっけ?」

 

「だから、必要最低限だろ?」

 

「まぁ、達也くんの言葉をそのまま受け取ったらダメだって分かってたけど、これはそんなレベルじゃないわよ」

 

 

 達也の料理は、先ほどリーナやエイミィが作ったものとは比べ物にならない、それこそ、泉美や香澄の料理すら失敗だと思わせるくらいの出来だったのだ。

 

「もしかしたら、私より上手かもしれない」

 

「雫だって上手だと思うけど」

 

 

 そういいながら、雫とほのかが真っ先に料理に手を付け、そして複雑な表情を浮かべている。

 

「どうしたの、二人とも? もしかして美味しくないとか?」

 

「そうじゃなくて……完全に私より上手だなと思って……」

 

「ほのか以上じゃ、私レベルじゃ太刀打ち出来ない……」

 

「ほのか以上なの!? てか、それで必要最低限って、達也くん世間とズレ過ぎよ!」

 

「深雪や水波と比べれば全然だからな……そもそも、基準が良く分からない」

 

「あー、まぁそうよね……達也くんにとって深雪や水波が基準になってるんだから、この程度でも必要最低限としか思わないのか……」

 

 

 そういいながら、エリカも達也の料理を口に運び、本当にこれで必要最低限だと思っているのかと絶句する。

 

「普通にお金払って食べるようなレベルじゃないの……」

 

「愛梨、しっかりせい! 傷は浅いぞ!」

 

「向こうはあまりの美味しさに気絶してるし……」

 

「リーナとエイミィは泣き出してるわよ」

 

「相変わらず達也さんのお料理は絶品ですわね」

 

 

 食べたことがある深雪や亜夜子は、大袈裟なリアクションは見せないが、幸せそうな表情を浮かべている。

 

「真夜様が達也さまの手料理を食べたいと駄々をこねていたと聞いたことがありますが、これなら納得ですね」

 

「あれ、達也くん。お母さんに食べさせてあげた事無いの?」

 

 

 水波のセリフを聞いて、エリカが意外そうな表情で尋ねる。あの真夜の事だから万難を排して達也の手料理を食べに来そうなものなのにと思ったのだろう。

 

「俺と母上はそう簡単に会える間柄ではないからな。そもそも、俺は去年の大晦日まで四葉の一員であることを否定されていたんだ。そんな人間が当主においそれと会えると思うか?」

 

「そういえば、達也くんのとこも複雑な事情があったんだっけ」

 

「複雑と言えば複雑だがな。まぁ、そういうわけで母上は俺の料理を食べたことがない」

 

「真夜様がこの集まりの事を知ったら大変な事になりそうですね」

 

「奥様の事ですから、ここにいるメンバーを婚約者から外す、とか言い出しそうですわね」

 

 

 亜夜子の冗談を、深雪は笑い飛ばす事が出来なかった。もちろんそんなことは起こらないと分かってはいるのだが、あの真夜の事だからやりかねないと心の何処かで思ってしまうのだ。

 

「お姉ちゃん、何で泣いてるのさ?」

 

「達也くんの手料理を食べられるだなんて、今日は幸運だなって思ったら涙が」

 

「泉美は泉美で泣いてるし……」

 

「男性である司波先輩に負けるとは……淑女失格ですわ……」

 

「泉美はそれ以前に失格だから」

 

「私の何処が淑女失格だというのですか!」

 

 

 本気で分かっていない泉美に対して、香澄は盛大にため息を吐いた。

 

「同性の司波会長にハーハーしてるようじゃ、とてもじゃないけど淑女とは言えないよ」

 

「そんな変態チックな事はしていませんわ! 私は単純に、深雪先輩の美しさに見惚れているだけです」

 

「だから、それが淑女とは言えないんだって……」

 

 

 本気で理解していない泉美に、香澄は誰かに助けを求めたい衝動に駆られたが、この場に自分を助けてくれるようだ人間はいないと理解し、盛大にため息を吐いたのだった。

 

「達也様、リーナやエイミィはどうしましょうか?」

 

「放っておいていいだろ。その内意識を取り戻すだろうしな」

 

「大丈夫だよ。最悪部屋で寝かせておけばいいんだし」

 

「雫はもう大丈夫なのね」

 

「うん。最初はショックだったけど、達也さんならこれくらいは当然かなって」

 

「そうだよね。達也さんだし、これくらい出来ても驚く必要は無かったかなって思ったら落ち着いた」

 

 

 雫とほのかは既に割り切ったようで、達也の料理を美味しく完食したようだが、他のメンバーはまだ割り切れていないようで、食べながら泣いているのがほとんどだった。

 

「うーん、やっぱり達也くんは罪作りだよね」

 

「俺がか?」

 

「自覚してないのが尚更だよ……これだけの女子を泣かせてるんだから、少しは自覚した方が良いって」

 

「あら、エリカは達也様が悪いというのかしら?」

 

「そういうわけじゃないけど、もう少し自己評価を高めてた方が、あたしたちの為になるって言いたいだけよ」

 

「まぁ、達也様の自己評価の低さは今に始まった事ではないからね」

 

 

 何故かエリカの意見に同意し、達也に非難の目を向けてきた深雪に対して、達也は肩を竦めてみせたのだった。




レベル高すぎるのも問題ですね……

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