劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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相変わらず黒い事を平然と……


狙い目は

 深雪が頭を悩ませている事、四葉本家では真夜がハーブティーを飲みながら後悔をしていた。

 

「もっとたっくんと長く話せればよかった!」

 

「真面目な話でしたし、普段の態度を見せれば達也殿に怒られると言っていたのは真夜様ですよね。それでも、達也殿と話したかったのですか?」

 

「当然でしょ! たっくんの事は全てにおいて優先されるんですよ」

 

 

 何を当然のことを聞くのかと、真夜は葉山に喰ってかかる。だがその程度で葉山の表情が崩れることは無く、何時も通りの柔和な笑みを浮かべながら一礼する。

 

「真夜様が達也殿に怒られるお姿は、使用人としてあまり見たくない光景なのですがな」

 

「私もたっくんに怒られたくはないですよ……でも、ただでさえ会える機会が少ないのですから、電話で話せる時くらい少しでも長くと思ったらいけませんか?」

 

「いけなくはありませぬが、達也殿を困らせるのは真夜様としても不本意なのではないでしょうか」

 

「そりゃたっくんの私生活を邪魔するつもりは無いけど、少しくらい私に付き合っても問題ないでしょ?」

 

「達也殿のお側には深雪様がいらっしゃいます。嫉妬深い深雪様ですから、真夜様とお話になっている達也殿を見てどう思うでしょうな」

 

 

 その時の光景を想像して、真夜は盛大にため息を吐いた。深雪の嫉妬深さは十分すぎるくらい知っているし、深雪が魔法を発動させたら周辺にどれだけの被害が出るか分からないのも知っている。そして、その後始末に達也がどれだけ時間をかけなければいけないのかも考えると、確かに大幅に達也の私生活の邪魔をすることになりかねないと真夜は理解したのだった。

 

「でもそれって、私だけの責任ではないと思うのだけど?」

 

「最終的な原因は深雪様にあるとはいえ、その深雪様を嫉妬させたのは真夜様ですからな。下手をすれば達也殿からしばらく距離を置かれる可能性も出てくるでしょうし」

 

「たっくんから距離を置かれると立ち直れないかもしれないわね……最近は昔ほど時間を空けずにたっくんと触れ合えてたから、もしかしたら死んじゃうかもしれないわ」

 

「そのような事になられては、我々としても困りますからな。達也殿には後日面会の機会を作っていただく事にしましょう」

 

「そうね……沖縄の件など、聞きたい事がいろいろとあるものね」

 

 

 何とか立ち直った真夜は、何時も通り年齢不詳の笑みを浮かべるが、葉山は見慣れているので特に動揺したりはしない。

 

「それよりも問題は深雪さんね。しっかりと受け止められたかしら」

 

「深雪様も成長されておいでですので、受け止めるくらいは出来ると思いますが」

 

「葉山さんがたっくんを通じて自分で考えられるだけの情報を与えておいたのですから、これくらい受け止めてもらわないと困るんですけどね」

 

「深雪様もそれなりに場数は踏んでいる様子ですが、達也殿と同列で考えるのは如何なものかと」

 

「あの子は元々私の跡を継ぐ予定だったのだから、これくらいの事で動揺するような教育を受けてはいないはずなのですがね。やはり姉さんが死んでからたっくんに甘えすぎたのかしら」

 

「達也殿は最後まで甘やかす事はせず、必ず深雪様に考えさせるようにしていたはずですが」

 

「あぁ、そう言う事じゃないのよ。たっくんの側にいられるだけで幸せだから、一緒にいるだけでかなり甘やかしてもらっているのよ」

 

「なるほど、そちらでしたか」

 

 

 確かに達也と一緒にいられるだけで幸せだと思う女子は多そうだと、葉山は達也の婚約者リストを思い浮かべ苦笑した。

 

「葉山さん、ロシアが攻めてくるとして、標的は何処になりそうかしら?」

 

「奴らとしてもいきなり我々と事を構える事は避けたいでしょうし、位置的な問題から石川周辺ではないでしょうか」

 

「石川、一条や一色が狙われそうかしらね」

 

「新ソ連軍は佐渡島を不法占拠したままですからな。軍を動かすのもそう難しくはないかと」

 

「さすがに一日で動けるほどフットワークも軽くないでしょうから、早くても明後日かしらね」

 

 

 カレンダーを眺めながらそんなことを呟く真夜に、葉山は笑みを浮かべながら答えた。

 

「さすがに一部隊とはいえそんな簡単に動かす事は出来ないでしょうから、仕掛けてくるとしても単純なものでしょうな」

 

「単純なもの?」

 

「一般兵を餌に魔法師を誘き出し、魔法で一網打尽、もしくは敵将のみを狙う、と言ったところでしょうか」

 

「でも、その程度で魔法師と非魔法師との間の軋轢が解消するとも思えないのだけど」

 

「何事も一気に解決は難しいですからな。小さなことからコツコツと、と言った感じでしょうか」

 

「一応気にはしておきましょうか。一色は兎も角、一条に情報を流す義理は無いわけですし」

 

「深雪様を寄越せ、と言ってきた家ですからな。ですが、今一条殿を欠くと、石川の守りが薄くなってしまいますぞ。そこから侵攻軍が攻め込んでこないとも限らないかと」

 

「万が一の時は、四葉から人を遣って一条に恩を売る形を取ればいいのよ」

 

「かしこまりました。万事恙なく準備しておきます」

 

「お願いね」

 

 

 恭しく一礼する葉山に、真夜はあまり興味なさげにそう告げて、やっぱりもう少し達也と話しておけばよかったと後悔しながら、盛大にため息を吐いて残りのハーブティーを飲み干すのだった。




超有能執事葉山……

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