劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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自爆回数は多そうですけどね


真由美の自爆

 魔法大学の入学式を翌日に控えたこの日、真由美は街に繰り出していた。

 

「何であたしなんだよ。達也くんでも誘えばよかっただろ」

 

「何だか忙しそうだったのよね……それに、昨日会ったばっかでまた誘ったらめんどくさい女とか思われそうだし」

 

「お前は既にめんどくさい女だと思われてるから大丈夫だろ」

 

「どういう意味よ!」

 

 

 相変わらずのやり取りだが、二人はそれを楽しんでいるのだからそれでいいのだろうと、真由美と摩利を眺めながら鈴音はそんなことを考えていた。

 

「ところで真由美さん」

 

「む、なによリンちゃん」

 

「昨日達也さんと会ったようですが、いったいどこで何時会ったのでしょうか?」

 

「あぁ、あの場にリンちゃんはいなかったのよね。昨日と一昨日、ウチの泉美ちゃんが深雪さんに料理を教わってたのよ。それで昨日は結構大勢集まったから、北山さんの家が所有している別荘を借りて料理の練習をしてたのよ。そこに私も達也くんもいただけで、二人きりで会ってたわけじゃないから」

 

「お前の妹はそれなりに料理が出来るんじゃなかったか?」

 

「三矢さんや光井さんの手料理を食べて、もう少し出来るようになりたいって思ったようよ」

 

「三矢? 今年の新入生総代か?」

 

「摩利は面識ないものね」

 

 

 同じ十師族として、真由美は当然詩奈との面識はある。泉美と香澄が会ったことあるのだから、真由美も面識があって当然だが。

 

「最終の打ち合わせの時に、詩奈ちゃんがお菓子を作って来てくれたんですって。その翌日は風邪をひいて迷惑を掛けたからって光井さんがサンドウィッチを持ってきてくれて、それに触発されたみたい」

 

「だが司波に教わっても意味がないんじゃないか? お前の妹はその……司波に惚れてるって噂が」

 

「まぁ泉美ちゃんはね……ちょっとおかしいところがあるけど、深雪さんに教わった事はしっかりと吸収したらしいわよ。最終的に失敗したらしいけど」

 

「なにがあったんです?」

 

「どうやら深雪さんに見惚れてて、最後の最後で大失敗したらしいわよ」

 

 

 その光景を想像して、真由美は何故泉美がああなってしまったのかと嘆かわしげにため息を吐き、摩利と鈴音はそんな真由美に同情した。

 

「二日も失敗したのか?」

 

「昨日は普通に成功してたわよ。まぁ、教えたのが深雪さんじゃなくて桜井さんだったからかしらね」

 

「桜井と言えば、達也くんと司波の世話をしているヤツだな。アイツも四葉の関係者なのか?」

 

「香澄ちゃんと泉美ちゃんの話によると、四葉でお世話になってる子、らしいわよ」

 

「あの四葉もそんな事するんだな」

 

「あの家はいろいろと謎が多いからね」

 

「気になるなら達也さんに聞けばいいのではないでしょうか?」

 

 

 鈴音の提案に、真由美と摩利は意外そうな顔を浮かべ、何故その考えに至らなかったのかと自分の事を棚に上げて相手を指差して笑った。

 

「それもそうね。達也くんは次期当主様なんだから、いろいろと知ってるでしょうしね」

 

「だがまぁ、あの男がなんでもかんでも教えてくれるとは思えないがな」

 

「桜井さんの事は置いておくとして、昨日泉美さんに料理を教えたのが彼女ならば、司波さんは誰に教えていたのです?」

 

「えっ? あぁ、私と一緒にシールズさんに教えてたのよ」

 

「シールズ? あの北山と交換で来た留学生の?」

 

「確か、帰化して九島リーナさんになったのでしたね」

 

 

 鈴音が何処でその情報を仕入れたのかは気になったが、真由美は追及する事はしなかった。

 

「深雪さんたちはそのまま『リーナ』って呼んでたから気にしなかったけど、呼び方を変えなきゃいけないのは大変ね……同じ婚約者として、この先会う事も増えるだろうし」

 

「それで、真由美大先生はそのシールズに上手く教えられたのか?」

 

「あの子は料理の才能が全くないわね。むしろやらせない方が食べる人の為よ」

 

「そんなに酷かったのか?」

 

「暗黒物質って表現が一番しっくりくる感じよ」

 

「私より酷いのですね」

 

「市原は普通に出来るんだろ?」

 

「出来なくはない、という感じですかね」

 

 

 摩利と鈴音の話を聞いた真由美は、昨日の達也の発言を思い出して苦笑いを浮かべる。その表情を目ざとく見つけた摩利が、真由美を問い詰めるように尋ねる。

 

「なんだ、その表情は?」

 

「いや、達也くんの言葉を思い出してね……あの自己評価の低さはどうにか出来ないものかなって」

 

「達也くんが自分の事を低く見積もるのは前からだろ? 今更そんな事でお前があんな表情をするとは思えないんだが」

 

「どういう意味よ! って、摩利もあれを見たらさすがに私と同じ表情になると思うわよ」

 

「なにがあったんだ?」

 

「最後に達也くんが手料理を振る舞ってくれたんだけどね、下手な女子よりもはるかに凄いモノが出てきて驚いたのよ。でも達也くんは『必要最低限しか出来ない』って言ってたから、あぁまたか……って思ったのよ」

 

「達也さんの手料理を食べたんですか?」

 

「あっ……」

 

 

 あの場にいた全員で、他の婚約者にはこの事は話さない事と決まっていたのだが、真由美はうっかり話してしまった。

 

「リンちゃん、この事は誰にも言わないでね!」

 

「真由美さん、昨日その場にいた婚約者のリストを提示願います」

 

「なに物騒な事を考えているの!? お願いだから鎮まって!」

 

「今のは真由美の自爆だな。あたしは知らんぞ」

 

「そんな冷たい事言わないで、リンちゃんを鎮めるのを手伝ってよ!」

 

「さぁ、真由美さん! 白状しなさい!」

 

「だからリンちゃん、落ちついてってば!」

 

 

 鈴音に追いかけまわされる真由美を見ながら、摩利は複雑な表情で笑ったのだった。




真顔で鈴音が迫ってきたらそれはそれで怖いだろうな……

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