劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

1022 / 2283
勝てるわけがない……


強敵

 克人の事でひとしきり盛り上がった後、真由美はかねてから疑問だった事を摩利に尋ねる。

 

「摩利ってどうして修次さんと付き合い始めたの?」

 

「なっ! 何を聞くんだお前は!」

 

「別に変な事は聞いてないでしょ? この年代の乙女なら、友人のそういった話に興味を持つのは当然だと思うけどな」

 

「そんな当然など廃れてしまえ!」

 

「話すつもりは無いと……それじゃあ、どうしてエリカちゃんが苦手なのか、でもいいわよ?」

 

 

 学年で言えば摩利の方が上であり、エリカの兄である修次と付き合っているのだから、道場内でも摩利の地位はそれなりのはずなのだが、何故か摩利はエリカの事が苦手なのである。

 

「前にも言ったと思うが、アイツは剣の腕だけならあたしなど足下に及ばない程の実力者だ。それに加えて達也くんと知り合ってからは、基礎体力の向上や更なる成長を目指し弟子を取ってその指導にまで当たっていた。魔法無しで挑まれたらあたしなど勝てない程に、エリカは成長しているんだ。それこそ、もうアイツに勝てるのはシュウともう一人の兄、そして道場主である千葉のご当主くらいだろ」

 

「摩利が手も足も出ずに負ける所は、ちょっと見たいかもね……達也くんに相談して、魔法を禁止した戦いを計画しようかしら」

 

「あたしは絶対に参加しないからな!」

 

「何言ってるのよ。参加者はエリカちゃんと摩利の二人に決まってるじゃないの」

 

「お前は! 第一、達也くんがそんなくだらない事に手を貸すとも思えない」

 

「そうなのよね……深雪さんをこちら側に引き入れる事が出来れば、手伝ってくれないことも無いだろうけど」

 

「そうなったらあたしは全力で逃げるからな。お前との友人関係も考え直さなければならないだろうし」

 

 

 本気で言っている摩利に対して、真由美は肩を竦めてから鈴音に視線を向けた。

 

「リンちゃん、何か良いアイディアないかな?」

 

「そうですね……千葉さんと渡辺さんが魔法無しで戦った後、真由美さんが渡辺さんと魔法無しで戦えばいいのではないでしょうか? そうすれば、千葉さんにぼこぼこにされてたまったストレスを、真由美さんで発散する事が出来ますし」

 

「ちょっ!? 魔法無しじゃ私は普通のか弱い女の子なんだけど!?」

 

「エリカにやられること前提なのがアレだが、真由美でストレスを発散出来るなら悪くないかもな……達也くんに相談してみるか」

 

「ゴメンなさい! 冗談だからそれだけは止めてちょうだい!」

 

 

 真由美が本気で摩利に頭を下げているのを見て、鈴音は珍しいものを見た、という気持ちを抱いた。謝られた摩利の方も、真由美が本気で謝ってくるのなど数えるくらいだ、という表情を浮かべていた。

 

「だいたい、私は剣術も体術もやってないのよ? そんな私が摩利の相手なんて務められる訳がないじゃないの」

 

「お前がくだらんことを提案したから、市原もそれに付き合っただけだろ。そもそも悪いのは真由美じゃないか」

 

「そうですね。勝てない相手との勝負を計画してたわけですし、自分が同じような事をされても文句を言える筋合いではないと思いますが」

 

「なんだったら魔法ありでもいいが、相手を達也くんか司波のどちらかにする、というのはどうだ? それならまだ多少なりとも勝機が見えるんじゃないか?」

 

「ええそうね! その勝機は幻想でしょうけども!」

 

 

 深雪が相手だとした場合、彼女は領域干渉で相手の魔法を封じる事が出来るし、達也が相手の場合は、そもそも勝機など何処にも見いだせないのだ。幾ら仕掛けても避けられるだろうし、最悪消されてしまうのだから、勝とうと思うだけ時間の無駄である。

 

「達也くんに勝てるとしたら誰だ? 十文字は相性がよさそうな感じだが」

 

「破壊した先から新たな防壁が出てくるわけですからね。確かに十文字くんは達也さんとの相性はいいでしょう」

 

「でも、突き詰めたら結局は達也くんが勝ってるわよきっと……十文字くんはあくまで防御だもの」

 

 

 攻撃も出来るが、達也相手に仕掛けたところで躱され、いなされ、そして倒されるだろうと真由美は本気で思っている。万が一あの二人を同時に相手しなければいけなくなったら、素直に負けを認め慈悲を願うだろうとも思っている。

 

「十文字くんの防壁と達也さんの攻撃、その両方を相手にしなければいけないと考えてませんか?」

 

「な、何で分かったの!?」

 

「真由美さんはかなり顔に出やすいタイプですから。そもそも、真由美さんの魔法では十文字くんの防壁は打ち破れませんよね?」

 

「私は競技向きの魔法師だからね……そもそも死角がない十文字くんの魔法相手に、私の魔法じゃ太刀打ち出来ないしね」

 

「お前は銃座を作ることが出来るんだから、防壁の中から仕掛ければ何とかなるんじゃないか?」

 

「達也くんの魔法で打ち消されるだけよ。そもそも、そんな事十文字くんだって知ってるんだから、もし戦う事になったとしても何らかの対策は練られてるだろうし……そもそも、十師族の跡取り二人を同時に相手にするなんて、自殺行為としか思えないわよ」

 

 

 克人は既に当主であり、達也も次期当主として内定している。同じ十師族でも、真由美は跡取りではない。同じ立場で対抗出来そうなのは将輝くらいだが、彼は能力を制限された達也に負けているのだ。それだけで将輝の立場は二人より下になる。

 

「とにかく、くだらんことは計画しない事だな」

 

「そうね……まだ死にたくないし」

 

 

 克人、達也、摩利の誰を相手に選んでも自分には勝ち目がないと自覚している真由美は、ふざけた提案を取り下げ、もう一度摩利に頭を下げたのだった。




真由美の実力じゃね……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。