話題に上がったついでなのか、それとも意趣返しのつもりなのか、摩利が何気ない感じで真由美に尋ねる。
「そういえばあたしたちが一高に入学したての時は、お前と十文字が結婚するもんだと思ってたんだがな」
「確かに、そんな話がまことしやかに囁かれていましたね」
「そうなの? まぁ確かに十文字くんは私の婚約者候補ではあったんだけど、異性というよりもライバルって感じになっちゃったからね。十文字くんもあまり乗り気じゃなかったようだし」
「そもそもアイツは異性に興味があるのか?」
摩利の素朴な疑問に真由美も鈴音も笑いそうになったが、実際はどうなのか二人にも分からなかった。
「まぁ、十文字くんも結婚を急かされる立場なわけだし、興味はあるんじゃないのかな」
「真由美相手でも表情を崩さなかったアイツがか? まぁ、達也くんもあまり表情は変わらないが、こうして婚約者が大勢いるわけだし、十文字のヤツもいずれは婚約者を作るんだろうな」
「十文字くんが結婚するつもりが無かったら、達也くんの婚約者がまた増えるかもしれないしね」
「しかし、十師族である十文字家の当主が結婚しないというのはどうなのでしょうか?」
「四葉家の真夜さんも結婚はしてないらしいし、大丈夫なんじゃない? 最悪、婚外子でもいいわけだし」
「よくは無いと思うが……ん? 四葉家の当主は結婚してなかったのか。じゃあ達也くんは……」
事情をよく知らない三人は、達也が婚外子なのだろうと結論付けて、微妙な空気に覆われた。もちろん実際はどうなのかなど、達也に聞く以外分からないし、それを聞く勇気は三人には無かった。
「四葉家の事は同じ十師族の家でも分からないことが多いからね……多少は聞いたけど、核心に迫るようなことは達也くんも話してくれないし」
「達也さんの魔法の事などは聞きましたが、出生の秘密などは聞かされませんでしたね」
「達也くんの魔法? 例のあれの事か?」
「そっか。摩利は一応知ってるんだもんね」
分解は知らなくても再成は知っているのだと思い出し、真由美は摩利に覚られないように気を付けて話題を進める事を決心する。
「横浜で見てるからな。しかも目の前で」
「達也くんがいなかったら、もっと死者が出ててもおかしくなかったわけだしね」
「しかも将来有望とされている二人と、立ち直ればかなり有能な一人でしたから、失ったと考えるとかなりの損失です」
「桐原は国防軍で、五十里と平河は技術面で即戦力と期待されているしな」
「桐原君で思い出したけど、防衛大学の入学式ってどんなのなの? 噂に聞く、いきなり切りつけられたりとかは無いんでしょ?」
「当たり前だ! てか、どんな噂だ、それは」
これ以上達也の魔法に関わりそうな話題から逃げるために、真由美はあえてありえない噂を引き出して摩利の興味を逸らしたのだった。
「普通だ、普通。普通に式典のような感じで進み、ただただ退屈なだけだ」
「やっぱりどこの学校も同じようなものなのね」
「まぁ、魔法大学程派手なものではないぞ」
「こっちだって別に派手なわけじゃないわよ。ただいろいろと注目されているからそう思うだけで、実際は防衛大学と大差ないと思うけど」
「そうですね。どちらも普通だと思いますが、今はいろいろと目立つ時期ではありますので、おかしな報道がされないか心配です」
鈴音の言葉に、真由美も摩利もその可能性を考えて憂鬱表情を浮かべ、摩利に至っては盛大にため息を吐くほどであった。
「元々魔法師じゃない人は魔法師を軽視したり、畏怖の感情を抱いたりしてたけど、最近はそれがより一層顕著になってるからな……例の箱根テロ事件以来、マスコミの魔法師叩きは過激になってる感じだ。七草家はそういった事に対する動きが得意なんじゃないのか?」
「師族会議で何やら決まったらしいのよ。残念ながら私はその内容を知れる立場じゃないからね……十文字くんに聞けば何か分かるかもしれないけど、教えてくれないと思うな」
「立場的には達也くんだって知ってるんじゃないのか?」
「達也くん、あんまりそういう事に興味なさそうだし……それに彼は元々マスコミ嫌いだから」
「そういえばそんなことを聞いたこともあるような……」
あまり好き嫌いを見せない達也が、マスコミに対してははっきりと嫌いという感情を見せたという事は、相当嫌いなんだろうなと昔思った気がすると、摩利は記憶の片隅にそんな思い出を見つけ、小さく頷いた。
「恒星炉実験もマスコミを引き連れてやってきた神田議員を追い払うためのものだったと聞いています」
「あれを利用して達也くんが情報操作を企ててたってやつよね? てか、相変わらず黒い事と凄い事を簡単に言ってのけるわよね……あーちゃんが興奮してたもの」
「それだけ恒星炉実験は魔法師にとって希望なのです。中条さんはその中心人物として実験に携わっていたようですし、彼女が興奮するのも仕方ないかと」
「リンちゃんも参加したかったってぼやいてたものね」
「同じ理想を掲げた達也さんの実験でしたし、それを無視してもあの実験は参加したいと思えるものです」
「あたしは難しい事は良く分からないが、簡単に出来るものではないんだろ? それをよくやってのけたな」
「あのメンバーだから出来た事だ、と達也さんは言ってましたがね」
実際大勢の手助けがあってあの実験は成功したのだから、達也の言っている事は間違ってはいない。だがそのコンセプトや必要な機材の図面などの準備は達也が企画したので、時間さえあれば達也一人でも出来たのではないかと鈴音はそんなことを思ったのだった。
式典は嫌いですね……出来ればサボりたかった……