劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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仲の良さは分かるんですがね……


午後の計画

 とりあえず昼食を済ませた真由美たちは、午後は何処で時間を潰すかを話し合っていた。

 

「まさか午前中はお喋りだけで終わるとはな」

 

「摩利が必要以上に喰い付いてきたからでしょ」

 

「お互い様だろ。そもそも、あたしには知りようがない話が多すぎるんだ、お前たちと話してると」

 

 

 真由美は十師族の一員であり、鈴音も数字落ちとはいえそれなりの情報網を持っている。そして二人とも達也の婚約者という事で、摩利には知りようがない情報も多々仕入れているのだ。

 

「午後は達也くんでも誘ってみようかな」

 

「だが、達也くんを誘えばもれなく司波もついてくるんじゃないか?」

 

「深雪さんは今日、ウチに招待されているから大丈夫よ。もちろん、桜井さんも一緒にね」

 

「それは例の料理の練習と関係しているのですか?」

 

「もちろん! 昨日あんまり出来なかったからって事で、今日はウチでやるみたいよ。司波家でもよかったんだけど、婚約者でもない泉美ちゃんがあの空間に行って、他の婚約者たちから狙われるのは避けた方が良いって深雪さんが」

 

 

 泉美が司波家を訪れたからと言って、他の婚約者たちが彼女を襲うとは思えなかった摩利ではあったが、鈴音が大きく頷いているのを見て呆れた表情を浮かべた。

 

「そんなに行ってみたいのか? だったらこの後訪ねてみればいいだろ」

 

「そんな簡単に行ける場所じゃないのよ。一人行けば他の子たちも行きたがるでしょうからね。婚約者の中で達也くんの家に行ったことがあるのは数えるくらいのはずよ」

 

 

 真由美が知っているのは再従妹だといっていた亜夜子くらいだが、その他に響子もあの家を訪れたことがある。そしてリーナも押しかけたりしているのだが、その辺りは真由美の知らない事だった。

 

「エリカも行ってみたいとは言っていた気がするが……別に緊張するような場所じゃないんじゃないか? 四葉本家とかなら別だが、達也くんたちが普段生活している場所なんだろ? 別におかしなものがあるとは思えんが」

 

「そういう理由じゃないって言ってるでしょ。私たちが行けば、他の婚約者も――てなるのよ。そうなれば必然的に深雪さんの機嫌が悪くなり、最悪辺り一面雪景色に……」

 

「少しは司波を信じられないのか……まぁ、あたしたちが知ってるままの司波なら、十分ありえそうな話ではあるがな」

 

「多少はマシになってるけど、根本的には変わってないわよ、あの子は……」

 

 

 真由美が思い浮かべたのは二年前の会長選、壇上でサイオンの吹雪を発生させた深雪の姿だった。

 

「あの時は達也くんがいてくれなかったら大変な事になってたでしょうね」

 

「その結果、中条さんが獲得した票数以上の票を、深雪さんと達也さんが獲得したわけですがね」

 

「あれは面白かったな」

 

「結果だけ見てそういえるのは羨ましいわね……摩利だって深雪さんの魔法、見たんだよね?」

 

「あぁ。だが結果的には達也くんが司波を抑えて、その後は観衆も大人しく投票に移ったんだから良いんじゃないか? 確かにあの時は死を覚悟したが、今こうして生きているわけだし問題ないだろ」

 

「渡辺さんの考え方も一理ありますが、あれはそんな気楽に見てられるものではなかったと思いますがね」

 

 

 摩利の意見を認めつつ、鈴音はあの時の事はそんな事で片づけられるものではないという。彼女はその場にいても何も出来なかったので、余計にそう思うのだろう。

 

「あの時司波を止めようと動いたのは、あたし、真由美、十文字、花音、服部と風紀委員の数名だけだ。殆どの生徒はあの迫力に呑まれたからな」

 

「動いたって言っても、精々CADに手を伸ばしただけで、結局は達也くんが一人で解決しちゃったものね」

 

「無意識に拭き荒らしていたサイオンの嵐を、見えない網でかき集め妹の身体の中に押し込めた、そんな風に見えたんだよな」

 

「十文字くんも似たようなことを言っていたわね。あれだけは未だによく分からないのよね……達也くんなら、あのサイオンの嵐も破壊出来たのかな」

 

「術式解体か? だがあれは、あんなふうにサイオンを集める魔法ではないだろ?」

 

 

 二年前の九校戦の時に説明を受けた術式解体という魔法の特徴を思い出し、摩利は真由美に尋ねる。真由美もあれが術式解体ではないと分かっているので、困った顔で笑みを浮かべるだけで答えられなかった。

 

「達也さんは無系統魔法を比較的に得意としていますので、サイオンの操作にも慣れている、と言っていましたが、それで納得出来るものではありませんでしたからね」

 

「納得出来なかったのなら、何故もう少し深く尋ねなかったんだ?」

 

「事情を聞いたのは千代田さんですから、何故追及しなかったのかは彼女に聞いてもらわないと分かりません」

 

「花音のヤツか……どうせ面倒だったからとか、五十里に早く会いたかったからとかだろうな……実にアイツらしいな」

 

「摩利の跡を継いだだけあるわね。達也くんが生徒会に移籍するまで、風紀委員会本部の掃除や書類の整理は達也くんに任せてたらしいし」

 

「適材適所というやつだ。あたしも花音も、片付けてるつもりが散らかしてるからな……達也くんが風紀委員になってくれて本当に良かったよ」

 

「半ば強制ではありましたが、優秀な人材であったのは確かですね」

 

 

 盛り上がってる二人の横で、鈴音がぼそりと呟くと、二人はそろって鈴音から視線を逸らすのだった。




優秀な人材は手放したくないですからね……

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