劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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たまには出しておかないと忘れちゃうので……


偶然の遭遇

 話し合いの結果ウィンドーショッピングをすることにして、三人はぶらぶらと街を歩いていた。すると前方に見覚えのある姉妹を見つけた。

 

「あれって平河さんよね?」

 

「だな。相変わらず姉妹仲は良さそうだな」

 

「一時期すれ違ってたみたいですが、達也さんが解決したようですし」

 

「あぁ、あの時か」

 

 

 あの姉妹がすれ違ってた原因は、あまり公に出来ない事情だったのだが、細部は兎も角だいたいの事はこの三人が知っていても不思議ではない。

 

「平河さんも責任を感じる必要は無かったのにね」

 

「小早川のヤツも、今は防衛大で必死になって勉強してるからな」

 

「達也くんに背中を押されて、平河さんも大学には進んだしね」

 

 

 本当ならカウンセラーの仕事なのだが、無頭竜の件でぐちぐちと言われ、いい加減鬱陶しかったので達也が説得したのだ。ちなみに、その件はしっかりとカウンセリング部に報告され、遥は職務放棄で減給を言い渡されたのだが。

 

「話しかけるか?」

 

「うーん、せっかく姉妹仲良くお出かけ中みたいだし、邪魔しないでおきましょうか」

 

「そうですね。あまり話す事も無いですしね」

 

「お前は相変わらず冷たいな……」

 

「話すことも無いのに、わざわざ話しかける必要は無いと思いますが」

 

 

 鈴音の正論に、摩利は素直に引き下がり、人混みに紛れていく平河姉妹を見送った。

 

「姉妹と言えば、お前んとこの妹たちも仲良いよな」

 

「香澄ちゃんと泉美ちゃん? 仲は良いわよ」

 

「まぁ、泉美の方はちょっと司波の事を神聖視してるだろ?」

 

「何処から聞いたのよ……泉美ちゃんは深雪さんをお姉さまって呼んでるしね……ちょっと危ない思考の持ち主なんじゃないかって、香澄ちゃんから相談されたことがあるくらいよ」

 

「さすがは真由美さんの妹ですね」

 

「? ……って、それってどういう意味よ!」

 

 

 鈴音に言われたことがすぐに理解出来なかった真由美は、少し経ってから鈴音に噛みつく。そんな真由美の反応を楽しそうに見ていた鈴音は、肩を竦めただけで何も答えなかった。

 

「ちょっとリンちゃん!」

 

「あまり大声を出すな。周りの人がこっちを見てるぞ」

 

「そうですよ、真由美さん。このように人が多い場所で大声を出すのはよくありません」

 

「リンちゃんが出させてるんでしょうが!」

 

「少しは落ち着け!」

 

 

 さらに鈴音に噛みつこうとした真由美の後頭部に、摩利が軽くチョップを入れて黙らせる。何故自分が叩かれなければいけないのかと、真由美はへそを曲げたような態度でそっぽを向き、その姿を面白そうに鈴音が眺めていた。

 

「お前らは全然変わらないな……」

 

「そういう渡辺さんだって、恋人の話題が出ると露骨に声が大きくなりますよ」

 

「そんな事ないだろ!」

 

「ほら、大きくなってますよ」

 

 

 鈴音に指摘されて、摩利は自分の声が大きくなっている事に気付き、慌てて真由美の方に振り返る。振り返った先には、摩利の想像通り笑いをこらえきれていない真由美がそこにいた。

 

「人の事を子供っぽいとか言っておきながら、摩利も大概よね」

 

「ぐっ……」

 

「まぁ、真由美さんも渡辺さんも似たような感じですけどね」

 

「「私(あたし)の方がマシよ(だ)!」」

 

「ほら、そっくりですよ」

 

 

 ハモったことを笑いながら指摘する鈴音に対して、ハモった二人は恥ずかし気に視線を明後日の方へ向けた。

 

「あれ? あーちゃんじゃない」

 

「へっ? あっ、真由美さんに渡辺先輩、それに市原先輩も……ご無沙汰しております」

 

「なにしてるんだ、こんなところで?」

 

「べ、別に何もしてませんよ……」

 

「怪しい……あーちゃん、何をしてたのか正直に言いなさい!」

 

「ひっ! ……司波くんを見かけたので尾行しようかと」

 

「達也くんを? 何故中条が達也くんの事を尾行しようとしたんだ?」

 

 

 摩利の質問に、あずさはかねてから疑っていた事を先輩たちに話す。その考えを聞いて、摩利は少し大げさに頷いてみせた。

 

「なるほど、達也くんがあの『トーラス・シルバー』じゃないかと疑ったわけか」

 

「はい……だから、司波くんを尾行すれば何か分かるんじゃないかって思いまして」

 

「ですが、達也さんは人の気配に敏感ですし、中条さんレベルの尾行ではすぐにバレてしまっていたのではありませんか?」

 

「えぇ!? そ、そんな事なかったと思いますが……って! 司波くんが何処にもいません」

 

「まぁ、私たちとお喋りしてたらその間にいなくなっちゃうわよね……てか、本当に達也くんがいたの?」

 

 

 全然気づかなかったけどと言いたげな表情で辺りを見回しながら尋ねる真由美に、あずさは頷いて答えた。

 

「達也くんがいるなら司波も一緒だったのか? だったら探しやすいと思うんだが」

 

「深雪さんはいなかったと思います……」

 

「別行動か? それは珍しいな」

 

「とにかく、見失っちゃったなら仕方ないわね。あーちゃんはこの後私たちに付き合いなさい」

 

「えぇ!? って、何をするんですか?」

 

「別に何かをしようとしてたわけじゃないわよ。ただウィンドーショッピングでもしようかなって話になってたから、あーちゃんも一緒にどうかなってお誘いよ」

 

「お誘いにしては半ば強制してる風に聞こえましたが」

 

 

 鈴音がぼそりと呟いた事は無視して、真由美はあずさの肩を抱いて人混みに突撃していく。その行動が達也=シルバーだという考えを忘れさせようとしているように鈴音には思えたが、事情を知らない摩利は、相変わらずあずさが真由美に絡まれているという風にしか思わなかったのだった。




原作で出て来ることはあるのだろうか……

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