劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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四葉の血族はいろいろと厄介……


同類

 部屋で考えをまとめた深雪は、覚悟を決めた表情でリビングに戻ってきて、達也に縋りつくように座っている夕歌を見て再び冷静さを欠いた。

 

「夕歌さん、いったい何をしているのでしょうか?」

 

「見ての通りよ。反対側は空いているのだから、深雪さんも如何かしら?」

 

 

 あまりにも甘美で抗えない雰囲気で提案してくる夕歌に、深雪はかなりの葛藤を見せたが、結局はその提案を受け入れ、夕歌の反対側の腕に自分の腕を絡ませ、達也に申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「夕歌さんが達也様の部屋で寝泊まりする事に関しては分かりました。ですが、二人きりにするわけにはいきませんので、私も達也様の部屋で寝かせていただきます」

 

「何故そのような結論に至ったのかは気になるけど、達也さんさえ良ければ私は構わないわよ」

 

 

 そういいながら視線で問うてくる夕歌を見て、達也は苦笑しながら頷く。基本的に深雪の頼みには弱い達也は、彼女の提案を断るという選択肢を見いだせなかったのだろう。もちろん、深雪だけが部屋で寝たいといわれれば断ったかもしれないが、今回は既に夕歌が寝泊まりする事を許可してしまっているので、深雪だけを邪険にするという事は彼には出来なかったのである。

 

「それじゃあそういう事で。あっでも、私は達也さんと同じベッドで、深雪さんは床に布団を敷いてもらう事になるけど」

 

「……それは仕方ありません。夕歌さんの件は叔母様公認なわけですので、私がとやかく言えることではありませんので」

 

「そもそも、深雪さんはやろうと思えばいつでも出来たはずですよね? 何故実行しなかったのです?」

 

「そんなはしたない真似して、達也様に嫌らしい娘だと思われたらどうするんですか!」

 

「深雪さんって、変なところの羞恥心は強いのよね……あれだけ人前でイチャイチャして、今更恥ずかしがることも無いと思うんだけども」

 

 

 達也が深雪の事をそんな風に思うなどありえないと思っているので、その部分へのツッコミはせず、夕歌は別の事にツッコミを入れた。

 

「というか、今回の案も、どうせ裏で水波ちゃんから入れ知恵されたんでしょ? 深雪さん一人でこんな結論にたどり着けるわけないし」

 

「何故そう言い切れるのですか?」

 

「だって、何時もの深雪さんなら、嫉妬と羨望で冷静な思考を保つことが出来なくて、私を追い出そうとか考えるはずなのに、今日は随分と早く冷静な判断を下したから、たぶん誰かに入れ知恵されたんだろうと思っただけよ。そしてこの家にいるのは、私と達也さんを除けば水波ちゃんだけだもの。電話で誰かに聞いた、という線もあるけど、そんなことしたら別の婚約者がこの家に押しかけてくるだろうしね」

 

 

 『違う?』と視線で問われて、深雪は素直に認めるのもアレかなと思い視線を逸らしたが、その先で水波が頷いているのを見て視線を夕歌に戻した。

 

「なんだったら水波ちゃんも達也さんの部屋で休んだらどう? まぁ、深雪さんの隣だけどね」

 

「お誘いは非常にありがたいのですが、婚約者でもない私が達也さまと同じ部屋で休むなど、暴動が起きかねませんので」

 

「誰にも言わないし、水波ちゃんは家族みたいなものなんだから、特に問題はないんじゃない?」

 

「いいえ、夕歌さん。水波ちゃんの周りにいる婚約者もですが、達也様の婚約者は総じて嗅覚が良いのです。もし水波ちゃんから達也様の匂いがすれば、そこから何があったかを推察することくらい簡単なのですよ」

 

「そんな大げさな――って言えればいいんだけどね……私もだけど、達也さんの匂いがすれば反応しちゃうかもしれないし」

 

「ですので、私は大人しく自分の部屋で休みますので、深雪様と津久葉様はごゆっくりと達也さまのお部屋をご堪能してくださいませ」

 

 

 聞き様によってはかなり卑猥に聞こえる事を平然と言ってのける水波に対して、言われた側の深雪と夕歌は顔を真っ赤にして水波から視線を逸らした。

 

「それから、夕食の準備が整いましたので」

 

「ご苦労」

 

 

 恥ずかしがって答えられない二人の代わりに、達也が水波を労い立ち上がる。達也にしがみついている二人はそのまま達也に引き上げられるように立ち上がり、リビングからダイニングへと移動する。

 

「達也さま、私はおかしなことを言ったのでしょうか?」

 

「さぁ、俺には分からん。だが、深雪と夕歌さんの反応を見る限り、おかしなことを言ったんじゃないか?」

 

「そうでしたか……深雪様、津久葉様、誠に申し訳ございませんでした」

 

 

 とりあえず頭を下げて、水波は料理を運ぶためにキッチンに引っ込んだ。謝られたのは良いが、未だに冷静さを取り戻せていない二人は、何も言わずに椅子に腰を下ろした。深雪は達也の正面に、夕歌は達也の隣に……

 

「――はっ! 何故夕歌さんが達也様の隣なのですか!」

 

「深雪さんが自分でそこに座ったんでしょ。私は別に何も言ってないわよ」

 

「呆け過ぎて、何時も通りに座ってしまった自分が難いです……」

 

「何時もその位置なら別に良いじゃないの。別段何か特別な事をするわけじゃないんだし」

 

「本当ですか? 達也様に『あーん』とかしようとか思ってるんじゃないですか?」

 

「さすがに人前ではしようとは思わないわよ。それとも、深雪さんは見せつけられたいのかしら?」

 

「夕歌さん、あまり深雪に挑発しないでください。枷が無い分、暴走すると大変なので」

 

「あら、ゴメンなさいね」

 

 

 夕歌は言葉で、深雪は態度で達也に謝罪し、これ以上張り合うのは止めようと目で会話したのだった。




また水波が大変そうだな……

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