劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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達也は何でもお見通し……


地下室での会話

 夕歌のCADを調整しながら、達也は珍しく笑みを浮かべていた。その表情を真横で見ていた夕歌は、自分のCADの調整がおかしかったのかと不安になったが、その反応を達也が目敏く感じて否定した。

 

「別に夕歌さんの設定はおかしくありませんよ」

 

「そう、よかった……でも、じゃあ何で笑ったの?」

 

「夕歌さんが来てくれたお陰で、深雪の百面相を見る事が出来ましたので」

 

「達也さん、それほど深雪さんの側にいなかったじゃない」

 

「一応深雪の中に力は残してますので、それを通じて深雪の感情を知ることは出来ます」

 

「結構便利なのね、達也さんの眼って」

 

 

 一度相手を捕まえれば何処にいようと見つけることが出来るとは聞いていたが、まさか相手の感情まで知ることが出来るとは聞いていなかったので、夕歌は少し驚いた表情を浮かべた。

 

「達也さん、自分の感情は分からないのに、深雪さんの感情は分かるのね」

 

「『情』というものはありませんが、知識としてはありますし、我を忘れない程度なら自分にもありますから」

 

「喋りが他人行儀になってるけど?」

 

「わざとです」

 

 

 分かりにくいが、達也も冗談を言ったりこうやって相手を楽しませたりすることは出来る。もちろんこれは、ある程度親しい相手にしか見せない一面なので、夕歌はニッコリと笑みを浮かべながら頷いた。

 

「お喋りしながらでも達也さんは調整の手を止めないのね。ミスとかしないの?」

 

「夕歌さんのCADはある程度完成系に近い調整をされているので、俺が出来る事はちょっとの無駄を取り除く程度ですので、画面をしっかりと見ながらじゃなくても出来ます。それに、一度見れば何処が余計なのか覚えられますし」

 

「魔法を研究してる身としては羨ましい能力よね、それ……」

 

「昔七草先輩にも言いましたが、こんな能力よりも普通の魔法力が欲しかったですけどね、俺は」

 

「まぁ達也さんは完全記憶能力とか無くても、すぐに覚えちゃうでしょうしね。てか、達也さんだってある程度は魔法は使える――というか、まだ自分の真価を発揮しきれてないだけじゃないの」

 

「強すぎる魔法力を上手く制御するのに手間取ってる、という感じですかね。深雪が魔法を無意識に発動してしまうという感覚も、今ならなんとなく分かる気がします」

 

「あれは単純にブラコンが過ぎるだけよ。達也さんに自分以外の女性が近づいたら嫉妬で魔法を発動しちゃうんだしさ」

 

 

 バッサリと切り捨てる夕歌に、達也は苦笑するしかなかった。達也としても深雪が無意識に魔法を発動させる原因の一端は自分だと理解しているので、夕歌の考えに対する反論は無いのだ。

 

「それにしても、深雪さんのあの感情は誰に似たのかしらね……深夜さんはそこまで嫉妬深くなかったって聞いてるけど」

 

「母上じゃないですかね? 一応叔母と姪の関係ですし、そこらへんが似てもおかしくはないですし」

 

「確かに真夜様は嫉妬深い一面があるようね。達也さんに会えなくて青木さんたちに当たり散らしてるって噂を聞いたし」

 

「またですか……この間画面越しとはいえ会ったばかりだというのに……」

 

「実際に見て触って甘えたいんでしょうね。真夜様がある意味一番達也さんの事を愛しているわけだし」

 

「一種の狂気と表現されてもおかしくはないですからね、母上の愛情表現は」

 

「達也さんを見下していた従者全員を一斉にクビにしようとした時は驚いたけどね」

 

「葉山さんを通じてとどまってもらいましたが」

 

 

 もし達也が動かなかったら、真夜は本気で達也を見下していた従者全員をクビにしていただろう。そうなると四葉の秘密が外部に流れる可能性が高いわけで、達也と葉山はしっかりと連携して真夜の暴走を止めたのだ。

 

「もし大量にクビにしてたら、今頃七草家が大きな顔をしていたでしょうね」

 

「直接話したことは無いですが、確かにあの人ならありえそうですね。とても七草先輩や香澄や泉美の父親とは思えないくらいの腹黒さを感じさせる雰囲気でしたし」

 

「腹黒さを微塵も感じさせない達也さんがそれを言うの?」

 

「俺は腹黒いんじゃなくて『悪い人』ですから」

 

 

 またしても冗談を言った達也に、夕歌は口元を抑えて笑い出す。いくら二人きりとはいえ、大声で笑い出すという事は幼少期から叩き込まれた良家の子女として許されないのだろう。この辺りは深雪と同じく、幼少期の教育の賜物と言えよう。

 

「今日この家にきて良かったわ。珍しい達也さんをたくさん見られたし」

 

「『あの件』が本当に起これば、夕歌さんはしばらく東京を離れる事になるわけですし、これくらいのサービスはしますよ」

 

「後は一緒に寝る時に頭を撫でてくれたりしてくれれば文句ないわね」

 

「かしこまりました、夕歌お嬢様」

 

「それは嬉しくないわね。何時も通りの方が良いわ」

 

 

 達也も夕歌が気に入るとは思ってなかったようで、すぐに執事風の口調を改めた。

 

「元々お嬢様である夕歌さんにとって、あまり嬉しくないですよね、あの口調は」

 

「実家で散々言われたしね。今はちょっと懐かしいって思ったけど、やっぱり達也さんには普通に喋ってもらいたいし」

 

「そうですか。調整終わりましたので、CADをお返ししますね」

 

「ほんとにお喋りしながら終わらせちゃったわね」

 

 

 軽く目を見開きながらも、これくらい達也なら当然かと考え直してそのままCADをポーチにしまったのだった。




この程度達也には造作もないんでしょうね……

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