劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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いまさらですが、いまだに許せていない模様……


将輝に対する怒り

 リビングで一息ついた深雪が部屋に戻った時には、既に達也も夕歌も部屋に戻って来ていた。

 

「深雪さん、そんなに緊張しているのなら、自分の部屋に戻ったらどう? 私は別にどっちでも構わないけど、深雪さんの身体が心配だわ」

 

「ご心配には及びません。このくらい耐えられなくて四葉の人間だと名乗れませんから」

 

 

 明らかに強がっている深雪だが、夕歌はその事を指摘することなく年上の余裕を窺わせる笑みを浮かべた。

 

「耐えている時点で問題ありだと思うけど、深雪さんが四葉の人間であることを理由にするのであれば、私は気にしないことにするわね」

 

「それで構いません。夕歌さんが抜け駆けしないように見張るのも理由の一つですから、ここで達也様と夕歌さんを二人きりにしては意味がありませんもの」

 

「私は別に、深雪さんや七草のご令嬢が思っているようなことをしてみたいとは思ってないもの」

 

 

 夕歌は『それほど』思っていないだけで、少なからず深雪や真由美のような願望は抱いている。だがそんなことを窺わせない余裕が夕歌からは感じられるのだ。

 

「私だって七草先輩ほど抜け駆けをしたいとは思ってません」

 

「そうなの? 亜夜子さんが調べた限りではどっちもどっちだって聞いてるけど」

 

「亜夜子ちゃんが何処で調べたのかは知りませんが、私は七草先輩ほどではありません」

 

「そういう事にしておきましょうか」

 

「二人とも、あまり対立するようなら、母上の許可があろうが部屋から追い出しますよ」

 

 

 二人のやり取りを黙って聞いていた達也ではあったが、基本的に騒がしいのは好きではないので、二人を黙らせるために軽い冗談でそういうと、二人には達也が思っていた以上の効果があったようで、その後は特に対立する事は無かった。

 

「ところで、本当に同じベッドで寝るんですか?」

 

「そうよ?」

 

「まぁ、夕歌さんが気にしないのでしたら構わないのですが」

 

「達也さんは何を気にしているの?」

 

「獣並みの嗅覚の持ち主を何人か知っているので」

 

「その人に会わなければ問題ないし、私だって達也さんの婚約者の一人なんだから、これくらいは当然の権利よ。ましてや石川に行かなければならないのだし、これくらいの餞別はあっても良いと思わない?」

 

「まだ実際に起こると決まったわけじゃないんですがね」

 

「真夜様の予言っていうのかしら? あれは殆どの確率で当たるもの。だからほぼ百パーセント私は石川に行くことになると思う」

 

 

 過去にもいろいろと言い当てている真夜を信じている夕歌は、何か確信めいたものを抱いているようで、真夜と葉山、そして達也とで推理したロシアの行動予想を確定事項としてとらえているようだった。

 

「深雪さんが私の研究を理解していれば、深雪さんに行ってもらえたのにね」

 

「何故私なのでしょうか?」

 

「だってほら。一条の御曹司は深雪さんにご執心なわけだし、しばらく一緒にいれば深雪さんの心が動くか、一条の御曹司が諦めるかって展開になるかもしれないじゃない?」

 

「どれだけ一緒にいようが、私の心が動く事はあり得ません」

 

「まぁ、そうでしょうけどね」

 

 

 はっきりと言い放った深雪を見て、夕歌は楽しそうに、達也は何処か将輝に同情したような笑みを浮かべた。

 

「真夜様も仰られていたけど、本当に深雪さんの事が好きで、息子の恋の後押しをしたいというなら、深雪さんが四葉の人間だと発表される前に婚約を申し込めばよかったのに」

 

「例え私が四葉の人間だと発表される前であろうと、一条さんの申し出は断ったでしょうけどね」

 

「そもそも達也さんより劣っている相手に、深雪さんが心奪われるわけもないか」

 

「その前に一条さんは、お兄様を殺そうとした人ですから。あの行為に対する謝罪が無いわけですし、私が相手にするはずもありません」

 

 

 深雪は当時の事を思い出しあえて『お兄様』という呼称を使った。夕歌もそれが分かったのか指摘することなく頷く。

 

「自分でオーバーアタックした事は分かっているわけだし、いくら達也さんに怪我がなかったとはいえ謝罪しないのはおかしいわよね。いっそのこと九校戦本部にクレームをいれて、今年の出場資格を無くしてやろうかしら。都合よく知り合いが大会運営にいるわけだし」

 

「さすがにそれはやり過ぎです。それから深雪、一条のオーバーアタックを今責めたところで意味はないだろ」

 

「そうですね。申し訳ありませんでした」

 

 

 達也に軽く諫められ、深雪は素直に頭を下げた。

 

「別に明日朝早いわけではないですが、そろそろ寝ましょう。水波が部屋で気を張っているのが可哀想になってきました」

 

「水波ちゃんが? 何故そのような事をしているのでしょうか?」

 

 

 本気で分からないという表情で首を傾げた深雪に、達也は苦笑しながら解説を始める。

 

「深雪がこの部屋にいるということは、何時嫉妬で魔法を発動させるか分からないからな。万が一に備えて水波は気を張って魔法発動の兆候を察知したら防壁を張ろうと思っているのだろう」

 

「そんなことしなくてもいいのに。ここには達也様がいるわけですし、例え私が魔法を暴走させたとしても水波ちゃん以上に早く抑えてくれると思うのですが」

 

「まぁ、一応ガーディアン見習いとしての心持ち、という事だろう」

 

 

 そもそも暴走するはずもないのにと達也は思っていたが、その事は言わずに深雪と夕歌の頭を撫でて、二人同時に眠らせたのだった。




達也の撫でテクであっさり就寝……

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