劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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思いっきりズレてるよな……


沢木の感性

 五人で固まって構内を進んでいると、聞き覚えのある声に呼び止められた。

 

「服部、沢木」

 

「十文字先輩」

 

「おはようございます」

 

「ん」

 

 

 沢木の挨拶に頷いて応え、克人は集団に目を向け眉を一度だけ上下した。克人がそんな反応を見せるの自体珍しいが、あまり絡みがない五十里と花音は対応を服部を沢木に任せるように一歩引いた。

 

「この面子で行動してるのは偶然か?」

 

「はい。先ほどばったりと遭遇しまして」

 

「十文字先輩こそ、今日は何故ここに?」

 

 

 別に克人が大学にいたとしてもおかしくはないのだが、今日は入学式が行われるため新入生以外はあまり見受けられない。それなのに克人がここにいたことに沢木は疑問を抱いたのだった。

 

「少し呼ばれただけだ。帰ろうと思ってたところにお前たちが通ったからな。軽く挨拶をしておこうと思って声を掛けただけだ」

 

「そうだったんですか」

 

「特にすることは無いが、しっかりとやれよ」

 

「はい」

 

 

 そういいって克人は五人から離れ、そのまま去っていった。その背中を見送りながら、沢木以外のメンバーは無意識に入れていた力を抜いた。

 

「さすが十文字先輩だね。何もしてこないって分かってるのにこの緊張感」

 

「制服以外の十文字先輩を見るなんて滅多になかったからね。一つしか違わないのに凄い貫禄だったね」

 

「中条さんなんて服部くんの後ろに隠れちゃったもんね」

 

 

 花音に指摘されてようやく、あずさは自分が服部の陰に隠れている事に気が付き、慌てて服部から距離を取る。

 

「中条さんはそれなりに十文字先輩と付き合いがあったんじゃないの?」

 

「ありましたけど、あくまでも真由美さんや渡辺先輩を介しての付き合いだったので……それに、十文字先輩は大きいですから……」

 

「まぁ、見た目以上の大きさを感じたもんね、今の十文字先輩からは」

 

 

 あずさが怯えていた理由に納得がいったという感じで頷いていた花音ではあったが、すぐに新たな疑問が湧き出てきたようで、再びあずさに視線を向けた。

 

「な、なんですか?」

 

「大きいといえば、司波くんもそれなりに大きかったけど、ここまで怯えたりしてなかったよね?」

 

 

 「何で?」という感じで問いかけてくる花音に、あずさは達也の姿を思い浮かべて克人との差を考える。

 

「司波くんは上手く距離を取って話しかけてくれましたし、私と話す時はだいたい腰を下ろしてましたから。十文字先輩みたく私を見下ろして話すのではなく、しっかりと目線を合わせてくれてましたし」

 

「確かに司波君は中条さんと話す時は座ってる事が多かったね。立って話さなければいけない時は十分に距離を取ってたし、それで司波君とはある程度普通に話せてたんだね」

 

「五十里くんほどじゃなかったですけどね」

 

 

 中性的な顔立ちとはいえ、五十里は達也とそれほど身長が変わらない。それでもあずさが怖がらずに話す事が出来るのは、彼の雰囲気や「襲ってこない」と思えるだけの物腰の柔らかさゆえであろう。

 

「確かに啓と中条さんって結構普通に喋ってたよね。まさか啓?」

 

「な、なに?」

 

「中条さんになにかしたんじゃない?」

 

「特に何もしてないけど……というか、花音は僕が中条さんに何をしたと思ってるのさ」

 

 

 婚約者にあらぬ疑いをかけられ、五十里は少し慌てた様子で花音に反論する。その態度が疑わしさを増しているのではないかと見ていた服部は思ったが、どうやら花音は五十里のその態度を見て安心した様子だった。

 

「別に何かしたとは思ってなかったけど、中条さんが緊張せずに話せるのって、服部くんを除いたら啓くらいじゃない? だから何か特別な事があったのかなって思っただけ」

 

「特に何もないってば。強いてあげるとすれば、僕が中性的って事じゃないかな」

 

 

 自分で言っておきながら、五十里はその事に少しショックを受けている様子だ。だが花音はその事に気付かず、大きく頷いていた。

 

「逆に啓と普通に話せる男子も少ないし、中条さんが啓に緊張しないのはその為なのね」

 

「千代田、五十里が落ち込んでるぞ」

 

「へ? 啓、お腹でも痛いの?」

 

 

 俯いている五十里に、花音は見当はずれの心配を向ける。

 

「お前は五十里の悩みを知っているんじゃないのか?」

 

「啓の悩み? 同性の友達が少ないってやつ? 別に気にしなくてもいいと思うんだけどな」

 

「そうですよ。五十里くんは同性のお友達が少ないって言ってますけど、それがイコールで全体のお友達が少ないわけではないんですから」

 

「そうよ。啓にはたくさん友達がいるじゃないの。まぁ、中には啓に色目を使おうとしてた泥棒猫がいたけどね」

 

「っ!」

 

「千代田、中条が怯えてるからそのオーラはしまった方がいいぞ」

 

 

 沢木に指摘されてようやく、花音は自分が嫉妬のオーラを全開にしていたことに気付いたようで、慌ててあずさに頭を下げた。

 

「入学した時から啓にはあたしがいるって知らしめてたのに、何で啓に近づいてきたのかしら……」

 

「大丈夫だよ、花音。どんな思惑があって近づいてきたのかは知らないけど、僕は花音以外の女性と付き合うつもりは無いから」

 

「あたしも! 啓以外の男子なんて眼中にないからね!」

 

「うむ。仲良きことは美しき哉」

 

「お前は相変わらずズレてるんだな」

 

 

 五十里と花音のやり取りを間近で見ていてそんなコメントが出来る沢木に、服部はため息交じりにそう呟き、あずさは乾いた笑いしか出せなくなっていた。だがその原因を作り出した二人はその事に気付かず、沢木は何故服部とあずさが呆れているのかが分からないのだった。




男前の天然は質が悪い……

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