劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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圧勝ですね……


スピード・シューティングの結果

 新人戦、女子スピード・シューティングは、一高の三人が一位から三位までを独占した。その事で一高天幕は大はしゃぎとなっている。

 

「凄いじゃない、達也君! 一位二位三位を独占なんて、これは快挙よ!」

 

 

 達也の背中をバシバシと叩きながら喜びを露わにしている真由美。彼女の力は見た目通りなのでさほど痛くは無いのだが、何度も叩かれるとさすがに迷惑になってくるのだ。

 

「会長、ほどほどに。司波君も困ってますし」

 

 

 視線で助けを求め、鈴音が真由美を宥めてくれた。優しい先輩なのだろうが、達也が助けを求めるまで止めようとしなかったので、彼女も同じ穴の狢なのだろう。

 

「あっ、ゴメン……でも、これは本当に快挙なのよ!」

 

「優勝したのも準優勝したのも三位になったのも選手で、俺ではありませんよ」

 

「確かに北山さんも明智さんも滝川さんも良く頑張ってくれたわ」

 

 

 生徒会長に満面の笑みで褒められた一年女子スピード・シューティングチームは、緊張が表情に出ていたが、何とか「ありがとうございます」と返した。

 

「だが、それと同時に君の功績が大きい事も確かだよ」

 

 

 真由美ほど興奮はしてないが、上機嫌な顔で摩利が賛辞の環に加わってきた。

 

「はぁ、ありがとうございます」

 

「何だ張り合いの無い。今回出場選手上位独占と言う快挙に、エンジニアとしての君の腕が大いに貢献してるというのは、此処に居る全員が認識してるんだぞ」

 

 

 摩利の言葉に、雫が大きく頷いて見せた。

 

「自分でも信じられません」

 

「何だか急に魔法が上手くなった気がします」

 

 

 エイミィと滝川の言葉にも、達也はあまり反応して見せなかった。

 

「特に北山さんの魔法は、大学の方から『インデックス』に正式採用するかもしれないと打診が来ています」

 

 

 鈴音のこの発言に真由美は目を見開き、摩利は絶句し、雫は固まった。インデックスの正式名称は『国立魔法大学編纂・魔法大全・固有名称インデックス』、此処に採用されると言う事は、既存魔法の亜種としてではなく、新種の魔法として認められることなのだ。これは魔法開発に従事する国内の研究者にとって一つの目標とされている名誉なのである。

 だが達也はさほど興味が無さそうに答えた。

 

「そうですか。開発者名の問い合わせには、北山さんの名前を答えておいてください」

 

「そんな!? 駄目だよ! あれは達也さんのオリジナルなのに!」

 

 

 興奮気味の雫を、達也は全くの無表情で見つめ、そして宥めるように言う。

 

「新種の魔法の開発者名に、最初の使用者の名前が載るなんて良くある事だぞ」

 

「ふむ、謙遜もそこまで行くと嫌味に聞こえるぞ」

 

 

 達也の態度が面白く無いのか、摩利が割って入ってくる。

 

「謙遜ではありません」

 

「じゃあ何だ?」

 

「俺は、俺が開発者として載せられた魔法を、俺自身が使えないと言う恥を晒したくないだけです」

 

「……使えない魔法を、如何やって作動確認したんだ?」

 

「全く使えないと言うわけではありません。ですが、発動までに時間がかかりすぎて、「使える」と言うレベルに達してないんですよ」

 

「まあまあ、摩利も達也君もそれくらいにして。今はそんな事で口論しなくて良いじゃない。せっかく幸先のいいスタートを切れたんだから。達也君、この調子で他の競技も頼むわよ」

 

 

 笑顔で彼の肩を叩く真由美に、達也は控えめに頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三高のミーティングルームは、重い空気で充満していた。今年こそ覇権奪取を目標に掲げていた三高にとって、新人戦の女子スピード・シューティングの結果は非常に困ったものなのだ。百家の栞と沓子が出場したにも関わらず、結果は四位と五位。一高に上位独占を許す形となったのは頭の痛い事なのだ。

 

「ジョージ、今年の一高の女子のレベル、お前は如何見る」

 

「そうだね……優勝した北山さんは確かに飛びぬけた才能があるよ。あれなら優勝してもおかしく無い。だけど、他の二人はそこまで高い魔法力があるようには感じなかった。普通なら二位三位と独占される事は無いと思う」

 

「そうだな。選手の能力にそこまでの差は俺も感じなかった」

 

 

 スピード・シューティングの結果を受けてのミーティングなのに、参加した栞も沓子もこの場には居ない。彼女たちは独自に反省会をしてるのだろうと、将輝も真紅郎も思っていたので無理強いはしなかったのだ。

 

「選手じゃないとしたら何だ?」

 

「一条君と吉祥寺君はそれが分かってるの?」

 

 

 他の選手たちに聞かれ、真紅郎はもったいぶらずに答えた。

 

「エンジニア……だと思う」

 

「そうだな。優勝した北山さんのデバイス、気付いたかジョージ」

 

「うん、あれは汎用型だったね」

 

 

 真紅郎の言葉に、他の選手は動揺する。

 

「だって照準補助装置がついてたぜ?」

 

「特化型の補助システムを汎用型CADに繋げるなんて不可能でしょ!」

 

「特化型の補助システムと汎用型のCADを繋げる技術は、確かにあるよ」

 

「俺もこの機会に調べなおさなければ知らなかったが、去年の夏にデュッセルドルフで発表されてた」

 

「去年の夏!? 殆ど最新技術じゃねぇかよ……」

 

「一条でも知らねぇんじゃ、俺たちが知ってる訳ないよな……」

 

「でも、吉祥寺君は知ってたんだよね? さすがは私たちのブレーンだわ」

 

 

 無理にでも明るくしようとした女子の言葉に、真紅郎は乗る事が出来なかった。

 

「でも、デュッセルドルフで発表されたのは、動作も遅いし本当に繋げただけのものだった。だけど今回のものは、特化型にも劣らない速度と精度、系統の違う起動式を処理すると言う汎用型の長所を兼ね備えていた」

 

「それが一人のエンジニアの腕で実現してるのなら、ソイツは高校生レベルのエンジニアじゃない。一種の化け物だ」

 

「お前がそこまで言うレベルなのかよ……」

 

 

 将輝が重々しく言った事によって、ミーティングルームの空気は更に重いものになっていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同じ時刻、愛梨の部屋。スピード・シューティングに出場した栞と沓子は、香蓮と共にこの場所に集まっていた。

 

「負けましたわね」

 

「うん……」

 

「強かった……」

 

 

 結果をストレートに言われ、栞も沓子も落ち込んでいる事を隠す事が出来なかった。

 

「選手個人としては此方も負けてなかったと思いますが」

 

「そうね。香蓮さんの言うように、個々の能力では負けてない……いえ、此方が勝っていたかもしれません」

 

「でも負けちゃったよ……」

 

「私なんて一高の選手に連敗したから……」

 

「確かに栞さんも沓子さんも負けはしましたが、あれは選手の力と言うよりもエンジニアの力の方が大きかったと思います」

 

 

 香連の見解に、栞と沓子が顔を上げる。

 

「エンジニアって……達也さん?」

 

「やっぱり達也さんって凄い人なの?」

 

「優勝した北山選手の使っていたCAD、あれは汎用型だったのに気付きましたか?」

 

 

 首を振る二人に、香蓮はミーティングルームで行われた説明と殆ど同じものを聞かせた。

 

「ふへぇ……そんな技術が可能なんだ……」

 

「達也さんってやっぱり凄い人なんだ」

 

「達也様が全ての競技を担当する事は不可能でしょうけど、達也様が担当する競技ではこれからも苦戦を強いられると言う事ですわね」

 

「何でちょっと嬉しそうなんです?」

 

 

 香連のツッコミに、慌てる愛梨だった……




実力差がここまで顕著に……

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