劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

1044 / 2283
家にカメラでも仕掛けてるんじゃ……


真夜からの電話

 達也の方にも詳細な報告が送られてきて、夕歌から聞いていた事とだいたい同じことが書かれていたが、達也の方にはより正確な情報が書かれていた。

 

「戦略級魔法が使用された可能性がある、か……」

 

「一条殿を襲った魔法が、戦略級魔法だと本家は考えているのですか?」

 

「『トゥマーン・ボンバ』は見た目も公開されていないから何とも言えないが、その可能性がある、という事だ」

 

 

 達也の説明に深雪は息を呑んだ。剛毅が負傷したという事を聞いた時も似たような表情を浮かべていたが、達也の目にはその時以上に驚いているように見えた。

 

「達也さん、ちょっといいかしら?」

 

「なんでしょう、夕歌さん」

 

「達也さんは今回の魔法が本当に『トゥマーン・ボンバ』だと思いますか?」

 

 

 夕歌の質問に、達也は一瞬だけ考えて首を横に振った。

 

「残念ながら分かりません。十三使徒が使う戦略級魔法の中でも『トゥマーン・ボンバ』は見た目も効果も公表されていませんので」

 

「達也さんでも分からないのね……」

 

「俺だってすべての魔法を知っているわけではありませんので」

 

 

 夕歌が残念そうに俯いたのを見て、達也はフォローとも取れる言葉を彼女にかけたのだった。

 

「達也さま、真夜様からお電話です。津久葉様もご一緒に来るようにと」

 

「分かった。すぐに行こう」

 

 

 このタイミングで真夜からの連絡ということは、どう考えても今回の一件についてだろうと全員が理解した。だが深雪は、自分ではなく夕歌を呼び出した事に不満を抱いたのだった。

 

「どうかなさいましたか?」

 

「何でもないわよ。ただちょっと、叔母様が何故夕歌さんを呼びつけたのかが気になっただけ」

 

「それでしたら、画面に映らない位置でお話しの内容を聞くのは如何でしょうか?」

 

「そんなことして、達也様にはしたない子だと思われたらどうするのよ」

 

 

 その程度の事で達也が呆れるとは思えなかった水波ではあるが、深雪が本気で心配しているようなので素直に頭を下げ謝罪する。

 

「それでしたら、私が聞いてきましょうか?」

 

「それもダメよ。達也様の事ですから、私が水波ちゃんに代わってもらったってすぐに分かってしまうでしょうし」

 

「ならば真夜様との会話が終わった後で達也さまに直接聞くしかありませんね」

 

「それが出来れば苦労しないわよ……」

 

 

 真夜から呼ばれなかったという事は、今回の内容は自分には関係ない事だと深雪は今までの経験から理解している。だから会話の内容を聞きに行く事も出来ないし、終わった後で達也に聞くのもマズいのではないかと考えてしまうのだった。

 

「達也さまが深雪様に隠し事をするとは思えないのですが。深雪様がお聞きになれば、達也さまは教えてくださると思いますよ」

 

「私が聞いていい内容なのかが問題なのよ……」

 

 

 一人で葛藤する深雪を見ながら、水波はリビングに視線を向け、達也たちが何を話しているのか聞きに行こうという気持ちと、深雪から止められたので止めておこうという気持ちで板挟みになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水波がそんな事で悩んでいるとは露知らず、達也たちは真夜からの指示を受けていた。

 

『――というわけで、前から計画していたように夕歌さんには一条殿の治療に行ってもらう事になりました』

 

「報告は受けていましたし、その覚悟もしていました」

 

『それから達也さんには、もしかしたら例の魔法に対抗してもらう事になるかもしれません』

 

「母上、その未知の魔法についてですが、映像データなどは無いのでしょうか?」

 

『成層圏カメラからじゃ良く分からないのよね……それでも良いのなら後程送らせますが』

 

「構いません」

 

 

 少しでも情報が欲しいと、達也は間髪を入れずに答えた。達也の態度に真夜は実に楽しそうに微笑み、達也の要望を受け入れた。

 

『それじゃあ後程青木さんにでも用意させるわね』

 

「真夜様」

 

『あら、何かしら夕歌さん』

 

「青木さんは達也さんの事を快く思っていないはずですが、映像に細工を施したりはしないですよね?」

 

『どうかしらね……でも、青木さん程度の細工なら、達也さんが見破れないわけも無いし、特に問題は無いと思うけど』

 

「余計な手間をかけている場合ではないと思うのですが」

 

『そうねぇ……吉見さんに監視でもさせておきましょうか』

 

 

 黒羽家が所持している戦力だが、最近は真夜が直接吉見に頼みごとをすることも多いのだ。実際達也に直接報告書を持ってきた時も、貢ではなく真夜が命じたのだ。

 

「そもそも青木さん以外に用意させればいいだけなのでは?」

 

『だって青木さんの忠誠心を確かめるには丁度いいんだもの。私にではなく、達也さんに対してのだけど』

 

「あの人にそんなものがあるとは思えませんが」

 

『そうね。私もそう思ってるわ。だからもし青木さんが細工を施したりしたら、しばらく青木さんには海外出張にでも行ってもらおうかしら』

 

「そんなことが可能なのですか?」

 

『魔法力だけの男を海外に飛ばせば、必然的に青木さんも海外行が決定するから』

 

 

 FLTの幹部を簡単に海外に出していいのかと達也は思ったが、幹部とは名ばかりのお情けだと知っている夕歌は、実に楽しそうに笑っていた。

 

「そのままFLT海外支店でも作ってもらいましょうか」

 

『それも良いわね。たっくんを道具扱いしてたやつなんて、治安の悪い場所で生活してもらった方が良いわね』

 

「何処に飛ばすつもりなんですか……」

 

 

 盛り上がる二人に、達也は呆れながらツッコミを入れたのだった。




真夜さんならありえそうでこわいな……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。