劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

1045 / 2283
悪戯では済まないかな……


真夜の悪戯

 用件は済んだはずなのに、真夜は中々電話を切ろうとしない。こちらから切ってもいいのだが、後々面倒な事になるので、達也の方から切ったりはしなかったのだ。

 

「母上、まだ何か?」

 

『いえ、夕歌さんの雰囲気を見る限り、たっくんに抱かれたという事は無さそうね』

 

「な、何を言ってるんですかっ!?」

 

『だって、私たちが想像してる通りの事が起こるとしたならば、夕歌さんはしばらくたっくんの側を離れなきゃいけないわけじゃない? そういう事情があるなら、たっくんも少しくらいはって思うかなーって』

 

「残念ながらそのようなイベントは起こりませんでした。というか、気がついたら寝てしまってましたし……」

 

 

 昨日の夜の事を想い返して、夕歌は何故すぐに寝てしまったのだろうと後悔していた。

 

『もしかしてたっくんに頭を撫でられてたとか?』

 

「確かに撫でてもらいましたが、それが寝てしまったのとどのような関係があるのでしょうか?」

 

『たっくんは相手を寝かしつける程気持ちが良い撫で方をするから、その行為に意識を取られると寝てしまうのよ。深雪さんでも抗うのが難しいくらいですから、夕歌さんならすぐに寝てしまっても不思議ではないでしょうね』

 

「そうだったんですか……私からお願いしたこととはいえ、達也さんにそのような特殊能力があったなんて……」

 

 

 確かに夕歌は達也に頭を撫でてほしいと願ったし、深雪との気まずいムードを払拭させるためにもあの行為は効果があったと夕歌も思っている。だがまさかあの行為で自分が寝てしまうだなんて思ってもみなかったので、夕歌はせっかく達也と同じベッドで寝たというのに、気がついたら達也がいなかったという非情に残念な結果になってしまったと後悔する。

 

『夕歌さんには明日には石川に向かってもらう事になります。だから今日は思いっきりたっくんに甘えると良いわよ。何だったら孫の一人くらい作っちゃっても構わないから』

 

「母上。前にも言いましたが、俺はまだ学生です。同居はどうとでも誤魔化せますが、子供となればさすがに退学は免れないと思うのですが」

 

『十師族・四葉家の跡取りなのだから、こちらでどうとでも出来ます。それに、私だって早く可愛い孫の顔を見たいもの』

 

「……せめてあと一年は我慢してください」

 

 

 高校を卒業してしまえば世間体もあまり気にしなくて良くなる、そういう事にしているので、達也は高校を卒業するまでは我慢しろと真夜に告げる。真夜もその事は十分に理解してるため、拗ねたフリをしながら達也の言葉に頷いた。

 

『仕方ないわね。それに、達也さんと子作りが解禁されたら、まず真っ先に相手してあげなければいけないのは藤林のお嬢様でしょうしね。あのお嬢さんは四葉の為と藤林家の為に二人は産まなければいけないのだから』

 

「そういういい方はどうなのでしょう」

 

『それ以外にも、愛人枠でたっくんのお相手に認められている二人も、年齢的には藤林のお嬢さんと変わらないわけだし、子供を作るなら早い方が良いわよね。まぁ、体外受精させる分には問題ないけど』

 

「母上のように卵子を冷凍保存してるわけではないと思うのですが」

 

『今からでも遅くないわよ? 何だったら三人に確認して四葉で保管しておくことも可能だけど。万が一の時は代理出産でも何でもいいわけだし』

 

「真っ黒い事を平然と言ってのけないでくださいよ」

 

『大丈夫よ。ここには関係者しかいないもの』

 

 

 楽しそうに笑う真夜に対して、達也と夕歌は苦笑い気味の表情を浮かべている。

 

「しかし真夜様。代理出産と言っても誰が代理母を務めるのですか?」

 

『そうねー……水波ちゃんとかどうかしら? 代理とはいえ、たっくんの子供を産むことが出来るんだし、水波ちゃんも喜んで引き受けてくれると思うけど』

 

「ですが、水波ちゃんも自分で身籠りたいと思うのではないでしょうか? 真夜様も公言しているように、調整体魔法師であろうが、愛人なら問題ないわけですし」

 

『まぁ、その時は四葉にいる侍女にでもお願いすればいいわけだし、水波ちゃんが愛人になりたいのなら認めますよ。まぁ、後はたっくんの気持ち次第ですけどね』

 

 

 達也からすれば、水波はあくまでも深雪のガーディアン候補であり、同居人だ。彼女の容姿が穂波に似ているからといって、彼女を穂波の代わりだとは思っていない。だからというわけではないが、達也は水波に特別な感情は抱いていない。一年以上一緒に生活したから、家族としての情は多少なりとも抱いてはいるが、それ以上の感情は一切湧いてきていないのだ。

 

『まぁ代理出産の話は置いておくとして、夕歌さんは今日だけは深雪さんにも遠慮する必要はありません。何でしたらたっくんと一緒にお風呂に入っても構いません』

 

「ですが、そんなことして深雪さんが暴走しないでしょうか?」

 

『後程メールで深雪さんには事情を説明しておきますので、夕歌さんが心配する必要はありませんよ。後は、その状況に夕歌さんが耐えられるかどうか、くらいでしょうか』

 

 

 その状況になったらどうなるか、そんな事考える間でもないと夕歌は顔を真っ赤にして俯く。そんな夕歌を楽しそうに見つめていた真夜は、最後にクスクスと笑いながら通信を切り、夕歌は真夜に何も言い返せなかった。

 

「さて、とりあえず深雪には話しておきましょうか」

 

「そうね……真夜様の事だから、かなり遅くにメールを送りそうだし」

 

 

 確実に楽しんでいるだろうと、夕歌は決めつけていた。達也もだいたい同じ気持ちなので、特に反論はせずにダイニングにいる深雪と水波に事情を説明する事にしたのだった。




夕歌を自分にすり替えて妄想してそう……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。