劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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我が儘と言うよりか希望ですね……


真由美の我が儘

 真由美から折り返し電話が欲しいというメッセージが入っていたので、達也は夕歌をリビングで待たせ自室から連絡をする。

 

『遅くにごめんね。何かやってたの?』

 

「いえ、ちょっと風呂に入ってただけです。それで、七草先輩がこんな時間に電話をしてくるということは、一条殿が襲われた件ですか?」

 

『察しが良いわね……その通りよ。正確には、一条殿を襲った魔法が何なのか、達也くんなら分からないかなって』

 

「なるほど。十文字先輩にでも聞かれましたか?」

 

 

 あっさりと背後の人物を言い当てられはしたが、真由美は特に驚いたりはしない。むしろこの程度見抜けないなんてありえないとすら思っていたので、言い当てられてむしろホッとした表情を浮かべている。

 

『十文字くんも気になってるみたいなのよ。特に十文字家は諜報において他の十師族に劣ってるからね』

 

「十文字家は戦闘に特化していますからね。それで、残念ながら俺もあの魔法の正体は分かりません。ですが戦略級魔法である『トゥマーン・ボンバ』の可能性が高いと思っています」

 

『魔法師一人を狙うのに、戦略級魔法を使うかしら?』

 

「相手は十師族当主、やり過ぎという事は無いと思いますよ。むしろ、この一発で終わるとは思わない方が良いと俺は思ってますがね」

 

『……まだロシアの攻撃が続くって考えてるの?』

 

「あくまで可能性です。そして、今回の攻撃はロシアだと断定されたわけではありませんので、迂闊な事は言わない方が良いですよ。あくまで国籍不明船を拿捕しようとして謎の爆発に巻き込まれた、ということになっているのですから」

 

『そんなの向こう側の自分勝手な言い分なだけでしょ。あの魔法が本当に『トゥマーン・ボンバ』だとしたら、それはロシア政府が攻撃を認めたということなんだから』

 

「まだあの魔法が『トゥマーン・ボンバ』だと決まったわけじゃないですから。十文字先輩には、何か分かり次第連絡しますとお伝えください」

 

 

 話は終わりだという雰囲気でまとめに入った達也だったが、真由美の方はまだ何か話したりないという雰囲気を醸し出している。無理に付き合う必要は感じなかったが、ここで電話を切って後々面倒になるのは避けたいと感じた達也は、真由美が何かを話すまで電話を切ることはしなかった。

 

『あのね……この前友達に言われたんだけど』

 

「なんでしょうか?」

 

『達也くんが私の事を名前で呼んでくれないのは、私がしつこいからじゃないかって』

 

「前にも言いましたが、特に深い意味はありませんよ。ただ先輩の場合は、名前で呼ぶよりもそのままの方が呼びやすいので」

 

『何でよ! リンちゃんは簡単に変えたくせに何で私だけ「先輩」のままなのよ!』

 

「鈴音さんの場合は兎も角、七草先輩の事を名前で呼ぶと深雪の機嫌が急激に悪くなるので。先輩が深雪を刺激し過ぎたからではないでしょうか?」

 

『私、そんなに深雪さんを刺激した覚えは無いんだけど』

 

 

 達也をからかって遊んでいた自覚は真由美にもあるが、それがイコールで深雪を刺激していたという考えには至っていないようで、真由美は首を傾げながら過去の行動を思い出し、やはり自分は深雪を刺激していないという結論に至った。

 

『やっぱり私、深雪さんを刺激した覚えなんてないわよ! とにかく、身に覚えのない事で敵対視されるのは困るんだけど』

 

「……まぁ、先輩が自覚していないのはなんとなく分かってましたから何も言いませんが、俺の能力を封じていた時とは深雪の魔法力も桁違いに上がっているんですから、暴走させると大変なのは七草先輩もお分かりですよね」

 

『それじゃあ、深雪さんと友好な関係を築けない限り、私はずっと「先輩」呼びなの?』

 

「別に先輩が深雪を抑えてくれるのでしたら、何時でも名前で呼びますけど」

 

『うっ……ちょっと自信ないかもしれない』

 

 

 真由美も深雪の実力は十分に理解している。まして競技者としても勝てるかどうか分からない相手に、実戦で勝てるはずもないのだ。

 

「深雪がいない場所ならともかく、深雪に聞かれるおそれがある場所で先輩の事を名前で呼ぶのは、全魔法師の為にも避けた方が良いと考えています」

 

『何だか私の名前一つで大変な事になりそうだって事は分かったけど、やっぱり私も他の婚約者の人と同じように名前で呼んでもらいたいのよ』

 

「確かに先輩以外は名前で呼んでいるような気がしますが……そもそも婚約する前から名前で呼んでいた人が殆どですし。変わったのは響子さんと鈴音さんの二人だけでは?」

 

『そんな事……壬生さんだって変わったんじゃないの?』

 

「壬生先輩の事はそのまま呼んでますから、その二人だけだと思いますよ。壬生先輩からは特に呼び方については言われてませんし」

 

『と・に・か・く! 私だって名前で呼ばれたいの! 深雪さんの事は達也くんが何とかしてくれないかしら』

 

「最近は言えば大人しくなってくれますが、先輩の事は別のようですしね……まぁ、考えておきますので」

 

『最重要課題だからね! そうじゃないと私、達也くんの家に押し入っちゃうから』

 

「普通に不法侵入ですよ」

 

 

 達也のツッコミを聞く前に真由美が電話を切ったので、達也はやれやれと左右に首を振りながら端末をしまい、内線を使わずに夕歌を呼びに行ったのだった。




氷VS氷だけど、深雪の圧勝でしょうね……

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