劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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アニメでは客席で、原作では脇で見てる感じでしたが、どっちが良いんでしょうか……


バトル・ボード予選

 居心地の悪さを感じ、達也は昼食を早めに切り上げてバトル・ボードの会場に向かった。当然彼の後ろには深雪もついてきている。

 

「司波君、如何したんですか?」

 

 

 レースを見にきただけなら、これほど早い時間に来る必要は無い。その事を疑問に思ったあずさは小動物のように小首を傾げた。

 

「達也さんは逃げてきたんですよ」

 

「逃げて?」

 

 

 達也についてきた雫の説明に、あずさは更に首を傾げた。

 

「兄が気にしすぎなんですよ」

 

「やる気に繋がったみたいだから、結果オーライだと思うけど」

 

「なるほど」

 

 

 漸く事情が飲み込めたあずさは、小さく頷いてから達也に賞賛と同情が綯い交ぜになった視線を向けた。

 

「一旦宿舎に戻っても良かったのですが、どうせなら何かお手伝いしようかと思いまして」

 

「本当ですか!?」

 

 

 達也の言葉に歓声を上げたのはあずさではない。さっきから黙っていたほのかが、あずさの背後から飛び出してきたのだ。

 

「じゃあ是非! 私のCADも見てください!」

 

 

 達也の影響で、ほのかも「アシスタンス」ではなく「CAD」の呼称を使うようになっていた。それは兎も角、ほのかが飛びつかんばかりの勢いで達也に接近してきたのを、達也は思わず笑ってしまいそうになった。

 だが彼は、その衝動を何とか抑え、代わりに表情を引き締めてほのかを嗜めた。

 

「こらほのか。今の言い方は中条先輩に失礼だろ?」

 

 

 珍しく優しい口調だったが、ほのかは表情を変えてあずさに何度も頭を下げた。

 

「スミマセン!」

 

「気にしないで。そんなつもりじゃなかったって分かってますから」

 

 

 苦笑いを浮かべながらも、口調が妙にお姉さんっぽかったあずさを見て、雫と深雪は噴出したが、達也は何とか堪えたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 レースが始まる前に、達也はほのかに耳打ちで何かを伝えていた。その事が気になっていた深雪と雫だったが、ついにその事を聞くタイミングはおとずれなかった。

 

「そう言えば、何で光井さんは光学系の起動式をあんなに沢山用意してるんでしょう?」

 

 

 達也が耳打ちの後にほのかに手渡した濃い色のゴーグルも、あずさには何の意味があるのかが分からない。視界を狭めるそれは、バトル・ボードにおいて殆ど意味を成さないと言うか、はっきり言ってしまえば邪魔でしか無い。

 起動式と合わせて、あずさは達也が何を考えているのかが分からなかったのだ。

 

「バトル・ボードのルールでは、他の選手に魔法で干渉する事は禁じられてます。しかし水面に干渉した結果他の選手の妨害になる事は禁止されていません」

 

「……如何言う事でしょう」

 

 

 あずさが達也に問うと、達也は人の悪い笑みを浮かべて無言でほのかと同じ色の濃いゴーグルを手渡してきた。あずさだけでは無く、深雪も雫も首を傾げたが、その理由はスタート直後に分かる事となった。

 第六レースのスタートとほぼ同時、観客は反射的に揃って視線を水路から逸らした。まるでフラッシュでも焚いた様に水面が眩く発光したのだ。それによって選手が一人落水した。

 他の選手がバランスを崩し、加速を中断する中、一人ダッシュを決めた選手が先頭に踊り出た。

 

「よし」

 

 

 してやったりの声を上げた達也を、あずさは呆気に取られて見上げていた。

 

「……これがお兄様の作戦ですか?」

 

 

 サングラスを外しながら問いかける深雪の声もさすがに呆れ声だった。

 

「確かにルールには反してないけど……」

 

 

 雫の声も幾分非難混じり、これはフェアプレイに反してると言われてもしょうがないと思ってるのだろう。

 だが、著しくアンフェアなプレーがあった場合に示されるイエローフラッグ、競技中断の旗は振られていない。ルール違反選手の失格を示すレッドフラッグは言うまでも無い。

 大会委員はほのかの魔法を、達也の作戦を合法と認めたと言う事だ。

 

「水面に干渉と言われると、波を起こしたり渦を作ったりとか水面の挙動にばかり意識が向きがちですが、ルールで許可されているのはあくまでも『魔法で水面に干渉して他の選手を妨害する事』ですからね。水面を沸騰させるとか全面凍結させるとかはさすがに危険すぎますけど、目眩まし程度の事は今まで使われなかった方が不思議だと俺は思ってますよ」

 

 

 何の心構えも無く目潰しを喰らわされて、すぐに視力を回復出来るものでは無い。緩やかにではあっても蛇行しているコースは視力を塞がれた状態で全力疾走出来るものではなく、他の選手とほのかの間には、既に決定的とも言えるだけの差がついていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 モニター越しに見ていた真由美たちは、他の観客のように視線を逸らす事無くほのかの魔法を見ていたので、その作戦を冷静に評価し、驚きを覚えていた。

 

「……決まりだな」

 

「……誰が考えたの、この作戦?」

 

 

 思わずつぶやいた摩利の言葉に、真由美がつられるように問いかけを発した。そしてそれに答えたのは、この場に居るもう一人の少女、鈴音だった。

 

「司波君ですが」

 

「えっ、でも達也君はこの競技を担当してないはずだけど」

 

 

 その答えを聞いて、真由美はチョコンと首を傾げた。

 

「作戦の具申は光井さん本人からです。しかし起動式のラインナップを含めて作戦プランを作ったのは司波君だとその際に言ってました」

 

「……次から次へとやってくれるな」

 

 

 鈴音の答えを聞いた摩利は、舌打ちが聞こえてきそうな口調でつぶやいた。

 

「如何したの? 何だか不機嫌みたいだけど」

 

 

 真由美の問いかけに摩利は答えなかった。最も、その沈黙が摩利の内心を雄弁に物語るものではあったが。

 

「……工夫って大事よねぇ。老師の仰る通りだわ」

 

 

 真由美の見たところ、摩利は自分の思いつかなかった作戦を見せられて不機嫌になっているのだ。多彩なテクニックを売りにしている摩利にとって、面白い事では無いのだろう。

 

「過去九年、誰も思いつかなかった作戦ですから、ここは素直に感心すべき所かと」

 

「……感心してるさ。だから癪に障るんじゃないか」

 

 

 鈴音にズバッと斬りこまれ渋々摩利は嫉妬している事を認めた。

 

「でもこれって一回限りの作戦じゃないかしら? 決勝トーナメントは如何するのかな?」

 

 

 摩利に対してのフォローでは無いだろうが、真由美がそんな疑問を口にした。確かに一度見せれば使えない作戦ではあるが、摩利はその事をまるで心配していなかった。

 

「そんな事は心配する必要は無いだろ。あの男がそこを考えていないはずがない」

 

「そうですね。これは次の試合の布石でもありますから」

 

 

 真由美の心配は、やはり杞憂のようだった。達也から作戦を聞かされている鈴音がそう言うのならそうなのだろうと、真由美も摩利も次は何をしてくるのかが楽しみになっていたのだった。




しかしあの乳揺れは凄かったな……アニメ制作スタッフは乳好きだったのでしょうか……

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