劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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達也が敵になったらどうするのか……


国防軍との距離

 魔法科高校入学式の夜、達也は独立魔装大隊本部を訪れていた。呼び出しがかかったのは昨日の夜だ。非常識とも思えるタイトなスケジュールに達也もさすがに難色を示したが、ディスプレイの中の響子に電話回線では出来ない重要な話があると言われては、足を運ばないわけにもいかない。入学式から帰宅して早々に、達也は愛車の電動二輪で霞ケ浦に向けて出発したのだ。

 霞ヶ浦基地は、物々しい空気に包まれていた。夜間にも拘わらず、隊長室にたどり着くまでの間に何十人もの士官、兵卒とすれ違った。むしろこの建物の中が、一番活発に動いていると達也には感じた。まるで出動直前の雰囲気だ。

 

「(いや、「まるで」ではないのだろうな)」

 

 

 隊長室の前で入室を請いながら、達也はそんなことを考えていた。

 

「入ってくれ」

 

「(「入れ」ではなく「入ってくれ」か)」

 

 

 大した意味のない、言い回しの上だけの違いかもしれない。だが何故か達也は、その些細な違いが気になったが、正体不明の予感をいったん棚上げにし、風間の前に進む。

 

「失礼します」

 

「こんな時間、しかも急な事で済まない。だが本件の重要性を鑑み、どうしても直接説明しておく必要があると考えた」

 

「説明ですか?」

 

「そうだ、まずは掛けてくれ」

 

 

 風間が収納状態から展開したソファを指差す。達也は遠慮なく三人掛けのソファの端に腰掛け、風間が立ち上がり達也の前に移動し、二人は腰を下ろした状態で向かい合った。そして何の前置きも無く、風間は本題に入った。

 

「我が大隊は明朝、北海道に出動する。我々は先遣隊だ。状況次第では、旅団の全部隊が出撃する」

 

 

 出動直前という印象は間違っていなかったが、予想を超えて急迫した状況を連想させる言葉に、達也は沈黙を守り続ける事は出来なかった。また、何も言わないのは不適切に思えた。

 

「侵攻の兆候があるということですか?」

 

「佐渡の件は陽動だとお考えなのですね」

 

 

 佐渡の件というのは、一条剛毅が負傷した不審船による詭計の事だ。

 

「その通りだ。今回、新ソ連の狙いは北海道侵攻にあると我々は考えている」

 

「我々というのは?」

 

「君が考えている通り、佐伯閣下のお考えだ」

 

 

 なるほど、と達也は心の中で頷いた。敵の狙いに関する参謀本部の予測は、北陸と北海道で割れているのだろう。今のところ北陸が多数派か。だから東北の師団ではなく、遊撃隊の性質が強い一○一旅団に増援部隊として出撃命令が下されているのだと達也は理解した。

 

「そういう事情で、君とはしばらく連絡が取れない。仮に横浜事変のような事態が勃発しても、協力は難しい」

 

「了解しました」

 

 

 確かに二年前のような事が起こった場合、風間の助力を得られないのは痛手だ。その点は、達也も納得した。しかしそれはあくまでも達也にとってのことで、風間が達也を呼び出す理由にはならない。達也はそう考えて次の言葉を待った。

 

「また、状況の推移次第では、君に協力してもらう可能性がある」

 

「北海道に呼ばれるという事ですか?」

 

「いや、ここから力を貸してもらうケースを考えている」

 

「マテリアル・バーストですか」

 

「マテリアル・バーストには限らない。サード・アイを使った超遠隔魔法による支援攻撃を佐伯閣下は考えている」

 

「分かりました」

 

 

 この「分かりました」は「理解しました」という意味で「承知しました」ではない。達也は大隊の支援を使えない。大隊は達也の力を利用する。風間から告げられたことを簡単にまとめるなら、こういう事だ。軍というのは、元来そういうものだろう。しかし今までとは明らかに異なるスタンスだ。

 

「自分は独立魔装大隊の一員でもありますので、命令があれば出動します」

 

 

 達也は立ち上がって風間に敬礼した。彼の言葉は嘘ではない。ただ「今は」というフレーズが省略されていた。風間が座ったまま達也に頷く。達也を見上げる風間の顔は、省略されたフレーズを理解しているように見えた。

 

「では、俺はこれで失礼します」

 

「ああ、わざわざすまなかったな。藤林が言ったように、電話回線で話せる内容ではなかったからな」

 

「分かっています」

 

 

 部屋を出ていく際、敬礼ではなく一礼して去っていった達也を見送り、入れ替わりで部屋に入ってきた響子に視線を向けた。

 

「なにか言いたそうだな」

 

「別に何もありませんよ。強いて言うなら、少しくらい達也くんの顔を見たかったな、くらいでしょうか」

 

「昨日電話越しで会ったんじゃないのか?」

 

「生身と画面越しとでは違いますので」

 

 

 響子が差し出したお茶を一口啜りながら、風間は苦笑いを浮かべる。このまま達也が四葉家当主を継げば、達也だけではなく響子も軍属から離れ、独立魔装大隊は貴重な戦力と有能な秘書を失う事になる。それは達也が次期当主に指名された時から分かっている事で、国防軍は代わりとなる人員を必死に探しているところなのだ。

 

「今回の件、私はまだ納得出来ません」

 

「無理に納得する必要は無い。だがお前もまだ軍属である以上、上が決めたことに一々不満を抱いても意味がないと分かっているはずだが」

 

 

 達也に会えなかった鬱憤とは別に、響子には不満がある。その事を理解しているから、風間はあえて挑発的な口調で告げたのだった。




一瞬で壊滅だろうな……しかも四葉まで敵になるわけだし……
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