劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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張り合うペアが多いな……


生徒会室での一幕

 ジェニファーや亜夜子と話していた時間は、客観的にもそれほど長くはなく、達也が生徒会室の扉を開けた時、中にいたのはピクシーだけだった。生徒会室の保安システムと繋がっているピクシーは、達也の入室を感知したはずだが、彼女は達也を出迎えたりしなかった。

 達也が自分の席に着き、端末を立ち上げる。起動時の読み込み時間などというものは無く、彼はすぐに作業を開始した。

 自分に対する命令が無いのを確認して、ピクシーは立ち上がりダイニングサーバーの前へ移動した。3H本来の機能は、ホームオートメーションの人型無線インターフェイス。掃除機や調理器や空調を集中管理するのが通常の用途だ。基本構造が同じで規模が違うだけの店舗用オートメーションも制御用ソフトウェアをアップグレードすればコントロール出来る。生徒会室に置かれているダイニングサーバーは業務用の物だが、ピクシーは難無く遠隔制御しており、彼女が立ち上がった時点でダイニングサーバーは動き始めていた。ダイニングサーバーから出てきたコーヒーをピクシーが達也の許に運ぶ。自動機で淹れたコーヒーだが、その機械は謂わば彼女の三本目、四本目の手だ。出来上がったコーヒーは達也の好みに沿って味が細かく調整されている。コーヒーを口につけた達也が何も注文をつけなかったので、ピクシーは待機用の椅子に戻った。

 

「達也さま、お疲れ様です」

 

「司波先輩だけですか? 深雪会長はまだ来てないのでしょうか?」

 

 

 二年生の泉美と水波が生徒会室に入ってきたのは、ピクシーが腰を下ろした直後だった。泉美は達也がいるのを見て、深雪も来ているものだと思ったようだが、空いている生徒会長席に目を向けて、露骨にがっかりした表情を浮かべた。一方の水波は、達也のデスクにコーヒーカップが置いてあるのを見て、微妙に不満げな感じだった。

 

「水波、何をそんなにピクシーを睨んでいるんだ?」

 

「いえ、何でもありません……」

 

 

 達也が水波に問いかけたタイミングで、生徒会室の扉が開く。現れた二人を見て、泉美と水波の不満は解消されたのだ。

 

「達也さん、もういらっしゃってたんですか」

 

「泉美ちゃんと水波ちゃんも早いわね」

 

「深雪先輩! あぁ、今日もお美しいです」

 

「あ、ありがとう」

 

 

 腰を下ろしていた泉美が、電光石火の如く距離を詰めてきたので、さすがの深雪も少し表情を引きつらせる。そんな深雪を助けるでもなく、水波は素早くダイニングサーバーへ足を向け、四人分の紅茶を用意する。

 

「達也様、職員室に呼ばれたようですが、どのような用件だったのでしょうか?」

 

「達也さんが? 何か相談されたのですか?」

 

 

 深雪の質問に、ほのかが興味を示す。別に対抗しているわけではないのだろうが、自分が知らない達也の情報を深雪だけが知っていたのにちょっと嫉妬しての事だ。

 

「大したことではない。論文コンペのテーマに、恒星炉は相応しくないので別のテーマを選ぶよう言われただけだ」

 

「相応しくない? あの実験は世間的にかなりの注目を集めた実験です。しかし突発的なもので多くの人がその実験を間近で見る事が出来なかったので、もう一度行ってほしいと言われていると聞いていますが」

 

「あのメンバーがもう一度集まるならともかく、論文コンペは各校三人の代表で行われる。補佐は認められていても壇上に上がることは出来ない。したがってもう一度同じ実験をするにしても、魔法制御がままならない。それに中条先輩と五十里先輩は卒業してしまっているしね。例え許可されたとしてもお二人のスケジュールが合うかどうか分からない」

 

 

 自分も実験に携わっていた泉美としては、あの実験が論文コンペに相応しくないはずがないと思っていたようだが、達也の説明を聞き、自分の考えがいかに浅かったかを思い知らされた。

 

「ところで、達也さんは論文コンペに参加するつもりなんですか?」

 

「魔工科生は強制的に選考論文を提出しなければならないからな。それくらいはやるつもりだが、本戦に出るかどうかは決めていない」

 

「達也様が本戦に出場すれば、一高の優勝は間違いなしだと思います」

 

 

 力強く断言する深雪に、達也は苦笑いを浮かべながら首を左右に振る。

 

「俺が出たからと言って勝てるわけではないだろ。三高には吉祥寺真紅郎がいる、昨年優勝した二高には光宣がいる、もちろん四高だってかなり高いレベルでの発表をするだろう」

 

「ですが達也様は――」

 

「深雪」

 

 

 興奮して達也がシルバーであることを言いそうになったのを素早く察知して、達也は彼女の名前を呼ぶ。それだけで深雪は達也がこれ以上論文コンペについて話すつもりが無いと理解し、深々と頭を下げる。

 

「申し訳ございませんでした」

 

「いや、俺も悪かったな」

 

 

 それだけで二人の間に流れていた気まずい空気は霧散し、深雪は生徒会長席に腰を下ろした。

 

「ところで、詩奈ちゃんはまだ来ないのかしら?」

 

「恐らくクラスメイトに囲まれているのだろう。だが、俺たちが気にする必要は無いだろう」

 

「詩奈ちゃんは意外としっかりしてますから、自力で抜け出せると私も思いますわ」

 

 

 達也の考えに同意するのが悔しいのか、泉美は顔を強張らせながら同意する。その態度に深雪とほのかがムッとした表情を浮かべたが、達也が二人に鋭い視線を向けたお陰で、泉美には気づかれることは無かったのだった。




新刊でもそうでしたが、何故水波はピクシーを敵対視してるのだろうか……

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