劣等生の兄は人気者   作:猫林13世

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目を引く集団ですね……


光宣と七草三姉妹

 会議が始まった直後、横浜ベイヒルズタワーの一階をざわめきが覆っていた。この世の者とも思えぬ美少年の登場に、女性だけでなく男性までも遠慮とマナーを何処かに置き忘れてしまっていた。不躾な視線に美少年が眉を顰めるが、その不機嫌そうな表情ですら人々の目を捕らえて離さなかった。

 

「あら、光宣君じゃない」

 

 

 無遠慮な注目に辟易していた光宣は、その声の主を認めて強張っていた顔を安堵に弛めた。

 

「真由美さん。それに、香澄さんと泉美さん」

 

 

 光宣と三人の美少女が合流する。たちまち、暗い失望が辺りを覆った。男性は光宣の完璧な美貌を見て、女性は七草姉妹の三者三様の魅力の前に、戦わずして白旗を揚げないわけにはいかなかったのだ。

 

「お久しぶりです、光宣くん」

 

「こうして光宣と会うのは、論文コンペの時以来……半年ぶりくらいかな」

 

 

 泉美は二月中旬の生徒会同士の電話会議で顔を合わせているが、香澄は彼女が言ったように、京都で行われた論文コンペ以来だ。光宣と香澄、泉美は同い年で、頻繁ではないにしても昔から顔を合わせているし、光宣の美貌に物怖じしないので、二人は彼にとって数少ない友人だった。

 

「ところで光宣君。会議だったら、もう始まっているわよ?」

 

「会議は蒼司兄さんに任せてあります」

 

「えーっ? 光宣が出る方が良いと思うけど」

 

「こらっ、香澄ちゃん。しっ」

 

「お姉さま。立ち話もなんですから、場所を移しませんか? 遅刻している方もいらっしゃらないようですし、私たちが案内役としてここにいる必要は、最早無いと思われます」

 

 

 真由美の質問に対する光宣の答えに、香澄が遠慮ない感想を述べ、真由美は慌てて香澄を窘めたが、それは妹の発言内容自体を否定するものではなかったため、光宣は何もコメントできないという顔で苦笑していた。

 

「そうね。座れる場所に行きましょうか」

 

 

 その微妙な空気を感じ取った泉美が、タイミングよく割り込み、真由美も妹の意図をくみ取ってすぐに移動を開始した。ちょっとしたことで体調を崩す自分の身体に気を遣ってくれたという事が分かる光宣は、変な意地を張ったりせずに三人の背中に続いた。

 真由美が光宣を連れて行った先は、魔法協会のティールームだった。喫茶店やレストランに比べれば、味も種類も見劣りするが、煩わしい視線とどちらを我慢するかとなれば、天秤に掛けるまでも無かったので、香澄も泉美も、光宣も不満を口にしなかった。

 職員がお茶を出そうとしたのを制止して、真由美が自分で茶葉と茶器を選び紅茶を淹れる。店員も職員も、真由美の我が儘には慣れているのか、特に何も言われなかった。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 スコーンを持ってきた女性店員が光宣の姿を見てテーブルの側で硬直したのを見て、香澄が苦笑しながらスコーンのバスケットと取り皿を受け取り部屋の外へ押し出す。一人だけ手持無沙汰になった泉美が、光宣に話しかける。

 

「でも、光宣くんがこちらにいらっしゃるなんて珍しいですね」

 

「蒼司兄さんの付き添い……と言って良いのかな」

 

「なにかご用事を授かっているのですか?」

 

「用事というか……単なる皮算用なんだけど」

 

「……詳しく伺っても?」

 

 

 何となく目の前の少年が「愚痴を溢したそうにしている」と感じ取った泉美は、質問の形で光宣に「どうぞ」と促した。

 

「要約すると、司波達也さんと司波深雪さんのお宅をお邪魔して親交を深めてこい、という事ですね。いきなりご自宅を訪ねる程深いお付き合いじゃないと言ったら、失望されてしまいましたが」

 

「うわぁ……光宣のお兄さんたちも、相変わらずだね」

 

「こら、香澄ちゃん!」

 

「良いですよ。兄さんや姉さんの考え方が甘いというのは、僕も常々思っていますから」

 

「つまり光宣くんを通して、四葉家と誼みを結びたいという事ですか?」

 

「そういう事でしょうね。九島家が十師族に返り咲く為の方策としては、間違っていないでしょうけどね」

 

「でも、残念ですが。非常に残念ですが! 今日の会議には司波先輩しかいらっしゃっていません。深雪先輩は午後からお出かけになられるそうです。せっかく司波先輩がいらっしゃらない所でお会いできると思っていましたのに! 深雪先輩にご予定さえなければ、こんな所には参りませんでしたのに!」

 

「……だから午前中だけでも遊びに行ったら、って言ったじゃん」

 

「何を言うのです、香澄ちゃん! お出かけの準備でお忙しいに違い無い深雪先輩のお邪魔など、していいはずがないではありませんか!」

 

「……水波もいるんだし、別に良いとは思うけどね」

 

「あの、泉美さん……」

 

「気にしないで。ちょっとした発作みたいなものだから」

 

「はぁ……」

 

 

 光宣の言外の質問に、真由美は既に慣れてしまったような、それはそれで情けないと思っているような口調で答えた。

 

「それより光宣君」

 

「はい?」

 

「だったらウチに来る? 四葉家程の価値はないかもしれないけど、七草家と旧交を温めてきたと言えば、お兄さんたちも文句は言わないんじゃない?」

 

「……ご迷惑ではありませんか?」

 

「全然。じゃあ、行きましょうか」

 

「えっ、今からですか?」

 

「ええ。さっき泉美ちゃんが言ったように、案内役はもうお役御免だから。ほら、泉美ちゃん! 香澄ちゃんも帰るわよ」

 

 

 泉美をこちらの世界に呼び戻して、真由美は立ち上がったのだった。




末子にまで見破られてるのに気づかないのだろうか……

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